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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆7章 ディカマランの六英雄の凱旋  (賢者の優雅な?日常編)
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 王からの招待状

 ◇

 

 ――招待状。それもメタノシュタットの王からの手紙……だと?

 

 俺は仲間との再会の浮かれ気分が覚めていくのを感じていた。正直、嫌な予感しかしない。

 メタノシュタットを統べる王、コーティルト・アヴネィス・ロードは、豪傑でおおらかな人柄で、王族や貴族のみならず、臣民からの信頼も厚い君主として知られている。

 文武両道、学に関しては歴代の王の中でも特に努力家で、生きた知識の宝物庫と尊ばれていたりもする。魔王大戦が起こる以前より村単位で学舎を建設せよと命じ、教育を重視する姿勢を示していた。

 剣の腕前も相当のもので、魔王大戦において人類反攻の先駆けとなぅたレムリアソス平原での魔王軍と人類多国籍連合軍の総力戦において、自ら先頭に立ち、長さ3メルテはあろうかという斬獣刀(ヴィスタード)を振り回し、勝利への道を切り開いた英傑の一人だ。強さでは共に戦った「人類最強」のルーデンス族長、アンドルア・ジーハイド・ラグントゥスといい勝負らしい。


「手紙。ググレくん宛に?」

「ルゥが持ってくるって事は、王都で剣術の試合でもあるの? まさかググレに参加しろとか?」

 レントミアが面白そうにちらりと俺を見て、そしてルゥローニィに尋ねる。

「なんで俺が剣術大会に参加せにゃならんのだ……」


「いや、実は拙者も先日、旅から戻り、王都の剣術道場に立ち寄ったところを役人に見つかりましてな、そこで手紙を渡されたでござる。そして『同じもの』をググレカス殿に届けて欲しいと頼まれたでござるよ……」

 ネコ耳の半獣人剣士は、干し魚をかじりながら肩をすくめた。


「うーん。つまり役人がググレに届けるよりも、仲間から手渡ししたほうがいい内容の手紙ってことだよね?」

「開封。ググレくん、さっさと開ける」

「あぁ……」


 俺の右側でメガネを持ち上げて興味津々と言った様子で文面を覗き込むマニュフェルノ。

 背中から覆いかぶさるようにして腕を回し、べったりと頬が触れるほどの距離で手紙に目を通すレントミア。

 おまえら、俺のプライバシーとかお構いなしか? まぁ、おそらく業務連絡みたいな手紙だろうから別に構わないが。


 手紙の文面は、王家の周囲を固める王政府の役人が書いたものだった。

 威厳を保ちたいのか、難しい語句や修飾語で読みにくい事この上ないのものだ。普通の市民ならば読めないだろう。まぁこちらの知的レベルを試しているつもりなのだろうが、ナメられたものだ。

 賢者の翻訳魔法(ヤクトゥス)で平易な文章に纏めるとこうだ。

 

 ――世界が平和になり、人々の暮らしも落ち着きを取り戻した昨今、このあたりで気持ちの区切りをつけようと、国を挙げて祝賀行事をすることに相成りました。

 つきましては祝賀会を執り行います故、偉大なる賢者ググレカス殿には是非とも、城へお越しいただき、ご列席賜りたいで(そうろう)

 勝利の立役者であらせられるディカマランの六英雄の皆様もご列席頂く予定であり、美味珍味の料理の数々、そしていろいろな余興、きっとご満足頂けると思います、(当日は王侯貴族の御息女たちも多数参加予定)云々。

 <中略>

 メタノシュタット王陛下、そして第一王女、コーティルト・スヌーヴェル姫も、お会いできることを楽しみにしておりますゆえ、云々。


 という内容のことが書かれていた。

 

「戦勝記念祝賀会……パーティ?」


 うーん。勘弁して欲しい。

 気取った王侯貴族や、俺を目の敵にする宮中魔法使いが集まる宴会は好きじゃない。

 王は悪い人ではないのだが、どうにも緊張してしまうしな。おまけにメタノシュタットの「姫」も、正直苦手なのだ。


 コーティルト・スヌーヴェル姫は眉目秀麗、才知に優れ、自信に満ちた表情、玲瓏(れいろう)な佇まい。……というのは社交的な美辞麗句で、俺の脳内では「高慢ちきな立て巻きロール姫」でしかない。

 あの冒険の後、エルゴノート・リカルが姫と付き合っているという噂もあったがどうなったんだろうか……?


 俺は口の端がひくつくのを感じていた。


 おまけに、文面の最後には、

 『魔法使いレントミア殿が数日前から行方不明、僧侶マニュフェルノ殿も十日ほど前から行方不明と、連絡できずに困っている。賢者殿なら行き先をご存知かと思い、もしご存知ならご一緒に……参加して欲しいとお伝えくださいませ、云々』という一文が添えられていた。


「祝賀。行事? 魔王を倒してから一年たったものね……。でも、人前は苦手」

「うーん。ボクも興味ないなー」

「俺も行かない」


 いい具合に意見の一致する俺たち後衛組

 そもそも華々しい生活とは無縁だった俺は、元の世界でもこっちの世界も出パーティなんて出たことは無い。レントミアだって同じようなものだ。

 メタノシュタット王城に行くのなら、城の中心部に膨大に保管されている書架の奥で魔道書を読みふけっているのが性にあう。マニュフェルノも同人誌の件で捜査機関に追われているんじゃないのか……?

 が――。

 (当日は王侯貴族の御息女たちも多数参加予定)云々。という文面が気にかかる。


 何ゆえ、そこが強調されているのだ?

 もしかしてあの「王」が俺に……嫁候補を探せと?

