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第四話 ハロー! 挨拶大事

日曜日に投稿する予定が少々遅れて申し訳ない。

では本編をどうぞ。


ハイエルフと3匹のお供




第四話 ハロー! 挨拶大事




「第一異世界人発見か?」


 なんて暢気に言う俺だが、すぐに後悔したよ。

 だってさ、最初は緑色の毛皮を纏った現地人だと思ったんだ。

 逆光でほとんどシルエットしか判らなかったからね。


「えっと……。ハ、ハローッ!」


 まだ距離があったので大きな声で挨拶してみたのさ。

 挨拶は大事だからね。

 しかし、声が届かなかったのか返事はなかったんだよ。

 ひょっとすると言葉が通じてないかと思ったんだ。

 それで再度声を掛けたよ。


「こんにちはーっ! グッモーニンッ! ボンジュールッ! チャオッ! ジャンボッ!」


 ま、まあほとんど適当だわな。

 やはり相手は無言。

 俺の声掛けに一瞬立ち止まったけど、すぐにノシノシと蟹股で近付いて来るんだ。

 おや?

 なんか、おかしいな?

 遠近感が狂ってるのか、どうにも相手のサイズが……。


「うわぁっ! 緑色の雪男っ!」


 なんと現れたのは、身の丈4mはありそうな毛むくじゃらの巨人。

 アレだよ、アレ。

 サスカッチやビッグフットっていえばいいか。

 そいつらに近い外見で、体毛は若草色。

 顔や手から覗く肌の色は濁ったような深緑色ときてる。

 額からは真っ直ぐ伸びた黒い角に、下顎からはみ出た凶暴そうな黒い牙が見え、しかも瞳はギラギラ光る赤い目ときた。

 そいつが、丸太そのものな棍棒を右手に握っての御登場だ。


 巨人の姿に俺がビックリして尻餅をつくと、そいつは大声を張り上げた。

 いや、吠えた。


「ギラアアアアアアアァァッ!!!」


「うわああああああっ!!」


 空気がビリビリと震えるような咆哮が草原に響き渡った。

 威嚇とか脅しといった感じの咆哮じゃない。

 獲物発見、今からお前まる齧り、そこ動くなって感じなんだ。

 昨日の虎並みに……いや、虎以上に恐ろしいと思った。

 大声以上に、その身体の大きさが恐ろしい。

 さらに、巨人の持つ棍棒の大きさが恐怖に輪をかける。

 あんなもので殴られたら、大半の人間はミンチだ。

 恐怖のあまり俺は、速攻で腰が抜けたよ。

 今度は漏らさなかったけどさ。

 いやいや、漏らす漏らさないは、今はどうでもいい。

 座ったまま動けない状態なのが問題だ。

 つまり、ヤバイッ!


「ガウッ!」

「ニャッ!」

「ピッ!」


 ドスドス足音響かせながら駆け寄って来る巨人と座り込んだ俺の間に、3つの影が躍り出た。

 マシロ達だ。

 マシロを先頭に、右手側にクロード、左手側にレーテという布陣で、迫り来る巨人に備えている。

 お供と巨人が対峙した瞬間、周囲の空気がピリピリと張り詰めた。

 張り詰めた空気の中、最初に動いたのは巨人だ。

 巨人は棍棒を振り上げ、3匹の中で一番身体の大きいマシロへ狙いを定めた。

 危ないっ!

 とにかく指示を出さないと――俺より先にマシロが危ない。


「っ!? よ、避けろぉぉっ!」


 重く圧し掛かる殺気とも呼べる空気の中、俺は叫んだ。

 鈍重そうな見た目に反して、巨人の振り下ろす棍棒の速度は速い。

 危ないっ!


「ギュロロロォ~ッ!!」


ドゴンッ!!


 と、地面が一瞬揺れる程の衝撃が走り、草雑じりの土埃が舞った。

 マシロは無事なのか?

