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第十話 町で買い物を楽しむ



 ギルドで換金をすませ、俺はたくさん手に入った金をギルドカードで確認していた。

 予定では一週間程度はかかると思っていた額をこの短時間で手に入れたのだから笑みしか出てこないね。


「あ、ありえないだろ! こっちは、探知魔法使ったんだぞ! インチキだ、ふざけんな!」

「……まあ、どうせこうなるだろうとは思っていた」


 カナリーが呆れたように男を見やる。

 男はははっと軽く笑い、焦ったように周囲の冒険者たちに同意を求める。


「なあ! 俺はこんな賭けはしていないよな? おまえら、聞かなかっただろ?」

「そ、そうだな。まったく……これだから吸血鬼とそれにかかわる人間はおかしいんだよ。頭狂っているんじゃねぇのか?」

「そうだそうだ」


 なんて冒険者たちが言い合っている。

 

「どうしたんだい?」 

「サブリーダー! こいつらが変ないちゃもんをつけてくるんですよ! なんか、俺たちのゴブリンの報酬まで巻き上げようとしてきて」

「そっちが約束したんでしょ」

「うるせぇよ吸血鬼!」


 二人の言い合いに、何も聞いていなかったサブリーダーは頭をかいている。


「……ちょっと、青年くん」


 サブリーダーが手招きしてくる。俺は今報酬の金額が書かれているギルドカードを見るので忙しいっていうのに……。

 俺は録音を再生できるように用意しておき、すぐに近づいていく。


「サブリーダー、助けてくださいよ! 吸血鬼の言葉を信じるんですか?」

「俺は基本的に幼女の言葉を信じるんだ」

「えぇ……」

「けど、お金がかかっているなら、さすがに優先するわけにはいかないからね。それで、青年くんどうなんだい?」

「そいつだって吸血鬼の仲間ですよ! 口裏あわせているに決まっています!」


 うるさいので、俺は録音しておいた音声を流した。

 その内容をしっかりと聞いたサブリーダーが顔を男に向ける。

 男の顔は青ざめたものになっている。


「しっかりと、話しているようだね」


 男は顔を真っ赤に唾を撒き散らすように言い放つ。


「ふ、ふざけんな! てめぇ、いんちきしやがって! 俺の声真似がうまいな!」

「……なら、わかった。今回の問題はなしにしてもいいけど、こういう怪しいことを言っている君たちのギルドカードは停止処分にさせてもらうけど、いいかな?」


 サブリーダーが言うと、うっと顔を青くする男達。

 ……声を作る魔法とかもあるのだろうか。

 というか、サブリーダーはたぶん嘘だとわかっているからこその脅しなのだろう。


「わかりました……すみませんでした」


 そして、賭けどおりゴブリンの報酬金の獲得に成功する。

 男たちがぶつぶつと呪詛をぶつけてきたが、俺は知ったことではない。予定よりも多くの金が入って満足だ。

 これ以上いても、気分が良くない。

 ギルドにいた冒険者は、俺たちを睨んでくるばかりだ。

 俺はカナリーとともにギルドを去った。


「……問題だったか?」


 あのまま流しておいたほうがよかったかもしれない。

 カナリーがふんとほくそ笑む。


「あなたが生きにくくなるくらいだと思う」

「じゃあ、まあいいか」

「……」


 カナリーがジト目を作り、リンゴの上に乗る。

 俺は金を再度確認してニヒヒと笑う。結構な額に、笑みがこらえきれない。

 

「き、気持ち悪い」

「いいだろう? こんだけ金があるなら、しばらく寝て過ごしてても問題ないんだぜ?」

「旅の用意」

「わーってるって」


 そんなのんびりと話をしていた俺たちの向かっている方から、不思議な格好の人たちがやってきた。

 カナリーは珍しく慌てたように俺の背後に隠れる。

 その人たちの服装をみるに……シスターとか、神父だろうか。


 修道服を着ている彼らを町の人たちが見ると、軽く頭を下げていた。

 それらに満足した様子で、先頭を歩く神父が片手をあげていく。

 彼らがやがて去っていき、町は普段のように戻る。


「……なんなんだ?」

「あなた、教会も知らないの?」

「知らん。教えてくれ」

「……教会は、予言石を管理している場所」

「予言石?」


 聞き覚えはある。詳しくは知らない。


「……本気で、言っているの?」

「仕方ないだろ? 俺はそれこそ山小屋のような場所で外界と断たれた状態で生活していたんだよ。だから常識なんて知らん」


 俺たちが召喚されたときに、予言の影響を受けない人間だからって言っていた。

 

「予言石は特殊な文字で書かれていて読めるのは、一部の特殊な人たちだけ。そういった人が、教会で仕事をしている」

「予言石ってのは、当たるのか?」

「……あんまり大きな声で言わないで。生活の基本は、この予言なの。朝、教会で予言され、その日に起こる事柄が列挙されていく。予言っていうのは、このようなことが起こる、というもの。だから、それを少しでも抑えるために動く、とか」

