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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆11章 灼熱の砂塵と勇者の逆襲 (ググレカスの大魔法 編)
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 賢者ググレカスの「方便」

【作者より】

500万PV達成しました!

これもすべて読んで下さる皆様のお陰に他なりません。

ほんとうにありがとうございました!

 

本日、短いかも……と予告しておりましたが、逆に長くなりました(汗


 ◇

 謁見の間を兼ねた「王の間」は、四方20メルテほどの広さで、外壁とは反対に白い御影石で組み上げられた床や壁が美しく、静謐な雰囲気の場所だった。

 高い天井を見上げると天井画のあちこちは崩れ、壁も一部が焦げて剥がれ落ちたままだ。かつてここでも激しい戦いが繰り広げられた事を物語っていた。


 エルゴノートの表情は俺の位置からでは知る由もないが、その胸中は如何ほどだろうか。

 幼き日々をここで過ごしてきた王子(エルゴノート)にとって、尊敬してやまない父王と愛情を注いでくれたであろう母君との思いでの場所であるはずだ。

 

 だが――。勇者は不意に後ろを振り返ると、ゆっくりと俺達全員を見回して、悲しみなど微塵も感じさせない優しい笑みを浮かべ、


「では、最後(・・)の仕事といこう!」


 力強くそういうと正面に向き直った。


 左右にはかがり火が焚かれ、勇者の鎧を赤々と照らしている。

 メタノシュタットの王宮のように高価な魔法の水晶ランプは数が少なく、あくまでも補助的な明かり程度として使われているようだ。


 殺風景な印象さえ受ける謁見の間だが、入り口からみて真正面の位置に質素な玉座があり、彫の深い顔立ちの40に届こうかと言う男が腰掛けて、俺達をじっと見つめていた。

 --サウザウト・ヨルムーザ。

 ブロンズ色の髪に青い目は、スピアルノやミリカたちとも通じる雰囲気を持っている。


 サウザウトの素顔にはいくつもの古い傷があり、体つきも戦士らしく筋骨隆々として、多くの修羅場を潜ってきた事を感じさせるものだ。


 百眼の兜に操られ錯乱した言動をしていた人物と同じとは到底思えない変わり様で、威厳に満ちた人物だと言う印象さえ受ける。


「サウザウト・ヨルムーザ陛下、拝謁(はいえつ)という(ほま)れに与り、恐悦に存じ上げます」

 エルゴノートがよく通る声で深々と礼をする。


「うむ……痛ッ!」

 サウザウト・ヨルムーザは頷こうとして苦痛に顔をゆがめた。

 激痛に座っているのもやっとのようだ。見れば全身傷だらけで、包帯を手や足にまでグルグルと巻いていて痛々しい。

「お、王!?」

「ハ、ハハ、これしきの事、何でもないわ」


 呪いの品を体から引き剥がす為とはいえ、エルゴノートの雷撃や、ファリアの超絶衝撃波、レントミアの攻撃魔法をまともに食らったのだ。むしろ生きているのが不思議なくらいだ。


 玉座の周囲には同じくアーキテクトの呪縛から開放され、共に戦った水牛の半獣人ツキナミ・エルグス、資源掘削担当のコグマー・ナインス、宮廷画家のツクネ・クネィス、そして俺達をここまで案内してくれた竜人(ドラグゥン)の親衛隊長ヒン・ヤリシャーワがいた。

 ヒン・ヤリシャーワはちらちらとエルゴノートのことが気になるらしいが、目線が合いそうになるとサッとうつむいてしまう。


 王の苦悶の様子に、仲間達は気遣う様子を見せつつも、王に手で制されてその場から動かない。

 

 謁見の間にいるのは、国の施政を司る大臣らしい老人が数名と、剣を腰に下げた若い兵士が10名ほど、それと宮廷勤めの魔法使いが数名見える。皆が王の様子を心配している。


「勇者さま、賢者さま! そして皆様ようこそ! お待ちしておりました」


 言葉を出せない王に代わり、咄嗟に明るい挨拶の声をあげたのは、ミリカだった。少女の澄んだ声色にはっとするが、すぐにイオラとリオラと小さく手を振って年頃らしい笑みを交わす。

