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第十三話 洞窟の攻略 2


 トゲアシロボットが足を突き出してくる。

 槍のような攻撃が連続で襲い掛かってくる。

 見極めたところで、その手数によってかわしきれない。

 かといって、リンゴを進化させることもできない。八方塞りだ。


「キー!」


 トゲアシロボットが叫ぶと同時に、石ころを蹴り飛ばしてくる。槍にあわせてそんな器用なこともできるのかよ。

 俺とリンゴはかわしたが、普段前衛をしていないカナリーが、よろめいて転んでしまう。


「大丈夫か!?」

「大丈夫だからっ」


 カナリーが負けず嫌いを発揮して叫ぶ。

 俺とリンゴで敵の注意をひきながら、後退していく。ちっ、しつこいんだよこいつ。

 体力は着々と削られている。

 たまにカナリーの魔法が飛ぶが、威力は申し訳程度だ。


「……くそっ」


 こいつを一瞬でも封じられれば、奥に走って逃げていける。

 脱出したら入り口でも破壊できれば、それで俺たちは無事に突破できるってのに!

 どうにか攻めたい――。

 しかし、敵の攻撃は苛烈になっていき、俺の腕をかすめていく。

 血が流れ、痛みに顔をしかめていると、


『おまえたち。先に行け』

「リンゴ!?」


 言いながらリンゴが突っこんでいく。確かに、誰かが時間を稼ぐのが一番賢いやり方かもしれないけどさ……。

 残っている体力のすべてを使い果たすかのような動きとともに、リンゴがトゲアシロボットに肉薄する。


「おい、馬鹿! 戻れ!」

『……くっ』


 リンゴは俺の言葉なんか聞いちゃいない。勝手な奴だ。


「カナリーは先に行け!」

「なんでっ。二人が行かないなら、私も残るから」

「わがまま言うなっての!」

「わがままって何? そもそも、この旅は私のものだから。あなたは勝手についてきているだけでしょ?」


 いや、確かに始まりはそうかもしれねぇけどな。

 カナリーはきっとこちらを見据えてきた。

 リンゴの傷が目立ち始めている。

 これ以上言い合っている場合じゃない。

 ……なら、とっておきの技をやるか。

 

「……なら、カナリー最後に一発、魔法を放ってくれ」

「どうするの?」

「いいから!」


 俺は跳躍してトゲアシロボットの背中に掴みかかる。

 出来る限りの全力で殴るが、俺の手だけが痛くなるだけだった。

 それでも、俺に気づいたトゲアシロボットが、傷ついているリンゴに追撃を加えることはなくなる。

 敵は間接をまげ、背中に乗る俺を狙ってくる。

 それを両手で捕まえる。

 気合と根性。あとは打たれ強さ。

 俺が持っているのはそのくらいだ。

 さらに別の足が伸びてきて、それを寸前でかわす。


「魔法はまだか!?」

「今撃つから離れて!」

「そのまま撃て!」


 カナリーは目を見開き、疑問はあったようだが俺たち目がけて魔法を放った。

 俺はその魔法へと突っ込み、右拳を叩きつける。


「あっちちち!」


 右手が焼けるような痛みに襲われ、衣服についた火を払う。

 

「なにやってるの!?」

「魔力の確保だっ」


 俺の右手には、いつものように魔力がたまっている。

 ……奪えるのは前にウルフでわかっていたが、それでもダメージが残るから出来るならばやりたくはなかったんだよ。

 はっとした様子でカナリーが顔をあげる。


「リンゴ、まだやれるよな!?」

『当たり前だ……っ!』


 スマホに魔力を叩きつけると、リンゴが進化しながら立ち上がる。その巨躯を見せびらかすように揺らし、トゲアシロボットへと突っこむ。

 力のぶつかりあいは、引き分けに終わる。それだけでかなりの前進だ。


 追撃の攻撃をリンゴは簡単にかわし、その足を噛み切る。

 もぎとられた足に、トゲアシロボットは怯み姿勢を崩す。

 さらに、他の足も叩き潰し、リンゴがふんと鼻を鳴らす。

 やっぱり、強いなおまえ。


「カナリー、リンゴ! 走れ!」

『その前に軽く舐めさせろ!』


 べろんと俺の全身を雑に舐め、右手の痛みが引いた。

 すぐに治療したおかげか、火傷のあとが残ることもない。


「サンキュー!」


 荷物を持って一気に道へと入る。

 リンゴの進化もすぐに解除され――そしてドタドタと嫌な音が聞こえた。

 軽く後ろに視線をやると、ばちばちという音ともに、トゲアシロボットが這うように迫ってきた。


「い、一気に駆け抜けるぞ!」

「しつこい! あなたみたい!」

「あんな狂ったストーカーと一緒にすんな!」


 トゲアシロボットは電気を撒き散らしながら、迫ってくる。

 もうその足は関節から先しかない。

 それでも、執念に身を任せるように迫ってくるその姿に恐怖しかない。

 敵は真っ直ぐに走れていないし、逃げられるはずだっ!


