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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆11章 灼熱の砂塵と勇者の逆襲 (ググレカスの大魔法 編)
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 首都インクラムドの王宮へ

「時間だ、行こう」


 ひとときの食事と休息を終えた俺たちは、身支度を整えると、いよいよ宮殿へ向けて出発することにした。

 半日に満たない時間だが、ネオ・イスラヴィア側の政治的な調整(・・)が終わっているはずだ。即ち、停戦協議の受け入れと事情説明のシナリオについてだ。


制御系術式(コントローリア)正常、自動姿勢制御術式(オートバランサ)正常、――(ニュー)陸亀(グランタートル)号――発進します!」


 メティウスが肩で鳥が歌うような声で囁いた。


「よし微速前進。進路はこのまま、インクラムド宮殿に向かおう」

「承知致しましたわ、賢者ググレカス」


 しばしの休息を経て妖精メティウスはすっかり元気になったようだ。俺の魔力残量も40%程度には回復し、短時間の戦闘ならば問題なくこなせるだろう。


 戦術情報表示(タクティクス)には首都インクラムドの市街地の地図と重なって、賢者の館を示す青い点が表示されていた。周囲三百メルテには敵影も無く、ここから先の進路を阻むものは無いはずだ。

 このまま市街地を1キロメルテも進めば王宮前の正門へとたどり着く。そこからの宮殿内は当然徒歩だが、エルゴノートの実家でもあるわけで道案内には事欠かないだろう。

 

 ゆるやかな振動を伴って一歩、館が歩き始めた。砂漠の向うに落ちてゆく太陽の赤々とした夕陽を背に賢者の館は進んでゆく。


「みんな手を振ってるのですー」

「肉の煮込みがとっても美味かったにょー!」


 周囲に集まっていた街の住人達は「賢者の館」を見上げて手を振り、エルゴノート王子の名を呼びながら声援を送り、お祭り騒ぎで俺達にを見送っていた。

 視覚撹乱の魔法は解除してあるので、館の縁で手を振るプラムやヘムペローザの姿は見えているだろう。


 エルゴノートも勇者の鎧を身に纏い、宝剣――雷神(サンダガード)黎明(ホルゾート)――を杖のように地面に突き立てて、凛々しい姿で人々に手を振って応えている。その姿は王族の気品すら漂わせていて、いつもの飄々とした兄貴という感じではない。


 俺は動き出した館の上で、長老リディナールが語ってくれた話を逡巡していた。


 長老の話によれば――

 

 魔王大戦により首都インクラムドの人口は激減し、生き残った人々は食うに事欠く困窮のなかで日々を生きてきたという。しかし、誰もが明日の復興を信じ、「勇者になって魔王を打ち倒した」という噂のエルゴノート王子の帰還を待ちわびていた。

 そんな人々を纏めていたのが、暫定政権の王サウザウト・ヨルムーザだ。国の再興に尽力していたというサウザウト・ヨルムーザは、間違いなく「良き王」だったらしい。


「あの女が現れるまでは……のぅ」


 長老は瞳を険しくした。

 魔王大戦で仲間達と共にオアシス都市カーニャン防衛線を戦い抜いたサウザウトは、苦しむ人々の気持ちを汲んでくれると、生き残った街の人たちは仁徳のある政治を喜んだと言う。

 しかし――。

 所詮は軍人上がりの武人。人心を掌握は出来ても、経済には疎く、一年たっても一向に暮らし向きは良くならなかったという。

 王を名乗った所で、地方の暫定領主(・・・・)とみなされ、メタノシュタットやマリノセレーネ、カンリューン、いずれの国との交易も上手く行かなかった。


 そこで、独自の経済発展をめざし、新しい事業にと考えたのが、首都インクラムド周辺に眠る莫大な金属資源を精製し交易に利用することだった。


 魔術師達に呼びかけて、魔法力を使った精錬炉を作り上げ、純度の高い鉄の精錬に成功した時、その女は現れたのだという。


 ――ダークエルフの魔女、アルベリーナ。


 仲間達と共に発掘したという太古の『魔法の宝物』を売りにきた、と最初は言葉巧みに宮殿を訪れたという。

 長老リディナールをはじめ、魔法使いバーミラス、その息子ヒルミナル、その他の宮廷に勤めていた魔法を使う者達はみな、魔女の瞳の奥に潜む底知れぬ「邪悪な気配」を感じ、王に耳を傾けてはならぬと進言した。

 しかし、遅かった。

 その宝物が全て、宮殿地下の宝物庫から知らぬ間に盗み出された物と気がつくものは居なかったのだ。

 サウザウト王に近づいたアルベリーナは、妖艶な気配と、未知の気配を宿した魔眼で、王を惑わせたのだという。

 

