第三話 第一異世界人発見っ!
スローライフはまだ先っぽい。
不思議植物がいくつか登場。
追記:2015年5月31日 マシロ達のセリフ修正
ハイエルフと3匹のお供
第三話 第一異世界人発見っ!
突然の話でなんだが、昨夜の事なんだけど、凄い事実が判明したのさ。
俺、魔法が使えるようになってるってヤツ。
日が暮れて、灯かりどうしようかなって考えてたんだ。
ゲームのジャッキーだったら『灯かり(ライト)』の魔法使ってたよねって、思い浮かんだんだよ。
で、夢と現実がゴッチャになった状況だろ?
俺以外見てる人間なんか居ないからさ。
恥も外聞も気にせず試したんだな。
「クルッと回って、『ライト』ぉぉっ!」
……って、魔法を発動するゲームキャラの動作を真似してみたのさ。
時計回りにクルッと回って一回転してから、右手の人差し指を天に指してみたね。
そうしたら、身体の中から『何か』がちょっとだけ抜けた感覚があって、抜けた『何か』が指先に集まったんだ。
そして次の瞬間……。
ピカッ!!
っと、指先の空間にソフトボールサイズの光の玉が出現したって訳。
自分でやっておいて言うのもあれだけど、驚いたよ。
「うおっ!? ……俺、魔法使えるようになってるよ。うわー」
光の玉如きで驚くなって?
いやいやいや、ここは驚く所だろ。
魔法だよ、魔法。
例え灯かりを生み出すだけの魔法でも、魔法に触れる機会のないただのおっさんが、そいつを使ったんだ。
ビックリするさ。
ついでにテンションも上がったね。
「「「……?」」」
まあ、3匹のお供達は俺がヒャッハーッて浮かれてるのを首を傾げてたけどさ……。
要検証だ。
脳内会議を発動しよう。
今、俺が居る世界に移動させられた時に感じた気が狂いそうになる程辛い痛み。
これの原因がなんとなく理解出来た様な気がする。
気がする……って。
あれは、若霧・庄治43歳を『アルフの少年であるジャッキー・リー』に変質させる時に生じた痛みだったんだぁーっ。
なんだってぇぇーーっ!!
姿形だけでなく、メインジョブの調教師とセカンドジョブの詠唱者の能力もきっとその時付与されたんだ。
それは本当なのか、若霧っ!?
あぁ、たぶん。
いくつか可能性の高い理由がある。
まず1つ目、動物アレルギーがなくなって、マシロ達とある程度のコミュニケーションが取れるようになった事。
2つ目に、魔法を使えるようになった事だ。
肉体が日本人から『アルフの少年』に変わったのも、ゲームキャラと同じ能力を持たせるために必要なプロセスだったんだ。
それが本当なら、あの痛みも納得すべき事なのか?
実質、死ぬかと思うくらい滅茶苦茶痛かったんだが……。
たぶん、きっと、メイビー。
たぶん……って。
よく考えるんだ、諸君。
俺は……いや、俺達は全てを理解出来る程……そこまで賢くない!!
っ!!?
納得!
じゃあ、『灯かり』の魔法を使った時に、身体から抜け出たアレは?
もしかして、アレなのか、若霧っ!?
たぶん、MPとか、マナとかオーラとか、霊力とか魔力とかじゃないかと推測出来るな。
多過ぎ。
しかも、意味ダブッてるし……。
MPでいいよ。
MPとか浪漫ないなぁ。
マナとかオーラとか表現した方が格好良くないか?
面倒くさい。
ゲームと同じ表現にした方が、考察する時色々楽じゃないか?
ほら、消費MPは幾らかかるとか推測し易いじゃないか。
なるほど。
確かに一理ある。
ゲームとの違いも考慮すべきだ。
例として、MPが0になった場合どうなる?
ラフィングワールド・オンラインだと、ただ魔法や特殊スキルが使用不可になるよな。
うむ。
それがどうした?
思い出すんだ。
ビリケンさんの言葉を。
確か、『似たような世界に送る』って言ってなかったか?
っ!?
どういう意味だ?
そのまんまな内容だけど、似たような世界って意味じゃないか。
似て非なるってヤツ。
以上の事から、ラフィングワールド・オンラインと若干違う法則がある可能性が捨てきれないって事さ。
具体的には?
