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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆7章 ディカマランの六英雄の凱旋  (賢者の優雅な?日常編)
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 ワイン樽ゴーレム、バージョン2.0

 遂に戦勝祝賀パーティの日がやってきた。

 秋晴れの空の下、俺達は朝から準備に大騒ぎだった。

 

 ファリアが「やっぱり私は鎧を着ていく!」と駄々を捏ねるのを説得するのに小一時間。

 マニュフェルノが露出狂かと疑わんばかりのドレスを着るのを止めさせるのに小一時間。

 ルゥローニィが女性相手に腰を振らないための、魔力強化外装(マギネティクス)の装着と練習に小一時間。

 レントミアが「ググレにエスコートして貰いたい」と女装するのを止める事で小一時間。

 気がつけばあっという間に昼過ぎで、俺自身も正装に着替えて身支度を終えたところだ。


 正装とはいってもいつもよりも少しいい服を着て、結局は『賢者のローブ』を羽織ると言うスタイルなのだが。

 俺は大急ぎで馬車を納屋から動かすと、屋敷の門の前に移動させた。


 屋敷の門の前には、王都でのパーティの噂を聞きつけて見送りと見学の人垣が出来ていた。

 村人全員とはいかないが結構な人だかりだ。屋敷の掃除をしてくれるオバちゃん連合の面々や村長さん、そしてセシリーさんの顔もある。村の老人や子供たちが珍しそうに、馬車を引く馬――ワイン樽ゴーレムに近寄って歓声をあげている。


「やぁ、皆さん。お騒がせして申し訳ないな」


 俺は颯爽と、御者席から手を振って挨拶をする。既に気分は大スターだ。

 

「おぉ、賢者さまもご立派じゃの!」

「いつもだらしない格好で寝そべっているのに、ああするといい男だねぇ」

「ディカマランの英雄たちが我が村にそろい踏みとは、記念碑でも建てんといかんの」

 口々に言いながら、今か今かと他のメンバーの登場を待つ。

 

 俺は馬車をぐるりと見回しながら、ちょいちょっと汚れを拭いておく。

 グラン・タートル号は見た目は地味だが、質実剛健で丈夫さが売りだ。このままメタノシュタット城前の「駐馬場」に乗り付けて、嫌味な金持ち貴族どもが乗ってくる成金馬車と場所取りで押し合っても決して負けはしない。


 何よりも二頭の元気な「ワイン樽」は他には無い唯一無二の存在だ。

 馬なのに顔が無いと言われる事を懸念して、今日は特別に騎士の上半身を乗せてある。

 実は昨日、イオラと俺とで「上半身だけの騎士人形」を工作し、ワイン樽の上に取り付けたのだ。


 見た目はいわゆるケンタウロスに似ている。下半身が四肢の生えたワイン樽、その上に騎士の鎧を纏った上半身がくっついた状態だ。

 『ワイン樽ゴーレム、バージョン2.0』といったところだろうか。


 騎士の上半身は館の物置でホコリをかぶっていた古い甲冑を、木枠にくくり付けたものだ。工作するにあたってはイオラがなかなか手先が器用で助かった。流石こういうところは男の子らしく、とても頼りになる。


 更に特徴的なのは、『フルフル』の上に乗った騎士人形が、ファリア愛用の戦斧(バトルアクス)を両手で抱えるように持っている事だ。

 隣の『ブルブル』はルゥローニィの魂である剣を、誇らしげに高々と掲げている。


 これは、パーティ会場は武器の持ち込みは禁止だが、馬車の装飾なのだから文句はあるまい? という俺の知恵だ。

 王都の祭りとは言え、不穏な輩が何かを企んでいるかもしれないし油断は出来ない。丸腰と言うのは流石に心配だし、何よりもファリアとルゥが武器無しでは居られない体なのだ。


 イザとなれば俺がこの二体のワイン樽ゴーレムに命令し、俺達のところまで武器を運ぶ事だってできるという計算だ。


「ググレさまー……プラムもお城にいきたいのですー」

「おにょれ賢者にょ、自分だけ美味い物を食うつもりなのじゃにょ!」


 朝からご機嫌斜めなのはプラムとヘムペローザだ。赤毛の少女と、褐色の肌のダークエルフクォーターが仲良く並んで抗議してくる。

 

