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13 all I want !!

『やあやあキリエくんや、元気しとるかね?

 俺が苦労して考えた黒騎士を

 やぁーっと強化しようとしてるみたいだから

 老婆心ながらこのメールを送らせてもらったぞよ』


 やかましいわ。

 どんだけ暇なんだあの神様たち。

 見てるのか?今もどっかから見てるのか神様!!


『さて、今回の用件はインドラが来たせいで言いそびれた黒騎士の弱点の話だ。

 黒騎士はお前の階層からすればまさに反則的な強さを誇るだろう。

 そして順調に強化できれば上階層でも通用すると俺が保証する。

 レベル2だったお前がまがりなりにも神の攻撃食らって生きてたんだ。

 これはとんでもないチートだと思え。

 しかし!そんな黒騎士先輩も無敵ではない。

 特にお前のレベルと階層では大きな問題点が一つあるのだ!!』


 あ、あれ?なんか本当に真面目な話になってきた!?

 俺の冒険生活は黒騎士頼りだったのに、問題ってなんだ!?


『黒騎士に変身できるのには制限時間がある。

 もともと黒騎士という力は存在するだけで大量に魔力を消費する。

 だからお前の精神力が枯渇すると使えなくなるのだ。

 しかも魔力が枯渇するということはその後戦うどころじゃなくなる。

 限界ぎりぎりまで黒騎士を使うと、その後はへろへろで倒れる寸前だろう。

 最初の内はできるだけ変身を最小に抑えろ。

 ミノタウロスと戦った時ずっと変身していられたのは俺が力を流し込んでいたからだ。

 実は今のお前じゃ、最大魔力の状態でも一分の変身がぎりぎりなんだ』


 な……なんやてえええええ!!!???

 制限時間一分!?

 ウルトラマンよりみじけーぞ!!

 しかも使い切るとダウンとか、ほんとによっぽどピンチの時しか使えないぞ!?


 くそっ!人に見られないようにだけ気をつけりゃいい、

 ダンジョンとかではずっと黒騎士になってればいいとそう思ってたのに!!


『どうせお前は、ずっと黒騎士の状態でいれば楽勝!!

 とか思ってただろうが、そうはいかん。

 それじゃ結局、俺の力に頼りきりで神と戦うなんぞ夢のまた夢だからな』


 ばれてるし!

 やっぱりチートに頼りきりでいられる程世の中甘くないってことか……。


『だがそれだけだと成長も遅いだろうしな。救済措置もある』


 YAHOOOOOOO!!

 もう神様ったらそれを早く言ってくださいよ。

 やだなぁもう、キリエくんorzみたいになってますよ!?

 ちなみによくあるorzとは、がっくりきた人を横から見た図を表している。

 説明されると地面に手を付いて俯いた状態に見えないだろうか?


 で?救済ってなぁに?

 最初とはうって変わって、一刻も早くメールの先を読もうと画面をスクロールさせた。

 我ながら現金である。


『俺が設計した黒騎士の戦闘スタイルとは、

“自分の生命力を消費して強力な一撃を放ち、

 さらにその消費分を相手の力を奪って自分のものにすることで回復する”

 という自給自足循環型の戦士を目指している。

 黒騎士の攻撃は強力であると同時に、相手の生命力を吸収できる

“ドレインコード”の能力を持つのだ!!

 例を挙げれば黒騎士のジョブスキル“魔剣”はスキルコードを吸収する“デュランダル”をはじめ、生命力を吸収する“アロンダイト”や魔力を吸収する“ダインスレイブ”など、全て相手の力を奪って自分のものにできるスキルばかりだ。

 さらに黒騎士を発動した状態なら触れるだけでも、黒騎士を構成する黒霧の力で相手の魔力を吸収できる。

 この能力で相手の魔力を奪い続ければ、消費した分の制限時間を回復できるだろう。

 さらにダメージを食らっても生命力を吸収すれば回復だ。

 これがセドナ様的「ぼくのかんがえたさいきょうのせんし」黒騎士だ!

