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第一話 草原と日本家屋


ハイエルフと3匹のお供




第一話 草原と日本家屋




『大事にしてくれたから、そのお礼だよ』


 中性的な男の子の声と共に、俺の意識は暗闇へと沈んだ。


 どれだけ時間が過ぎたかしれないが、意識がぼんやりと目覚め始めた瞬間っ!!


「ぎゃあああああああっ!!!

 痛いっ! ぎゃっ! 痛いっ! ぐわっ! 痛いっ! 痛ぇぇぇっ! 

 割れるっ!

 頭が割れる程痛ぇぇぇっ!!!

 身体も痛ぇっ!!

 痛いっ! 痛いっ! 痛ぇぇぇっ! 痛ぇぇよおぉぉっ! ひいぃぃっ!」 


 全身を蝕む凄まじい痛みに襲われ、俺は泣き叫ぶように喚いて苦しんだのさ。

 兎に角痛いんだ。

 ウォッカを丸々一瓶開けた後の二日酔いを越える頭痛に、全身筋肉痛+階段から転げ落ちたような打ち身捻挫を越える痛みさ。

 腹ん中もグルグルギリギリ締め付けられるような痛みがして、気が狂いそうになる程辛いんだ。


 襲ってくる痛みが酷過ぎて、自分の状況すら解らないときてる。

 目を開けてるのか閉じてるのかも解らない。

 声を出して痛みを訴えてのかも解らない。

 体勢は?

 手足の感覚は?

 さっぱり解らない程痛いんだ。

 参ったよ。


 そんな痛みに悶絶している俺の耳に、また中性的な男の子の声が聞こえたんだ。


『あっ。ゴメン。ボクの力じゃ、同じ世界に送れないや。似たような世界に送るから勘弁してね』


 っ!?


 この声、たぶんビリケンさんだ。


 痛みが酷くてマトモな思考がほとんど出来なかった俺が、痛みで再度気を失う前にふと思いついた事だった……。

 『あっ。ゴメン』じゃないよな、まったく。




 …………………………

 ……………………

 ………………

 …………




ハッハッハッハッ

ペロペロペロ

ツンツンッ

スリスリスリ……


 音が聞こえる。

 呼吸音。

 何かが何かを舐めるような音。

 それも複数。


 そして、感覚が徐々に蘇ってくる。

 舐められているのは俺。

 尖った何かにツンツンされたり、身体のアチコチに柔らかくて暖かい何かが擦りつけられてるような触感も感じた。

 意識が覚醒しだすと顔が濡れてるような感覚がし、ついでにちょっと臭い。

 あの激しい痛みは何時の間にか消えていた。


「うっ、うぅ~~んっ」


 まだ頭がぼんやりとしているが、起きようと努力した。

 顔をベロベロ舐める何かを手で払い、目を開ける。


「ばうっ!」

「にゃあぁっ!」

「ぴゅいいぃぃっ!」


「………………」


 目の前に、おっきな白いのと黒いの、そして、金色っぽいのが居た。


「っ!?」


 ビックリしたね。

 大きな白いのは犬ってよりも狼って相手だし、金色っぽいのは鷲だ。


 黒いのには驚かなかったのか、って?


 狼と鷲のインパクトが強かったからね。

 そちらの方には驚かなかったよ。

 だって、見た目普通の黒い子猫だったからね。


「わう?」

「にゃ?」

「ぴゅい?」


 ビックリして固まってる俺を見て、タイミングを揃えてコテンッと首を傾げる3匹の表情はとても可愛かったよ。

 怖さよりも、なんだかほっこりしちゃったんだ。




 正気に返ったのは、それから数分後ってところかな。


 最初は夢って思ったんだ。

 猫が側に居るのに、目が痛くならないし、くしゃみも出ないし、手足に痒みも起こらないからさ。

 膝の上に黒猫を乗っけて、左肩に頭が金色の赤い羽毛の鷲をとまらせ、大きな白い狼は俺の右手側に並んでお座り。

 恐る恐るそれぞれの頭を手で順番に撫でてみる。

 暖かい感触が手から伝わってきた。

 肌触りや体温がそれぞれ違って、面白いな。

 それに、触れてもみんな嫌がったりせず、気持ちよさそうに目を細めていた。


「マシロ」

「ばうっ」


「クロード」

「にゃぁ」


「レーテ」

「ぴゅぃっ」


 名前を呼ぶと返事してくれるんだ。

 感動したね。

 だって、モニターの中に居る存在と直に触れ合えるんだからさ。


 ビリケンさんが夢で、この子達に会える時間をくれたんだって、俺は凄く喜んだんだ。


 縁側に腰掛けて、周囲を見渡すと、そこは『ジャッキー・リー』の『ホーム』だった事も感動をさらに盛り上げてくれたね。


 背の低い青々とした垣根、リンゴの生っている木、シムパンの実が生るシムパンノ木、青銅の組み上げポンプが備え付けられた井戸、トペ豆の生った小さな畑、ミンガキノ木、木造の厩舎……。


 あぁ、俺の幸せがここにある。


 古き良き昭和の田舎って感じでさ、和むんだよ。

 心から癒されるっていうのはこういう感じなんだろうね。


 暫しの間、夢を満喫しようって、俺は3匹と戯れたのさ。

 アレルギーに悩まされる事なく動物達と触れ合えるんだぜ?

