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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆6章 竜人の里へ! ~賢者の旅と新たなる仲間たち (本格クエスト編)
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★強襲、ドラグゥンの里

 翌朝、俺達は夜が明けると同時に出発した。

 目的地である「竜人(ドラグゥン)の里」があるという、キョディッテル大森林の最深部に向かう為だ。


 俺の目の前には検索魔法(グゴール)地図検索(マッパ)による地図が浮かんでいる。

 これは先輩冒険者や探検家が辿り着いたという「竜人の里」を書き記した地図から、おおよその位置を割り出して表示したものだ。地図によると、どうやら「里」は馬車の現在位置から北へ半日ほどの距離らしかった。


 馬車の面々は同じ顔ぶれだが一人、新しい仲間が加わっていた。

 

 ――竜人(ドラグゥン)の少女、アネミィ。


 年の頃はプラムやヘムペローザと同じ、人間ならば十歳くらいだろうか。

 緋色の瞳に胸ぐらいまでの長さの紅い髪。プラムとどこと無く似ているが、背中には立派なドラゴンのような羽があり、尻には短いながらも尻尾がある。つまり彼女こそが純粋な希少種族のドラグゥンだ。


 言葉少ない少女からプラムとヘムペローザが聞き出した話では、里からフラリと遊びに出たまま道に迷い、二日ほど森の中を彷徨っていたらしい。

 森はドラグゥンにとっては住処であり、恩恵をもたらすものとされているようで、特段飢えている様子も怪我も無いのは幸いだった。森の木の実や小動物、食べ物は自分で調達できたのだとか。


「アネミーちゃんは、夜一人で怖くなかったのですかー?」

「…………怖くないよ」

「えー? プラムは怖いですよー? ググレさまと寝ないと寂しいですよー」

「…………あたしも家に帰ればお母さんがいるよ」

「!? す、すごいのですー! お、お父さんもいるのですかー?」

「…………いる。お兄ちゃんもいるよ」

「お、ぉおー? アネミーちゃんはすごいのですー!」

 プラムが心底感心したように、ドラグゥンの少女の顔を眺めている。

「にょほほプラム、何だか負けた気分じゃにょ」

 プラムとアネミィが馬車の荷台で肩を寄せ合って、ヘムペローザが向かいに座って何やら楽しそうに会話をしている。子供ながらの女子トークだ。


挿絵(By みてみん)


「微笑。子供チーム可愛い……。私も……子供ほしい」


 何やら微妙なニュアンスの発言が聞こえてきたがスルー。マニュフェルノは荷台の中で「次回作のあらすじ」作りに頭を悩ませているとかで、夕べから随分と大人しい。

 次回作は『賢者と魔法使いの美少年』の鉄板カップリングに、美形僧侶(♂)がライバルとして登場する話であることを、先ほどまで俺の背中に向けてブツブツ話し続けていた。

 お陰で知りたくも無いストーリーライがばっちり頭に入ってしまった。なんだよ『どちらが賢者に最高の快楽を与えられるかの魔法対決』って……。


 その時ガタン、と馬車が大きく揺れた。


「きゃ!」

「わっ!」

「ぐほ!?」

 両側から俺は押しつぶされた。

 俺の両隣に座っているのは双子の兄妹、イオラとリオラだ。いつでも前衛として飛び出せるようにと馬車の御者席に腰掛けていたので、バランスを崩して俺を左右から挟まれた格好だ。


「ごめんなさい賢者さま」「あ、ごめ……。なんだか道が悪くなってきたな」

「あぁ、しばらくはこんな道だろう」


 馬車は既に行商や旅人が通るような「正規の道」からは大分離れ、殆ど誰も通らないような森の奥へと進んでいる。

 辛うじて馬車が進めるのは、遥か太古の遺跡と思われる道が、森の奥まで続いているからだ。魔法の力を宿しているらしい黒い石畳の道は、不思議なことに苔むしてはいるが木の根が張ったり大きな木が生えたりはしていない。おそらく千年以上も前の遺物だと思われるが、当時の魔法文明の強大さを物語っていた。


 時折、野生動物や低レベルの魔物と出くわすが、戦闘になることもなく、上手く回避して進んでゆく。これは僧侶の忌避(スィク)の魔法とレントミアの結界のおかげだ。

 レントミアは定位置の馬車の屋根の上で、座り込んで周囲をうかがっている。森の木々のざわめきや、空気の流れ、土の匂いを感じながら、森の民であるエルフの感覚を研ぎ澄ましているらしい。


 だが、そんな順調な道ばかりではなかった。

 しばらく進んだところで上級の魔物である人と昆虫を混ぜたような「バッタ人間」と出くわし、戦闘になってしまった。しかしイオラとリオラの息の合った前衛を頼りに、魔法使いレントミアが魔法の火力で支援攻撃を行うことで何の損害もなく突破する事ができた。

 特筆すべきは、イオラとリオラの連携攻撃だった。

 左右同時に散開し、猛然と挟撃――。左右同時からの打撃と斬撃の挟み撃ちに、さしもの魔物は対処しきれずに、大ダメージを食らっていた。


「すごいな、二人とも!」

「はいっ!」

「へへ!」

 イオラとリオラが素直な笑みを俺に向けた。少し汗ばんだ顔と白い歯が眩しい。

 

