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第十一話 洞窟の魔物に挑戦してみる


 次の日になり、俺たちは洞窟のゴーレムの素材を集める依頼を受けた。

 ギルド職員にゴーレムとの戦い方を教えてもらっていると、周囲からの視線が増えていることに気づいた。

 昨日の今日だ。

 悪い噂でも出回ったのかもしれない。


「あんまり気にしなくて良いと思いますよ。吸血鬼が嫌われているというのは今に始まったことではありませんからね」


 ギルド職員の言葉の通りだ。意外にも味方してくれる人がいて嬉しいことだ。

 気にするだけ無駄だとは思う。

 俺は依頼の内容を確かめながら、隅で待っているカナリーたちと合流する。

 ギルドを出て、北へと向かう。相変わらずの賑やかな人通りを横目にしながら、フィールドへ出た。

 一つ背伸びをして、それから一気にレード洞窟についた。


 入り口は人を歓迎するような大きなものだった。

 しかし、奥は見えないほどに暗い。

 昔は鉱山であったようだが、今ではすっかり廃れてしまっている。

 理由としては、魔物が多く住み着いてしまい、採掘などしている場合ではないからだ。

 洞窟の入り口にたち、これからの流れを確認する。


「今日の目的は、魔物と戦えるかどうかのチェックだ。ダメそうだったら、別のルートも検討するからな」

「わかってる」

「陣形はいつも通りな」


 確認をしてから、俺は魔石ライトを取り出して中を照らす。

 一応、洞窟内にも魔石が埋め込まれており、明かりはある。

 とはいえ、か細すぎるためライトは必須だった。

 ベルトに魔石がついたライトを、腹にくくりつけて中を歩いていく。


 明かりをつけていると、魔物たちも寄ってくる。

 大きなコウモリ――オオコウモリがばさばさと翼を動かしている。

 敵は今までとは違い空中にいる。そのために、一撃目でリンゴが仕掛けられないようだ。


「カナリー!」

「ファイアショット!」


 オオコウモリがそれをかわしたが、避けたほうへと俺が突っこむ。掴みかかり一瞬の時間を稼いだところで、リンゴが背中から襲い掛かる。

 一気に噛み付き、その体を切り裂く。

 オオコウモリの体が動かなくなったのを確認して、近づく。


「……なんとか、いけそうだな」

『だが、ゴブリンほど余裕、というわけにはいかないな。と、今度は……ゴーレムか』


 リンゴが呟き、近くの地面が浮き上がる。

 ごつい人型の生物が出現し、迫ってくる。

 動きは早くないが、一撃でもくらったら戦闘不能になりそうだ。


「ゴーレムは魔石からの魔力供給で動いているらしい。魔石さえ破壊するか、奪い取れれば動かなくなるってさ!」

『魔石……恐らくだが、そいつは心臓部分に持っているな』

「わかるのかリンゴ!」

『臭いでな』

「私も。なんとなく魔力が感じ取れる」

「俺だけかよ! 俺が引き付けるから、カナリー! ゴーレムを転ばせるような魔法を頼む」

「威力高いのでいいの?」

「ああ!」


 カナリーが使えるのはファイアショットだけだ。

 いまいち魔法については良くわからないのだけど、カナリー曰くある日突然魔法が使えるようになる、というらしい。

 レベルアップして覚えるって感じなんだと思う。まあ、レベルが見える形でないんだけどね。

 後は、魔器と呼ばれる武器などを長く装備し、魔物と戦っていくことで習得できるとか。


 そのため、カナリーができることといえば、魔力をよりこめて一撃の威力をあげるくらいしかできない。

 魔力をこめるとなると、時間がいつも以上にかかる。

 俺とリンゴで攻撃をしかけるが、決定打にはならない。


「おらよ!」


 殴りつけてみると、あまりの堅さに拳が痛くなる。

 

「いっていって!」

『馬鹿が……』


 リンゴが呆れた様子でひょいひょいとゴーレムの攻撃をかわす。

 リンゴでさえも突破できてないし、俺じゃあ無理か。

 水鉄砲を取り出し、近づいて放つ。

 と、当たった部位の岩が、土のようになる。


「やっぱり、水が弱点か」

『ほう。水を使えば、有利に戦えそうだな』

「だな!」


 カナリーの魔法の準備が終わったようで、俺たちは離れる。


「ファイアショット!」


 カナリーの魔法がいつもの二倍ほどの大きさで飛んでいく。

 ゴーレムは回避などできるはずもなく、その全身を飲みこんでいく。

 しかし、火はすぐに消滅する。だが、動きは奪っている! 