「あっ!」


 その時、横を走っていたカナリーが遅れる。慌てて俺も足を止める。

 

「おい!」

「……」

「足か!? もしかして転んだときにいためたのか?」

「……うん」

「ああ、もう。怪我したならちゃんと教えてくれよな」

「けど……弱みなんて、見せたくない」

「だからって死んでいいわけじゃないだろっ」


 トゲアシロボットのタックルをかわし、俺はカナリーを担ぎ上げる。


「とにかく、今は逃げるぞ! しっかり捕まれ!」

「うん」

「……おまえは、入り口を破壊するための魔法の用意。後は気合で逃げる!」


 トゲアシロボットの攻撃を、避けながら走っていく。

 相手も大部分が破損し、さらにおかしな態勢で走っているのだから、その破損は悪化している。

 そして俺も苦しい。

 足が裂けそうだ。

 呼吸が乱れる。

 今すぐに倒れて休みたい。


 それでも、背中の重みと温度を自覚し、一気に駆ける。

 ここで倒れたら、すべてが終わりだ。

 カナリーを死なせたくはないし、俺だって地球に戻りたい。

 こんな理不尽なことで、死んでたまるか。

 出口が見えた。

 トゲアシロボットの動きがとまった一瞬で、リンゴの背中にカナリーを乗せる。


「先に行け」

「ちょっと!」

『浩介。ちゃんと来いよ』


 リンゴがカナリーを乗せて走る。

 カナリーは何か言いたげであったが、リンゴの背中にしがみついている。落ちれば危ないしな。

 トゲアシロボットが何度も攻撃を仕掛けてくるが、かわせる程度の動きだ。

 時間を稼ぎ、リンゴたちが外に出たところで、俺は叫ぶ。


「魔法で、入り口を破壊しろ!」

「……」


 カナリーが迷ったように腕をあげる。同時に、走りだす。

 入り口が崩れ始め、どんどん光が減っていく。

 俺はそのかすかな光へぶつかるように、足を動かす。

 崩れて塞がり始めた入り口を足場に、一気に外へと飛び出す。

 転がるようにして体を草原に預ける。

 顔をあげ、そこに静けさがあることを確認してから、ほっと息をもらした。


 振り返れば、完全に入り口が閉まっていた。

 もう追われなくてすみそうだな。

 疲労がたまった体が、食事や睡眠を要求してくるが、無視してカナリーの前に座る。

 カナリーは俺から目をそらせようとしたが、その先に回って覗き込む。


「俺はおまえが死んだら嫌だ。だから、怪我とかそういうことを黙っているなよ」


 カナリーは歯噛みするようにしてから、顔を下げた。


「リンゴ。近くに魔物いるか? 治療しないと」

『魔力の確保か……こっちにゴブリンがきているな』

「久しぶりだな。そういう敵は」


 初めはゴブリンでさえ凶悪に感じていたが、今じゃゴブリンはむしろ歓迎したいくらいの魔物だ。

 殴る準備を整える。

 俺たちへと近づいてきたゴブリンをボコボコにして、治療と休憩を行った。



 ○



 洞窟から抜けて、数日が経過した。

 何度か簡易結界を使って野宿をし、ようやく洞窟を出たところにある村が見えてきたところだった。

 カナリーは洞窟を脱出してからずっと元気のない。

 あんまりしっかり休む時間とっていなかったしね。故郷を心配する気持ちもあるだろうし、早く戻りたいね。


「……どうして魔法を殴ったの」

「……んん?」


 魔法を殴る? 何のことだ?

 と俺が首を捻ると、むっとしたようにカナリーが頬を膨らませる。


「洞窟のこと」

「洞窟……ああ。思い出した!」


 何日前の話だよ。


「……こっちがずっと悩んでいたのにあなたは」

「悩むって、魔法で傷つけたことか? そんなの俺が勝手にやったことなんだし気にするなよ」

「違う」


 カナリーがきっぱりと言い切って、顔をあげる。

 そして、数秒後俺から視線を外に外す。


「違う……だから、私を殴れば安全でしょ」


 彼女の突飛な発想に目を見開いてしまう。


「普通仲間の女の子を殴ろうだなんて発想でねぇだろ。可愛い子を殴るってそういう趣味があるわけじゃねぇし。あ、もしかしてカナリーってそういう趣味が……」

「……焼いてほしい?」


 カナリーの右手に火が浮かぶ。

 俺が全力で首を振ると、カナリーは顔をうつむかせ、呆れたように嘆息して村へと向かっていく。


「リンゴ、もう周囲に敵はいないか?」

『そうだな』

「んじゃ、さっさと村に入るか!」


 駆け足気味に行き、カナリーを抜かして片手をあげる。

 負けじと彼女も追いかけてきて、お互いに同じタイミングで村へと入った。

 村に到着した俺たちはすぐに宿をかり、部屋のベッドに腰かける。


「金に余裕あるんだし、別の部屋でも良かったんじゃねぇのか?」

「万が一があるから節約できるところはする。あなたが変なことをしないのならここで問題ない」

「しねぇよ」


 ベッドに腰かけた途端に、眠たくなってきてしまった。


「夕食までまだ時間あったよな?」

「あるけど、そのまま寝るの?」

「軽く体でも洗ってくるかな……」

「そうするといい」


 とりあえず、大きな怪我をすることもなく突破できてよかった。



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