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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆7章 ディカマランの六英雄の凱旋  (賢者の優雅な?日常編)
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 預言者、ウィッキ・ミルン

 ◇


 『お屋敷を建てるんですって! 賢者さまが近くに来るのね、嬉しい』

 『どんなお屋敷なんだろう? きっと白い壁に赤い屋根の……ううん! とびきり邪悪なことをする秘密の城かも? だって賢者さまのだもの』

 『馬車で旅に出るの? 賢者さまはどこにいくのかな? わたしも行けたらいいのにな』


「なんだ……、これは!?」


 ざわっと、胃の裏側が粟立つような感じがした。


 書斎の窓から差し込む光は白々として、陰影を濃くした部屋の調度品にモザイク模様を刻んでいる。明るい部屋に居るにもかかわらず、まるで気温だけが急激に下がったかのようだ。


 眩暈にも似た揺らぐ視界の向うで、検索魔法(グゴール)が探し当てた文字列は、どれも短い単語の組み合わせの「詩」のような文章だ。その殆どが本の余白に書かれている。

 

 検索魔法(グゴール)は、この世界に実物が存在するしないに関わらず「本」「石版」「日誌」「手紙」、文字でかつて書かれたものであれば探し出すことが出来る。

 仕組みは、千年図書館(サウザンド・ライブラリ)と呼ばれる異相のずれた世界に存在する「書籍のアカシックレコード」から、検索妖精(サーチエンジェル)が探し出してくれるからだ。


 但しそれは、膨大な情報の中から意味のあるものを明確に探し出す「キーワード」があってこそ発動し、検索魔法(グゴール)の活用は、結局のところその鍵となる「言葉」をどう明確に検索妖精(サーチエンジェル)に命じるかにかかっている。


 俺は今まで検索妖精(サーチエンジェル)に「賢者さま」という単語での検索を試みたことは無かった。想像すらしていなかったからだ。


 単純に「賢者」で検索すれば数百万単位での過去の書物や石版、それこそ神話の時代からの膨大な情報が見つかる。「賢者ググレカス」ならせいぜい数百かそこらだ。これは俺に関する記録が、この世界では三、四年ほどの新しいものに限られるからに他ならない。

 試しに「勇者エルゴノート」「戦士ファリア」で検索しても同じように数千前後の情報を見つけられる。王政府が彼らの旅の軌跡を記した書物や、小説などの創作書籍(これにはマニュフェルノの作品もいくつかは含まれるのだが)が見つかるのだ。


 そして「賢者さま」という表現で探してみると、検索結果は百件()単位ではあるが確かに存在した。

 そこに現れたのはすべて短い詩のような文字列で、何かの妄想を書き散らしたような散文めいたものばかりだ。どれも筆跡は同じで、少女が書いたような丸くて可愛らしい文字で書きこまれている。間違いなく同一人物が、本を開き、悪戯に書き込んだものだろう。


 俺は、夢中で同じ筆者のものと思われる「詩」を探して読みふけった。

 その内容は俺を戦慄させるには十分だったからだ。

 

 『向こうの世界から来た男の子。千年に一人の賢者さまになるのかな』

 『六人の旅は果てるともなく。賢者さまと呼ばれた日、魔王さまもお待ちかね』

 『旅の果て、賢者さまは白いお城の見えるお屋敷で、一人さみしく暮らすのでした』

 『賢者さまも泣くんだね。赤毛の子は、三日で死んじゃった』

 『馬車で旅に出かけるの? どこにいくのかな? わたしも行けたらいいのにな』

 『竜の人たち可愛そう。血の力、永遠の命、不死の身体。それは命の牢獄、永劫の苦痛。賢者さまも欲しいのかしら』

 『負けちゃった賢者さま、友達も死んじゃって寂しそう。でも、私が見てるからね』


「これは……俺、なのか? しかし……」


 書斎で呟いて、ごくりと溜飲する。

 俺の事を書いているようにも思えるが、完全に俺を「見て」書いているわけではない。

 なぜなら物事の細部が違っていたり、時間経過がバラバラで順を追っていなかったり、既に起きた出来事を違う結末で書いていたりもする。

 赤毛の子つまりプラムは生きているし、俺も負けてはいないし誰も死んでいない。


 つまりこれは……

 

「予言の書、というわけか」


 俺に関する詩の殆どが、俺が調べた事のある書籍に集中していた。

 明らかに俺が「検索魔法(グゴール)」で調べた痕跡を辿っているのだ。方法は判らない。しかし、これを書き込んだ人物は王都に実在し、俺の気配を感じながら、俺を、いや……世界を予言している。


 同じような散文は、俺だけに留まらず、いろいろな人物や、事柄、国や出来事についても記されていた。

 少しだけキーワードを変えてやると驚くほどの書き込みが見つかる。たとえば「メタノシュタット」ではなく「とても大きな国」といったような、子供や少女の目線で語るような、口語体の平易な言葉だ。


 ――我らは『あのお方』の……()言葉のままに動いているだけだ

 ――ムドゥゲ・ソルンの生まれ変わり……。預言者、ウィッキ・ミルン様よ!

