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第十六話 自分に合った武器を選ぼう

 城塞都市 リェダ。

 高い城壁が外壁となって敵の侵入を塞ぎ、さらに壁に開けられた穴から矢による攻撃によって外への攻撃を可能としている。

 三箇所だけある門も、天井に罠が仕掛けられており、仮に敵に攻め込まれた場合でも敵をそう簡単に中に入れない罠がいくつも用意されていた。


 他国……俺を召喚した、リーフェルト国を何度も交戦し、撃退したその輝かしい実績から、この都市をおとすことは不可能と言われていた。

 大群で押し寄せても魔法によって攻撃され、城塞都市に到着するころにはその数を半分以下に減らしているだろう。

 さらに、国の女騎士部隊が常在している。その中でもトップクラスの力を持った、騎士団長雷鳴のヒーニアがここを管理している。


 俺はワカメヒューマン――マーネプラントの能力により、顔自体を少し変えたまま、町の中を歩いていた。

 リンゴの体力が尽きるまでずっと進化をして、ここまで一気に駆けてきた。

 そのせいでリンゴは疲れ果ててしまい、宿に残してきた。

 感謝を心中でのべながら、顔をあげる。


 外壁ほど大きくはないが、貴族街を守るように作られている外壁を見上げながら、嘆息をするしかない。

 貴族街にも外壁があり、中に入るには貴族としての身分証明をする必要がある。

 貴族はそれぞれの家紋を所持しており、それを見せることで中に入ることができる。


 そして多くの飛行船が、貴族街へと降りていったことが平民街の証言でわかっている。

 カナリーの位置は、リンゴが臭いでわかる。そして、この町にいることもわかっている。

 だから、この奥に行くことができれば、カナリーを助け出すことはできるのだが……。


 まだ、早いか。

 仮に、今突っこんだところでヒーニアになすすべもなく敗れるだけだ。

 それどころか、今度はトドメを刺されるはずだ。

 まずは、麻痺への対策をたて、俺自身の実力をあげなければならない。


 麻痺の対応手段はいくつか思い当たる。

 俺は魔物の力を自分のものとできる。

 例えば、麻痺耐性を持つ魔物を見つけ、倒すことができれば――。

 その可能性を考えながら、ギルドについた。


 リンゴに乗っていたために、道中は戦闘を行っていない。移動こそ速かったが、俺の力を考えればもっと冷静に確実に進めるのもありだったかもしれない。

 ギルドは前の町と変わらないようなつくりをしており、人々の賑やかさも同じだ。

 戻ってきた、と感じたのは数日の間ギルドで世話になったこともある。

 受付に並び、ギルド職員が丁寧に礼をしてくる。


「何か依頼を探しているのですか?」

「まあ、そんなところだ。状態異常系に強い魔物って知っているか?」

「ええ、まあ。けど、どうしてそんなことを聞くんですか?」

「いや、俺も状態異常魔法が得意だからさ。そういう魔物の情報を聞いておきたいなぁって思ってよ。ほら、状態異常攻撃してくる奴ってそれなりに耐性を持っていたりするだろ?」

「……ああ、そうですね。私の知り合いも昔それで苦労したことがありましたよ」

「やっぱり!? いやぁ、本当耐性持ちの相手と戦うのは厄介だよなぁ。それで、この町には初めてきたから色々教えてもらいたくてさ」

「わかりました。この近くでいいますと――」


 ギルド職員が丁寧に、楽しそうに教えてくれる。

 似たような経験があったのがよかったな。

 俺は近くで麻痺を使ってくる魔物について詳しく聞いていくことにする。


「パライドモスっていう魔物が厄介ですね。というか、あれは普通に強力な魔物なので、ギルドでも初心者冒険者に注意をしているんですよ」

「……そんなにか?」

「はい。他の魔物と戦っているときに背後をとられると大変なんですよ。パライドモスは巨大な蛾のような魔物で、その羽から痺れ粉をばらまいてくるんです。万が一吸ってしまえば、一定時間体の自由が奪われてしまいます」

「……粉ってやばくないか? 呼吸しなければ良いって問題でもないんだろ?」

「ですから、風魔法や遠距離攻撃でどうにか距離を離して戦う必要があるんですよ。ただ、まったく動けないわけじゃなく、動きにくいだけですので、状態異常回復ポーションなどを飲むのも一つの手ですね」

