表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆11章 灼熱の砂塵と勇者の逆襲 (ググレカスの大魔法 編)
254/1480

★勇者エルゴノート・リカル、という希望

 テーブルの横に置いてあった水晶球が突然光を放つと、聞き覚えのあるダミ声が響いた。


 メタノシュタット勤めの王宮魔術師たちが心血を注いだ魔法の便利アイテム――水晶球――は、以前はテーブルの上にきちんと置いてあったのだが、事あるごとに転がって落ちたり、賢者ガジェットの掃除機(ノレンバ)に吸い込まれたりするので、暖炉脇の小物入れの中に投げ入れていたものだ。

 段々と扱いが雑になっているのは否めないが、メタノシュタット王城と通信に使うとき以外は邪魔になるし、時々こうして敵であるサウザウト・ヨルムーザが突然割り込んできたりしてウザいという理由もある。


『カーカカ! 親愛なる賢者と御一行の諸君……ご機嫌はいかがかな?』


 水晶の向こうに、黒い衣装に身をくるんだ大柄な男が見えた。不気味な「目」の文様が描かれたトンガリ布をスッポリ頭から覆っている。表情こそ見えないが『百眼の兜』という呪いのアイテムを被り続けているせいか、心なしか以前より声には張りが無く、すこし疲れているような印象を受ける。


 何度か似たような挨拶を聞いた俺とエルゴノートはいい加減うんざりしていたが、相手は敵であっても国家元首だ。礼儀に乗っ取って礼をして、そして顔を見合わせた。


「ご機嫌も何も……なんだか気が滅入るな」

「しっ。エルゴノートは元王子なんだし、ちゃんと相手をしてやってくれよ」

「勘弁してくれよググレ、そもそも何だってこんな夜更けにこんな奴と」


 俺とエルゴノートはボソボソとつぶやき合った。

 

 リオラに頼まれて皿を拭いていたらしいイオラが一瞬手を止めて水晶球をチラリと見るが、「またこの人か」という表情で興味なさげに次の皿を手にとって拭き始めた。


 ルゥとスピアルノは物音に反応し「にゃぅ……?」「きゅぅ……」と小さなあくびをしながら目を擦ったが、そのままろくに目も開けず、床に敷いてある厚手の絨毯の上に二人でゴロリと横になって体をまるくした。

 体を丸めて寝る姿は二人とも似ていて、子猫と子犬が暖炉の前で眠っているかのようだ。

 俺はリビングの隅に置いてある小さなソファに丸めてあった毛布を取りに席を立ち、二人の上にかけてやった。


『おぃっ!?』


 歓迎されていない空気を感じ取ったのか、覆面王サウザウト・ヨルムーザは声のトーンを上げて水晶球に顔を近づけた。


「あ、ええと、何の御用でしょうか?」


『きっ、貴様ら!? 余を無視するでない! よいか! ヴァビリニア・カタパルトを沈黙させたぐらいで……いい気になるなよ! アルベリーナごとき魔女を撃ち破ったぐらいで……新世界の王であるこの……サウザウトにはまだ奥の手……あ……がっ……ぁ……!?』


「お、おい?」

「一体どうしたんだ?」


 サウザウトが水晶球の向うで立ち上がり苦しそうに身をよじり始めた頭に被っていたトンガリ布をむしり取ると、黒い金属の表面に真っ赤な目がいくつも描かれた先のとがった兜が姿を現した。

 

『……よくも……。許さぬぞ、賢者ググレカス……! この世界は……我等のものだァァア……!』


 サウザウト・ヨルムーザの声色が変わっていた。暑苦しいほどに感情を剥き出しにするオヤジ声から一転、冷たく地の底から響くような、抑揚の無い声を吐き散らす。


「あれが百眼の……兜か!」


「……見るばかりも禍々しいな。イスラヴィアの地下宝物庫に封印されていたと聞く呪いの品か。サウザウト王自身の意識が侵食されている……のだな」


 エルゴノートが険しい顔つきで水晶の向うの兜を睨む。一目見てその異様さから本質を言い当てる勘の鋭さと洞察力こそが、エルゴノート本来の持ち味だ。


「そうらしいな。俺も呪いの品の話は魔女から聞いたばかりだが、出所はエルゴの故郷、イスラヴィアの地下宝物庫らしいが、見覚えは?」

「……ないな。俺も本物を見るのは初めてだ。だが、ひとつだけ」

「なんだ?」


「俺が子供の頃、父上に繰り返し聞かされていた伝承があってな」

 そういうと、エルゴノートはすらすらと詩をそらんじた。

 