 それからの旅は順調だった。

 馬車をの速度を落として進みながら、索敵結界(サーティクル)で周囲百メルテを走査(スキャン)して安全を確保してゆく。

 やがて昼を迎えた頃、俺達は遂に「目的の場所」にたどり着いた。


 検索魔法(グゴール)地図検索(マッパ)は確かに目的地である「竜人(ドラグゥン)の里」を指し示していた。


「いよいよアネミーちゃんのお家なのですねー」

「…………うん。プラムやヘムペロをみんなに紹介するね」


 不意に森が開けて、明るい別世界が広がっていた。

「これが……」「ドラグゥンの里!」


 双子の兄妹が、鳶色の瞳を大きく輝かせて馬車の御者席から身を乗り出した。

 そこに広がっていた光景は確かに森の中に忽然と現れた異界の「里」だった。

 森の木々の間には、木と石で作られた独特の形をした家々が数多く建ち並び、村と言うよりは、確かに里を思わせた。

 家の形は独特で、元居た世界の茅葺屋根の合掌造りの民家に似ている。だがインディアンが使うテントに見られるような幾何学模様が建物のあちらこちらに施され、異文明の情緒を感じさせてくれる。

 よく見れば森の木々と家々の隙間を縫うように綺麗な水路のような小川が何本も流れていて、森と一体化した暮らしを営んでいるようだ。

 入り口から遠くない場所には、どこの村にもあるような円形の水場と広場があった。おそらくはここが里の玄関口であり、人々の憩いの場なのだろう。

 高い建物は見当たらないが、中央にそびえる巨大な「世界樹」のような巨木が神殿か何か宗教的なシンボルらしく、階段らしい木の杭がそのゴツゴツとした幹に螺旋状に埋め込まれ、木の頂上まで続いているのが見えた。


 だが――。

 住人であるはずの「竜人」が一人も見当たらないのだ。

 開きかけたドアや、道端に転がった日用品、水辺に放置された洗濯物。それらを見れば、今まで生活していた事が明らかだ。


「様子がおかしい。レントミア、索敵結界は?」

「うん、妨害(ジャミング)されてる。これは……」


 俺の緊迫した声に、ハーフエルフの魔法使いが可愛らしい顔をやや険しくする。

 俺達が来たことで驚いて隠れてしまった、とも考えられるが、それは違うようだ。

「…………お母さん、お父さん……!?」

 馬車の荷台から、アネミィが身を乗り出した。

 その顔には明らかに動揺の色が見える。


 そもそも竜人(ドラグゥン)の里は、幾重にも張り巡らされた幻惑と撹乱の魔法結界により護られていて、簡単に人目に付くはずがないのだ。

 だが、まるで開け放たれたような里へ、俺達はすんなりと入ってしまった。

 これは一体どういうことだ、


「――くっ!?」


 ビイッ! と、短く甲高い音と共に一条の「光線」が空間を切り裂いた。

 俺が咄嗟に展開した対魔法結界で捻じ曲げられた光の軌跡は弧を描くと、背後の木を貫通し薙ぎ払うように幹を切り裂いた。

 それはまるでルビーのように赤い光だった。木はバキバキと音を立てながら傾き、葉を撒き散らしながら地面へと倒れ込んだ。切断された木の切り口は炭化し、それは超高熱で焼き切られたことを意味している。

 馬車が通ってきた道は倒れた木で塞がれ、退路を絶たれた格好だ。


「なっ、なんだ!?」

「賢者さま!」

「にょおお! これは!」


 俺は御者席から立ち上がると、前方を睨みつけた。


「『志向性熱魔法(ポジトロール)』。……まったく、殺す気か?」


 戦術情報表示(タクティクス)自律駆動術式(アプリクト)が瞬時に攻撃の属性とその素性を明らかにする。

 俺相手なら何をしてもいいと思っていやがるのか? こっちは女子供が満載なんだぞ。


「ググレ、どうやら先客がいるみたいだね」

「あぁ、随分な歓迎だがな」


「賢者様!」「今のは!?」

「イオラとリオラはここで皆を護ってくれ。奇襲が大好きな胸糞のわるい連中らしい」


 俺の言葉に兄妹は緊迫した状況を瞬時に理解してくれたようだ。素直に頷くと、周囲に目を光らせた。

 レントミアもすっと屋根の上に立ち上がる。


 俺が向ける視線の先、水場の脇の広場に一人、そして……建物の上に一人。

 つまり計二人の人影がカゲロウのようにゆらりと現れた。

 広場に立っているのは均整の取れた体躯の持ち主。屋根の上には女性だと思われるシルエットを持つ人物が立っていた。


 二人ともが真紅のローブを身に纏っている。

 それは忘れるはず無い。カンリューン公国、上級魔術師ディンギル・ハイドと同じものだった。つまり、


「カンリューン……四天王!」


 ゴゴゴ……という耳障りな音が、どこからともなく聞こえ始めていた。


<つづく>


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