 傍らには祖父のバーミラス、そしてその横には、二人に良く似た顔立ちの三十路をすぎたばかりの男が杖を持って立っていた。

 俺に深々とお辞儀を返してくる姿をみると、どうやらあれがミリカの父親の魔術師、ヒルミナルのようだ。


「よ、よぅじょなのねん! か、可愛いのねん!」

 何処かで聞いたような口調に振り返ると、じっとこちらを見つめる金髪碧眼の美女がいた。

 ――ツクネ・クネィスか……。

 生身(・・)の姿には初めて生でお目にかかるが、俺達と年はさほど変わらない。腰まで伸ばした金色の絹糸のような髪を後ろで束ね、大胆なヘソだし衣装が芸術家気質(・・・・・)を表している。

 よく見ると折角の服や手が絵の具で汚れていて、どこかマニュフェルノに通じる雰囲気を醸しだしている。当のマニュフェルノも同じ匂いを感じ取ったらしく、何故か互いに妙なライバル心が見え隠れする挨拶を交わしていた。

 

 しかし、ツクネ・クネィスの邪な熱の篭った目線は完全に俺の両脇にいるプラムとヘムペローザに向けられて固定されていた。むふぅという荒い鼻息がここまで聞こえてきそうだ。


 ――こいつ、ほんとにアーキテクトの呪いが解けたんだろうな……?


 俺はちょっと心配になるが、ファリアもルゥも、そして俺も、共闘したツキナミやコグマーたちと会釈を交わしている。緊迫していた謁見の間は、ようやく和やかな雰囲気に包まれた。


 本来は向うに魔法生命体のヤー・グゥチも居たのだろうが、今は小さな金属の塊に還元され、俺の腰の小物入れに入っている。「捕虜」という訳ではないが、せめてもの戦利品(・・・)として俺が頂くことにしたのだ。返せと言われない以上はお持ち帰りし、あとでじっくり分析する事にする。


 互いの無事を確認している間に、サウザウトがどうやら気をとりなおしたようだ。

 顔色は優れないようだが、エルゴノートはその様子に気遣うかのようにゆっくりと、しかし、はっきりとした口調で用件を述べはじめた。


「私はメタノシュタット全権委任大使エルゴノート・リカルにございます。我らは此度(こたび)の貴国による一方的な敵対行動について、真意を問う為に伺った次第でございます」


 本来、ここに来た目的は正式な和平の口約束を取り付けることだ。


 途中で戦った魔女の件は今は不問だ。理由は後で明らかにするつもりだが……。


「エ……エルゴノート・リカル殿、そして皆の者。遠路はるばるご苦労であった。まずは、このワシと仲間達を救ってくれた事に礼を言いたい」

 

 息も絶え絶え、といった様子で脂汗を浮かべながら、礼をする。


「もったいないお言葉痛み入ります。我らはこの国に厄をもたらす悪霊と、その呪いを祓ったまで。しかし、お怪我の具合がよろしくないようで……」


「こ、こんなものかすり傷よ。この国を奪おうと画策した邪悪な魔女(・・)と、その呪いの宝具(・・)との戦いで受けた、名誉の負傷よ……ハハ」


 ――よし、いい演技だ。


 俺が昼間の死闘の後に伝えたセリフを、サウザウトの仲間達はきちんと王に伝えてくれたのだ。

 サウザウト王自身の口からこの言葉を引き出せねば、この戦いの意味がメタノシュタット側に疑われる。

 つまり――。「邪悪な魔女が、今回の一連の事件を引き起こした」というシナリオが。


「我らもかなり苦戦いたしましたが、差し迫っての脅威は無いものかと存じます」

「そうか。では……、ここからは単刀直入に……いこうではないか」


 暫定君主とはいえ、流石は一国をまとめていた男だ。苦痛に顔をゆがめながらも、威厳のある声で言う。

 ツキナミや、ヒン・ヤリシャーワたちも姿勢を正し、エルゴノートの声に耳を傾ける。


「我らは平和の使者としてここに参りました。邪悪な一派に奪われたとはいえ……危険な鉄杭を我が国に打ち込み、人心を恐怖と混乱に陥れたこと、どのようにお考えか? ここにある水晶球に向け、納得できる説明をしていただきとう存じます」


