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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆9章 海と空と賢者と、新たなる旅路 (英雄達の消失 編)
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 ヘムペローザの魔法と、プラムのキモチ

「これでよいかにょ?」

「あぁ、上出来だ。その魔法にも大分慣れたんじゃないか?」


 ヘムペローザがふんっと鼻から息を吐き出すと、腰に手を当てて俺を見上げた。ちょうどいいところに頭があるので、思わずヘムペロの頭をよしよしと撫でる。


「子ども扱いするでないにょー」

「あぁ、すまんすまん、つい」


 俺達を襲撃した不埒な山賊連合は、道端で全員仲良く失神中だ。中年ピアス魔法使いに手下の傭兵二人、それにオーク六匹と青鬼(ブルーオーガ)一匹は、目を覚まして逃げ出さぬようにとたった今、ヘムペローザの魔法――植物の(ツル)を自在に生み出す――で、ぐるぐる巻きに縛り上げたところだ。

 

 魔法力で実体化した「魔法のつる草」は柔軟で伸縮自在だ。そして一度魔法力の供給が途絶えると、途端に枯れた様になり、剣でも切るのに苦労するほど硬化する特性があることが判った。


 オークやブルーオーガでさえ手足を縛られれば自力で引きちぎる事は不可能だろう。


「ところで賢者にょ、この魔法の何かいい呼び名は無いかにょ?」

「呼び名か……」


 そういうとヘムペローザはしゅるしゅると手の先から、瑞々しい緑の蔓草を伸ばして、一輪の白い花を咲かせて見せた。魔法の制御にも慣れたらしく、かなり自在に扱えるようだ。


「わぁ! 本当に素敵な魔法ですね! ヘムペローザさまは、賢者ググレカスさまの、魔法のお弟子さまですね」

 妖精メティウスが弾むような声でヘムペローザの周りをふわりと舞う。


「にょほほ! 弟子というかワシが護ってやっておるにょ!」

「ハハハ、こいつめ」


 カラカラに乾いた笑いで俺は返す。


「賢者にょ……魔法の名前を考えて欲しいにょ」


 照れたたように頬を掻くと、ヘムペローザはそのまま空を見上げた。黒髪がさらりと流れ、太陽の光を纏って金糸のように輝いている。

 ヘムペロの手から伸びるつる草の白い花を見て、館の庭にさくつるバラを思い浮かべる。ローズガーデン、いや、


「そうだな、『蔓草(シュラブ)魔法(ガーデン)』でいいんじゃないか?」

「おぉ? それでいいにょ。賢者にょが付けてくれた名前……気に入った。シュラブ・ガーデンか……」


 ヘムペローザは自分の手をじっと見つめてから、嬉しそうにぎゅっと握り締めた。

 そして、何かを思いついたように悪戯っぽい笑みを口元に浮かべると、魔法の蔓草の先端に咲いた白い花は枯れ緑色の実がついた。瞬きほどの時間で握りこぶしほどに育った「実」は、やがて重さで蔓ごと地面へとしな垂れ落ちた。


「実までつけられるのか!?」

「わたしも生前は魔術に通じでおりましたが……初めて見る魔法ですわ」

 

 メティウスだけではなく、正直俺もちょっと驚いた。単純に植物を魔法で形づくっただけではない。一種の擬似生命のような形で魔法力を顕現させる高等な魔法だ。


「にょほほ、ワシは魔法に関しては何故だか……、なんとなく思い浮かぶにょ。そしてこれを……このままッ!」


 ヘムペローザは実を重石代わりにして振り回しはじめる。


 魔法に関してのセンスの良さは、転生する前の悪魔神官から引き継いだものだろう。

 だが、近頃ヘムペローザは、自らを「悪魔神官」と名乗る事はめっきり無くなっていた。エルゴノートの宝剣の力で転生した少女は、本当の意味で、新しい人生を歩み始めたのだろう。と微笑ましく目を細めた瞬間、