 

 不意に、四天王アンジョーンの言葉が蘇った。


 まさか、この詩のような散文を書いている人物こそが、ウィッキ・ミルンなのか?

 俺は「ウィッキ・ミルン」で直接検索を試みた。

 しかし何も見つからない。流石にその名前で書き記してはいないのか。

 俺は少しだけ考えて、この(ひね)くれた詩を書いた、まるで「中二病を患った少女」のような気持ちになって言葉を紡いでみた。

 

検索妖精(サーチエンジェル)よ応えておくれ。――『賢者さま』『世界』『清らかな』『クリスタニア』『ひとつの』」


 結果は、どうやら正解だったようだ。

 目の前に浮かび上がった日記帳のような書物は、表紙に可愛らしい文字でこう書かれていた。

 ――だたひとつの、清らかな世界  ~魔女(ウィッキ)未来予見(ミルン)

 

 間違いない。どうやらこれが連中の信奉する「ウィッキ・ミルンの預言書」だ。


「見つけたぞ、これが……貴様らの望む未来への道標か」


 俺はメガネを指先で持ち上げて、書物の中身を更に詳細に調べてゆく。

 最初の動揺は去り、むしろ高揚感と興奮が湧き上がってきていた。

 

 その書物の中身は、先ほどから読んでいた詩の様な短い文章の羅列ばかりだ。

 妄想少女の黒歴史ノートを覗いている気分で、いささか腰の辺りがむずがゆくなってくる。


 ――世界の行く末、魔王降臨、英雄、冒険、恋、賢者さま、勇者さま、戦士さま、魔法使いさま、二人の姫、摂理を曲げるもの、闇、世界の終わり、終焉と再生、選ばれし者、二人だけの世界――

 

 そんな妄想めいた言葉の海をひたすら眺めていると、俺はふとある思いに囚われた。

 

「こいつ、外に……出た事が無いんじゃないのか?」

 

 おそらくこれを書いた人物は、外の世界を知らないのだ。

 実際に見てはいない景色を、人物を、出来事を、妄想だけで書き上げて、羅列しているだけに思えてくる。小説や伝説を暗い部屋の奥で一人、夢見ながら綴り続けている夢想少女。

 そんな印象を俺は抱いた。

 詩の最後に、時折混じり込む溜息のような憧れのような言葉が、その印象をより強くする。


 『川で泳いでみたいな』

 『わたしも温泉に入ってみたいわ』

 『野宿! なんて素敵かしら。屋根の無いところで寝るなんて』


 憧れと妄想だけでこの日記、いや予言を書き上げているとしか思えない。

 俺が今朝調べた書物に書き足されたメモ書きは、俺へ宛てたメッセージに思えたが、そうじゃない。あくまでもウィッキ・ミルンの「予言」なのだ。

 

 そして次のページをめくった時、俺はハッと目を見開いた。


 『秋の畑で慟哭する、かわいそうな賢者さま。骸は冷たくうごかない。ずっと楽しく暮らせるはずだったのにね』


 心臓がぎゅぅっと締め付けられて血が逆流するような、寒気にも似た感覚が押し寄せる。


 その時――。

 

 書斎のドアが勢いよく開き、レントミアが駆け込んできた。


「ググレ大変! 魔物が村に侵入してくるよ!」

「なに!?」

大規模魔力探知網(マギグリッドセンサ)が、村の外からの接近を検知してる。ボクが今朝から接続したままだったから判ったんだ」


 この季節に人里にやってくる魔物といえば、村を囲む森に住んでいて、冬眠前の餌を探す獣系のモンスターだ。

 

「場所は? まだ村の外れだろう?」


 俺は検索魔法(グゴール)地図検索(マッパ)を可視モードにして、レントミアにも見えるように表示する。レントミアの細い指先が迷うことなく村外れの方角を指差す。

「現在位置はこの辺り。もうすく麦畑に侵入するけど、人は居ないはずだよ……ね?」

「いや、まて! そこは――」


 プラムとヘムペローザ、イオラ達が手伝いに行ってる、老夫婦の家の方じゃないか!


「ググレ?」

「くそっ! 行くぞレントミア!」


 俺は瞬間的に脚部に魔力強化外装(マギネティクス)超駆動(アクセル)し、全力で窓から飛び出した。レントミアも慌てて後ろから追ってくる。


 ――俺の魔力糸(マギワイヤー)が届かない場所で、検知できない遥か遠くでプラムが、ヘムペローザがイオラが魔物に遭遇してしまう!

 ザワッと冷たい秋の空気が首筋を滑ってゆく。


「ルゥローニィは!?」

「もう飛び出したよ! 方向だけは教えたから、僕らよりは先に着くはずだけど」


 剣士の俊敏性は、魔力強化外装(マギネティクス)を展開した俺達を凌駕するほどだ。ルゥローニィが居てくれたのは幸いだった。なんとか魔物との遭遇前に辿りつければいいが……。

 俺に追いついたレントミアが切れ長の目を眇めながら、正面を見据え飛翔する。


 ――無事でいてくれ、みんな。


 二人同時に地面を蹴り、走る速度を上げてゆく。俺達は飛ぶような速さで村はずれの麦畑へと急いだ。

 

<つづく>

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