「そっか。それじゃあ気をつけるよ。それと、何かFランクでも簡単に受けられる依頼ってないかな? 薬草摘みとかでもいいんだけど……」

「あ、薬草ならいつでも待っていますよ! 冒険者でも薬草を間違えてしまう人がいるし、そもそも薬草摘みなんて戦闘がないからってあんまりやりたがる人がいないんですよ」

「そうなんだ」

「今なら、在庫も減ってきていますので普段よりは高値で買い取っていますしね」


 俺はパライドモスが出現しやすいエリアを聞き、ギルドを出た。

 途中、女騎士を見るとびくりと肩があがってしまう。

 一応変装しているんだし、ばれることはないだろうけど……。

 問題はリンゴだ。

 最低限の変装は必要だ。


 ギルドカードを見て、残っているお金を確認してからペット用の服屋へと向かう。

 そこにいるのはほとんどが貴族だ。

 魔物をペットとして飼うものもいるようで、奴隷の首輪を隠すための可愛らしい首輪もある。


 たまにリンゴは魔物に間違えられるし、これは必要だな。

 後は、衣服を着させて楽しむ人もいるようだ。いくつか可愛い服を購入してやった。

 荷物を両手に下げたまま、後ろ手で自室の部屋の扉を閉めながら、踏み込んでいく。


「リンゴ、体力はどうだ?」


 寝そべったまま休んでいたリンゴの耳がぴこりと上がる。

 体を起こさずにそのまま片目を開けた。


『おかげさまで、体を動かせるほどではないな』

「悪いって。けど、あのくらいしないと逃げられていたかもだろ?」

『まあ、そうだな。見失わなかっただけ、マシか』

「それで、ちょっと聞いてきたんだけど……麻痺に耐性のある魔物がいるようなんだよ」

『一人で戦えるのか?』

「……麻痺の魔物はとりあえずやめておく。けど、俺は一人で色々な依頼を受けてくるつもりだ」

『死ぬなよ』

「わかってる」


 俺自身が、もっと強くならなければ、カナリーを助け出すことは不可能だ。


「そうだ。後でこれおまえに着させるな」

『……なんだ、それは』

「変装用グッズ。おまえだって、敵に顔見られているんだからな? ちょっとは誤魔化しておこうぜ」

『だからといってそんなメスが着るようなものを持ってくるんじゃない!』

「はっはっはっ、元気でたみたいだな。んじゃ行ってくる」


 宿を出て、冒険者たちの後を追って武器屋を探していく。

 いくつかの武器屋があったが、あまり大きな場所は客も多く、店員と話をすることもできそうになかったので、比較的人の少ない武器屋へと入った。


「いらっしゃい。適当に見ていくと良いぞい」


 老人に片足を突っこんだくらいのおっちゃんが、渋く凛々しい顔をこちらにちらと一瞬だけ向けてきた。


「なあ、おっちゃん。俺に合いそうな剣とかってわかるか?」

「何を突然。剣というのは使ってみるまではわからぬ。まあ、色々と素振りをしてみると良い」


 老人はそれだけを言って、俺は近くの剣を見ていく。

 鞘から抜いて軽く振ってみる。

 思っていたよりも重いな。まずは、この重量に慣れるところ始めないと。

 剣を色々と振っていく。


 あくまで剣はサポートだ。敵の獲物を弾き、そして殴るための道具である。

 そこを考慮した結果。一番軽い剣を手にとった。

 青みがかった美しい刀身に顔を近づけ、その輝きをしばらく目に焼きいれる。


「おまえさん、剣を握ったことはあるのか?」

「……いや、ないんだけど」

「冒険者なんじゃろ? 今までどうやって戦ってたんだ?」

「……こ、拳で」


 言うと、おっちゃんは呆れたように笑った。


「冗談を言ってもわしは笑わんぞい?」

「冗談じゃねぇよ。本当に拳だっての」

「そうか。それで、殴ってどうやって魔物を倒すんだ? 死ぬまでひたすら殴るとかか?」

「いや、俺は基本的に殴ったりして敵の気をひくだけでさ。後は仲間が倒してくれてたんだよ」

「ならどうして剣を買いにきたんだ?」

「俺一人で戦う必要が出たんだよ。だから、今のままじゃダメなんだよ」

「ほぉ。もう少し話を聞いてもいいか?」


 それからしばらく、おっちゃんと旅のことをかいつまんで話す。

 もちろん、吸血鬼だったり、リンゴのことだったりは伏せて、戦闘の流れなどをだ。

 助け出すというのも、盗賊といざこざがあって……とかなんとか適当なことを言っておいた。


「レード洞窟を突破したのか。そりゃあ優秀な仲間がいたようじゃの」

「俺も結構活躍したんだからな!」

「それだけ敵に近づけるのなら、十分じゃろう。今おまえさんが持っている剣ならば、初心者にも扱いやすいものじゃ。ただ、それなりの値段ではあるがのう」

「いくらだ?」


 おっちゃんがにやりと笑い、金額を口にする。

 ……俺が一ヶ月は大丈夫だと思っていた残りの財産のすべてが、なくなりそうな値段だった。


「……どうすっかな」

「まあ、好きに迷うがいいさ」

「やっぱ金かかるよな、武器は……。今までは仲間がいたから優先してこなかったってのに……」

「仲間関係なしに、武器は真っ先に買うじゃろ普通」


 おっちゃんが呆れたように肩を竦め、テーブルに肘をつく。


「で、どうするんじゃ?」


 だらけた雰囲気であったが、おっちゃんから放たれるプレッシャーは強かった。


「……買う」


 他に何が良いのかはわからない。少なくとも、この店ではこれが一番俺に合うものだった。

 うん、これ以外俺にぴったりな武器はない。

 そう思いこむことにして、お金のやり取りを終えて剣を腰に刺す。

 サービスとして、ベルトやら手入れの道具やらをもらい、簡単にやり方も教えてもらう。


 さらに、剣の基礎も教えてもらい、頭に叩き込んでおく。

 このおっちゃん、見た目が怖いけど至れり尽くせりな人だったな。

 それらを聞き終えたところで、俺は外へと歩き出す。


「また何か困ったことがあったら聞きにこい。教えられる範囲なら教えてやるんじゃよ」

「そうか? なら、また来たときはよろしく」


 日差しの強い中を、俺は外へ向けて歩き出した。


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