 その隙に俺は、濡らした右手で胸を殴りつけた。

 頑丈だったのに、水を食らった瞬間あっさりと怯み、俺は胸から魔石を引き抜いた。


「よっしゃ! ほれみろ、たまには活躍するだろ?」

『待て、またきたぞ!』

「へ?」

「後ろ」


 カナリーが弱めのファイアショットを放つ。

 俺の後ろにはすでにゴーレムがいた。

 腕が振り下ろされ、その押しつぶされるような風圧に顔をしかめる。

 慌てて前へと転がるが、休んでいる暇はない。さっさと立ち上がり、 振り下ろされ、地面についているゴーレムの腕へと拳を放ち、薄暗い中でスマホを取り出した。

 

「リンゴ。今度は一人でやってくれ!」

『任せろ!』

「この戦闘が終わったら、一度戻る! カナリーは後方の警戒をしててくれ」

「うん」


 リンゴを進化させ、リンゴが一気にゴーレムへと詰め寄る。

 その体を押し倒し、噛み付いたが……噛み切れない。

 やっぱり、厳しいか。


「場所は!?」

『歯痛いな……。こいつは右手の中だ』

「了解!」


 もう一度手を湿らして、倒れているゴーレムの手から魔石をくりぬいた。

 そして、リンゴの足を蹴るようにして背中に飛び乗る。

 カナリーが駆けてきて、彼女の手を掴んで引き上げる。

 二人でリンゴの上に乗ると、カナリーが上を見る。


「立ったら頭ぶつかりそう」

「俺なんて、座ってても怖いっての」

『走るぞ。しっかり捕まっていろ!』


 帰り道のほうにも、ゴーレムが何体か出現していた。

 リンゴが一気に駆け抜けて、どうにか洞窟外へと逃げ延びた。

 ふー、怖い怖い。

 晴れ空の下に出たところで、俺は額を軽く拭う。

 連続戦闘に、今さらながらに疲労が出てきた。

 ゴーレムとオオコウモリの魔物装備を確認する。

 ゴーレムは防御+で、オオコウモリは体当たりというスキルがあった。

 体当たりの説明を見ると、何やら強く突撃できるようになるというものだった。

 ……いや、いらないから。枠は四つで、残り二つ余っているので、一応両方もらっておくけど。


「ゴーレムの素材はとりあえず、これでいいとして……町に戻るか」

『……それにしても、魔物が多いかったな』

「まあ、あの洞窟の敵、かなり面倒らしいからな。オオコウモリはいいとして、ゴーレムは魔法使える人が必須らしいし。冒険者の人たちもわざわざ寄り付かないらしいから、魔物は増える一方なんだろうぜ」

「いい迷惑」

「だな。……それで、さっきの戦闘はどうだった?」


 俺としてはゴブリンよりかは活躍できて満足だったのだが。


『俺は正直、かなり微妙だな。進化すると洞窟内じゃ狭い。あそこはまだ入り口だったから広かったが、奥にいけばさらに狭い場所もあるだろうし……悪いが戦闘ではそこまで活躍できないな』

「いや、それでも十分だったさ」


 リンゴがいなければ、俺たちは普通に死んでいた。

 俺はそれからスマホを取り出してカメラのライトを起動する。


「スマホのライトも使えるか……」

『ただ、工夫しないと片手が塞がった状態になるぞ』

「うーん」


 リンゴと話しているとカナリーが顔を近づけてくる。


「それは他にも色々な機能があるの?」

「まあな、例えばこうやって」


 カメラを起動し、カナリーに見せる。

 カナリーは自分の顔が映ったことに首を捻っている。

  

