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3 ブーステッド・コードの世界へ



「これが……ブーステッド・コードの世界……」




 光に飲み込まれたまま俺は、一本の巨大な光の柱の中を駆け下りていく。


 同時に柱の外に広がる世界を見ることができた。



 まるで音速戦闘機に乗ったような凄まじいスピードで、世界の中央を突っ切りながら、ブーステッド・コードというゲーム内のものだろう、様々な風景を垣間見ていく。



 大草原に広がる美しい国……

 吹雪の中に立つ峻厳な要塞……

 火山の中の黄金都市……

 摩天楼の立ち並ぶ不夜城のごとき近代都市……

 高山の上にそびえ立つ、厳かな神殿都市……空中を悠々と移動する巨大劇場……濃霧に覆われた薄暗い森……歯車と蒸気に彩られた機械の街……ゴーレム達が静かに管理する、色とりどりの花に満ちた巨大庭園……魔獣の住処と化した暗黒の廃都……魔術師達の秘密都市……自然に満ちた美しき竜たちの巣……砂漠のオアシスと幻の塔……海中を移動する船の姿をした海底都市……常に嵐の吹き荒れる昏い大地……地下水道と共存する大図書館……そして……遥かな空に浮かぶ神々と英霊の住まう宮殿……。





 一瞬で駆け抜ける世界の全てが幻想的で、目に焼き付く。


 まるでファンタジーの世界全てをこの目で見て旅しているようだ。

 あるいはそれらを束ねた本の中を落ちている……

 そう、落下している感覚だった。

 風景がぐるぐると瞬く間に回転しながら、その底を突き破って進んでいく。


「すっげー……!!」


 また「すっげー」が出てしまった。

 まったく、ボキャブラリーの少なさを感じて悲しいっす。


 もしかしたらこれは、あの神様からのプレゼントだったのかもしれない。


 少なくとも俺にはそう思えた。

 美しく、魅力的な映画を見せてもらったような気分だったから。


 落下は徐々に緩まり、燃えるような緑の絨毯の中へと落ちて止まる。


 見渡す限りの大森林だったが、そこに埋まるように煉瓦の屋根も立ち並んでいるのが見えた。

 人間の集落の近くに落ちたらしい。


 おし。とりあえず目標はそこだな。






―――――セフィロトの第十層マルクト:アドラムルグ大森林―――――







「さて、とりあえずタバコ、タバコと」


 ダークグレーのツナギの胸ポケットからケントと百円ライターを取り出し、火を付ける。

 白い煙が緑の風景の中に、静かに溶けていく。


 くっはー……!!

 マイナスイオン溢れてそうな森林の中で吸う煙草もまた格別の味だ~。




 それにしても見事な森林だった。


 日本の街中では、そうそうお目にかかれないような大樹が、所狭しと立ち並び、その美しい静寂の中に小鳥の囀りだけが遠く響く。


 木漏れ日さえも染まった緑の世界。


 俺はその中で大好物の煙を吸い込みながら、切り取られて小さくなった空を見上げている。


「ふーーーーっ……綺麗なもんだ……。

 しかしホントに異世界に来ちまった……ってことですよこりゃあ……

 ん?



 …………あ゛あ゛ーーー……!!」


 なんていう調子こいた行動の結果、大事なことを思い出して青褪めた。

 決してレンタルDVDを返し忘れてたとかではない。


 それはそれは、非常に重要なことだ。


「うわあああああ、やっっ…………べぇぇえええええーーーーー!!


 二つ返事でオーケーしちまったけどまずい……



 この世界って……タ バ コ 売 っ て ん の か !?」



 うむ。俺にとって、生死に関わる大事な問題だった。


 ああ先にセドナ様に聞いておけば良かった……。

 もしなかったら大問題だ。


 チートなんかより先に、煙草を生産できる錬金術を頼まなければならない。

 右腕と左足をオートメイルに変えたっていい。


『ほほう?

 じゃあ本当にそっちにすっか……?』


 突然頭の中に声が響く。


「はっ!?

 この声はセドナ様!?


 ――――――本当にそっちも選べるんですか!!?」


 神様だからテレパシーぐらい使うだろう、とわかっていても、つい周囲を見回してしまう。

 だが、こればっかりは神様の胸元揺すってでも、絶対に手に入れてもらわなければならない。


『……冗談だ。心配せんでも煙草ぐらい街に行けば手に入る。

 ていうか、本気でそっちを選ぼうとするんじゃねぇっつの……!?


