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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆11章 灼熱の砂塵と勇者の逆襲 (ググレカスの大魔法 編)
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★ヴァビリニア・カタパルト攻略戦①

 ――施錠魔法(セキュアス)……超駆動(アクセル)

 ――形態維持魔法(ソノマーマ)……超駆動(アクセル)

 ――近接戦闘(クロス)用両腕(アームド)、展開!


 ――隔絶結界の空間境界面安定、全球展開出力最大へ! 持続時間……600秒!


 俺が矢継ぎ早に魔法を励起してゆくと、戦術情報表示(タクティクス)には館の模式図に重なって、各種魔法の稼働状態が映し出された。


(ニュー)陸亀(グランタートル)号、最大戦速ッ!」


「おぉっ!?」

「きゃわわ!」


 今までの水牛のような歩みとは一変、まるで馬のような加速を見せた館に、皆が悲鳴と感嘆の声をあげる。

 賢者の館は全力で砂漠を走り始めた。

 大股で走る館にはスライムで生成した格闘戦用の両腕(・・)も展開され、それを振ることでバランサーの役割も果たす仕組みになっている。一見すると「手足の生えた半円形の地面の上に家が乗っている」というシュールで素敵な状態だ。この際、多少優美でないという問題は後回しだ。

 今は全力で熱線砲(・・・)を避け、鉄塔まで辿りつかなければならないからだ。


挿絵(By みてみん)


 疾走を開始した直後から館のガラス窓はビリビリと激しく振動するが、建物の中の皿やコップ、本が落ちる様子はない。施錠魔法(セキュアス)形態維持魔法(ソノマーマ)は「賢者の館」とそれを支える土地が崩れたり壊れたりしないための魔法だからだ。

 振動が伝わるごとに淡い魔法陣の光が一瞬だけ浮かび上がり、その効果が持続していることを示す。館の中の物は、どんなに激しく揺れようがコップ一つ、ペン一本とて動かせない状態で「固定」されている。


 賢者の館に生えた二本の()が力強く砂を蹴り、砂丘を乗り越えて進んでゆく様子は傍目には、さながら「屋敷界のアスリート(?)」だろう。


「ハッハッハ! これは……すごいな、腕まで生えるのか!」

「ググレの館がこんなに早く走れるとはな!」

「見たか、これが(ニュー)陸亀(グランタートル)号の実力さ」


 驚きめを丸くするエルノゴートとファリアに向けて、ぐっと親指を立てる。二人は揺れる館の一番先頭で腕組みをしたまま、余裕の笑みでを浮かべている。

 そんな様子を見てこそ俺は、安心して仕事に集中する事ができるというものだ。


「スピ犬はエルゴ殿の補佐を、拙者はファリア殿の補佐をするでござる!」

「うん、任せるッス!」


 俺が言うまでもなくルゥはファリアの傍らに、スピアルノはエルゴノートの傍らに並び立った。

 エルゴノートもファリアも威力の大きい大技を駆使するが、その分スキも大きく、射ち漏らした場合にピンチに陥りやすい。

 そこで素早い身のこなしの二人がそれぞれサポートに付く事で万全の布陣になるのだ。もちろんルゥは愛用の片刃の刀を、スピアルノは二本のナイフを帯剣している。


 俺達が進む先には尖塔、ヴァビリニア・カタパルトが威容を現しつつあった。黒光りするねじれた鉄骨のオブジェが、不気味な赤い光を灯している。


「メティウス、(ニュー)陸亀(グランタートル)号の維持を任せていいかな? 俺はここから先、操舵と戦闘指揮に集中する」

「お任せください賢者ググレカス!」


 メティウスは目の前でくるりとターンすると、自分専用の戦術情報表示(タクティクス)を展開し、俺の魔法を引き継いでくれた。

 俺の魔法の一部でもある妖精メティウスは今や魔法を代理実行してくれる優秀なアシスタントであり、なくてはならない存在(・・)だ。必要だと想う気持ちがそのまま擬態霊魂(ミリリアンソウル)である妖精を、この世界に繋ぎとめる力にもなっている。


