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第十二話 洞窟の攻略 1 


 


「そんじゃ、いくとするか」


 三日ほど金を稼いだり、町を散歩して楽しんだりしていたが、いよいよ俺たちは町を出発することになる。

 色々とお世話になったし、結構な時間を過ごしたためにちょっぴり寂しい気持ちもあったが、背負ったリュックに押し込める。

 荷物の多くはスマホにしまってあるが、魔石ライトなどすぐに必要なものはリュックに入れてある。

 

 俺たちは北へ向かっていく。道中の魔物に苦戦するようなことはない。もう連携もとれるようになっているからね。

 洞窟に入る前に地図を確認し、しっかりと道を頭に叩き込んでおく。

 迷子にでもなったら、出て来れない可能性もある。


 地図担当となった、俺の役目は重大だ。


「二人とも、準備はいいか?」

「迷わないでね」

『本当にな』

 

 信頼ねぇなぁ……。

 最後に、一番重要な簡易結界の確認をしてから、洞窟へと踏みこんだ。

 前にも入ったが、不気味な場所だよな。


 奥から吹いてくる冷たい風に腕をさする。

 結局、魔力の探知はそこまで上手ではないが、さすがに奇襲程度ならば気づけるようになっている。

 ゴーレム、オオコウモリと敵が出現してくるが、俺は用意しておいた水筒も使って、水を主体に討伐していく。


「準備万端なら、たいしたことねぇな」


 水筒は重たいがいくつか用意してあるし、スマホにもいくつも用意してある。

 つきる心配はないと思われる。


「油断しないでね」

「つーか、簡易結界発動しながら移動できればラクなのにな」

「簡易結界から放たれる魔力は一箇所に留めておかないと意味ない。あなた、間違えて殴らないでね」

「わーってるって!」


 俺が魔力を奪えるのは、殴ったときだ。

 攻撃の意志を向けたとき、っていうのが正しいのかもしれない。

 真っ直ぐに進み、途中二つに別れた道を左に向かう。

 奥に進むと、さらに魔物の攻撃が増えたが、ゴーレムに対しては俺の相性が良いために苦戦することはない。

 リンゴの懸念通り、道は狭くなっていき、進化するのが厳しくなる。


「それにしても、魔物やっぱり多くないか?」

「……何か、問題があるかもしれない。リンゴ、嫌な臭いはしない?」

『今のところは平気だが……何か心当たりがあるのか?』

「ここは長く人に放置されている。独自の魔物の進化が起こり、まったく新種あるいは、強力な魔物がうまれてしまっている可能性」

「帰ろう!」

「私は行く」


 まったく、カナリーは強い奴だ。

 さらに道を進んでいき、俺はスマホのライトを頼りに先を照らしていく。

 ……こ、怖いんだけど。

 周囲が常に真っ暗で、いつ何が襲ってくるか分からない。幽霊とか出てくるんじゃ――。

 考えると、さらに体が震え上がりそうになる。暗いところは嫌いなんだよ……。


「怖いの……?」

「こ、こえぇに決まってんだろ。いつ何が出てくるか――」


 なんだ? 異常な魔力が近づいてくる――。

 すぐにカナリーたちも気づいたようだ。

 近くの壁から浮き上がってきたのは、


「お、おばけだー!」

「……違う。死霊系の魔物」


 カナリーが冷静にそういうが、俺からしたらお化けとかわんねぇんだよ!

 ゆらゆらと足のない幽霊は、シーツでもかぶったような見た目をしている。

 目はないが、口だけがあるそいつは、大きくにやりと笑う。


『任せろ!』

「ダメ、近接攻撃は当たらない!」


 リンゴが踏み出した足を止める。同時に、ゴーストが体当たりを仕掛けてくる。

 まさか……。

 ゴーストとぶつかったリンゴは、大きく体が弾かれた。


「こっちは攻撃できないのに、向こうのは当たるのかよ!?」

「だから、魔法しかない」

「おいおい!」


 カナリーが魔法を用意しようとしたが、それに反応してゴーストが襲い掛かってくる。

 彼女を守るためにカウンターに拳を振りぬくと、ぬるっとした感触とともに殴り飛ばした。

 そして、一気に魔力が右手に集まり、同時にゴーストは消滅した。


「当たるじゃねぇか。むしろ、ゴーレムなんかよりもやりやすいぞこいつ」

「……そっか。死霊系の特にゴーストは魔法生物だから、魔力がなくなったら消滅する」

「……ははーん。つまり俺はかなり相性がいいってことだな?」

「そのドヤ顔むかつく」

「こっからは任せろ。敵が来るのがわかれば、怖くもねぇしな」

「後ろにいる」

「そういうのやめろ!」


 わかっていても振り返りながら叫んでしまう。

 やっぱり何もいない。

 カナリーが淡々と歩いていき、俺が彼女の背中を追いかける。

 地図を頼りにさらに進んでいく。……あれ? この道、地図にないぞ?

