魔城VS強襲母艦ホウボウ号カスタム
お久しぶりです。
今回はレントミアたち目線です。
新年特大号、大ボリュームですがご容赦を。
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「やった、次元跳躍成功! 魔導機関の出力正常、艦体各部異常なし!」
レントミアは素早く無数の戦術情報表示に視線を走らせる。
ついに次元の壁を突き破り別の世界へと来た。
アルベリーナによる次元跳躍術式は、立体積層型の儀式級魔法では、レントミアが見た中でも最大かつ最も複雑なものだった。
彼女だけでは臨界状態を維持できず、レントミアの人脈により、王立魔法協会から十数名の魔法使いと魔女を動員。なんとか実現することができた。
次元を跳躍する装備も船もぶっつけ本番だ。聖剣戦艦の遺物、アーキテクトを転用。船体の稼働試験も十分ではないまま、いきなり実戦投入ときた。
「ま、いつものことだけどね」
そしてついに並行世界「もうひとつの現実世界」への次元跳躍が成功したのだ。
ミルフィーユのように重なる無数の「次元レイヤー」を突破し、たどり着いた世界。ここに消えてしまったググレカスとメティウスがいる。
主機――対消滅魔素変換推進機関の「補助機関」は正常稼働。元々宇宙や次元を跳躍するための「聖剣戦艦」の補助エンジンだ。千年を経ても稼働する魔法科学の結晶は驚嘆に値する。
「ひっくり返ったままですー!」
「ここは上も下も無いのかにょ!?」
とはいえ艦内はパニック状態。どうやら分厚い雲の中らしく、視界もゼロ。天地が逆転し上下の感覚が狂っている。
船体を覆っていた魔法氷結防護膜を解除、同時に流体制御魔法により船体を安定させる。
「位置、測定完了! 現在、地表より五百メルテ上空で船体は自由落下中。まもなく雲の下へ出るよ!」
「アネミィ、船体を起こせ」
艦長の竜人ニーニルが落ち着いて指示を下す。
「了解、いうこと聞いてよ……!」
操舵長のアネミィが慎重に操縦かんを引く。
強襲揚陸装甲艦『ホウボウ号カスタム』がゆっくりと復元。船内は90度近く傾きながら、姿勢を戻してゆく。
ホウボウ号は本来、海上で運用された軍用小型艇だった。しかし丈夫さから様々な魔導兵器や装備のテストベットとなり、陸上歩行、空中浮遊、ついには次元航行さえも可能な万能戦艦となった。様々な外装パーツの換装により印象は激変している。
艦内にけたたましい警報が鳴り響く。
「超高密度魔力反応!? 狙われてる!? いや、違う……これは地表での戦いだ」
レントミアが索敵結界で感じとった魔力の発信源は地表。ここからはまだ距離がある。
雲を透かして真っ赤な光が見えた。魔法だ。稲妻のような輝きと轟音が大気を震わせ船体を揺らす。
「ググレさま……!」
「賢者の結界を感じるにょ……!」
「あそこでググレが戦っているんだ!」
目指す反応は赤い光が炸裂した先にあった。
あまりも強大な魔法のパワー。町をまるごと吹き飛ばせるほどの強力な魔力。上級の攻撃魔法をいくつも重ねたような火線が放たれたらしい。
あまりにも強大な魔法攻撃の余波で、各種魔導計測器が振り切れる。
「雲を抜ける。総員、第一種戦闘配置」
二等辺三角形の外観をもつ、鋭角的なシルエットの「ホウボウ号カスタム」が雲を切り裂いた。
「雲の下に出た……!」