う~ん。
学生時代遊んだテーブルトークRPGだと、MPが0になると気絶するってルールの物もあったじゃないか。
あぁ、あった。
懐かしいな。
今、俺達が居る世界の『魔法使い』にその法則がある場合は?
『魔法』が仕えるラッキー! じゃあ、外で試してみよう。
んで、MPが0になった瞬間気絶。
意識が戻らないまま、緑色の虎にパックンチョ。
っ!?
い、いや、……マシロ達がいるし。
そりゃ助けてくれるとは思うよ。
でも、緑色の虎が地球の虎みたいに単独で狩りしない可能性は?
マシロ達じゃ対処できないヤツに襲われたらどうする?
むむ。
今すぐは思いつかないが、他にもそういった事があるかもしれない。
確かに。
『ジャッキー・リー』になれてラッキーと浮かれてる場合じゃないな。
よく気付いた。
じゃあ、どうする?
うむ、では今後の事についてだが、お供達とのスローライフを満喫しつつ、新たに出来るようになった事を無理せず試しながら過ごす事にしようと思う。
異議なしっ!
よし、諸君。
面倒な事は明日へポイして、今日は寝よう。
色々在り過ぎて疲れた。
だな。
脳内会議しゅ~りょ~っ。
使用時間約30分。
なかなかに白熱する会議であった。
異世界引越し初日は、こうして幕を閉じたのである。
さて、翌日。
布団から出て、ドッポン式のトイレで用をすませ、庭先に出る。
井戸の水で顔を洗い、ミンガキノ木に寄り、小枝を一本拝借。
小枝の先端を軽くガシガシ噛んで、繊維がブラシ状になり、それを歯ブラシとして使う。
うん、ミントっぽい味。
ミンガキノ木じゃなくてハブラシノ木だよな、これと思わなくはない。
なんで、迷わず歯磨き出来たかというと、ゲーム知識が原因だ。
ゲームだとミンガキノ木から採れる葉っぱや小枝は、マシロ達の健康維持アイテムの1つ歯磨きとして、普通に存在するからとしか言いようが無い。
自分で試したのは今回が初だけどね。
普段使ってた歯ブラシが見当たらなかった事から、こちらの世界に持ち込まれてないらしい。
ビリケンさんの基準が益々解らなくなる。
歯磨きの後、ミンガキノ木から大きな葉っぱを2枚頂いて厩舎に向うと、大きな白い毛玉発見。
マシロだ。
「ワウッ」
「おはよう」
近付くと起き上がって朝の挨拶。
葉っぱを1枚渡すと、それを咥えて井戸へと向かうマシロ。
凄いな。
器用に手漕ぎポンプを扱い洗顔を済まし、葉っぱをクチャクチャ噛んで歯磨きしてる。
この姿を録画したいな、と思うがビデオカメラどころか携帯もないんだよなぁ。
マシロの姿を眺めながらカメラ欲しいなぁと考えていると、寝藁の中から黒猫クロード登場。
「ニャア~ッ」
「おはよう。……ははは、藁塗れだぞ、お前」
「ウニャア~ン」
プルプル身体を振って藁を落とそうとするんだけど、細かな藁屑がなかなか落ちない。
「ほら、落としてあげるからお出で」
「ニャア~ッ」
屈んで、足元に来たクロードに付いた藁屑を軽く掃う。
相変わらず触り心地の良い毛並みですね、クロード。
「ワウッ!」
「ニャッ!」
クロードを撫でていたら、マシロが突如吠えた。
一瞬嫉妬したのかなと思ったが、どうやら違うらしい。
歯磨きを終えたマシロの行動を見守る。
井戸の横に置いてあるタライに水を張り、小柄な黒猫が洗顔しやすいよう準備していたようだ。
賢いな、マシロ。
「ピィィ~~~~ッ!」
マシロの行動を褒めようと井戸に近付いたら、頭上からレーテが滑空して来た。
俺の目の前にギュンッと急降下して、身体を大きく見せるかの様に翼を広げて減速し、胸に飛び込んでくる。
「っ!! うわっととと……」
「ピュイィッ」
ビックリしつつレーテを抱きとめる。
心臓に悪いよ。
「ワウッ!」
「ピッ」
クロードの例に漏れず、マシロの一吠え後レーテも洗顔開始。
よく躾けられてるなと関心してしまう。
あれ?
躾けたの一応俺だよな?
それとも、ビリケンさん?