 思わず足を止めるとカナリーが首をかしげた。


「どうしたの?」

「……地図に道が載ってないんだよ」


 彼女は顎に手をあてたあと、ぽつりと呟いた。


「もしかしたら、大地を掘り進める魔物がいる、とかかもしれない」

『確かに……移動している臭いはあるが、それほど大きいものではないな。どちらにせよ。道が入り組んだものになってしまっているかもしれないが』

「しゃーねー。マッピングしながら行くか」


 スマホに入っていたお絵かき用のアプリを起動し、ここからの地図を書いていく準備を整える。

 カナリーとリンゴにライトを任せ、俺はメモを残しながら進んでいく。


「右に行くぞ」

「こっちで大丈夫?」

「出口の方角までは間違いないだろうからな」


 元の地図でも右方向に向かって出口がある。今頼りに出来るのはこれくらいだ。


「それはそうだけど」


 暗い中を歩いていき、途中襲ってくるゴーストを倒していく。

 俺と相性が良いため、ここの魔物ならばそこまで苦ではないのが救いだな。

 メモを残しながらずっと進んでいくと、やがて本来の地図でもわかる場所へと出た。


「このまま真っ直ぐに進んでいるんだから――」


 ブツブツ声に出しながら、道が正しいことを確認していく。

 リンゴたちにも問いかけ、俺一人の責任にならないよう道連れも増やす。

 そして、中に入ってから十時間程度が経過したところで、円形の場所へ出た。

 ここが採掘の拠点であったのか、そこにはいくつもの錆びた道具たちが今も残っていた。

 何より、魔石による明かりは他の場所とは比ではない。薄暗さはあれど、魔石ライトを使わずに遠くまで見ることができた。

 誰も触れることのなかった道具たちの嘆きの声のように、奥から吹いてくる風が、奇妙な音をあげている。


 心霊現象とかって、たぶんこういうのを錯覚しちゃうからなんだろうね。凄い怖い。

 この状況を見るに、放棄したのは急だったのかもしれない。

 ここまで来れば、半分は過ぎた。あとは一本道だと思うし、そこまで大変ではない。

 カナリーが疲れているように感じたため、一度休憩をとることにする。


「軽く水分補給でもするか? 食事は大丈夫か?」

「……水だけでいい。こんなところでご飯なんてまずくなる」

「了解。カナリーの水筒はこれだよな?」


 スマホの中から取り出したそれは、一応カナリーフォルダに入れてあるやつだ。


「……ありがと」


 俺が持っている水筒と間違えると偉いことになるため、ちゃんと確認してからカナリーは口をつける。

 俺も自分の水筒で軽く水分を補給し、パンも取り出してちぎって食べる。


「ていうか、ここはなんか変な穴が多いな」

『モグラ系の魔物もいるのかもしれないな』

「なるほどね」


 あちこちに穴があり、それは深くまで繋がっているものもあった。

 一度落ちたらたぶん死ぬね。

 五分ほどの休憩をしたところで、カナリーが顔を顰めた。


「何か、変な音がする」

「……どこがだ」


 耳をすませてみても風の音以外わからない。


「風じゃなくてか?」

「違う」


 俺が両耳に手をあてながらしばらくその場で歩いていると、


『下だ!』


 リンゴが吠えると同時、俺の足元が揺れた。なんだってんだ!?