「にょぅ、ワシの出番はあるのかにょ?」

 俺の左横にしがみ付いているのはヘムペローザだ。片手を腰に回し、もう片方の手でしっかりと俺のベルトを掴んでいる。


「もちろんヘムペロの力を借りたいが、とりあえず今はズボンがずれるからあんまりひっぱらないでくれ……」

「さっきから物凄くゆれるんだから仕方ないにょ!」


「プラムも! プラムも揺れるのでググレさまにつかまるのですー」

 プラムなどは揺れてもぜんぜん平気そうだが、ヘムペロの様子を見て「はっ」とした顔で俺に飛びついてきたのだ。

「お、おまえら状況判ってんのか!」


 プラムとヘムペローザにサンドイッチされたまま嘆息する。まぁ暫くの辛抱だ。


「両肩。わたしはググレ君の肩をかりるね……あわわ!」

「マニュ平気か?」

「平気。でも、ちょっと楽しいかも」


 マニュフェルノが後ろから俺の両肩に手をのせて、館が上下に揺れるたびにバランスをとっている。その顔は電車ごっこをしている子供みたいだ。

 

「きゃ……っ!」

 そこへもう一人、揺れたのをいい事に抱きついてきたのはレントミアだ。なにが「きゃ」なのか……。


「おまえは魔力強化外装(マギネティクス)でバランスをとればいいだろう!?」

「えー。ググレ優しくないよ? 先生(・・)は優しかったのになぁ……」

「あーもう、わかったよ!」

 それは笑えない冗談だ。そっと肩に手を添えて支えてやる。

「あ……ググレの心臓がドキドキいってる」

 悪戯っぽく笑いながら俺の胸にそっとエルフ耳を押し当てるレントミア。若葉みたいな綺麗な髪が顎の下でさらさらとくすぐったい。


 四方向から女の子(一名男だが)に囲まれて幸せそうに見えるかもしれないが、いつ熱線砲が飛んでくるかも分からない緊迫した場面なのだ。心臓ぐらいドキドキするだろう。

 とはいえ……。

「お前らに『傍にいろ』って言ったのはこういう意味じゃないんだよっ!?」


 そういえばイオラとリオラは? と振り返ってみると二人で互いに手を握り合い、地面が上下にゆれるたびにジャンプしてみたり、笑ったりと結構余裕があるようだ。


 確か二人は今日が誕生日のはずだが、とんだ誕生日になってしまったようだ。

 リオラは皆で食べられるようにと、さっきまで小さなパンを籠いっぱいになるほどに焼いていた。この振動で床に落ちては困るが、形態維持魔法(ソノマーマ)の効果で焼きたてのままテーブルの上に固まっているはずだ。


「超高魔力反応! また……あの熱線魔法です!」


 メティウスの声と同時に戦術情報表示(タクティクス)に真っ赤な警告表示が浮かび上がった。

 既にヴァビリニアの鉄塔から4キロ地点まで近づいていた。魔女も大切な鉄塔を破壊されまいと必死なのだ。ここは砂丘の凹凸以外は遮蔽物もなく、見晴らしもよい。となれば当然二射、三射と攻撃してくるだろう。


「バーミラス老、ミリカ譲! 頼む、この館のコピーを出来る限り作ってくれ」


 俺は馬車の荷台に乗ったままの地元の魔法使い二人に向かって叫んだ。


「ふぉ!? おやすい御用じゃ! 賢者殿の頼みとあらば……」

「じぃじ、人間じゃないからって手を抜かないでね!」

「任せておけ、ここにいる女の子達は細部(・・)まで忠実に再現して見せるわ!」

 くわっ! と元気になるじじいを孫娘がどつく。

「いや、そこは程ほどでいいのだが……」


 二人は馬車から飛び出すと、待ってましたとばかりに呪文を詠唱し始めた。数秒で魔法陣が足元を中心に広がって館全体を包み込んだ。


形態模写魔法(ウリーフタツ)――!」

鏡像倍化魔法(バイニフエル)!」


 老魔法使いと少女の魔法使いがそれぞれに叫ぶと、ボウッとした光と共に、まったく同じような「賢者の館」の幻が真横に出現した。

 

