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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆6章 竜人の里へ! ~賢者の旅と新たなる仲間たち (本格クエスト編)
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★『賢者ググレカスの冒険』、アニメ化する?

「血は我々にとって命そのものだ!」「里を救ってくれたことは感謝するが、血となれば話は別だ」「人間は出ていけ!」


 竜人(ドラグゥン)達、主に年配者から次々に厳しい声が上がりはじめた。長老は黙したまま里の人々の意見にじっと耳を傾けていたが、やがて重い口を開く。


「……聞いての通りじゃ賢者殿。先の言葉、無かったことにしてくれぬか?」


 意見が出尽くしたと思われたところで、俺を諭すような口調で長老アルパ・ア・ジュールが語りかけた。竜人たちの反発は予想以上に厳しい。なぜならばこの村を襲ったカンリューン四天王の目的が、血をよこせというものだったからだ。


 ファリアも、マニュフェルノもレントミアも、イオラ達も固唾をのんで事の成り行きを見守っている。

 苦しい戦いを経て辿りついたこの里で、本当の目的を達成する為に諦めるわけにはいかなかった。俺は真剣に訴え続ける。


「お願いです。ワイン瓶一本分だけで結構です。それだけあれば……ここにるプラムの命を救えるのです!」


 俺は、傍らで膝を抱えたまま大人たちの『むずかしい話』に首をかしげているプラムに視線を向けた。竜人と同じ緋色の瞳が、澄んだ色を湛えてじっと俺を見上げている。


「その娘さんの……命?」「病気、なのか?」「だが……、血で治るものか」

 

 竜人達は困惑気味に顔を見合わせる。だが、血を分けても良いというものは現れない。

 ――と。

 すっと小さな手が上がった。


「…………わたし、あげるよ」


 それはアネミィだった。プラムの近くに座っていた竜人の子は、静かな声で、しかし強い決意のこもった声でそう言ってくれた。


「アネミィちゃん?」

 プラムが目を丸くする。

「…………わたしはプラムと友達だもの」


 にこり、とアネミィがプラムに微笑みかける。


「オレも……血をくれてやる。……アンタ達には助けてもらったからな」


 憮然とした顔で立ち上がったのは、アネミィの兄だった。

 四天王に勇敢にも挑み大怪我をしてしまった若者は、マニュの治癒で命を繋ぎとめたばかりだ。鋭い目線の強面の竜人だが、身体の傷はまだ完全に癒えてはいない。

 二人の両親は意を決したように頷くと「アネミィとニーニルの代わりに私達の血を使ってください」と揃って手を上げた。


「あ、ありがとうございます!」


 俺は自然と感謝の言葉を口にしていた。賢者の威厳も何もない、素直なそのままの言葉だ。


「俺達はこの人たちに命を救われたんだ、血をやるのも……同じ事だ」「俺も構わない。つかってくれ」

 次に声を上げたのは、マニュフェルノに怪我を癒された若い竜人達だった。その輪は徐々に広がり始める。


 が――、


「まて皆の衆、ワシは認めんぞ、一度人間に気を許せば、次はもっとよこせと言ってくるに決まっている!」

「ワシも反対じゃ……その娘が病気だというが、元気ではないか?」


 反対の声を上げたのは、長老の左右に座った古老たちだった。

 やはり人間に対する不信感は大きいようだ。数々の「経験」が彼らを(かたく)なにさせるのだろうか。

 手を上げていた竜人たちは古老の声に困惑し、おずおずと手を降ろす。

 

 ――こうなれば、最後の手段だ。


「聡明なる皆さまの杞憂、ごもっともございます。ですが……御言葉ではございますが、私が何故このような無理な願いをしているか、せめて……これをご覧いてからご判断ただきたいのです」