 エルゴノートは完全に任務に徹する特使としてそこに立っていた。

 現王から王座を奪う為でも、自分が正当な王だと主張する事もなく、ただ淡々と。


 ――エルゴノート……。


 元来はこの国の王族であり、王の椅子に座っていても不思議ではない。

 だが、その運命に文句をいう事もなく、責務を果たそうとする姿勢に俺は胸を打たれた。

 ファリアもルゥも、レントミアもマニュも、いつもとはまるで違う「働く男、エルゴノート」をじっと見つめている。


 サウザウト・ヨルムーザはやがて深く溜息をつくと瞳を閉じて、そして意を決したように口を開いた。


「メタノシュタットの大使エルゴノート殿、水晶球を通じて聞いておられるメタノシュタットのコーティルト・アヴネィス・ロード王陛下と、そして……貴国の(たみ)全てに心よりの謝罪を申し上げる。そして、貴国との休戦と……和平を望みたい」


「…………!」


 ネオ・イスラヴィアの暫定君主、サウザウト・ヨルムーザは掛け値なしで自分達の非を認めた。全面的な謝罪と和平の意思――。

 この言葉さえ引き出せれば、俺達の仕事はここまでだ。水晶球を通じて今の言葉をメタノシュタット王が聞いていれば、これで講和となる。


 俺は、緊張した様子で黙っているプラムとヘムペローザの頭を撫でて、イオラの居るほうへ行くように促した。「難しいお話」ばかりしている所には居たくないのだろうが、あとで沢山遊んでやるから、もうしばらくの辛抱だ。

「リオラ、水晶球を」

「はい、賢者さま」

 リオラがすっと近寄ってきて水晶球を差し出した。俺はそれを受け取ると頭よりも高く掲げて、水晶球に向けて深々と礼をした。


「コーティルト・アヴネィス・ロード陛下、今の言葉、しかとお聞きになりましたか?」


『――うむ、聞えておったぞ賢者ググレカス殿、そして勇者エルゴノート殿。ご苦労であった。サウザウト王の言葉は余の耳に確かに届いたぞ。一国の王たるもの、完全に非を認めるなどなかなかできるものではない……。人民のため平和を願う心に違いはないのじゃ。ワシは心打たれた。サウザウト王よ、ここは腹を割って話し合おうではないか』


 コーティルト・アヴネィス・ロードの言葉に、ザウザウト・ヨルムーザはよろよろと立ち上がると、そのまま深々と礼をした。

 家臣たちも交わされた和平への道を確かめるように、顔を見合わせて頷きあう。

 溜息のよな、安堵のような空気が場を支配してゆく。


「お心遣い感謝いたします、聡明なるメタノシュタットの王、コーティルト・アヴネィス・ロードよ」

 