 よくゲームじゃ吸収スキルは威力が弱すぎて使いづらい!!

 なんて感想を聞くが、

 黒騎士の場合は圧倒的な攻撃力によって吸収量も馬鹿でかい!!

 どうだ参ったかガハハハハ!!』


 うんまぁ、色々ツッコミたいところもありますが。

 黒騎士が予想以上にチートだったってことは把握っす。

 なんだ問題も簡単に解決じゃないか。


『しかしこれにも穴があるのだ。

 まず敵を見つけて攻撃しなければ回復できない。

 ただ黒騎士は探知能力も上昇するから、近くに敵が居れば見つけることはできるだろう

 だがそれ以上に大きな問題が一つある』


 まだあるんすか!!?


『第十層の敵は“弱すぎる”のだ。

 いくら黒騎士が強かろうが吸収できようが、

 吸収する相手がしょぼい魔力しか持ってないんじゃ話にならん。

 F1のマシンに少しずつガソリンを補給したって全然間に合わないのと同じだ』


 うわあああ!!致命的な問題だよ!!

 敵が弱すぎて元が取れないとか俺にどうしろと!?


『敵が強すぎて倒せないってんじゃないんだからまぁ打つ手はある。

 まず変身は最小限に留めること。

 速攻で敵を倒し、倒したらすぐ変身を解除しろ。

 ただし、変身中と解除中は一瞬無防備になる。

 敵に囲まれた状態でそれらの行動をするのは避けろ』


 まず敵に囲まれた状態なら黒騎士の得意とする状況だろうから、奇襲で包囲されたりしなければ大丈夫な条件だな。自分で言うのはフラグみたいで嫌だが。

 後はとりあえず黒騎士に変身したらすぐ敵を倒せと。


『そして“魔剣”を活用しろ。

 魔剣のスキルは黒騎士のスキルレベルを上げれば開放できる。

 特に重要なのは魔力を吸収する“ダインスレイブ”だ。

 魔剣はスキルなので、開放さえすれば変身しなくても使える。

 威力はかなり落ちるがな。

 黒騎士で消耗した魔力は無変身状態のダインスレイブで補え。


 必勝パターンを繰り返し練習するのは戦士にとって重要な訓練だ。

 戦術を体が覚え込むまで復習しろ。

 慣れてきたときが一番厄介だ。以上。では健闘を祈る』


 祈られた。神様に。

 むしろこっちがお祈りしたいぐらいなんですが。


『追伸:予は貢物を所望している

    三日に一回変顔メールを送ってくること。

    インドラより』


 無視!!


 やれやれ……。

 八層のミノタウルスをぼこぼこにできる黒騎士があれば十層は余裕だと思っていたが、思わぬ落とし穴があった。

 まあそれでも大分楽なことには変わりないだろう。

 しかし黒騎士を使うなら魔力を増やした方がいいってことか……。

 ジョブは魔術師にするべきだったかな?

 でもジョブは新しく獲得できるそうだし、明日はその辺も調べてみるか。


 おお、なんか攻略っぽくなってきたじゃないですか。


 とりあえず言われた通りダインスレイブは獲得しておこう。

 最初にミノタウロスと戦わされそうだった時はアホかと思ったが、今考えると大量に経験値が手に入ったのでラッキーだったな。

 他にはデュランダルを解放しておくか。

 黒騎士のジョブレベルも上げれるかな?