 しかも……魔獣の出る森でとりあえず一服とか、意外と肝座ってるよなお前』


「いやー、ニコチン切らすと中毒症状で幻覚が見えるので」


『どんな不思議体質だ。

 病院行け。


 ったく、お前の煙草にはマリファナでも入ってんのか……?』


「はっはっは」


 煙草を咥えているからか、相手の姿が見えないからか。

 天界にいた時よりは幾分リラックスした気分で、神様のボヤキに応答する。


『まあいい、まあいい。

 緊張が取れたならそれもいいことだ。

 なにせ異世界に来てるんだ。

 最初は誰でもガチガチだからな。

 お前ぐらいどんと構えてる方が、むしろ頼もしいぐらいさ』


「お褒めに預かり光栄の至り。

 そんでここは?」


『お前たち闘士グラディエーター全員が最初に送られる、BCブーステッド・コードの第十層マルクトだ。

 BCは闘士を管理しやすくするために、いくつもの階層に分かれてる。

 上はセフィロトの第一層ケテル、下はクリフォトの第一層バチカルまである。

 階層が進むほど敵も闘士も強くなるが、その分やれることだって増えるってわけだ。

 三層以上の闘士なら神々に挑む権利も与えられるぜ。

 どうだ?ワクワクすっか?』


「オッス!かなり!」


『よしよしそうこなくちゃな。

 んで、階層にはそれぞれ守護使徒って奴らがいて、名目上はそいつらが管理してる。

 まずは使徒が階層に放っている守護獣を倒すのが目標だ。

 倒せば次の階層に進むことが認められる』


「え?その、使徒?

 ってやつら自体を倒すわけじゃないんですか?」


『使徒はれっきとした天使や悪魔、それも名の知れた連中だ。

 ここに来たばかりのお前らじゃ軍隊作っても相手にならんな。

 だから、そいつらがある程度の実力の魔獣を選んで、守護獣って名前のテストにしてるのさ。

 いつまでも第十層で燻られても、無駄に人口が増えるばっかりで意味ないからな』


「それは確かに……ごもっとも」


 やる側としても、ボスが強すぎていつまでも次のマップへ進めないゲームとか、マゾい方々以外は飽きるだろう。


 それにしても神様だけでなく天使や悪魔もいるわけか……。


 やれやれ、壮大過ぎてわけがわからなくなりそうですなーぁ。

 ふーーーーゥ。


『まだ説明も始まったばかりだってのに、煙草吹かして遠い目してんじゃねー。


 いいか?

 十層の守護獣は比較的簡単に倒せるだろうが、十層だけでもやれることは一通り揃ってるからな。

 行けるようになったらすぐ別の階層に進みたくなるだろうし、それは止めやしないが、たまに戻ってきて時間を過ごしても新しい発見があるかもな』


「ほうほう。

 ちなみに、その十層の守護獣って奴はどんな奴なんです?」


『それを言っちまったらゲームを遊ぶ楽しみが無くなるだろう。

 自分の目で確かめな。


 なぁに、俺が力を貸せばすぐ見れるだろうさ。

 ってことでお待ちかね、お前に与えるチートの説明だ。


 ……待ちかねたのは正直、お前じゃなくて俺なんじゃねえかって気がしてきたが』


「いやいや俺だって期待してますって!

 突然すごい力に目覚めて強くなるとか、男の子みんなの夢じゃないですか」


『ならいいんだけどなあ……。


 どうも今のお前はこう、ねえ?

 飄々としていて、喜んでるのかわかりづらいっつーか。

 いやまったく、俺の前であたふたしていた時とは大違いだ。

 どれだけその煙草が精神安定剤になってんだ?……って感じだぜ。

 ま、そりゃ置いといてだ。


 BCの世界で強くなるには、“コード”が必要なのはわかるか?』


「部屋で宣伝見たときにちらっと流し読みしたんすけど、それでスキルとか能力を強化するんですよね?