俺、洗顔を済ましたクロードとレーテの歯磨きをちょっと手伝っただけである。
マシロ優秀過ぎ。
取りあえず、みんな褒めておきましたマル。
洗顔後、朝食を済ませる俺達。
今日の朝食は、シムパンノ木から採ったシムパンの実とリンゴ、取れたて新鮮なトペ豆だ。
シムパンの実は、通称蒸しパン椰子と呼ばれるファンタジーな植物である。
ラフィングワールド・オンラインだと、南部地方で採れる主食として扱われる作物らしい。
椰子の実みたいな見た目のこれを火にかけ、繊維質の外殻の皮がすっかり焦げ落ちるまで焼くと、中からフワフワしっとりな蒸しパンが現れるのだ。
食べてみると、味はほんのり甘い蒸しパン。
マンガ肉並みに感動を覚える。
グッジョブ、ビリケンさんと言わざるを得ない。
トペ豆は、ゲーム内だと通称『貧乏豆』と呼ばれるファンタジー植物だ。
なにせ、店に持って行っても買い取ってもらえない程価値の低い豆なのだから仕方ない。
ゲーム内での扱いは、貧乏人の主食と『守護精霊獣』を最低限餓えさせないためのエサだからだ。
外見は巨大エンドウ豆。
莢は硬くて苦く、食用にまったく適さない。
一莢から大体3~5粒の握りこぶし大の緑色の豆が採れるが、硬くて不味いのが特徴。
生の南瓜並みに硬く、生食に不向きっぽい。
丸い一粒を四つに割って、塩茹でしてみたところ、まあ食えなくはない味だと判明。
グリーンピースの出来損ないみたいな味でした。
マシロ達は普通に美味しそうに食べていたのが不思議で堪らん。
ビリケンさんの気配りの基準が正直解らないです。
人間も美味しく感じる豆にしてくれと言いたい。
「よしっ! 色々試すぞっ!」
「ワフッ!」
「ニャッ!」
「ピッ!」
朝食後、俺はラフィングワールド内のジャッキーが使っていた装備で身を固め、庭で宣言した。
俺の宣言にお供がきちんと答えてくれたのがちょっと嬉しかったのは内緒だ。
ここでジャッキーが使用していた装備について説明しよう。
ジャッキーのベースは万年中途半端と言われる無職の上位職である調教師だ。
だから、基本装備の多くはどの職業のキャラクターが装備可能な汎用装備となる。
専用装備はあるにはあるが、俺は武器しか持ってない。
では、武器から説明しよう。
左の腰に、メインウェポンである『霊木の硬鞭』。
中華系武器である曲がらない硬い鞭。
見た目は剣道で使う竹刀っぽい、竹のような節がある鍔の付いた長さ1mの棒状武器だ。
『光』属性を付与した自慢の一品さ。
右の腰に、サブウェポンである『狩人の短剣』。
長さ30cmのナイフ。
特に強化してないけれど、汎用装備の性能がそこそこ高かったで予備として使っていた一品。
次は防具。
胴体部と腰部は、ゲームで知り合った『ロンメル13』さんから安価で譲り受けた名品。
頭部からいこう。
『怪傑黒猫の兜』。
ゲームでのイベントで入手した一品。
猫耳が付いた黒い兜で、ゴーグル付き。
バイクのハーフタイプのヘルメットみたいな外見と言えば想像し易いか。
続いて胴体。
『アーミーベスト』。
緑色の軍服プラス黒い防弾防刃ベスト。
お手々は手首まである黒いレザーグローブ。
何故か、人差し指の先端だけ剝き出しになっているのか意味不明なのだが……。
ファンタジーどこいった?
腰。
『アーミーパンツ』。
緑色の軍用ズボン&タクティカルベルト。
ベルトには水筒、飯盒の入ったポーチ、小さいポーチが4つ、武器を吊るすためのアタッチメント装備。
ファンタジーはどこにいったんだぁ!?