 いや、まて。ここは賢者脳で冷静に分析する必要がある。

 『ひとつの清らかな世界』(クリスタニア)の信奉者が潜む王宮の、誰かがこの手紙を作ったと考えたらどうだろう?

 魔物を差し向けても隣国最強の魔法使いさえも通用しない、俺の無敵ぶりに業を煮やした連中が、俺をハメる為に準備した「罠」かもしれない。

 嫁候補パーティと見せかけて、浮かれ気分の俺をシカトさせるとか、遠巻きにくすくすヒソヒソ笑わせたりと、陰湿な攻撃で俺の賢者エネルギーをガリガリ削るつもりなのかもしれない。


「フ、フフ……そんな手に俺がひっかかるものか」


 俺はメガネをくいっと持ち上げて、鼻からフ……フフと息を漏らす。


「パーティの招待状が罠なの? ねぇググレ……何で?」

「不能。ググレくんの深遠な脳みその奥は、わたしにはわからない」


 と、そこでルゥローニィが、いいにくそうに口を開いた。


「拙者もあまり興味は無いのでござるが……、どうやら、昨日メタノシュタットに戻ってきたエルゴノート殿が乗り気らしくて、ヴァース・クリンで湯治中のファリア殿にも遣いを出させたようでござるよ」


「なにぃ!?」

「エルゴが……」

「帰還。この……メタノシュタットに?」


 折れたちは口々に声を上げていた。それは驚きと困惑と、いや。それよりも「嬉しさ」のほうが一段と強いものだ。

 俺達にとって勇者エルゴノート・リカルは、底抜けの明るさとリーダーシップ、そしてその笑顔で、俺達を魅了して止まない存在なのだ。

 例えるなら、頼りになる兄のような、語弊があるかもしれないが、包容力のある恋人のようでさえもある。

 

 祝賀会なんてものには興味は無いが、エルゴノート・リカルが「参加しよう!」と言うのなら話は別だ。参加については再考の余地がある。


「しかし王家からのパーティの招待状を貰って、全力で否定する反応を見たのは初めてでござるよ……」


 剣士ルゥローニィが苦笑を浮かべる。

 まぁ長い事裏方をやっていると、そうなるものさ。

 こうして、四人のディカマランの英雄が再会した夜は更けていった。


 ◇


「ルゥローニィ今夜はもう遅い。部屋は空いているから泊まっていかないか?」

「かたじけないでござる。だが、拙者は部屋でなく暖炉のあるここがよいでござる……」


 そういうと、ルゥローニィは暖炉の前で、にゅーん、と伸びをしてあくびをすると、ころりと丸くなって寝てしまった。


「ネコだ……」

「久々。旅の途中も、焚き火の前でああして寝ていたね……」


 俺とマニュは、久しぶりに目にした剣士ルゥローニィの寝姿に思わず微笑んだ。


「就寝。わたしはもう少しペン入れしてから寝ることにするね、おやすみ」

「あぁ、またあしたな」


 おやすみ。そういってマニュフェルノは部屋に戻っていった。部屋は二階の書斎の隣だ。今夜ぐらいはすぐに寝ればいいのに。

 ところでレントミアの姿が見えないが?

 

 キッチンを出て、二階に向かう途中で「プラムの部屋」をのぞくと、ヘムペローザとプラムが一つのベットの上で、形容しがたい凄い寝相でぐーぐー寝息を立てていた。


 明日から食事の量も増えるし、いろいろと大変だ。

 預かる、ということは最後まで、少なくとも成人し、独り立ちするまで面倒を見るということだ。里子を預かったのに等しい重圧に、俺は思わず溜息をつく。

 ――だが、なんとかなるさ。

 独身男子の一人暮らしだが、この世界は――寛容だ。


 元の世界なら手続きだ、周囲の目がと、とてもじゃないが想像すらできない状況でも、この世界(ティティヲ)ならば俺は大丈夫、乗り越えられるだろう。


 何よりも、プラムもヘムペローザも楽しそうな間抜け顔で寝ているじゃないか。


「にゅぅ……そのキノコは……食えないにょ……」「耳……みみがもふもふ……」


 俺はヨダレを拭いてやり、二人に毛布をかけてやった。

 何の夢を見ていたのかと明日聞いてみよう。


 ――と、部屋を出たところで、一階の奥にある実験室からレントミアが、ひょっこりと現れた。

 そこは俺の各種魔法の実験室だった。今はプラムの薬の合成方法の研究と、竜人の血の保管に使っている。

 薄暗い廊下の突き当たり、表情はよく見えないが、何かに怯えているようにも見えた。


「レントミア?」

「――! ググレ」


 はっ、と驚いたようにレントミアが目を大きくして、薄暗い廊下を小走りで俺のところにやってきた。がしっと俺に抱きついて、するすると背後に回る。


「なな、なんだ!? 何だよ?」

「音、変な音がした」

「実験室でか?」

「うん」


 こく、と頷くハーフエルフの視線は、実験室の扉へと注がれたままだ。その横顔は真剣で、嘘をついているようには見えない。

 では、中に誰かいるのか? とも考えたが……ありえない。

 館全体に接近する人物や魔の者を検知できる結界が貼ってあるのは周知のとおりだ。

 外部からの魔力干渉も受けないようにと実験室内は特殊な術式で封じてあるし、侵入防止の施錠魔法(セキュアス)も仕掛けてあり、易々とは入れない。

 レントミアには「解錠(アンロック)」の術式を与えてあるので自由に出入りが出来るが、賊が入れるような場所ではない。


「きっと何かの間違いさ」


 ――レントミアが、嘘をついていなければ、だが。


 そんな疑念を僅かに抱きつつも、俺は念のため魔力糸(マギワイヤー)で部屋の中を探りはじめた。

 

 <つづく>

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