聖剣戦艦の外部装甲を転用、破片を繋ぎ合わせ全体を補強フレームとして覆ったホウボウ号の外観は、小型の聖剣戦艦を思わせる。
船体後方には重力低減効果を生む魔導推進機関を搭載。船体前方は突撃戦用「衝角」が装備されている。これは超振動ブレードであり、聖剣戦艦の先端部分の破片を転用したものだ。
「ヘムペロちゃん危ない!」
「にょわわ!?」
「っと、大丈夫か」
転びそうになったヘムペローザを抱き止めたのは、甲冑に身を包んだファリアだった。
「ありがとうにょ、ファリア」
「ファリア姉ぇは、ビクともしてませんね」
「最初から狭い通路で踏ん張っていたからな! ググレカスの居場所に着いた……と考えていいのか?」
艦橋から船室へ向かう通路を、ファリアは鉄の扉のごとく塞いでいた。
「ファリア、ググレが戦ってるんだ!」
「そうか……! 元気そうだな」
「うーん、このようすじゃ死んじゃうかもよ」
雲を突き抜けると荒廃した地表が見えた。
眼下には星が落下してできたクレーターらしき地形が見える。この座標へは、ググレカスと妖精メティウスの存在を辿ってきたのだ。
次元の歪みを生じさせる出来事があった場所なのかもしれないとレントミアは睨んだ。
「この感じ、ググレさまです!」
「にょほほ、ねちっこい魔力波動じゃ」
プラムとヘムペローザが顔を見合わせ微笑む。
「いた! あそこにググレだ!」
レントミアが叫ぶ。索敵結界にも反応があった。
見えてきた谷間の上、崩壊した村の跡地。切り立った谷の上に、確かにググレカスと妖精メティウスがいる。
周囲は赤黒く焼け焦げ、岩肌が熔解しているところもある。ググレカスが結界で攻撃を防いだらしいが、ギリギリ紙一重といった感じに見える。
「大ピンチっぽいね」
レントミアが苦笑する。
「見つけたです!」
「まわりに大勢の兵士たちの姿があるにょ」
「進行方向! 地表に未知の強大魔力反応!」
アネミィが叫ぶ。
熱気と噴煙の向こうから、ヌッと巨大な城のような物体が姿をみせた。複雑で幾何学的な結晶体が複雑に組み合わされて巨大な魔城を形成している。
「何にょ、あの禍々しいヤツは!?」
「水晶のお城……? でも動いているです!」
ヘムペローザとプラムの言う通り、地上に出現した巨城は動いていた。中心核に赤い輝きを宿した巨大な蜘蛛のように。六本の脚で向きを変え、谷間の上を狙っている。
魔力の輝きが長大なアームに集まり、ググレカスのいる場所を狙っている。
「ググレさまとメティちゃんが危ないです!」
「レン兄ぃ! ググレが狙われてるにょ!」
「面倒ごとに巻き込まれすぎでしょ」
ググレカスあるある、レントミアは苦笑する。どの世界でも「面倒ごと」の渦中へ。つまりあの動く巨城は「敵」とみて間違いない。
ググレカスは大勢の兵士達を守るため、孤軍奮闘しているのだ。
「アネミィ、艦の兵装で狙えるか」
「この速度じゃロックオンできませんっ!」
固定武装の船首25ミリメルテ速射鉄槍砲。あるいは垂直発射式、火炎爆裂魔法筒誘導弾。それぞれ狙いをつけるには速度が出すぎている。おまけにこれらは対ゴーレム用の武器であり、巨城の化け物にどこまで通じるのか。
「ニーニル艦長! 艦首の超振動ブレードによる突撃を進言します。触手部分を狙えば破砕できるはずです」
レントミアが戦術情報表示を操作し、ホウボウ号改の先端に据え付けられた剣先のような装備を確認する。
超振動ブレード稼動可能、いける!