「おぉ!?」

「姿を真似た……幻の館か!」

「凄いのですー!?」

「にょほ? 人まで……ってワシらのコピーまで居るにょ」


 これには流石の館の面々も驚きを隠せない。


「ふぉふぉ、美少女達は特に念入りじゃ!」

「じぃじ無駄なこだわりとか要らないから!?」


 老魔法使いが言う通り、コピーの館に立つ人物も忠実に再現されている。どうやら鏡のようなコピーではなく、脳内で再構成された鏡像のようだ。


 実はやろうと思えば俺も似たようなことが出来るのだが、今回は無駄な魔法力は消耗できない。だからこの二人の協力があればと考えたのだ。腕は超一流なのだからここは任せるのが上策だ。


「さらに……鏡像倍化魔法(バイニフエル)!」


 ミリカ・ナトヌがもう一度唱えると、ドスドスと真横を併走していた偽の賢者の館のそのまた向うに、もう一つ同じような幻が現れた。

 姿形はもちろんのこと庭に立つ俺達の偽者や、庭の木々や館の屋根の色までも忠実に再現されている。


「これは凄いな! ありがとう二人とも、恩に着る」


 俺が気軽に礼を口にしたことに驚いたのか、二人は口をパクパクさせながら、うんうんと頷いた。別に俺は賢者だからって怖い人でもないし極めて常識的な好青年だと思うのだが……。

 だがこれで一撃でやられることはないはずだ。


志向性熱魔法(ポジトロール)、来ます!」

「揺れるぞ皆! 回避運動――ッ!」


 言い終わらないうちに、真っ赤な光の刃が隣を併走する()の館の屋根をかすめていった。そして2秒もしないうちに、背後の砂丘が派手に吹き飛んだ。


 爆発で館が大きく揺さぶられるが各部とも異常無し。

「いけるっ! このまま懐まで走り込むぞっ!」


 賢者の館は身を屈めるように砂丘を乗り越えてジグザグにひた走る。他の偽者の館も同じように機動し回避運動を取る。


「ふん……! さすがの魔女も鉄塔も、ダミーの見分けはつくまいよ?」


 先程よりも距離は近い筈なのに狙いが甘い。俺とレントミアの連携のような「精密射撃制御」は出来ないようだ。

 

 賢者の館と4体にまで増えた「偽賢者の館」は時おりポジションを入れ替えながら砂漠を疾駆する。

 

 と、戦術情報表示(タクティクス)に別の反応が現れた。


索敵結界(サーティクル)に魔力反応を検知! 敵、ゴーレムと思われます」

「接近阻止という訳か……」


 目の前の砂丘がモリモリと人型に変貌し、身の丈10メルテもあろうかという巨大な砂の人形へと変わっていった。

 ゴーレムの頭の部分に一人、肩の部分に二人の魔術師が見えた。これだけ大きな術式ともなれば、複数人で操作するのが普通だからだ。

 

 出現した砂の巨人型ゴーレムは全部で3体――!


 戦術情報表示(タクティクス)を確認すると、ここはヴァビリニア・カタパルトまであと3キロの地点だった。

 俺は前後左右をプラム達に押さえつけられたまま、指先で自律駆動術式(アプリクト)された魔法を選択する。

 これは対ゴーレム用として汎用的に利用できる「流動砂粒子結合阻止、逆浸透(ウィルス)自律駆動術式(アプリクト)」だ。それを賢者の館ににょっきりと生えた両腕に纏わせて、近接格闘戦でしとめる……つまりはぶん殴るのだ。


「総員、対ショック防御。これから賢者の館は……近接格闘戦(・・・・・)を敢行する!」


<つづく>



【作者よりの御礼】

ここ最近一日辺りのPVが、15,000を越えて、17,000なんて頂いており感激です。

 ちらっと読んでくれた方も、毎日読んでくださっている読者様も、大変感謝です。

 アクセス数もお気に入り数も(もちろん評価Pもw)、ものすごく作者のモチベに変換されていますので、今後とも応援の程ほど宜しくお願いたします♪


ググレ「で、作者のモチベが上昇すると、何かいいことあるのか?」

作者「イラストのサービスカットが増える!(キリッ)」


アルベリーナ「私のビキニアーマーの面積が更に小さくなるのだな!?」(※なりません)

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