 サウザウト王は自ら目玉模様の不気味な面を被り、やがて人が変わったような言動を繰り返し「新世界の王」を宣言、メタノシュタットへの攻撃を開始した。


 王宮に勤める大臣も、武官も、魔法使い達も、誰も王には逆らえなかった。

 抵抗を試みた者もいたが、かつてのサウザウト・ヨルムーザの仲間達も、まるで人が変わったかのように、圧倒的な魔力とパワーでねじ伏せてしまったのだ。

 そう。

 いつの間にか王を支える仲間達だった、戦士ツキナミ・エルグス、鉱床発掘の達人コグマ・ナインス、そして宮廷画家ツクネ・クネィス、そして親衛隊のヒン・ヤリシャーワ。その全員が魔女の呪われた魔法道具に心を蝕まれていたのだ。


「お願いでございます、賢者ググレカス殿……! サウザウト・ヨルムーザ王は乱心したとはいえ、我ら国民の願いは平和だけですのじゃ……。何とぞメタノシュタットとの和議を……」

 長老はそこまで言いかけて、口をつぐんだ。

 自分には出すぎた事だと思ったのだろう。俺は静かに長老の肩に手をかけ、王の呪いが解けたこと、そしてエルゴノートと共に戦争を停めるための親善大使としてここに来たことを告げた。

 

 だが――。

 

 (サウザウト)とその臣下の乱心という事実は隠せない。しかしサウザウトとその仲間達は正気に戻り、事態の重大さに愕然としていた。

 だから俺は交渉の形を取り成すための準備をと提示し夕方まで待ったのだ。

 鉄杭に関する行いを謝罪し、詫びた上で、俺達が如何にしてメタノシュタットの王サイドを説得できるかにかかっている。

 メタノシュタットも困窮している事には変わりはない。戦争には莫大な費用が必要で、大国とはいえそれに耐えうる状態ではない。だからこそ俺達親善大使に講和を依頼しているのだ。

 

 ならば、互いのメンツを保ちつつ講和に持ち込むのが最良の策であり、着地点だろう。

 

 ――スケープゴートになってもらうのは、あの魔女しかあるまいが……。

 

 太陽が沈み始るころ、俺達の賢者の館は宮殿へと辿りついた。

 謁見に望むのは全員でと、俺は最初から決めていた。

 イオラとリオラ、そしてプラムやヘムペローザも学舎の制服を纏うように指示を出す。


「緊張するよ、ぐっさん」

「賢者さま、私たちはどうすれば……?」

「留守番でいいのだがにょぅ……」

「プラムは、ちゃんとお利口にできるのですよー」

 心配顔のみんなに、俺は笑顔を向ける。

「何も心配ないよ、怖い怪物も来ないから、しっかりと背筋を伸ばしていればいいさ」


 思い起こせばメタノシュタットを旅立ってから早8日。

 鉄杭により(もろ)くも打ち砕かれた平穏な日々に別れを告げ、俺たちはここまで旅をしてきた。戦いと苦労の連続だったがここを上手く乗り切ればそれも終わる。

 

「緊張。いよいよ王様とご対面ですね」

「ま……、ご対面も何も、昼間全員でボコボコにしたのが当の王様だけどな」

 言うまでもなく『百眼の兜』に操られていたのはサイザウト・ヨルムーザその人だ。


「建前。もうメタノシュタットとの水晶球(・・・)中継(・・)が始まってますから、一応そういうことに」

「さすが作戦参謀(・・・・)マニュ、わかってるじゃないか」

「参謀。メガネ同士ですし」


 マニュは俺の真似のつもりかメガネを指先で持ち上げてニッと笑って見せた。緊張していた俺も、流石につられてへへっと笑ってしまう。


 マニュフェルノの言うとおり、ついさっきからメタノシュタットとの水晶球通信の回線がつながっている。

 この水晶を通じて俺達の言動は、謁見の間メタノシュタットへと送信される事になる。


 そして、いよいよ黒い宮殿が目の前に迫っていた。

 

 ◇


「ネオ・イスラヴィア国王、サウザウト・ヨルムーザ陛下がお待ちでございます」


 宮殿の前で俺達を待っていたのは、銀色に輝く親衛隊の鎧を纏った竜人の少女、ヒン・ヤリシャーワだった。

 昼間の雰囲気とはうって変わって、凛とした顔つきで赤い尻尾をなびかせている。


「行こうか、勇者エルゴノート」

「あぁ、賢者ググレカス」


 俺とエルゴノートは互いに真面目な顔で頷き合うと、宮殿へ向けて一歩、足を踏み出した。


<つづく>


【さくしゃよりのお知らせ】

いつもお読みいただいてありがとうございます!

ここ最近PVが大幅に伸びまして驚いております。

(お、お気に入り登録も……お願いしますね。。チラチラッ)

 今更ですが、基本的にググレカスは「昼12時に最新話」をUPします。

(夕方から夜に更新している場合は、誤字の修正などでストーリーに変更などはありません。また、休載する場合は前日に予告します)


今日明日とシリアス展開ですが、明日の更新をおたのしみにー!



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