 そう思った瞬間、俺は凄まじい体験を味わったね。


 スローモーション。


 そう、命の危機に瀕したからだろうか、時間がゆっくり流れているような感覚が俺を襲った。

 棍棒で生み出された土くれと千切れた草が宙を舞う様がスローモーションで見える。

 と、同時に白と黒、赤いシルエットが動く様を俺の目が捕らえた。


 マシロ達だ。


 棍棒を避けると同時に、マシロ達の反撃が始まったのだ。

 それは凄まじいの一言だった。


 土埃に紛れて最初に飛び出したのは黒猫のクロード。


 緑色の虎にした時と同じ攻撃を巨人へ行う。

 振り下ろされ地面に近付いた巨人の腕目掛けて飛びつき、お得意の雷撃だ。


「ニャアアアアアアアッテ!!!」


「ギュガッ!?」


 バチバチッと紫電を全身から放ち、巨人の右手首を焼く。

 しかし、巨人もタフなもので、右手首を火傷した程度でしかない。

 それでも雷撃によるショックで身体が一瞬硬直したのは確かだ。


 その隙を逃すマシロ達ではない。

 クロードに続き、マシロとレーテがほとんど同時に動く。


 次に巨人へ攻撃をしたのは金頭赤鷲のレーテ。


 巨人の顔目掛けてギュンッと突撃――いや、突撃ではない。

 顔面スレスレに巨人の顔を通り過ぎた。

 鋭い脚の鉤爪で頬と耳を引き裂く。

 それだけではない。

 すれ違い様、顔面に炎を吹きかける目潰し付きである。


「ピュッ!!」


「ギィィッ!?」


 目元を焼かれ、左手で顔を押さようとする巨人。

 その動作が、巨人にとって真の命取りとなる。


「ガルルルゥ~ッ!!」


「ッ!?」


 地面に先端が埋まった棍棒、それを握る硬直した腕、それを足場にして、白狼マシロが駆けた。

 狙いは巨人の首。


「ガウウゥッ!!」


「ッ!? ギッ!? ギュガガッ!」


 マシロが巨人の喉笛に喰らいつき、身体をグルンッと横回転させる。

 右腕が動かず、目も見えない巨人は、混乱しつつも左手でマシロを引き剥がそうと試みるがもう遅い。

 二回転捻りから三回転捻りへ突入する直前、マシロの身体が宙に舞った。

 巨人の手で引き剥がされたように見えるだろうが、それは違う。

 強靭な筋肉に護られた巨人の太い首に、マシロの牙が勝利した瞬間だったのだ。


ブチィッ!!


 肉を引き千切る嫌な音が響く。


「グルゥ……プッ」


 空中でクルリと宙返りをして地面に着地したマシロは、何かの塊をぺっと吐き出した。

 巨人の首の肉だ。


ブシュウウウウウゥッ!!


「グヒュッ! ヒュフウッ! ヒュグァ…………」


 そして、巨人の太い首から“紫色の鮮血”が噴出した。

 紫色の血だ。

 これには驚いた。

 なんなんだこの巨人はっ!?


「ギ、ギュヒュッ! ヒューーゥフッ…………」


 左手でマシロに噛み千切られた傷口を押さえるが、傷口が広いのだろう。

 噴出す血は止まらない。

 叫びを上げようにも空気が喉から漏れるのか、まともな音が出ないようだった。

 マシロ達から逃げようと、巨人は後ろに下がった。

 いや、下がろうとしていたと思う。

 自身の流した血溜まりに足を捕られて、ズズンッと音を響かせて転倒し、地面でのたうちながら、やがて――死んだ。

 スローモーションと化した時間は何時の間にか終っている。


 巨人の血の色――いや、巨人の存在に俺が驚愕している中、俺の前にマシロ達が勢揃いしていた。


「アオォーーーーンッ!」

「ニャアァーーーッ!」

「ピュイーーッ!」


 勝利の雄たけびを上げる3匹達。

 ゲームでモンスターを倒した時と同じ勝利シーンと呼べる光景だが、この時の俺に感動は沸かなった。

 返り血を浴びた彼らがあまりにも生々しかった事と、生死を賭ける戦いを目の当たりにした俺が呆然としていたからに他ならない。


 どーすんだこれ?


 と、緑色の巨人の死体を前にへたりこんだままの俺は思った。

 巨人の遺体は、生ゴミや鶏糞を思わせるような異臭をずっと放っていた……。


「ははは……、みんな強いね」


 しばらくして正気に返った俺が口に出した言葉は、なんとも締まらないものだったよ。


「わう」

「にゃ」

「ぴゅい」


 強過ぎだよ、君達。

 引き攣った笑いしか出来ない俺に、3匹は『こんなの楽勝』っていう気楽そうな返事で答えたね。

 上半身が紫色に染まったマシロさんがちょっと引くくらい恐かったのは内緒だ。




 巨人の遺体から逃げるように『ホーム』に帰ったのは、それから5分も経たない間だったと思う。

 この時の俺は、兎に角取り乱していたといってもいい状態だった。

 昨日に引き続き今日も襲われた事が恐ろしかったのだ。


 スローライフどころじゃあないっ!

 何時また、あんな連中がやって来るか判らない場所で、のほほんと暮らせる訳がないっ!

 いくら『ホーム』のバリヤーと強いマシロ達がいたといっても、何時までも安全という保証がないっ!