「……なにこれ?」

「こうするんだよ」


 ぱしっと写真をとると、カナリーは目をぱちくりする。

 それからさっきとった画像を彼女に見せた。

 カナリーは目を見開き、ぱくぱくと口を開閉している。


「これ、なに? え?」

「カメラっていうんだよ。その場をこうやって記録として残しておけるの」

「……あそこの景色も?」

「おお」


 疑うようなカナリーに見せつけるために、カメラで景色を撮る。

 木々と綺麗な青空が映った、思わず待ち受けにしたいような綺麗なものがとれた。


「ほらな」

「……凄い、魔器。こんなの見たことない」


 本気で驚いているようで、カナリーがいつもはしないような間抜けな顔になっている。


「……魔器か。魔法が使えるようになるっていったけど、それってカナリーが装備してもできるのか?」

「たぶん、あなたのあの拳で魔力を奪う奴でもできると思う。ただ、魔器は基本的に高いのは知っているよね?」

「知ってるよ」

「ゴブリンでたくさん稼いだけど、あと二週間くらい依頼をたくさん受けないと無理。または、高額な依頼を達成するとか」

「……ほかに、入手する手段ってあるのか?」

「迷宮とか。迷宮を攻略することが出来れば、確実に一つは入手できる」

「けど、簡単にはいかないんだろ?」

「もちろん。迷宮の最奥までいけるなんて、Aランクくらいの冒険者くらい。それに、まぐれでたどりついても迷宮を

守る者がいるから、絶対に無理」

「ならやっぱり無理かぁ」


 手っ取り早く強くなるためにはいいと思ったんだけどな。

 俺が頭をかいていると、カナリーは迷ったように首を振った。


「どうしたんだ?」

「なんでもない」

「なんだよ。悩んで一人で抱えるなよ」

「別にそういうのじゃない」

「じゃあ、なんだ?」

「さっきの戦闘。あなた全然敵に気づけていなかった」


 そ、それは出来れば突っこまないでくれると嬉しいんだけど。

 おまえたちみたいに察知能力は高くないんだ。

 俺は頬をひきつらせながら、リンゴの頭を撫でる。


「……リンゴ、そろそろ進化解けるよな? 降りようか」

『そうだな』


 一度おりると、カナリーが話を再開する。


「私は見えた。リンゴは?」


 吸血鬼だから? 羨ましい。


『俺も問題ないな。臭いでいくらでも対応できる』

「まーてまて! 一番の戦力の俺が使い物にならないとかそんなこと言うつもりか!?」

「魔石ライトはいらない程度の明かりだった」

「暗いところはあんまり好きじゃないの!」

「……情けない」


 こいつらは目と鼻が聞くみたいだからなぁ。

 人間の俺の気持ちも考えてくれよな。


「一番の問題は魔物に気づけていないこと。どうにか奇襲に対応できるようにすれば、明かりがなくても立ち回れる」

「……そうはいっても、一日二日で鍛えられるのか?」

「あなた、魔力がロクにないって言っていたけど、魔力を意識したことはないの?」

「一回あるけど」

「なら、周囲の魔力を意識する訓練はしたことある?」

「……ねぇな」

「もしかしたら、周囲にいる魔力くらいなら探知できるかもしれない」

「え、本当か?」

「すでに、あなたは他の魔力を意識したことはあるはず」

「盗んだときだな」

「あれに似た感じを周囲に向けられれば出来るようになる」

「……よーし、ならこれから毎日訓練だな」

「……ほんと無知」


 じろっとした目を向けてくる彼女に頭をかきながら、帰りの間ずっと魔力の探知練習を行った。



 ○



 いつもの公衆浴場へと向かうと、なにやら騒がしかった。


「どうしたんですか?」

「いやな、水に魔力を入れる魔器が故障しちゃったみたいなんだよ。それで、今修理中なんだってよ」

「へぇ」


 なんだよ。早く風呂に入りたいんだけどなぁ。

 お湯になってくれているのならば、俺は問題ないがここで入れてーなんていくようなアホではない。

 しばらく待っていたが、状況は変わらない。

 周りから聞こえてくる、今日はもう無理だな……といって去っていく人々。

 修理は今も行っているようだが、お手上げ、といった感じだった。

 ……えー。

 今日はゴーレムと戦ったせいで体はかなり汚れている。絶対に入りたいと思っていたのに……と思っていると、スマホがブーとバイブする。

 取り出して見てみると、魔器を見せてくださいと文字が出ている。


「……なんだ?」


 首を捻ると、スマホが少し経って文字を出した。

 魔器、魔法への干渉が得意です。

 ……そう、なのか?

 ならば試してみようか。

 他の客達も魔器にかなり近づいていた。今、魔器の近くで作業している男も諦めたように腰かけている。

 スマホを近づけてみると、にゅるーっと一本の線が出た。おいおい、隠すの大変だろう。

 

 十秒ほどでそれは終わり、スマホの文字が出る。


『魔力の循環を行う魔法式に問題が発生しています。簡単にいえば、余分な魔力を排出できないようになってしまっており、その場所の魔力式を書きなおす必要があります。ただ、それほど難しいものではありませんので、修理は簡単でしょうが……どうやら彼は全然別の場所を見ているようです』

「……それを伝えれば修理できるかな?」

『可能だと思――』


 そこで、スマホの文字が消滅した。

 ……よくわからんが、スマホにもリンゴのような会話機能なるものがあるのだろうか。

 それ以上の返事がないのを見るに、まだその機能が上手く反応しないのかもしれない。

 とりあえず、声をかけてみよう。

 近くでくつろいでいた男に先ほどの内容を伝えると、合点がいったとばかりに手をうつ。

 それからすぐに修理が始まり、一時間ほどして魔力式とやらの書き換えが終了した。


「てっきり、魔器に使用した魔石自体が損傷していたからダメなんだと思っていたけど、なんだ魔力式だったんだね。……あれ、古代文字が使われていて解読が難しいから、助かったよ」

「ああ、別に構いませんよ。それより、もうは入れるんですかね!?」

「大丈夫だよ。ありがとね。さっき、今日の浴場代は払っておいたから、自由に使っていいよ」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


 スマホのおかげでちょっぴりだけど、代金が浮いた!

 今日は長風呂でも楽しもう。


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