聖剣戦艦『蒼穹の白銀』の先端部、対超竜ドラシリア用の突撃兵器。
あらゆる魔法障壁も超硬質魔法装甲さえも貫通可能な、艦首武装の残骸を移植したもの。
「試験、終わってないんですけど」
操舵長兼武器管制を担うアネミィが戸惑いの声をあげる。
「試作品を実戦投入! それこそがロマンだ」
「お兄ちゃ……艦長はバカなのかな」
こうしている間にもググレカス達を狙う魔法の輝きは強さを増している。
「レントミア殿の作戦を承認。アネミィ、敵に向かって突撃だ!」
「どうなっても知らないから!」
竜人の少女は意を決し、操縦かんを巧みに操る。
進行方向を微調整。巨大なクモのような水晶の城へ突撃コースをとる。二本の触手は脈動しながら赤い光を先端に集め、谷の上にいるググレカスに放たんとしている。
「距離200メルテ! 総員耐衝撃姿勢!」
ぐんぐんと水晶の魔城が迫る。
「きゃわわ!?」
「いきなり体当たりかにょ!」
二本の巨大な腕は、結晶が複雑に組み合わされた構造をしていた。
「超振動ブレード稼働! ぶった斬っちゃって!」
「ひぇええ、直撃コースっ!」
次の瞬間。凄まじい衝撃が船体を揺さぶった。眼前がスパークし、超振動ブレードが水晶の触手を砕き、切り裂いた。
「や……やった!」
光と衝撃、砕けた二本の触手が地表に落ちてゆくのが背後に見えた。
「二本とも破砕を確認!」
魔力が霧散し、攻撃を防ぐことに成功する。
「地表にぶつかるよ、艦首引き起こして!」
「うーりゃぁあ!」
「えぇい、魔素変換推進機関出力最大、慣性制御! 流体制御魔法で姿勢転換ッ!」
アネミィが操縦かんを全力で引き、レントミアが魔法で艦の推力を偏向。
船体は地表ギリギリで上昇に転じ、ホウボウ号カスタムは速度を落とす。谷の上空をゆっくりと旋回しながら、ホバリングモードで滞空する。
「はぁ……」
艦内に安堵のため息が漏れる。
ググレカスが地表でこちらに手をふっている。
周囲にいる兵士や魔法使い達は、腰を抜かさんばかりに驚き、唖然呆然。どうやらこの世界では空を飛ぶ魔法は無いのかもしれない。
『(ザッ)みんな……! 来てくれたのか!』
魔法の通信回路が繋がった。緊急通信、音声のみだがググレカスの元気な声だ。
「ググレ!」
『レントミア様、まずは魔法通信の回復を!』
「メティも、よかった!」
レントミアは二人の声にほっと胸を撫で下ろす。
「ググレさま!」
「賢者にょぉお!」
『プラムにヘムペローザも! まったく危ないところへ……』
「ググレ、楽しそうだな!」
『ファリアもいるのか!? 早速すまないがあの化け物を倒す手伝いを……っとマズいな、再生しはじめた』
魔力反応が再び増大。巨大なクリスタルの蜘蛛がゆっくりと向きを変え、各所に赤い光が輝く。
「魔城各所に対空攻撃魔法を検知!」
一斉に光の弾丸を放ってきた。
狙いをホウボウ号カスタムに定めている。炸裂音と衝撃で船体が揺れる。
「きゃぁあ!? 船体各所に直撃弾!」
次々と爆発が起こる。
強力な火焔の魔法弾だ。
「慌てるなアネミィ、流石は聖剣戦艦の装甲、何ともないぜ」
「お兄ちゃん、余裕こいてる場合じゃないよ!」
「艦長が慌ててどうする」
ニーニルは腕組みをし落ち着いている。
だが対空火炎魔法とでも呼ぶべき攻撃は、まさに雨あられのように狙ってくる。
「アネミィちゃん、船首を盾にする」
「レントミア様!?」
「優れた武器は盾にもなる。超火焔防御鏡盾、スーパーファイアーミラー展開!」
レントミアの操作で船首の超振動ブレードが「双葉」のように開き正面に展開。
盾となって襲い来る火焔弾を受け止め、魔法を弾いた。
「にょぉお!? 正面で受け止めておるのかにょ」
「魔法のカウンターにも……!」