 ヤバイ。

 ヤバイ。

 ヤバイ。


 そればかりが頭にリフレインするのさ。

 もう頭の中グルグル。

 頭痛はするし、胃がキリキリ締め付けられて、最後には胃の中身を全部ぶち撒けるぐらい気分悪くなって吐いたよ。

 で、吐く。

 ゲーゲー吐く。


「うおえぇ~~~っ」


「わふぅぅ」

「にゃぁ」

「ぴゅいぃ」


 朝食を全部吐き出してる俺を心配するお供達。

 気が付いたらマシロの背中を押されて井戸の前さ。

 器用に前脚でポンプのレバーを動かすマシロ。


ドジャアアアアーーーッ!


「ワウッ」


「うひゃぁーっ。ちべてーっ」


 冷たい井戸水を頭からぶっ掛けられて俺は正気に戻った。




 慌てて全員の返り血を洗い落としてから、俺は宣言する。


「……っと、アレだ。ここには住めない」


「ワウ?」

「にゃ?」

「ピュイ?」


 おうふ。

 お供は平気だってか?

 俺の豆腐メンタルは、もう限界よ。

 ちなみに、現地人を殺してしまった事については、モンスター扱いしてもよさげな奴だったで済ませた。

 あれ、人類ちゃう。

 モンスター。


「とにかく、アレだ。もう一度言うが、ここには住めない。虎恐い。巨人恐い。ここ危険。引っ越す。OK?」


「わうっ」

「にゃっ」

「ぴっ」


「よ~しよしよし」


 3匹から了承を得た俺は、早速引っ越しの準備を始めた。

 こんな場所、一分一秒たりとも居たくないからだ。


「うげぇ。なんなんだよ、アイツの死体。すんげー臭いんだけど」


 その理由の1つに悪臭が追加である。

 死んで早々、巨人の遺骸から悪臭が発生し、その匂いが風に乗って、『ホーム』内を絶賛汚染中とか、最悪だ。

 普通の生き物だったら、死んで早々に腐臭なんて湧かないだろうに……。


 倉庫に置いてあった麻袋に、リンゴやシムパンの実を入れ、腰にぶら下がっている水筒に水を満たす。

 俺が引っ越しの準備を始めてる間に、マシロ達には見張りを任せた。

 あのクソッタレな巨人は、やたらデカイ声で吠えていたので、場合によっては巨人の追加も有り得るからだ。


「よし、準備完了」


 パンパンに膨らんだ麻袋を背に、3匹を引き連れて『ホーム』から出る。

 そして、鳥居型の門に手を当てると、俺は叫んだ。


「『キューブ』っ!」


ズズズズ……。


「うぁっ。こ、これ結構くるな」


 俺の体内からゴソッとMPが引き抜かれ、『ホーム』へと注がれた。

 昨夜お試しした『ライト』の十倍以上の力が引き抜かれる感触である。

 吐いた後にするこれは結構負担があった。

 だが、『ホーム』専用魔法『キューブ』を使う必要があるので、試さない――いや、使わない道理はなかったのも事実。


ズズズズ……。


 『ホーム』が震動しながら徐々に、徐々に、徐々に縮み始める。


「よかった。ゲームどうり上手くいった……ふぅ」


 『ホーム』はどんどん縮んでゆき、最後にはガラスの置物のような『キューブ』サイズへと変化した。

 『キューブ』の魔法は、購入した『ホーム』をコンパクトに纏めて、引越し先まで運ぶために使う魔法なのである。

 芸が細かいよな、ゲームの運営とビリケンさん。

 まあ、ゲームだと、モンスターがうろつくような場所に設置できないんだけどね。


 手のひらに乗る程小さくなった『ホーム』を、腰のベルトに付いたポーチの1つにしっかり納める。


「確認よし。周囲確に……うひゃ」


「ピュイッ!!」

「フゥ~ッ!!」

「ガルルルッ!!」


 俺が『周囲確認よし』を中断するのと、3匹が警戒の唸り声を上げるは同時だった。

 先程の巨人と同じ外見の連中の姿を見つけたからである。

 しかも、今度の人数は3体。

 手に棍棒だったり、素手だったり、石斧だったりを持っていて、今回も交渉の余地がなさそうな殺気満々っぽいです。

 そのうちの素手がゴリラのようなナックルウォークで、こちらに敵意剝き出しで駆け寄ってくるオマケ付き。


「っ!? 逃げるぞ、みんなっ!」


「ばうっ!」

「にゃっ!」

「ぴゅいっ!」


 俺は急いでクロードを抱き寄せ、多少もたつきながらもマシロの背に跨った。


「頼むっ! マシロ」


「わおーーーーんっ!!」


 森を指差し、マシロに願う。

 俺達は風になった。


「ニャニャニャァ~ン」


「うわああああぁっ! は、はっ、速いぃぃっ!」


 楽しそうなクロードとは逆に、俺はマシロにしがみ付いて叫ぶだけであった。

 あ、レーテは飛んで移動してます。


 魔法とか色々試す予定はどこかにぶっ飛び、異世界二日目早々逃避行となる俺達であったマル。

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