第二話 現状把握は大事
ラフィングワールド・オンラインに使われる用語の一部は北欧神話系。
アルフはエルフ、ドヴェルグはドワーフだとお考え下さい。
さて、今回のお話は……。
追記:2015年5月31日 マシロ達のセリフ修正
ハイエルフと3匹のお供
第二話 現状把握は大事
……もふもふ
……もふもふもふ
……もふもふもふもふもふ
あっ!
みなさんこんにちは。
人間辞めて『アルフの少年』始めました若霧・庄治43歳です。
ロボットのアンテナの如くジャキンッと斜め後方に尖った耳を持つ『アルフ』です。
金髪碧眼の『アルフ』です。
頼りになる3匹のお供達と絶賛モフモフ中の『アルフ』です。
『アルフ』です。
『アルフ』です。
『アルフ』です。
大事な事なので繰り返して強調してみました。
……現実逃避はここまでにしておこうか。
と、マシロの背中に大の字でへばりついた状態の俺は顔をあげ、そう思った。
たぶん30分くらい抱きついていたと思う。
マシロのモフモフな柔らかい毛皮を堪能したので、次は黒猫のクロードを抱っこす……じゃないな。
現状を正確に把握するべく行動すべきだね。
さて、何から始めるべきか。
俺は黒猫のクロードを抱っこしながら考えたのさ。
ふむふむ、ビロードのような素晴らしい触り心地ですな、クロードさんや。
…………はっ!?
気が付いたらまた30分くらいクロードに構ってしまっていた。
艶々毛並み恐るべし。
名残惜しいがクロードから離れ、レーテを抱っこしながら現状をどうするか考え始めたね。
ほうほう、翼や尾羽はさらっとして、首や胸の周りはフワフワですか。
素晴らしい。
…………はっ!?
気が付いたらまた30分くらいレーテを撫でたり構ったりしてしまった。
サラフワ羽毛恐るべし。
「いかんいかん」
理性を取り戻すべく首を横に振る。
ぐうぅ。
おまけに腹の虫が鳴いた。
「……腹が減った。…………ふぅ、やっぱりこれ、現実なんだなぁ」
食べ物の用意するから、お庭に待機しててねと3匹にお願いして、俺は食べられそうなものを探索するのであった。
「ビリケンさん、変なところで良い仕事してるなぁ」
食料の探索は時間がかからなかった。
台所に行ったら、普通に置いてあったからね。
建物の内外の造りがゲーム内ホームとほぼ同じ造りだったのも、時間短縮原因だな。
台所は時代劇風の半土間な拵えで、竈が大小2つに、流しに調理台完備、電気を使わない氷で冷やす方式の冷蔵庫が3台設置と豪華。
レストランの厨房並みのデカイ冷蔵庫達の中には、ゲームでお供達用の肉だったり野菜だったりがきっちり入っていたね。
そして、冷蔵庫の片隅に、俺が現実世界の冷蔵庫に入れていた品々がちょこんと納められてたよ。
プラ容器や紙パックの物が全部壷やら木箱に移し替えられてたのには笑ったけどね。
塩や砂糖、米や小麦粉なんかは油紙で封をした甕や瓶に入ってて、調理台下の棚に纏めて置いてあったのは助かったよ。
調味料は大事だね、うん。
米とか小麦粉も大事。
特に米な。
しかし、一人暮らし故あまり溜め置きしてなかった所為で、寂しい事に米と小麦粉はそれぞれ2㎏ちょいずつしかない。
この2つはちょっとずつ大事に食べようと思う。
てな訳で、容器の移し替えに呆れる俺であった。
まあ、冷蔵庫が最悪空っぽでも庭には、リンゴの木とシムパンノ木、トペ豆の畑があるからなんとかなりそうだわな。
「さて、作るか」
ジャージの袖を捲り上げ、俺は調理を始めた。
あぁ、あの子達のぶんも作らないと。
物騒な虎がうろつく草原にテンションダダ下がり気味だったけど、3匹とのご飯にちょっとテンション上がっちゃいました。
「ガフガフッ」
「ウニャアッウニャアッ」
「ピュイピュイッ」
「お、美味しいかい?」
「ワウッ!」
「ニャアッ!」
「ピュイッ!」
「そっか。………よかったぁ」
あぁ、こういうのってなんか良いよなぁ。
庭先でみんなとご飯。
ほっこりするよ。
それに俺の作ったご飯をみんなが美味しそうに食べてくれてるんだ。
正に幸せって感じだね。
「バウ」
「? もうお腹いっぱいかい?」
マシロが半分も食べてないのに、お皿から離れた。
はて、気に入らなかったのか、味付けが濃かったのか、どっちだろう?
ちょっと不安になる。
「あれ? もう食べないのか?」
「ワゥゥ」
あれれ?
再度訊ねてみるが、なんかちょっと呆れ気味の返事だ。
塩分過剰にならないよう薄味に仕上げたのがよくなかったのか?
マシロは井戸の方へとスタスタ歩き去ってしまう。
キ~コッキ~コッ
ジャバーッ
そして、前脚で器用に手漕ぎポンプを上下し、桶に水を汲み始めた。
?