「む……う?」

「賢者さまが……そこまで言われるのなら」


 頑固を絵にかいたような顔の古老たちに俺は向き直り訴えた。耳を傾けていた長老が片眉を上げたその瞬間、俺は自律駆動術式(アクリプト)を励起し、空中に四角い「(ウィンドゥ)」を浮かび上がらせた。


 竜人たちから驚きと感嘆の声が漏れる。この神殿の中に居る全員に見える様にと可視化の状態で展開し、大きさは畳一枚分ほどにまで広げてゆく。

 これは戦術情報表示(タクティクス)表示用の自律駆動術式(アクリプト)と、映像中継(リアルライブ)の合わせ技だ。


 神殿の中に居る竜人達全ての目線が四角い光の窓に注がれていた。


「これから皆様にお見せするのは、我が『賢者の魔法』により紡ぐ、真実の物語でございます……。『画面』にご注目あれ」


 ぱちんっ、と俺が指を鳴らすと軽快な音楽が流れ、画面にプラムが映し出された。


「お、ぉお!?」「絵が動いている!」「娘さんが……もう一人!?」


 微笑むプラムは実物というよりは絵画……まぁ俺の世界の言葉でいえば「アニメ」のような絵柄に加工されている。

 プラムが微笑むと、風が吹き抜けて髪を揺らし、カメラ(画面の動きの事をこう呼ばせてもらおう)が上方にスライドし、青空を背景にタイトルが表示された。

 

 ――『賢者ググレカスの冒険 ~命の薬を探して~』

 

「裏側には誰も居ないぞ!?」「すごい!」「これが賢者の魔法か!」

 竜人たちが口々に叫び、軽いパニック状態に陥る。

「――皆の者、沈まりなさい。心配はいらぬ、旅の吟遊詩人や紙芝居師が語る数多(あまた)の物語と同じじゃ。だが、賢者さまのお力により、絵が動いているのじゃよ」


 長老の鋭い洞察力による的確な説明に里の皆は、おぉ! とポンと手を打つ。


「あ……ありがとうございます、長老様」

「ホホホ気にするでない。どれ、賢者殿の語る物語、拝見させてもらうとするかの……」

 長老は顎ひげをなでると、落ち着き払った様子で画面に視線を向けた。


「皆様、今長老様がおっしゃった通り、これは魔法で動かしている『絵』で、『アニメーション』という術式です。言葉で語るよりもより鮮明に、私の想いが伝わると思いますので、しばしのご清聴を……」

「あにめぇ……しょん?」

「あにめーえしょん?」


 人々は首をひねるが、穏やかな笑みを浮かべたままの長老の様子に、竜人達は落ち着きを取り戻し再び画面を見つめた。

 

 ◇

 

 画面の中で二次元変換された美少女、プラムが、はっと気が付いたように振り返る。過剰なほど髪がふわりと舞って、その視線の先にカメラが向く。

 と、イケメン風に髪とローブを揺らした「俺」が微笑みを浮かべて手を差しのべていた。

 プラムが笑顔でその手を取ると、二人はくるくると舞い散る花びらの中を踊り、回る。


「おぉ!? 賢者さまだ」

「素敵……綺麗!」

「なんと仲睦ましい親子よ……」


 竜人達が感嘆の声を漏らす。全員がもう映像に釘付けだった。

 いや、親子じゃないが。


「グ……ググレさま、す、すごいのですー!」

「にょぉおお! こんなの初めてみたにょ!」


 プラムもヘムペローザも目を丸くして興奮しまくりだ。


「絵が……絵が動いてる! やっぱすげぇんだな賢者って」

「すごいね、プラムちゃんの絵が、かわいいし!」


 イオラとリオラはドストライクに感動したらしく、拳を握り締めて目を輝かせている。

 俺の魔法がかつてこれほど感動を与えた事があっただろうか?

 画面の中の俺がキラキラと光を散らしながらアップで微笑む。

 うむ、なかなかいい出来だ!