「抑える? 止められないのか?」

「止められない。予言は絶対だから」


 ……つまり、あの国はこの予言をどうにかしたくて俺を呼んだって感じか。

 だが、召喚された俺は魔力がゼロに近かった。だから、切り捨てることにした。

 たぶん、また召喚できる手段を持っているんだろうな。できれば、これ以上召喚されてほしくはないんだけど。

 俺たちはこれからの旅に必要な物を購入していく。


 道具屋に入り、たくさんのポーションなどに興奮したり、魔道具、魔器といった生活や戦闘で使われる魔法道具を見てはカナリーに使い方を教えてもらったり――。

 ゲームなどで、新しい町についたときの興奮を、俺は味わっていた。

 前のダンジョンで貯まったお金を使って、新しい町で武器を買ったり、次の旅に備えてアイテムを購入したり。

 

 なんていうか、不思議な感覚だな。

 この準備は、戦いに行くというものだが、凄く楽しい。


「必要なものはこんな感じかな?」

「たぶん」


 カナリーも一つずつ確認していく。

 魔石ライト、ポーション、簡易結界……。

 食料などは出発する前に購入予定なので、たぶん大丈夫だと思う。

 

「まあ、今すぐ出発するわけじゃねぇんだしいっか」

「それじゃあ、買い物よろしく」


 カナリーは外で待っているリンゴのほうに向かった。

 俺の金から出すのかい? わりかんにしようぜって言う暇もなかった。

 仕方なく支払って、リュックサックに荷物を詰めていった。

 道具屋から出たところで、カナリーが首を捻った。


「武器はいらないの?」

「剣とかか? 金に余裕があるなら、持っておきたいけど」


 魔物と距離をつめるという点で、武器は必要かもしれない。

 けど、俺がうまく使いこなせるかな、という不安はある。

 むしろ重たいだけで無駄になる可能性のほうが高いため、優先度は低い。


「他に、何か攻撃の補佐をできるものってあるのか?」

「魔法とかが習得できる魔器はあるけど、あれは高い」

「確かに高かったなぁ……。ひとまず、俺は今のままで戦うくらいしかねぇしな。剣とかを使うなら、まずは体を鍛えないと――」

「無駄に頑丈」

「無駄とはなんだ。この頑丈さは日々の積み重ねがあるおかげなの。後、服でも買いに行っていいか?」

「自覚あった?」

『臭かったからな』

「二人で言うんじゃねぇよ。泣くぞ」


 ……自覚は最初っからあったが、金がギリギリだったからだっての。

 万が一を考えて、優先度の低い服は買わなかったんだよ。

 家がないのだから、無駄に購入しても荷物にしかならないし。


「二人は宿に戻っててもいいよ」

「私も着替えを一つ購入しておきたい」

「そうか。どっかいい店ないかな?」


 しばらく道を歩いていると古着屋を見つける。

 中に入り、服を手に取る。

 ……今着ているのとは比べ物にならないな。

 他にもいくつか手にとり、魔物の皮で作られたある一着が、非常に滑らかであったためにそれを購入する。

 上下をその場で着替えてみると、カナリーが眉間に皺を寄せた。


「田舎でくわを振っていそう」

「農民っていいたいんだろ? そりゃあ俺は人を陰ながら支える存在だしな」

「私はこれにする」


 カナリーは自分の金で白を基調とした服を購入した。

 

「ズボンじゃなくてスカートとかにしたら?」

「戦闘中に見られたら最悪」

「みねぇよ。興味もわかん」

「だとしても、他人にやすやすと見られていいものじゃない」

「他に購入するものってあったか? ないなら宿に戻って服を洗いたいんだけど」

「ない。私も部屋で休憩したい」


 まだ昼を少し過ぎたところであったが、ゴブリンとの戦闘はハイペースだったために疲れていた。

 宿についたところで、カナリーたちは先に部屋へ向かう。

 俺は庭で服を洗いおえたところで部屋にもどる。窓をあけて干しておく。


「……すぅ」


 寝息が聞こえ顔を向ける。

 カナリーは昼食もとらずに眠っていた。

 穏やかな顔をしている彼女をちらとみて、顔をしかめてしまう。


「……」


 目尻には涙が浮かんでいた。

 ……故郷のことを思い出して、泣いているのだろうか。


『……カナリーのことも気にはなるかもしれないが、予言石は覚えているか?』

「そう、だな。俺たちの本来の目的、か」

『予言石に、カナリーの故郷のことは書いてなかったのだろうか?』


 リンゴの問いも当然だな。

 俺もそれについてはちょっと考えていた。


『故郷が竜に襲われたと、カナリーは言っていたが……そんなこと書かれていたと思うのだが』

「被害を抑えるっていっていたよな? それがされてないってことは……」

『ああ。予言石にはそもそも書かれていなかったか、切り捨てられたか』


 後者だとすれば、酷い話だ。

 なんだかどこも面倒なことばかりで頭が痛くなってきてしまった。


『予言石は、特殊な人間しか読めないといっていたが……おまえはどうなんだろうな?』

「翻訳の力、か」

『まあ、今さらそのときのことを知ったところで、どうなんだという話ではあるがな』

「まぁな。国への不信感だけが募るってのも嫌なんだけどさ」


 そもそも。問題が大きすぎて俺だけではどうしようもないことばかりだ。

 そりゃあ、王女様が無能と判断して殺しにかかるわけだな。

 きちんとした力を持った勇者ならば、こんな事件片手間で解決できるのかもしれない。

 


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