 と、互いに顔を見合わせたとき、水晶球の向うで甲高い声が響き渡った。


『――では王陛下、ここからの戦後処理(・・・・)駐屯政策(・・・・)交渉は私が行いますゆえ』


 メタノシュタット王政府、統合軍および戦時経済統括大臣、セイベーン・ムリラ。カマキリ顔の官僚上がりの役人だ。


「な……!?」

 エルゴノートの顔色が変わる。同時にネオ・イスラヴィア側にもざわざわと動揺が走った。

 互いに和平を宣言した場合、その関係は対等であり、どちらか一方が賠償を請求したりできるものではない。これはいわば痛み分けで手打ちにしよう、というルールなのだ。


 だが、セイベーン・ムリラは「駐屯政策」と言ったのだ。

 今や抵抗する力の無いネオ・イスラヴィアの王都を占領する為に既に軍を動かし、戦後処理の名の元に占領する、という意思の現れと捉えられかねない。


『まず、我が国の駐留武官による現王権の行使の監視、および軍部指揮系統のメタノシュタット軍への移管、それと――』


 セイベーン・ムリラの読み上げる政策は、事実上自治権を奪うものだった。みるみるサウザウトとその臣下の顔が青ざめ、そして怒りを露にする者まで出はじめた。


「ググレカス、これでは……!」


 エルゴノートが動揺の色を見せた。折角の講和の合意が、骨抜きにされ台無しにされかねない。

 ファリアやルゥ、そしてレントミアにマニュフェルノでさえも、雲行きの怪しさを敏感に感じ取り顔を見合わせる。


「不穏。ググレくん……!」

「あぁ、そうだな」

 

 ――そろそろ俺の出番か。


 ふと目線を肩に向けると肩に座るメティウスは静かに頷いた。目線で合図をすると、すっと戦術情報表示(タクティクス)を俺に指し向けた。

 そこに映し出された「調査結果」を一目見て、俺は不快なカマキリの声を遮った。


「お言葉ですが――セイベーン・ムリラ殿。貴殿は何か……、勘違いをされておられるのではないでしょうか?」

 俺はメガネを指先で持ち上げて、そして全員に聞えるように声を張り上げた。

『なに……?』

 細いつりあがった目を不快そうにこちらに向ける。


「ネオ・イスラヴィアは力を持った独立国であり、講和は対等の国家同士で交わされるものでございます。決して一方的なものではありますまい」


『何を申されるのかと思えば……。賢者ググレカス殿! 我が国が疲弊した隣国を支援して差し上げようと申し出ているのではないか? いや…………。貴君らの平和特使の役目は終わったのだ。ここからは我ら事務方の範疇……口を挟まないで頂きたいものですな』


 不快なカマキリ顔が青筋を立ててソロバンで俺をビシリと指す。

 その後ろでコーティルト・アヴネィス・ロードは、じっと俺の言葉に耳を傾けている様子だった。

 俺はしれっとした顔で七三分けのカマキリ臣を無視し、メタノシュタットの王に声をかける。


「陛下、発言の無礼をお許し下さい。細かい事情は先刻(・・)お伝えした通りでございます。即ち――、ネオ・イスラヴィアが開発中だった『新型交易用輸送(・・・・・・・)システム』の実験中、国家乗っ取りを企てる魔女が襲撃し『輸送用金属飛翔体』すなわち『鉄杭』を発射し、メタノシュタットとネオ・イスラヴィア両国に混乱をもたらさんとした――と」


 サウザウト・ヨルムーザや、その配下の大臣、そして仲間達が、驚き目を大きく見開く。全員がそして何かを察したように静かに口をつぐむ。


「平和特使であるエルゴノート以下我らディカマランの英雄と、ここにおられるサウザウト・ヨルムーザ陛下と優秀な戦士達により、魔女の邪悪な野望を打ち砕いたのでございます。テロ行為に共同で立ち向かった我らの活躍により、確かにネズミの被害は出ましたが、人的な被害もなく済んだのではございませんか?」


 俺の言葉にカマキリ男が唖然とし、口をパクパクとさせている。


 一方的な戦争行為は確かに罰せられるべきだが「テロ行為」による攻撃ならば国家そのものに責任を問える物ではない。共に被害者――つまりは同じ立場なのだから。


『な!? だが! だが! それならば尚の事、手厚い我が国の庇護下に入る事で安定と……』


「入れて頂く必要などございません」


 俺は毅然と言い放った。


『な、なに?』


「ネオ・イスラヴィアは、一国家として、地下に眠る鉄、銅、亜鉛、鉛、(スズ)、その他希少金属素材の輸出国家としてこれより経済を立て直し、独自に復興の道を歩んでいく……と、サウザウト陛下は仰せられております」