挿絵(By みてみん)


 ぷくっ……! と横で吹き出す声。

 気がつくとレントミアがもう耐えられない、という顔で口を押えていた。目の端に涙を浮かべて、顔を真っ赤にしている。


「ちょっググレ……これは……いくらなんでも……」

「補正。盛りすぎだよググレくんっ……うふ……ふふふ」


 レントミアのみならず、マニュフェルノまでもが肩を小さく揺らしている。

 お前ら何がそんなにおかしいんだ?

 別に見た目どおりだろう?


「――すごいな! そっくりじゃないか!?」


 目をキラキラさせながら、満面の笑みで拍手をしてくれたのはファリアだった。ファリア、おまえははやっぱりいいやつだ。


「え? 同じ……じゃないよね? ファリア」

「眼鏡。ファリアの目には眼鏡が必要!」


「何を言っているんだおまえら、どう見てもググレとプラム嬢じゃないか?」


 ハーフエルフとお下げの僧侶がファリアにツッコミを入れるが、ファリアは意に介した風も無く「すごいな! すごいぞ!」と繰り返し、俺達にそっくりな「絵」が動く事に心底感心してくれている様子だ。

 それは他の竜人たちも同じようで、老人も若者も、子供も母親も、全員が口を半開きにして目が離せない。


 と、ググレカスとプラムのほのぼのシーン映像のはずが……次のシーンで何故かレントミアが画面に映し出された。

 レントミアの細い首筋、綺麗な髪、ぱっちりとした目元、そして蕾のような唇とか鎖骨とか……妙なカットが次々と映されてゆく。


「げっ!?」


 描画線は繊細でたおやかな絵柄だ。背景に透過光と花びらと、おまけにカメラ目線の美少年魔法使いが可愛らしく微笑んで、物欲しげに瞳が潤む。


「魔法使いレントミア様……?」「……さっきと絵が違う気が」「ごく……」


 竜人たちの間にざわわ、と動揺が広がる。


「もう……ググレってばこんな風にボクをみてるんだねっ」

「耽美。ヤバイ、この映像をこれ以上見たら鼻血が……」

 レントミアがぽっと頬を赤らめ、マニュフェルノが涎を垂らしそうな顔で画面を食い入るように見つめている。


「ち、違うんだ!」


 ――い、いかんっ! はぁあああああッ!

 

 俺は自分の視神経に接続した魔力糸(マギワイヤー)に思念波と魔力を送り込み、映像を補正してゆく。途端に、レントミアはかっこいいポーズを決めて軽やかに画面を舞い、魔法を撃ち放った。爆発を背景にくるっと回転して着地――、

 次に黒いオーラを放つマニュフェルノと、岩盤を突き破って現れたファリアと共に「冒険の仲間達が集結!」といったアングルで画面に並び立った。


「ふぅ……、危ない」


 俺は額の汗をぬぐった。


 そう。

 実はこれは事前に作った映像ではない。今、俺の脳内で考えたイメージを、神経節に接続した魔力糸(マギワイヤー)で吸い上げ、特殊な自律駆動術式(アクリプト)で画像変換、二次元の「アニメ」のように映しているのだ。

 だから途中で雑念が入ると、さっきのように放送事故が起こることもある。 

 べ、別にレントミアの事をそんな目で見ているわけじゃない。


 だが、これこそ、俺がこの旅のために組み上げた新魔法――、

 『映像次元変換術式(ディメンジョン・ガゾン)』だ。


「えー、もう終わり? ボクをもっと出してよー」

「なぁ……ググレ、なんで私が地面の下から出てくるんだ?」

「漆黒。わたしのオーラが黒い……。ググレくん、酷い」


 三人がそれぞれ勝手な事を口にする。話しかけられると脳波が乱れ、映像にノイズが入る。


「た、頼むから少しだけ集中させてくれー!」


 画面の中の「俺達の冒険」は、今始まったばかりなのだから。


<つづく>


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