ヴァビリニア・カタパルト攻略戦③
【作者からのお詫び】
本日、「ヴァビリニア・カタパルト攻略戦③」の内容が「ヴァビリニア・カタパルト攻略戦②」と同じだったようです、すみません!
(土下座)
19:00に差し替えました。
折角読みに来てくださった皆様にはご不便をおかけした事をお詫びいたします。
大変失礼いたしました。
◇ ◇ ◇
巨人型ゴーレム3体を瞬く間に粉砕した「賢者の館」は、再び一直線にヴァビリニア・カタパルトを目指して走り始めた。
後世の吟遊詩人が俺達の活躍を歌にして伝えようとしても「賢者の屋敷から生えた腕が砂の巨人を殴り砕いた」となるわけで、俄かには信じてもらえない御伽話になってしまいそうな気がする。ディカマランの賢者としてスマートな戦法をとりたいところだが、今は四の五の言っていられる状況ではない。とにかく鉄塔にたどり着き、機能を停止させる事が先決なのだ。
「ミリカ譲、館の鏡像達を分散させてくれ!」
「わ……、わかりましたっ!」
地元代表の鏡像倍化魔法使い手、ミリカがハッと我に返り返事をする。祖父と共にゲストとして招かれた彼女の目の前では、見たことも無いような魔法戦争が繰り広げられているのだから無理もない。
その隣で祖父のバーミラスは建物よりも人物のクオリティアップに余念がないようだ。特に女の子をつぶさに観察しては印を結び、難しい顔で呪文を追加詠唱してゆく。
「お二人の協力には感謝する。だが、ここから先は危険も増すことになるが……」
「フォフォ……なぁに! こんな楽しく血が滾るのは久しぶりじゃて」
「私も魔女が怖くて言いなりだったけど、本当は皆の役に立ちたくて魔法を父や祖父から習ったんです。だから……わたし、皆さんと一緒に戦います!」
俺は力強い言葉に静かに微笑み返すと、再び正面に向き直った。
砂漠の太陽は徐々に高く昇り、陽炎が砂丘の上で揺らめいている。その先には明らかかに人工的な捩くれた鉄の塔が見えた。
実のところ俺は敵の巨人ゴーレムと格闘戦を行っている間、鉄塔からの熱線攻撃を恐れていた。ゴーレム使いの術者やミリカ達を「捨て駒」にして容赦なく攻撃してくる様な事があれば、足の止まった俺達はひとたまりもなかっただろう。
――だが、流石に非人道的な攻撃まではしてこなかった……、というわけか。
俺は前方の黒々とした鉄杭を睨みつけながらも、口元を僅かに緩めていた。
ダークエルフの魔女アルベリーナは「本気の殺し合い」がしたいわけではないのだ。
目的はあくまでもエルゴノートの持つ「宝剣」の奪取、そして俺やディカマランの英雄達との「戦闘ゲーム」という訳だ。戦闘狂の顔を持つ魔女は、俺達との戦いを全力で楽しんでいるのだ。
ミリカが呪文を唱え終えると、4体の「コピー賢者の館」が一斉に分離、再び並んで走り出した。色や姿は一見すると同じだが、この僅かの時間の間に上に乗っている人間のダミーのクオリティは格段に向上していた。特に女の子(レントミアを含む)が……だが。
ちなみに俺とイオラは「同じ顔」で適当にコピーしたのがモロバレだ。爺さんになっても女の子には目がないようだ。
だが、思い返してみると灰色狼旅団の連中や爺さんだけでなく、更には同じ民族のエルゴノートも、とにかく「女の子大好き」なのだろう。
――ま、ある意味健全だが、これを逆手に取れないだろうか?