 この機会にモフモフしなきゃ損じゃないか。




 本当の意味で、俺が正気に返ったのは、それから1時間後ってところかな。


「どどどど、どうしよう」


 垣根の向こうに、マシロより大きい緑色の虎が一頭うろついていたんだ。

 虎と目があった瞬間、背筋に氷水を浴びた気分にさせられたね。

 そいつは、ガオーッと威嚇の声を上げながら、こちら側に迫ってきたのさ。

 殺気っていうのか、そいつがあまりにもリアルで、俺は恐怖でチビリそうになったよ。

 こいつはヤバイと思ったね。

 だって、俺は部屋着のジャージ姿で武器1つ持ってないんだ。

 虎に一撫でされたら間違いなく酷い事になるって考えたさ。

 怖かったね。

 緑色の虎が突進してくるんだから。

 ところが……。


ベチンッ!!


「ギャウッ!!?」


 緑色の虎が垣根を飛び越えようとしたら、見えない壁に激突したみたいで、ズルズルとまるでパントマイムみたいに地面に滑り落ちた。

 その後も数回、緑色の虎が垣根を飛び越えようとしたんだけど、どういう訳か結果は同じ。

 鳥居型の門に回り込んで、敷地内に入ろうと試みるが、何故か侵入出来ない。

 見えない壁が虎を拒むんだ。

 ガラスに顔を押し付けたみたいな変顔の虎って、希少なもんが見れたのは幸いなのかねぇ?


 ここでようやく俺は気付いた。

 そう気付いたんだ。


 ゲームの『ホーム』と同じ仕様で、招かれていない相手はGMでもない限り絶対侵入出来ないって事にさ。

 敷地内に籠もっていれば安全だって、ね。


「どどど、どうしよう」


 でも結局、軽いパニック症状な俺は変わらないんだけどね。

 だって考えてもみろよ。

 見えない壁に何時までも護られてる保証なんて、どこにもないんだぜ。

 それに、昭和生まれの俺は、古いロボットアニメの記憶があってさ。

 ついこう思っちまうんだ。


『バリヤーは破られるもの』


 ってね。

 本当にどうしようって感じさ。


「ガルルルルッ」

「フシャーーッ!!」

「ピーーーーッ!!」


 だけど、オロオロしてる俺とは対照的に、マシロ達は緑色の虎を威嚇してたなぁ。

 ゴメンな、頼りない主人で。


バチンッ!!

バチンッ!!

バチンッ!!


 見えない壁に何度も前脚を叩きつける緑色の虎。

 やる気満々の3匹。


 どうすりゃいいんだ、これ?


 頭を抱えたくなるぜ。


 なんで逃げ出さないかって?


 腰が抜けて、座ったまま動けないんだよっ!

 察してくれよっ!

 俺に出来た事は、膝上のクロードが飛び出さないよう抱きしめるだけだったんだよ。


「ガウッ!」

「ニャッ!」

「ピュイッ!」


 でもさ……。

 自分達に任せろとばかりに、3匹達が俺を見つめるんだ。

 真っ直ぐに見つめてくるんだぜ。

 俺は感動したし、同時に腰を抜かした自分を恥たね。

 怯えた自分が情けなくなって、悔し涙が出そうなくらいさ。


「…………よ、よよ、よしっ!」


 俺はプルプル震えながら立ち上がった。

 抱っこしたクロードを降ろす。

 そして、緑色の虎をビシッと指差して、こう言ったのさ。


「あいつを追い払えっ!」


「ガウッ!」

「ニャッ!」

「ピュイッ!」


 やる気満々の3匹が門へと殺到した。


 情けないな、俺……。




 結果……緑色の虎は悲鳴みたいな泣き声をあげて逃亡したね。


 なんていうか、ちょっと可哀想だった……虎が。


 まずはマシロの体当たりで、10メートルぐらい吹っ飛ばされ、門前から強制移動。

 続いて、レーテがギュンッと飛び掛り、尻尾を鉤爪で傷付けられる。

 眼前のマシロと頭上を飛び回るレーテに虎はどちらを相手取るか集中力を乱されたのさ。

 その隙を縫って、小さなクロードが虎に抱きつくように飛びつく。


「ギャバババババババッ!!!」


 クロードの得意技である電撃が虎を襲い感電させた。

 痛そうだな、アレ。

 どうやら手加減しているようで、クロードはすぐに虎からパッと離れた。

 虎の意識がクロードに向いた瞬間、今度はマシロが得意技を発動。

 口から冷気のブレスを吐いて、虎の足元をピキピキと凍らせる。

 いきなり足元が凍って驚く虎に対して、追撃とばかりにレーテの急降下攻撃が加わった。

 レーテに対応しようとすれば、こっそり虎の背後に回ったクロードが電撃攻撃。

 クロードに対応しようとすれば、マシロが体当たりをする。


 3匹に翻弄される虎の姿が、俺の目に映る。

 虎の武器である鋭い牙や鉤爪が、彼らにはまったく当たらない。

 この子達頼もしいなぁ……。

 勇まし過ぎる3匹は終始攻勢で、途中から虎の方が可哀想に見えてくるよ……。

 狩りというよりイジメだ。




 虎を追い払った後は、3匹を滅茶苦茶褒めておいた。

 褒めておかないと、後がちょっと怖いなぁと思ったからです、ハイ。


 で、夢じゃなく現実だなと漸く気付いたんだなぁ、これが。


 どうしてかって?