「すまいな、今日のパーティはね、こわーいおぢさんたちが大勢来るんだよ? プラムやヘムペロなんて何処かに連れて行かれて……帰って来れなくなっちゃうぞ」


「うぅ!? ……それは嫌なのですー」

「そ、そんな子供だましの説明で誤魔化され……ないにょ……」


 嫌そうに顔をしかめるプラムと、後半トーンダウンするヘムペローザ。


 人造生命体(ホムンクルス)と元悪魔神官なんて、城に連れて行ったら魔法使いや魔法学者たちが卒倒するだろう。

 王国の魔法学者が百年も研究しても出来なかった物を俺は作ってしまったのだから。今回のパーティに二人はもちろん招待されていないし、行けば揉め事の種でしかないだろう。


「いいかい、イオ兄ィとリオ姉ぇの言うことをよく聞いて、留守番を頼むよ」

「はいなのですー」

「うぅ、何かお土産を頼むにょ!」

「あぁ! 美味い料理を沢山お持ち帰りしてくるから、楽しみにな」

「おぉー!?」「にょほぉ!」

 途端に目を輝かせる二人は、後ろから来たイオラとリオラの方に駆け出した。


 イオラとリオラが俺の屋敷で暮らし始めて数日が過ぎていた。


 兄のイオラは、始めて出会った頃は言葉遣いも少し粗暴な感じをうけたのだが、少しずつ学習して成長しているらしく、言葉遣いも柔らかくなり、今ではきちんと屋敷の事を手伝ってくれる。

 妹のリオラは元々のしっかり者という印象の通り、プラムやヘムペロの面倒も見てくれるし家事もこなすしで俺は大助かりだ。

 何よりも意外だったのは、二人が時折甘えてくるようになった事だった。

 冒険の時や他の皆といるときは、何処となく遠慮しているというか、他人行儀な感じがあったのだが、同じ空間でのんびりとした時間を過ごすうち、徐々に心の底から打ち解けてくれたようだった。

「賢者さま……勉強教えてよ……」とイオラが照れくさそうに傍らに寄ってきたり、「寝ぐせ、直してあげますよ」とリオラが言ってくれたり、そんな些細なこととはいえ、俺にとってはとても嬉しい変化だった。

 二人とも大人びて見えるけれど、まだ子供っぽいところがあって、弟と妹が同時に出来たみたいでとても可愛いと思ってしまう。


 でも男同士の親交を深めようと、イオラを風呂に誘っても毎度拒否されてしまうのは何故なのだろうか? 普通、兄弟って一緒に風呂に入って仲良く背中を流したりするものなんじゃないのだろうか? 

 俺には兄妹が居なかったからわからないが、今度はいきなり入ってみようかな……。


 ◇


「――じゃ、イオラ、リオラ。留守は任せたぞ」

「あぁ、任せてくれ!」

「行ってらっしゃい賢者さま!」

「いってらっしゃいなのですー!」

「飯、メシを忘れるでないにょー!」


 さて、留守の心配も無くなった所で出発だ。留守番メンバーを館に残し、俺達の馬車は出発した。

 村人たちが沿道で手を振ってくるのに応えて、手を振ってみたりする。気分はロイヤルファミリーだ。


「なんだか緊張するね!」

「あぁ、流石にな」


 馬車の御者席に座る俺の傍らには、正装したレントミアが座っている。

 整った顔立ちのハーフエルフは少し笑みを零すと、頬にかかる綺麗な髪を指でそっと梳きながら、遠くに霞むメタノシュタットの城に視線を向けた。

 レントミアは王立高等学舎の制服を正装代わりに着用し、魔法使いのローブを羽織っている。それはメタノシュタットにおいて最上位を現す白地に青の刺繍が編みこまれたものだ。

 ちなみに俺の外套(ローブ)は紺色に金色の刺繍いりだ。これはどの階級にも属さない『特別枠』を意味する。どちらもメタノシュタットの王から賜ったものだ。

 