「ワウッ!」
「ニャッ!」
「ピッ!」
水を汲んだ桶を銜えて戻ってくるマシロ。
クロードとレーテが、ご飯から一旦離れ桶に頭を突っ込む。
「…………あっ!? ご、ごめん。水もいるんだよな」
「ワフ」
マシロの行動に漸く気付く。
なるほど、ご飯しか用意してなかったので、水を汲みにいったのかと。
ゲームだと、専用の皿にご飯入れて渡せば終わりだったから、ついそのまま同じ様にしちゃったよ。
現実だと飲み水も用意してやらなきゃダメだよね。
ペットを飼った経験が金魚と亀しかないから、まったく気付かなかったよ。
「ごめんな、マシロ。うっかりしてて……」
「ワウ」
マシロ達に謝ってから、俺は水飲み皿を台所へ慌てて取りに行ったのさ。
この子達と暮らすんだから、ちゃんとしないとダメだなと、うかれた自分に反省を促す。
後で、水汲みしてくれたマシロを褒める事も忘れないようにしよう。
さてさて、腹が膨れたので現状確認の続きをしないと。
3匹は仲良くお昼寝モードらしいので、家捜しに移る俺。
屋敷は神社か寺のような拵えの建物で、上から見ると凸型をしている。
瓦屋根で高床式。
台所と浴場は2m程の渡り廊下で建物の右側。
トイレは建物の左側で、こちらも2m程の渡り廊下で離れのような設置をしている。
縁側があるのは建物の右側で、縁台も兼ねそうな石段が設置してあり、建物正面の玄関から入らなくても中に入れるようになっていた。
部屋数は玄関と台所等水周りを覗いて大まかに4つ。
正面玄関入ってすぐに広い和室。
中央に囲炉裏があり、その周囲にだけロ型に畳が敷いてあり、板張り部分が少々目立つ。
置いてある物もほとんどなく、殺風景である。
自分で言うのもなんだが、貧相な座敷だね。
まあ、『ホーム』を購入後の事だが、畳や置物が結構高価だったので、部屋全部に色々配置出来なかった金欠の自分が原因。
ここならマシロの巨体も入れそうだから、こっちでご飯食べればよかったかなと、少し後悔した。
建物凸型の両サイドは床の間。
自室は右側で、左側は泊まりの来客用。
来客用の部屋は、純和風の床の間で、押入れにはちゃんと来客用の布団と座布団が4つずつあった。
ゲームの『ホーム』だと押入れは背景みたいなもんで開けれなかったので、ビリケンさんの細かい気配りに関心した俺である。
自室も造りが変わらないが、物が結構置いてあって少々狭く感じた。
畳より床板の上面を高くした蹴込み床には、『ジャッキー・リー』が使用している装備一式が飾られており、蹴込み床のすぐ隣は和箪笥が設置してある。
和箪笥と天井の間には、引き違いの襖戸のついた棚があり、小物や普段使わない物を置くようになっていた。
「おぅふ……。漫画とか新聞雑誌は全滅かよ」
俺個人の私物は着替えと食料品以外こちらの世界に持ち込まれていないご様子。
携帯もTVもPCも探してみたが見つからなかった。
その癖、俺の着替えに関しては、今の俺の体格にサイズが合わせ直しとか、訳が判らない。
ビリケンさんの気配りの基準は一体どうなってるんでしょうか?
最後の部屋は倉庫。
『ジャッキー・リー』が狩りや探検等で集めた品々が納められている部屋だ。
金欠冒険者の『ジャッキー・リー』の倉庫らしく、ガラガラ。
中身空っぽの麻袋や木箱、皮袋に葛籠等が壁に設置された棚にズラリと並んでて泣ける。
お宝拝見と調査すれば、ため息1つ零れます。
ラフィングワールド・オンラインでの使用通貨であるジルバ硬貨の詰められた小袋がたった5つと、小粒の宝石が2つ、後は長剣が一本のみ。
お金があっても、周囲に取引相手になりそうな民家1つ見当たらないので、少額ではあるが宝の持ち腐れである。
虎がうろついて怖いが、明日以降付近をきちんと調査しないと、異世界移住早々に人生詰みそうだな。
おお、やだやだ。
HPやMPを回復させる薬等は、ここにはなく台所のようだ。
冷蔵庫あるから、飲み薬なんかはビリケンさんがそう配置したのだろうと思う。
他には、木箱や葛籠の一部に乾燥させた葉っぱや根っこが納められていた。
これらは調合用の素材だな。
薬草を粉砕する薬研や小型の石臼、すり混ぜるのに使う乳鉢や乳棒等の調合用の道具一式も棚に置いてあった。
ゲーム通りに調合出来る自信ははっきり言ってないな。
トイレも確認しておこう。
「ぐはっ。予想してたけど、やっぱりドッポン式だ」
汲み取り式便所でした。
尻を拭く紙はなく、代わりに柔らかい葉っぱが10枚程置いてたよ。
そして、何故か大小2つの水瓶。
片方は手洗い用だと思うが、もう片方は何に使うのだろう?
ビリケンさん、こういう所説明不足ですよー。
「あははは。……俺、あの子らとちゃんと暮らしていけるかなぁ」
日が傾き、空が茜色に染まる中、俺は肩をおとしながらそう呟くのであった。
夜どうしよう。
ピカッ!!
「うおっ!? ……俺、魔法使えるようになってるよ。うわー」
暗くなり灯かりが欲しくなった頃、ゲームみたいに『灯かり』の魔法使えないかなって思って、冗談っぽくやってみたら出来た。
なんとかなりそう……かな?
明日はもっと色々試してみよう。
不安は消えないけど、希望はあるよ……な?
「ワフウゥ~」
「ウニャア~」
「ピッ」
お供もいるしね。
おやすみ。
誤字脱字等御座いましたら、感想欄等にお知らせ頂けると幸いです。
さて、次回『第一異世界人発見っ!』をお送り……できたらいいなぁ。
タイトルは変わるかもしれませんが、内容はタイトルどうりですよ。
では、また。