 実は、虎が怖くて少し漏らしてしまったのだ、俺。


 おパンツグッショリ状態だね。

 夢だったら、漏らしそうになったら大体すぐに起きるよな?

 でも、下着が濡れてるのに、まったく目が覚める気配がないのさ。

 だって、始めから目が覚めてるからね。

 現実ってヤツは何時だって残酷なもんなんだな、まったく。


 もしかして、これ本格的にヤバイんじゃね?


 引き攣った笑顔で、3匹を滅茶苦茶褒めながら、俺は遠い目でそう思った。


 とんでもない土地に送り届けてくれたビリケンさんへの感謝は、地平線の果てに飛んで行ったな、きっと……。




 これからどうしようと、本気で頭を抱える俺であった。




 草原にポツンと存在する日本家屋にて、俺の新しい生活がこれから始まるのかぁ……。


 不安を残したまま、3匹の強過ぎるお供を引き連れ、俺は家へと戻った。

 パンツが湿って気持ち悪いから、着替えようと思っての行動さ。

 3匹のお供達には適当に寛いでくれとお願いしてから、玄関ではなく縁側に向う。

 マシロは身体が大きいので厩舎へ向い、レーテはリンゴの木の上へと飛び、クロードは縁側でお昼寝とばかりに丸くなった。

 それを見てから俺は、土と草で汚れた靴下を縁側に脱ぎ捨て、お家拝見。

 内部は、『ジャッキー・リー』の『ホーム』をまんまリアルに再現したような代物だったね。

 間取りや家具とかのサイズが身体の大きい外人仕様なのか、日本人が使うにはちょっと大きいってのが少し不満だな。

 ま、多少の差異はあったけど、ビリケンさん良い仕事するなと関心してしまったよ。


 幸いな事に、着替えは和箪笥の引き出しからすぐに発見出来た。

 トランクスと替えのジャージを手に浴室へと向う。

 ビリケンさんが手を抜いてなければ、風呂もゲームと同じように造られてると考えたからね。

 小さな独身寮にある狭い共同浴場を思わせるデザインの浴室に到着。

 ここもよく出来てたよ。

 大人6人が悠々入れる脱衣所で、服を脱ごうとしたところ、ふと鏡が目に入る。


 鏡には10歳前後くらいの金髪碧眼の少年が映っていたね。

 耳がピンッと斜め上に尖って、ピーターパン役やらせたらヒットするんじゃないって感じの少年だ。

 洋画に出てくるような可愛らしい顔立ちで、表情がキョトンとしてたよ。

 俺が普段着ているジャージと同じヤツ着てて、違和感ありまくりな残念さがちょっとあったね。


 尖り耳の残念な格好の少年に苦笑すると、目の前の少年も俺と同じように苦笑した。


 あれ?

 これ鏡だよな?


 ………って事はまさか。


 俺は恐る恐る自分の耳に触れた。

 うん、尖ってるね。

 試しに握ったり、引っ張ってみたりしたら、ちょっと痛かったよ。

 神経が通ってるようだな、うん。

 これ、演劇用の付け耳じゃないねぇ……。


「なんじゃ、こりゃぁっ!!?」




 風呂と着替えを済まそうとして、さらに新事実発覚。


 若霧・庄治わかぎり・しょうじ43歳。

 人間辞めました。

 今日から『アルフ』です。


 ビリケンさん、家と3匹だけで充分だったんですよ…………。


「おおぅ……。身長だけでなく、マイサン(息子)まで子供サイズになってるよ……あはは」


 今日から『アルフの少年』です。

 建物や家具が大きいんじゃなくて、俺の方が子供サイズに縮んだとです。

 どうしてこうなった?

 あれか?

 ゲームキャラのグラフィックが5頭身のデフォルメキャラだから子供にしたとかなのか?

 若返ったのは良いけど、どうすんだこれって感じである。




 本当にこれからどうしようと、頭を抱える俺だった。

 夢か冗談であってくれと思いたいが、現実っぽいんだなあ、これが……。


 さてさて、どうしたもんかねぇ。

 俺の悩みにマシロ達は答えてくれません。

 ただ、不安に慄く俺に寄り添うのみ。


 優しいなぁ、この子達。

 ええいっ、こっちからもスリスリしちゃうぞ。


 ……もふもふ

 ……もふもふもふ

 ……もふもふもふもふもふ


 良い肌触りだなぁ、こいつら。


 うん……頑張ろう。

 ちょっとだけ勇気出たよ。


 ありがとう、みんな。

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