 後ろの荷台、いや「客室」には真っ赤なドレスを着たファリアが座っていた。体は大きいがスタイルもよく胸もあるので凄く見栄えがいい。緩やかにウェーブした白銀の髪は綺麗に整えられていて、ハーフアップのスタイルにまとめてある。

 思わず見惚れるほどだが、目は空ろで不安げな様子だ。

 ファリアにとって「普通の服」とは堅牢な鎧の事で、こういうドレスや普段着は「下着」もしくは「裸」と同義らしい。ちなみに見た目というよりは「防御力」での話だが。


 隣に座るマニュフェルノも驚くべき事に髪を下ろして、ストレートにしている。

 銀髪はファリアのよりも幾分黒みがかった色合いで、艶のある絹糸のように艶やかで美しくて思わず触ってみたくなる。ううむ、マニュのくせに……。

 服装は僧侶の正装である体にフィットするチャイナドレス風の衣装だ。乳白色の色合いだが、背中に羽織る赤い僧侶のローブがマニュの髪色や瞳の色を魅力的に引き立てて見せている。

 ぱっと見は美人僧侶だが、昨夜も新作のペン入れをしていたとかで、寝不足気味らしい。


 ルゥローニィは王国の騎士が着る正装を借りてきたようだった。凛々しい剣士といったイメージだろうが、細身の身体には大きすぎるようで、サイズが合っていない。だがむしろそれが可愛い感じがして悪くは無い。ルゥだから許される着こなしという感じだろうか。

 猫耳と髪は綺麗に毛並み(?)を整えてきたようで、肩までの髪を後ろでぎゅっと結わえている。


 俺は普段とは違う様子に緊張と高揚感を感じながら、馬車を進ませた。

 スターリング・スライムエンジンは快調に速度を上げてゆく。ファリアの戦斧とルゥの剣がガチャガチャと音を鳴らしながら、みるみる王都メタノシュタットの城が近づいてくる。


 ――と

 

 遠くから、何かが近づいてきた。

 

 ドドドッ、ドドドッ、といいうリズムは馬だ。

 それもかなり大きな馬……。そして聞こえてくるのは馬の蹄の音だけじゃない。

 声だ。


「――っは、はっは――」


 その声は徐々に大きくなり、俺の魔力糸(マギワイヤー)策敵結界(サーティクル)に明らかな反応が現れた。

 レントミアも同時に気がついたらしく、互いに顔を見合わせる。


「はーっ、はっ! はっ! はっぁあああ!」


 馬を走らせながらの高笑い。天の太陽から降り注ぐような、明るい笑い声は忘れもしない――

 

「「エルゴノート・リカル!」」


 俺とレントミアは同時に叫んでいた。


 勇者――エルゴノート・リカル! 

 ディカマランの六英雄を率いたリーダーにして、世界を救った真の勇者! 白金(プラチナ)色に輝く『勇者のローブ』に、腰にぶら下げた大剣。

 黄金の装飾が施された鞘に収まっているのは――宝剣、『雷神(サンダガード)黎明(ホルゾート)』だ。


 馬車の荷台にいたファリアにマニュフェルノ、そしてルゥローニィが、俺達の声に一斉に身を乗り出して、真正面から突進してくる人物を視界に捉える。


「はーっ! ははは! みんな、元気そうだなぁああああ はっぁあああ!」


 超大型の魔獣かと疑うような白馬――白王号(ホワイティア)に跨った人物は、赤い獅子の様な髪を風になびかせながら俺達の馬車と猛スピードですれ違うと、後ろですぐにUターンして俺達の馬車に追い縋り、併走を始めた。


 精悍な顔立ちに涼しげな目元、そして黄金に輝く山吹色(やまぶきいろ)の瞳、肌はすこし浅黒く日焼けしていて、真っ白な歯がキラリと光る。隆々とした逞しい体は、馬を操るたびに筋肉のうねる様が手に取るように判るほどだ。

「おぉ! 来たのかエルゴノート!」「ひさしぶりだねっ!」「再会。全員そろい踏み」「来てくれたのでござるな!」

 馬車に乗っていたファリアや他の面々が歓声を上げる。

 俺も馬車と並んで走る勇者に向けて大声で叫ぶ。


「エルゴノート・リカル! 久しぶり……です!」


<つづく>

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