 俺はそこまで言い終わると礼をして、水晶球をサウザウト王のほうに向けた。


『――賢者ググレカス殿の言う事、相違はござらぬか、サウザウト王よ』


 金切り声を上げようとするカマキリ大臣を制し、コーティルト・アヴネィス・ロードが大きな体を揺すり、水晶球に顔を近づけた。青い瞳は全てを見透かしたかのように鋭く、さすがの俺も気圧されそうになる。

 だが、俺もサウザウトも視線を曲げる事もなく真っ直ぐに王を見返す。

 そしてサウザウト・ヨルムーザは頷き、こう付け加えた。


「我らの魔術師集団が開発した『新型交易用輸送(・・・・・・・)システム』通称ヴァビリニア・カタパルト。これを利用した画期的な空中輸送(・・・・)により、輸送コストの大幅な減、つまり驚くべき低価格で、貴国に高純度の金属素材を安定供給が可能となります」


 お、おぉ……! と「王の間」にいた人々からどよめきが起こった。


 王のセリフは俺が事前に考えた「方便」が混じっていた。

 ――あれは兵器でも何でもない「効率的な輸送システムなのだ」という、方便(・・)が。


『だ、だだっ! 騙されてはなりませんぞ王! あんなもの兵器に決まっている! 我が国の中枢を……狙えるのですぞ!?』


 意外と鋭いな、と俺はカマキリ大臣を少し見直す。だが、所詮は俺の手のひらの上だ。


「現在我が弟子の魔法で凍結中(・・・)のヴァビリニア・カタパルトの魔法制御中枢は、この私、賢者ググレカスが責任を持って改変いたします。すなわち、射程距離の制限です。ここから射出した商品(・・)は、危険の無いメタノシュタット西部の無人の荒野地帯へ落下させる。僅かなコストで金属を手に入れ、メタノシュタットは代金を支払う……これで如何でございましょう?」


『うむ……! それは良い考えじゃ、我が国にとっても鉄や銅は喉から手が出るほど欲しい! しかし強欲なカンリューンも、マリノセレーゼも、高値で売りつけようとするばかりじゃ……。これは悪い話ではない。お互いに国家として対等の交易を望む。よろしいであろうか? ネオ・イスラヴィアの王サウザウト・ヨルムーザ殿よ』


『い、いけません、こんな若造の何処の馬とも知れぬ口車に乗っては……!』

 まだ食い下がるカマキリ大臣に、俺は切り札の一言をぶつける。


「……随分と豪華なお屋敷にお住まいのようですねセイベーン・ムリラ殿。まぁ……軍と経済を独占的に管理される大臣ならば当然か? 会計決裁(・・・・)に多少の齟齬(・・)があっても誰も気がつきますまい……」


『――な、ななな! なぁああ!? なんで、なんでそれを!? あ、わ、わわっ! わかった、まて、それ以上何も……!』


「特に5月の報告あれは酷いものだ。なんですか? 国家収支全てから0.01パーセントつづ集め、貴方の絵画購入費9万ゴルドーに化けた? 呆れるほどに巧妙だ。もっと読み上げましょうか?」


 検索魔法(グゴール)でメティウスが調べ上げてくれた調査結果を読み上げた。効果は抜群だったようだ。


 セイベーン・ムリラのカマキリ顔からサァッと血の気が引いた。脂汗を垂らし、顔を赤くし、白くし、そして……。

 俺はとびきり邪悪な顔で水晶球に冷たい視線を送る。カマキリ大臣セイベーン・ムリラはそのまま青ざめてへたり込むと、もう放心状態だった。


『か……は……』

「俺を誰だと思っている? 賢者を……舐めるなよ」


 大臣にだけ聞えるように俺は言い放った。和平に水を差す強欲大臣にはいい薬だ。


『もうよい。大臣(・・)をつまみ出せ。背任(・・)は許さん。そして――、すべての懲罰軍を撤退させよ! これはワシの勅命じゃ!』


 コーティルト・アヴネィス・ロードが雷のような凄まじい声で号令を発すると、その場にいた官僚たちが泡を食って走り出した。


 ◇


<つづく> 

※明日、章完結



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