 ブンッ! と鉄球のような実が俺の鼻っ面をかすめた。


「あぶねっ!?」

「にょははっ! これで敵の側頭部を粉砕するにょぉ!」

「魔法の使い方間違ってるだろ!? さっきの可憐なイメージはどうしたんだよ!」


 振り回しているうちに興奮してきたのか、血走った目で蔓をブンブン振り回している。


「白い花を真っ赤に染めるにょほぉお」


 俺は回転攻撃をさっとよけて、ヘムペローザの顔を「ガッ!」とワシ掴みした。ギリギリとこめかみを握りつぶすように締め上げる。


「痛い!? いだだだだ! うそ、うそだにょおお賢者にょおおお」

「もう少しマシな使い方を考えろアホゥ」


 前言撤回。まだヘムペローザは油断ならないようだ。すぐに調子に乗りやがる。しばらくは俺がちゃんと面倒を見てやらんとダメそうだ。


 ◇


 冬至が過ぎたばかりの太陽は、低い位置でもう天頂に差し掛かっている。

 時刻はもうすぐ昼になるだろうか。予定外の足止めで時間を大分ロスしたようだ。


 馬車は再び東へと進路を取り始めた。


 失神している豚の半獣人、オークとそれを操って旅人を襲わせていた悪漢はあっけなく壊滅し、街道沿いの木に全員縛り付け、更に「注意、変態性癖の強盗団です」という張り紙も忘れてはいない。

 山賊には同情の余地はないが今回に限って言えば、ワイン樽ゴーレムの実験台として丁度いい相手だった。

 ついでに言えば、慈悲深い俺は気を失わせただけで済ませた訳で、奴らにとっては寧ろ幸運だったかもしれない。

 相手がディカマランの六英雄のファリアやエルゴノートだったなら、情け容赦なくぶちのめしていただろうから。

 だが、この道は目的地である港町ポポラートから一本道なのだ。

 何故エルゴノート達は山賊に遭遇しなかったのだろうか? あいつらならば、たとえ木陰に隠れていようともその殺気を検知して足を止めたはずだからだ。

 たまたまなのか、エルゴノート達が消えた後に現れた……わけでもあるまいが。


 ――そういえば「沈黙の国」の魔法使いで弟子がどうとか言っていた気がするが……。


 だが今更、山賊と話をする気にもならないので、宿場町アパホルテに到着したら官署(※村役場兼、警察署のようなもの)に行き、あとは衛兵に任せることにする。

 倒れた木はワイン樽ゴーレムの『フルフル』と『ブルブル』を使役して道から撤去済みだ。こういう時に汎用的に使える「人型」に変形できるというのは便利だし、何よりも俺が元居た世界では二足歩行のメカは男のロマンだったとさえ言っていい。

 兎に角、道も開通したので、後から来る馬車達も困る事は無いだろう。

 

 しばらく馬車を走らせていると、プラムが俺の横にやってきてちょこんと御者席に腰を下ろした。

「ググレさま、寒くないですかー?」

「あぁ、お日様も上ったし、イオラとリオラからもらったマフラーもあるからな」

「……そうですかー。あ、お腹すきませんか?」

 俺の顔をきゅっと覗き込んで、大きな緋色の瞳で見つめてくる。お腹でもすいたのだろうか?


「まぁ昼も近いし、次の町に着いたらご飯をたべような」

「はいなのですー…………」

「……?」

 プラムはガッカリしたように俯いた。その手には小さなアメ玉が握られていた。もしかして俺にくれようとしていたのか?

 なんだか元気が無いような気がするが……。

 甘いものでも食べたいな! とでも言ってあげようかと思った矢先、


「ググレさま! ……プラムも魔法、使えますか?」

 プラムが唐突に言いだした。

「え? ……いや、それは無理だろう」

「……! うぅ……」

「ど、どうしたんだプラム?」

 

 プラムは急に押し黙ると、唸り始め、そして

 

「プラムも、プラムもググレさまの役に立ちたいのですっ!」


 俺は真剣な眼差しの少女の声に目を丸くした。


<つづく>





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