被弾傾斜を調整、敵の魔法攻撃を次々と受け止めるだけでなく、撥ね返しつつ魔城に命中させてゆく。爆炎が地面と魔城を焦がす。
「す……すごい! こんな戦いかたが出来るなんて。流石はレントミア様!」
「アネミィは攻撃に対して正面を維持してね。さぁ、ここから反撃だ」
レントミアが微笑み、アネミィが頷く。
「了解! 垂直発射式、火炎爆裂魔法筒誘導弾、目標座標入力!」
「撃て!」
艦長の声にリンクし甲板のフタが次々と開く。
煙突を思わせる金属の筒が次々と垂直に放たれた。飛び出したそれらは後方から炎と煙を噴出、方向転換し、魔城めがけて突っ込んでゆく。
「誘導はアネミィの視線誘導とリンク」
「えぇい、当たれ!」
「着弾!」
魔城の表面に筒が命中。次々と爆発が起こり、表面を砕く。怯んだかのように敵の対空攻撃が緩んだ。
「いける、残弾は18!」
「撃ち尽くしても構わん。全弾、叩き込め」
「了解っ!」
「ググレ……! あの城は何なの? ゴーレムにしちゃ巨大すぎるし、魔力の塊だよ。この世界の魔王でも住んでるの?」
レントミアがググレカスとのデータリンクを接続させつつ問いかける。
『詳しく説明している時間はないが、別の次元から来た侵略者。宇宙の極悪魔導師さ。人類殲滅を目論んでいる。ここで倒さないとメタノシュタットもヤバイんだ』
「別の次元って、ここじゃググレも同じようなものじゃ?」
『それを言っちゃおしまいだろ』
『うふふ。相変わらず仲がよろしいこと』
「だけどググレ、この船の搭載火力じゃ、あんな魔城は攻略しきれないよ」
『そうかな? 敵の防御さえ無効化すれば……』
「えぇい、ググレカス! わかるように話せ! アレを倒せば、大手をふって帰れるだな!?」
『ファリア、そういうことだ』
魔法通信が回復、艦内のモニターに親指を立てたググレカスの顔が映る。
「なら話が早い。出るぞ、チュウ太!」
『もー、その名で呼ばないでくださいよファリアさん。アルゴートです、お久しぶりですググレさま』
魔法通信にチュウタことアルゴートが割り込んできた。エルゴノートの弟は雄々しい騎士へと成長していた。
「チュウタもいるのか!」
『だからー』
チュウタことアルゴートは船倉で待機していた。いよいよ出番が来たようだ。
『艦長、甲板の射出ハッチ開いてください! 火力が足りないなら、僕が直接乗り込んで叩きます』
「……わかった」
ホウボウ号カスタムの甲板が開く。上昇エレベータで押し出されてきたのは、ギラギラした青い全身甲冑の戦士、アルゴートだった。
兄から譲り受けた宝剣『雷の黎明』ことサンダガート・ホルゾートを背負い、鳥の翼と樽を組み合わせたような最新の魔導飛行ユニットを背負っている。
『アルゴート、魔導強化甲冑、フライトユニット装着型……出ます!』
「私もソレを背負えば飛べるか?」
『もちろんです。ファリアさんの重甲冑だと三十秒ぐらだとおもいますが』
「十分だ、魔城に乗り込めればいい。親玉を叩きのめせばいいのだろぅ?」
『ですね! ご一緒に』
「あぁ!」
ファリアはともかく、アルゴートまで脳筋度が増していた。兄譲り、血筋は争えない。
『チュウタもファリアも無茶するな!』
白兵戦を挑もうとする二人に、ググレカスが慌てて叫ぶ。魔導師や眷属どもの恐ろしさ、戦闘データをまだ送りきれていない。わかっていないのだと焦る。
「ググレからのデータリンクで、魔城の中枢を特定した!」
レントミアの声に艦長が指示を下す。
「残存火力を集中投入、敵の対空魔法を沈黙させ、二人を射出する」
「了解!」
「大丈夫だよググレ、片付けて一緒に帰ろ」
『みんな……感謝する』
「この隙にプラムとヘムペロちゃんは後部デッキから、ゴーレム・タランティア改で降下。ググレとメティを回収してくれる?」
「わかったです!」
「まかせるにょ!」
<つづく>