組織化された敵に対抗する策を考え始めた俺の視線の先には、赤毛をツインテールにまとめたプラムと、さらさらの黒髪のヘムペローザがイオラとなにやら真剣に話し込んでいた。
「ググレさまー、イオ兄ぃと『ふぉーめーしょん』を考えましたのですー」
「にょほほ、前衛はイオ兄ぃとプラム! マニュ姉ぇとワシが後衛にょ」
「これ以外の組み合わせがあるのかよ……」
イオラが苦笑するが、その横ではプラムが杭打ち用の大きな木槌を肩に担いで得意顔で並んでいる。当然「魔法使い見習い」のヘムペロは後衛だし、マニュフェルノは衛生兵として一緒に行動するらしい。
ヴァビリニア・カタパルトへの突入に際し、エルゴノートやファリアたちは最前線で戦ってもらう事になるのだが、銃後の防御を任せるためにイオラをリーダーとしてパーティを急遽編成したのだ。裏切りもとのして命を狙われかねないミリカとその祖父バーミラス、そして館の接近戦担当となって身動きの取れないリオラも守ってもらう為だ。
「マニュ、引率任せたぞ」
「男子。頼りになる男の子、イオラくんがいますから私はサポートのみですけどね」
「う、うん。ま、任せろよ」
マニュがイオラの両肩にぽんっと手を置くとイオラは頬を赤くした。リオラ相手なら手を握っても平気なのに、他の女の子には意外と免疫がないようだ。それはちょっと意外な発見だった。イオラも年頃だし本当は妹意外にも目を向けて欲しい所だが……。
「イオラチームは万が一、敵が乗り込んできたときの為だから、しっかり頼んだよ」
「あぁ! まかせてくれぐっさん!」
イオラにつづいてプラムやイオラ、ヘムペローザも頷く。
「賢者さま……。もう砂の怪物は来ないんですか?」
調子のつかめたリオラが俺のほうを振り向きながらワンツーパンチを繰り出す。館の両腕もそれをトレースしてブォンブォンと正確なパンチの軌道を描く。
「あ、あぁ……。だが次は……あの鉄塔が相手かもしれないな」
「鉄塔、ですか」
リオラが少し肩を落とす。
砂漠を走る俺達からヴァビリニア・カタパルトまでの距離は、既に1キロメルテを切っていた。
禍々しいほどに黒い「鉄の尖塔」はその全貌を現しつつあった。それはまるで天に住む神々へ挑戦するかのように鋭く尖った剣のようにさえ見える。
空に向けて延びている部分だけなら30メルテ程だが、砂丘の上で構造物を支えるための基礎部分や、塔の基幹部分に設置された「加速装置」と思われる環状の物体、それら全てをを合わせると、高さ50メルテ近い巨大な施設であるとわかる。
「ググレ殿っ! 鉄塔の上に人影が……!」
メンバーの中でもっとも敏感なルゥが叫んだ、じっと目を凝らして指を差す。
その先に俺も目を凝らし、戦術情報表示で画像拡大してみると、鉄塔の中央付近の「物見やぐら」のように張り出したデッキの上で、不鮮明ながら妙に露出の多い衣装を身に纏った女がなにやら喚き、部下達に指示を出していた。
黒い魔法使いのローブに髪は黒、肌は浅黒く……。
――シュスヴァルト・アルベリーナ!