 つっても、どんなもんなのか想像するのが難しいんですけど……」


『まあ基本は普通のゲームの経験値と変わらん。

 魔獣を倒してコードを集めると、レベルや能力を上げたりできる。

 ただしそれだけではない。

 コードは換金できるから通貨の代わりにもなるし、種類によってはスキルを手に入れたり、珍しいアイテムの合成素材になったりもする。

 手に入れる方法も、魔獣を狩るだけじゃなく色々ある。

 生活の中で獲得したり、一定の職業ジョブでレベルを上げて獲得したり、

 珍しいコードを賭け合って闘士同士が決闘する場合もある。

 万象原規コードってのはこの世界のあらゆるものに存在する、遺伝子みたいなもんだと思え。

 神羅万物に分け与えられた神の力である、それを吸収して、闘士はどこまでも強くなっていく』


「えーとつまり、このゲームはコードを手に入れるのが全てだと」


『ぶっちゃけると、そういうことだ。


 まあ楽しむだけならコードに固執する事もない。

 が、闘士は全員、一度は強くなることを夢見てこの世界に足を踏み入れたわけだからな。

 強力なコード、珍しいコードはみんな狙ってる』


「なるほど。

 敵は魔獣だけでなく、同じ闘士でもあるってことっすね!」


『その通り。だが完全に敵ってわけでもないのが奥の深さだ。

 コードを手に入れる為に、強大な敵に立ち向かう時なら、共闘する機会だってあるだろう。

 むしろ、誰でもパーティを組んで一緒に行動する機会はある。

 マルクトはそこまでしなくても攻略できるけどな。

 こっちとしても強いなら別に一人が相手じゃなくても構わんし』


 ……さすがは神様。

 神生じんせいなんでもできるだけあって、なかなか大雑把である。


『さーて、話が逸れちまったがようやく本題だ。

 お前に与えるチートってのは、実は俺に頼まれた新しいジョブの実験でもあってな。

 “黒騎士”という力だ』


「く、黒騎士……!!?

 確かに、強そうだ!」


 そして、なんて中二病臭いネーミングなのだろう。


 まぁ聖書だってさ、現代では世界一売れているラノベなんて呼ぶ人もいるわけだ。

 神様の関わるものが、大仰な表現になるのはもはや宿命なのかもしれない。


『汎用ジョブになれば、流石にお前に与えるほどの力は出せんだろうけどな。

 その代わり安定感は向上するだろう。

 しかーし!

 お前に与える力は、俺が寝る間も惜しんで考えた設定だからすっごいぞー!?

 試作機ってのは、なんといっても男心をくすぐる響きだからな!!

 泣く子もおしっこちびるぞぉ!?キシシシシシシ!!』


「いや、あの……お手柔らかに頼みます……?」


 盛り上がってるところ申し訳ないが、本当にそんな滅茶苦茶なチート貰っても使いこなせる気がしない。

 他の転生者の凄い人達もほら最初はね?

 みんな探り探りじゃないですか。


『がはははは、心配するな!

 いくら俺でも、いきなり山崩せたりする力を与えるつもりはねぇ!!』


「そのうち与えられる可能性も、微粒子レベルで存在する……?」


 や、まぁ確かに相手は神様なのだから不可能じゃないかも。

 俺はこの転生を甘く見ていたのか……と思うとまったく、センチメンタルになりますなぁ。


 だがいずれは神様と戦うのが目標なのだから、それぐらい出来るようになる心構えでいたほうがいいのかもしれん。


 無理だが。


 ま、――――――そのうちなっ!!?


『そう暗い顔するな。

 普通の奴らはもらいたくても貰えないもんだ。

 それにきちんとその辺のさじ加減はわかってるよォ。


 黒騎士の力も最初はほとんど使えねえ。

 成長させることで初めて圧倒的なパワーが出せる。


 まあ物は試しだ。

 この森はスライムがうようよしてっから探してみろ』


「え!?いきなり戦闘するんですか!!

 でも俺、武器とかなんにも持ってないんですけど!?」


『じゃあ出してやるよ、ほれ』


 セドナ様の軽い声と共に、俺の前の宙が光る。

 そしてその光が剣の形を作り、実体化して落下。地面にサクッと軽く突き刺さる。


「おおー……!めっちゃ無駄な神様の奇跡を見た」


『ふはははは、俺にかかれば造作もないことよ。

 てことでスライム探せ』


「あーい」


 剣を地面から抜いて、俺は森の中へ歩き出すのだった。

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