 すぐに思い切り跳ぶ。

 同時に、地面を破って何かが土をまとって現れた。

 体を振ったそいつは四本足で立つ細身の魔物……のようだ。


「おいおい。なんだよこいつは!」

『臭いがない……それに、この見た目はまるで』

「機械、みたいだよな?」


 四本足のそいつは、機械仕掛けの部分があった。

 例えるなら魔物を模して作った、ロボットだ。


「何か、呼びやすい名前はねぇか?」

「考えれば?」


 苦虫を噛み潰したような顔で、カナリーが言う。

 命名権を与えられ、仕方なく答える。


「じゃあ、トゲアシロボットで」


 トゲのような四肢は、今も地面に突き刺さり体を支えている。

 リンゴが警戒するように吠えながら、俺たちは陣形を整えて行く。

 トゲアシロボットは、俺たちが行きたいほうの道を塞いでいる。

 倒して進め、ということだろう。

 トゲアシロボットはその場で数度体を揺らした後、一気に加速する。


「なっ!」


 異常な加速に、一瞬反応が遅れる。

 身の危険を感じ、横に転がると俺がいた場所をトゲアシが通過する。

 体だろうが、余裕で貫通するね。

 トゲアシロボットへ、リンゴが飛び掛る。

 力では互角だが、


『くっ!』


 トゲアシロボットがその場で回転し、リンゴの体が斬られる。

 あの足が厄介すぎるな。

 リンゴへ追撃を仕掛けようとしたトゲアシロボットに飛び掛るが、回るように後ろ足で蹴られる。

 同時に腕が斬られ、痛みが走る。それでも、左手で水を放つと、トゲアシロボットは少しだけ怯んだ。

 

「水にもそ抵抗があるのかよ。けどっ!」


 踏ん張りをきかせ、トゲアシロボットに突っこむ。

 痛む右手で拳を固める。

 同時に、カナリーの魔法がトゲアシロボットに直撃する。

 火のない場所を狙って拳をあてて後方に下がる。


「……げぇ」


 こいつ、魔力を持っていない。

 探知ができなかったことから嫌な予感はしていたが、これではリンゴが本気を出せない。


『……どうやら、倒すのは厳しいようだな』

「だからって、確実に負けってわけじゃねぇよ。この場を見てみろよ」


 トゲアシロボットが作った穴がいくつかある。

 そこに落としてしまえば、ここから逃げるまでの時間稼ぎは出来るだろう。


「……何か、策あるの?」

「たぶん、カナリーの魔法で吹っ飛ばすくらいしかねぇかな。だから、カナリー。次は限界まで溜めた魔法でお願いな」

「……わかった」


 カナリーが魔法を用意すると、トゲアシロボットが火を払って吠える。


「キーキー!」


 ……良く見たら、すべてが機械というわけではない。

 何かの魔物に、機械をつけた……サイボーグ的な魔物なのかもしれない。

 何にせよ、面倒な魔物だなっ。


「リンゴは回避に専念すればいけるか?」

『ああ。おまえが水鉄砲で援護でもしてくれるのか?』

「そんな感じだ」


 トゲアシロボットの突進をかわし、リンゴがすれ違い様に爪を振るう。

 俺も脇から水鉄砲を撃つ。

 トゲアシロボットの注意は、カナリーではなく俺たちに向けられる。

 トゲアシロボットの猛攻を、リンゴが引き付けてかわしていく。

 何度も体に切り傷を作られ、痛さで涙が浮かんできてしまうほどだ。


 リンゴの軽快さが羨ましい。

 妬みながらも俺はとにかく死なないようにかわしていく。

 ぴくりとトゲアシロボットがカナリーを見る。大きな魔力が、俺でも容易に感じ取れた。


「用意、できた……っ」


 カナリーは遠めでもわかるほどに苦しげな顔をしている。

 後は俺たちがこいつの動きを止められれば!

 トゲアシロボットが動き出し、真っ直ぐにカナリーへと進む。

 すかさず近くに転がっていたつるはしを掴んで振りぬく。

 一瞬だけ動きが止まる。つるはしが砕け散り、俺の手が痺れる。

 リンゴが力の向きを変えるように突撃し、トゲアシロボットの体がよろめく。


「いまだ!」

「ファイアショット!」


 カナリーが叫び、大きな火炎の球がトゲアシロボットへと向かう。

 トゲアシロボットの回避が間に合うはずがない。

 火に飲まれながら穴へと落ちたそいつを確認し、すぐに俺たちは脱出するための通路へと走っていく。

 あれほどの威力、くらえばひとたまりもないだろう。ざまあみろ、とその穴をチラと見た瞬間、体が凍りつく。

 火をまといながら、トゲアシロボットは四肢を存分に伸ばして穴に落ちないよう踏ん張っていた。

 そして、


「キー!」


 跳躍。

 トゲアシロボットが俺たちの道を塞ぐように飛びあがる。

 その体はこげている部分が目立っていたが、まだ体力は残っているとばかりに好戦的な態度を見せ付けてくる。


「今ので普通諦めるだろ!? こいつ空気読めないのかよ!」

「読むような敵に見えるの?」


 そういうカナリーも、頬がひきつっている。

 ……ったく、根性あるな。

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