「ググレ! あれ……やっぱり先生だよっ! 間違いないよ、ねぇ!」
レントミアが俺の腕を掴んで訴える。前回の戦闘時はレントミアは直接アルベリーナの姿を見ていないので今回が本当の再会という事になるのだろう。
エルフの里で出会っていたレントミアとアルベリーナは、どんな会話を交わしたのだろうか? 恐ろしい鉄杭というシステムを作り上げ、強力な魔法やゴーレムを使役し勇者エルゴノートの「宝剣」を狙う魔女――。
「そうだな、あの魔女を止めなくてはダメなんだ」
「でも先生は……優しくて……いい人なんだよっ!」
「そうか……。でも、わかってくれレントミア。おまえにとっては優しくていい人だったのかも知れないが、鉄杭を俺達のいる家に撃ちこみ、サソリのゴーレムで襲い掛かってきたんだ。わかるな?」
俺は前回対戦した魔女の狂気じみた様子を思い浮かべていた。どうもレントミアのいう「優しい先生」と同一人物とは思えないのだ。
「うん……。わかってるよ。けれどボクにはとっても優しかったんだ。でも、でも……今は……」
ハーフエルフは戸惑いの表情で視線を泳がせると、やがて小さな自分の手のひらを見つめて、そして、やがてぎゅっと握り締めた。
「ボクたちの敵――だ」
迷いのない翡翠色の瞳が俺に向けられる。
「レントミア……」
その胸に去来するものは何だろうか? もう戻ることはないという故郷での思い出と、俺達との冒険日々と、そして想像もつかない時間を生きてきた魔女との出会いをレントミアは天秤にかけたのだろう。
「先生はずっとボクの『先生』だよ。けれど……ボクはそれ以上に大切で、大好きなググレ達とずっと長い間一緒に旅をしてきたんだ」
「それに、俺の先生はレントミアじゃないか?」
「そうだね……ググレ。だから……、手を離さないでね」
――ボクが迷ってしまわないように。
そう小さく呟くと、レントミアは細くしなやかな手をすっと差し出した。俺は救いを求めるようなその手を、迷うことなく掴んで温もりを確かめた。
「もちろんだ。約束する」
ハーフエルフが涼風のような微笑を浮かべる。
「賢者ググレカス! た、大変です塔に……ヴァビリニアカタパルトに動きが!」
メティウスの声に戦術情報表示に映るヴァビリニア・カタパルトに目を向ける。しかし、いつの間にか塔の「物見台」から魔女アルベリーナの姿が消えていた。
「熱線砲か!?」
「ち……違います、これは……そ、そんな!?」
妖精メティウスが青い瞳を丸くして言葉を失う。俺ははっとして僅か300メルテにまで接近していたヴァビリニア・カタパルトを肉眼で確かめた。
そこには――。
巨大な鉄製の人型ゴーレムが今まさに立ち上がろうとしていた。
「ググレ! あれ!」
「な、なんだ……あれは!?」
「鉄の塔が変わっててゆくぞ!」
皆も異変を察知して口々に叫び指差した。
見れば、塔の基幹部分が二つに別れ「脚」のような構造を形成してゆく。その上には胴体に相当する塔の塊が載り更には「腕」の形をした鉄骨が伸び始めていた。鉄塔全体の形が、まるで早回しの映像のように次々に組み変わり別の形へと変貌していく。
つまり――人型へと。
「ば、ばかな! 変形……しただと!?」
ゆっくりとした動きで変形し立ち上がったのは、巨大な鉄製の人型ゴーレムだった。
右手は塔の先端部分がそのまま「砲」として装備され、左手には打撃用と思われる人間の腕そっくりの「鉄の拳」がギラリと光っていた。
顔にあたる部分は見当たらないが、その代わりに胸の部分には青白く光る「操縦席」らしい部分が見えた。目を凝らすとそこに黒髪のハイ・ダークエルフ、アルベリーナが座り、左右から突き出した鉄の棒を操縦かんのように握っている。おそらくあれが魔力を注入し制御するための魔導装置なのだろう。
その口元がニヤリと吊り上るのを、俺はただ唖然と眺める他なかった。
「――どうだい賢者ググレカス! これが……私の虎の子の魔法……ヴァビリニア・カタパルト『デストロイ・モード』さ!」
暑苦しい魔女の高笑いが砂漠に響き渡った。
人型の操縦できるゴーレム。その発想はこの世界には無い筈だ。
あるとすれば、俺が元いた世界の「人型ロボット兵器」そのものだ。
「アルベリーナ、一体それを……何処で知った!?」
「アハハ! 賢者ググレカァアス! 私に勝てたら……おしえてやるよぉおおッ!」
ギィイイ、と鉄の擦れる音を響かせながら、巨大な鉄の巨人が一歩踏み出した。