脚。
『安全靴』。
見た目はゴツくて頑丈そうな黒いハーフブーツ。
ファンタジーな世界が舞台のゲーム内装備なのに、おかしいなぁ……。
最後はアクセサリー。
『ライオンのメダルオン』。
見た目は獅子を模った金メダル。
装備していると、物理攻撃力と魔法攻撃力を若干上昇させる一品。
あぁ、やっとまともな装備だ。
まあ、どうやって着るか解らない金属鎧一式を装備する事と比べたらこの方が楽か。
現代風の武装だから、精神的にも楽だね。
それでもコスプレしてるような気分になるのは致し方ない。
しかし、多少恥ずかしい格好と思うが、何があるか解らない異世界が相手なのだ。
安全第一。
命大事に。
武器と防具はしっかり装備しましょう、だ。
どうでもいいが、俺もまだまだ男の子なんだなぁ。
いざ武装して大地を一歩踏みしめると、ワクワクしちゃうんだよね。
「まずはお外だぁっ!」
「ワフッ!」
「ニャッ!」
「ピッ!」
テンション上げ上げで、赤い鳥居型の門を抜け草原へと躍り出る。
昨日は、マシロ達だけしか草原に出てないからね。
異世界のフィールドへの第一歩に鼓動が昂るってもんさ。
「おおっ! ……なんか普通だな」
門の外は普通でした。
ま、そりゃそうか。
住居を囲む垣根が1m程度しかないから、外の様子まる解りだもんなぁ。
「……あれ? なんか、ちょっと肌寒いような気が」
歩き出す前、ふと違和感を感じて立ち止まる。
門を潜る前と後で、温度差を感じたのだ。
具体的に言うと、風がなければ涼しいと感じる気温。
「ん~~っ?」
一度戻ってみる。
温かい。
穏やかな春先って気温だ。
「おや?」
今度は門の中央に立ち、身体を半分だけ外に出してみる。
おおっ、片方はほんわかで、もう片方はちょい肌寒。
「凄いな、『ホーム』の見えない壁。冷気を通さないのか。……と、なるとだ。常に適温調整されてるのか?」
謎がまた増えた。
「どうしようか? 魔法云々よりも、先に周囲の確認とかした方がいいか? どう思う?」
色々疑問点で出てくるので、お供の3匹に訊ねてみた。
「「「?」」」
仲良く首を傾げてくれたね、ラブリー。
「ですよねぇ~」
ワシワシと3匹を撫でて、先程の問題を先送りにする俺。
「しかし、ここどこだよ?」
門を出て、時計回りに垣根沿いに歩く。
家の周辺は腰近くまで伸びた草でいっぱいで、似たような草の絨毯がずっと続いていた。
草以外ないか?
所々に疎らに存在する木や岩が見えるが、鳥以外の獣の姿は隠れているのか今の所見えない。
「ん~~、太陽があっちから昇ったから、向こうを北として……」
適当に方角を決め、地形確認。
北側には、壁のように東西方向に広がる山脈が見える。
上半分が真っ白で、残りは緑。
青い空によく映えていた。
東側も壁のように山脈が広がっていたが、徐々に山が低くなり、周囲を囲む草原とどこかで繋がっているように見えた。
南側は、上部が白くない緑の低い山脈が見えるが、山の向こう側は空の青しか見えない。
西側へと視線を向けると、深い森と低い山間。
草原は山脈に出来た緩やかな下り坂に感じられた。
東側が登りで、西側は降りといった所か。
「もしかして、この草原、山脈の一部か? あ、いや2つの山脈に挟まれて出来た場所なのか?」
口に出してみて驚き、そしてなんとなく納得する。
風が冷たいと感じる筈だ。
現在地がとてつもなく広い山脈の一部なのだから……。
おまけに標高も高そうだ。
西側に見える深い森は新緑といった輝きがあるのに、北側は雪化粧された山々である。
しかも、人里らしき姿はどこにも見えずときたもんだ。
冷蔵庫の中身が切れたら、ほぼ詰む。
「うへぇ。スローライフどころか、こりゃ早々人里を探さないとアウトだぞ。……う~ん」
目を閉じて、腕を組み考え込む。
すると……。
「ピュイッ!!」
レーテが鋭く鳴いた。
「ん? どうした?」
「ピュイッ!!」
「フゥ~ッ!!」
「ガルルルッ!!」
目を開けると、レーテだけでなくクロードとマシロも唸り始めていた。
3匹共同じ方向を睨んで……いや、警戒しているようだ。
「え? なに? なんだ?」
慌てて彼らが向いている方へと視線を送る。
3匹が警戒する先に何があるのか?
また虎とかだったら嫌だなぁ。
「ん~っ。……人?」
その先には、緑色の毛皮で全身を覆った人影がこちら側へと歩いてくる姿が見えた。
「第一異世界人発見か?」
誤字脱字ありましたらお知らせ下さい。
ジャッキー・リーのネーミングは『若』『霧』からきてるんだ。
なんだってーーーっ!