 よしよしあとは……


 なんて能力をカスタマイズしているうちに、どんどんと時間が過ぎていく。

 ゲーム好きにとっては案外、こういうのが一番の楽しみであり、時間を忘れてしまうものだったりする。あとはキャラメイクとかな。


 俺は正直、攻略本を読んでいる時がRPGで最も楽しい瞬間かもしれない。

 ネットで情報を手に入れる現代の子供世代にはわかってもらえないかもしれないが、裏設定や洗練された稼ぎ方など、ゲーマーにとってはヨダレが出るような情報が攻略本にはいっぱい詰まっていたのである。

 グランディアの攻略本は多分、今読んでも下手な小説より楽しめる。

 ……なんてオッサンの趣味を語ってもしょうがないか。


 もはやほとんど沈みかかった夕暮れの森を前に、俺は“準備”を終えた。

 煙草に火を点けながら、今日あったことを思い出す。


 死んで、呼ばれて、連れてこられて、そしてこれからようやく冒険だ。


 今日一日いろんな事があったが、明日も色んな事があると信じるための準備をした。

 これからずっと、やりたい事をめいっぱい詰め込むための準備だ。

 そんで今から今日の総仕上げだ。とりあえず休んでる暇はない。


 今日やりたいと思いつくことは全部やりたい。

 明日やりたいこともいっぱいある。

 それは本当に久しぶりの感覚で、胸をじんわりと熱くした。


 現実の俺にはやりたい事なんてほとんど何もなかった。


 なんつーのか、スタートラインに立ち損ねた感じだ。

 大人になったら何か命を賭けられるものが見つかると思ってた。

 でも成人式を終えたって、仕事を始めたって。

 ……やりたい事は見つかってなかった。


 仕事で寿命を減らす程誰かに頭を下げるのは嫌だった。


 スポーツはめんどくさいし性に合わない。

 海外旅行もめんどくさいし金がかかる。

 お洒落したって見せたい相手がいない。

 オンラインゲームは金がかかるしすぐ飽きた。

 ゲームは好きだが、所詮遊びだから楽しいのだ。

 読書もこれといってハマるもんがない。


 というかどれも一緒に楽しむ仲間がいない。


 仲間の探し方もわからないし、上手くやってける自信もない。

 中途ハンパにかじったところで、どうせ馬鹿にされるだけだ。


 なら一人でいいかと思った。


 一人でいいと思ったら、急に欲しいモノがどんどん無くなってしまった。

 無欲なんかじゃない、欲しがるのも面倒になっただけだ。


 なんのことはない、ただのクソッタレである。

 そう見えないように飄々(ひょうひょう)として、取り繕っていただけなのだ。


 子供を助けたのだって俺にとっては褒められることじゃない。

 何も持ってないから助けられたのだ。

 空っぽの命を捨てる事にためらわなかっただけだ。

 少しは格好をつけて死ねる、そう思った。

 意味のある死で、意味のない生を終わらせたかっただけなのだ。


 だから……空っぽを埋めたい。

 埋めた上で、それでも誰かを助けられる。

 そんな奴になってみたい。

 それが今の俺の目標だ。


 欲しいものなんてなかったけれど、今は色んなものが欲しい。

 行きたい場所なんてなかったけど、今は世界のすみずみまで全部行きたい。

 仲間なんていらなかったけど、今は一緒に笑い合える奴が欲しい。

 女の子は相変わらず苦手だけど、これから色んな話をしてみたい。


 だから、手に入れる。

 もらった力を使い切る。拾った命を燃やし尽くす。

 もう一度死ぬときは、手を伸ばして死ぬ。


 なんだっていい。なんでもしたい。


 全部、ぜんぶ、この世界の全てがこの手の中に欲しい――――!!



 だからこれは、そういう俺のやり直しの物語だ。


 色んなもんがいらないと思ってた俺が、一回死んで全部手放して。

 代わりに貰ったものから始めて、欲しいものには何でも手を伸ばす。


 そういう奴に生まれ変わる為のお話だ。



 もし誰か、俺と同じように手を伸ばすことに疲れた人が

 この話を見て、もう一度欲しいものに手を伸ばしたくなったなら


 きっとその時が俺にとって、最高の気分で煙草を吸える瞬間に違いない。



 願わくばいつか

 この綺麗な夕焼けを――――

 どこかに居るかもしれないその人たちと一緒に見たい。


 手を伸ばし続ければそんな夢のような願いも叶うと信じて

 俺はこの異世界でもう一度頑張ろうと思う。


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