 ――光と力、繁栄をもたらしていた大いなる魔法の輝きは消えうせた。

   黒よりも暗い深い深遠の永久(とこしえ)の闇の底、

   淀みの彼方から現れた『虚無』が全てを喰らってゆく。

   大いなる力は変質し、大地を引き裂き、森を砂に変え、海を血に変えた。

   逃げ惑う人々は生きたまま塩になり、絶望の嘆きが世界を覆いつくした――


 それはイスラヴィアに口承で伝わっていたという恐ろしい世界終焉の詩だった。


 俺の検索魔法(グゴール)もいくつかの単語に反応し、次々と書籍の中から関連のイメージを拾い上げてくる。

 検索魔法では調べられない言葉を探ったせいで、機能不全を起こしていないかと心配だったが、正常に動いてくれているようだ。


 ――だが『希望』は残されていた。

 それは光と雷で鍛えられた聖剣、運命の歯車を動かす女神ラーダ・ナータの名の元に、再び大地を、空を、そして世界を、光溢れる場所に導く、残された希望の剣――


「それがッ――!」


 エルゴノートは、肌身離さず身につけていた宝剣――雷神(サンダガード)黎明(ホルゾート)をスラリと抜き放った。


 雷光を纏う純鉄(・・)の剣は、白銀のようなまばゆい輝きを放ち、リビングに立ち込めていた闇の気配をを一瞬で吹き飛ばした。


「何ごとでござるっ!?」

「ルゥ猫……?」

 ばっ! と毛布を蹴散らして文字通り跳ね起きる猫耳の剣士は、エルゴノートの剣が放つ『剣気』に反応したようだった。スピアルノもその気配に驚き目を擦りながら何事かと辺りを伺う。

 ルゥの菫色の瞳は、今まで寝ていたとは思えないほどに鋭い光を帯びて、傍らの愛刀を握りしめると、禍々しい気配を放つ水晶球へと向きなおった。


 イオラが剣を抜いたエルゴノートに驚き、俺のところに駆け寄ってきた。エプロン姿のまま一枚の皿を手に持ったままだ。

「ぐっさん! い、いったい何!?」

「しっ、俺の後にいろ」

「う、うん」


「神話の時代、絶望の詩の最後に歌われた『残された希望』! それが、この宝剣、雷神(サンダガード)黎明(ホルゾート)よッ! 魔王デンマーンが欲し、魔女アルベリーナも狙っていたこの剣こそ……世界の『鍵』なのさ」


 精悍な顔に、いつもの余裕の笑みを浮かべ、そしてぱちんと片目をつぶる。


「な、エ、エルゴノート!? 鍵の事を……知っていたのか!?」


「知っているんじゃない。真実を感じるんだ。俺はこの剣に選ばれた男だからな!」


「は……はは!」


 俺は力の抜けた笑いを浮かべ、そして自分の愚かさと鈍さを呪う。

 僅か一つの単語を検索魔法(グゴール)が拾えないだけで慌てふためき動揺する俺は、賢者失格だ。

 本当に至極単純な事を見落としていたのだ。

 

 ――イスラヴィアの正当な王子にして、勇者(・・)であるエルゴノート・リカル。

 

 俺達の中心でいつも余裕をかましているこの男こそ、世界を救った男にして全てを知る者なのだ。という単純な事実を。


『……あぁあ!? それだ! よこせ、こちらによこせその剣を……! それは我等、設計管理賢人会議(アーキテクト)のみが持つべきもの! 正当なる我等、神にのみ許された……』


 ギョロリ! と、文様だと思われた赤い眼が一斉にこちらを睨みつけた。それは水晶球を通しても判るほどの呪詛を放っていた。

 

「黙れ! 神を(かた)るんじゃない、呪いに身をやつした……亡霊が!」


 エルゴノートは、凛とした声で剣先を水晶球に向けた。


『――ぐ、グギャ……!?』


 ただそれだけで水晶球の向うの『百眼の兜』の闇の気配が背後へと吹き飛ばされるのが見えた。生きた目玉のように蠢いた眼球は元の文様へと姿を変え、サウザウト・ヨルムーザの体がよろめき、玉座に倒れ付す。

 

『お、おのれ……おのれ! 貴様……! はぁっ! はぁっ! ……て、……くれ……ワシは』


「サウザウト・ヨルムーザ!?」


『が……はっ、もう……押さえられぬ……取れぬのだ、この呪いの……面は』


 僅かに残ったサウザウトの意思が再び表に表れつつあった。


「王よ! それを脱ぎ捨てるのだ!」


『無理だ……頼む……、殺してくれここに……は、既に……すでに、復活を』


 サウザウトの声が苦悶に歪む。再び『百眼の兜』の眼がギョロギョロと四方をバラバラに睨み、再び王の意識は飲み込まれた。


『お……恐るべき剣よ、水晶球を隔てても、()らの存在(・・)を揺るがせる……!』


 と、その時。

 別の声が次々と水晶球の向うから響き渡った。


『まだ、支配しきれぬか? たかが人間風情一人に何を手間取っている?』

『フッ……。アーキテクトの名を冠するものならば、新しい肉体とはいえ一日でば支配できなくて、どうするのかしらん?』

『ドゥジー夫妻(・・)は消されたネ……事を急ぎすぎたネ』

『1000年ぶりの地上ッ……! ワクワクするねッ!』


 水晶球が広間を少しはなれた位置から映し始める。

 そこに並んでいたのは暗くて細部までは見えないが、巨大な角を生やした半獣人、ドリルのようなものを背負った小柄な人物、明らかかに人間ではない存在、そして、神官のような金髪の女、そして竜人らしい少女――。

 サウザウトを含めれば、6人。


「お、お前たちは……!?」


挿絵(By みてみん)


 突如、夜の風が館の窓を揺らした。

 ゴ、ゴゴゴ……と遠くから地鳴りのように響くのは風の音だ。

 その場にいたルゥもスピアルノも、イオラもその迫力に身じろぎ一つできなかった。


『君が賢者ググレカス? そしてそちらが勇者エルゴノートかしらん? あぁ、はじめまして、かしらん? 私達こそこの世界を真に統べるもの。千年帝国(サウザンペディア)設計管理賢人会議(アーキテクト)、なのかしらん?』


 神官のようにサウザウトの傍らに立つ金髪碧眼の女が水晶のこちらにいる俺達に語りかけた。


 そこにはサウザウト・ヨルムーザを含め、六人の人物が揃っていた。つまり『呪われた八宝具』の残り6つの呪いの品を身につけてしまった者達ということだ。


『明日の謁見(・・)を、楽しみにしておるぞ。メタノシュタットの英雄達よ』


 サウザウト・ヨルムーザは再び玉座に深々と腰掛けると、重く冷たい声で言い放った。


<つづく>


【作者よりのおしらせ】


 はいい、お待たせいたしました!

 コメント欄500レス突破記念特別企画!

先着5名様による読者様「敵キャラ化」登場となりました!


イラストを右からご紹介


ツキナミ・エルグス(水牛の半獣人)必殺技:デッドホーン・ハリケーン!

コグマ・ナインス(ドワーフ)必殺技:タブルドリルアーム!

(※真ん中のトンガリ君はサウザウトさん)

ツクネ・クネィス(僧侶)必殺技:神罰の触手

ヤー・グゥチ(魔法生命)必殺技:ゼロ・マギナ・フィールド

ヒン・ヤリシャーワ(竜人)必殺技:つるぺた体系による体術


さぁ! ググレ君ファミリーと対決だ!(ハァト)


そしてあえて言わせていただきます。


「激突必死、以下次号!」と!


(作者仕事の都合につき、感想返信が遅れますので悪しからず・・・)


ありがとうございましたっ!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