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反撃の狼煙


「あぁ賢者ググレカス……!」

「メティ、もう大丈夫だ」

 ついに俺とメティウスは再会した。

 再接続される魔力糸(マギワイヤー)がまばゆい輝きを放つ。

『まッ、眩しいでござるッ!』

 天空を支配する鳥人フォルスは空中で踏みとどまり、翼を振り下ろすと距離を取った。俺たちを警戒したのか、一気に吹き抜けフロアの第三層の高さまで舞い上がる。


「状況も理解しましたわ」

 魔力糸(マギワイヤー)の再接続と同時に、これまでのイベントログと戦闘情報を同期。妖精メティウスと認識を共有する。

「君にも怖い思いをさせたね」

「それが……意外にも手出しされませんでしたわ」

 気丈に語るメティだが、内心は不安だったことだろう。

「それは、よかったが……」

 俺も同時に、メティウスから移譲された記憶の一部を認識する。

 こちらの世界に転移してすぐ、メティウスは魔導師の手下に捕らえられたらしい。

 そして、巨大な頭脳を持つ魔導師レプティリアは、メティのことを『次元を跳躍するための羅針』と呼び利用しようと企てていた。

 メティが別の世界から来たことを一瞬で見抜き、さらに利用しようとするとは……。レプティリアとは一体何者なのか。


「この状況を打破しないといけませんわね」

「話が早くて助かる。元の世界に帰るためにも、まずコイツらを倒さねば」

「はいっ!」

 俺たちは上空で戦闘スキルを発動する鳥人フォルスを睨みつけた。


『キィエエエッ! ワシの前でイチャイチャとぉおおッ! 許さじッ! リア充カップル死すべしでござるゥウゥウッ!』

 大昔の俺のようなことをほざきながら、鳥人フォルスは回転を加えた羽根ダーツの嵐を放ってきた。


 ――弾道予測!

 飛来するダーツは物理攻撃に加え、接触したものを「羽」に変化させる呪詛毒の混合体。数はおよそ80以上。

「しかし!」

 もう恐れることはない。

 戦闘出力で賢者の結界を展開。すでに耐衝撃に対呪詛毒を組み合わせ特性を調整、バリアチェンジ済み。

「迎撃はおまかせを!」

 妖精メティウスは対空フェイズドアレイ索敵結界(サーティクル)によって飛来物の空間座標を瞬間的に全捕捉。弾道予測術式を同時並列処理し、高精度で把握する。

「お前たち、出番だ!」

 俺は周囲に残っていた緑の芋虫魔人、マラシュトゥを操り、整列させ肉の壁をつくる。

『ヒギッ、またぁああ!?』

『かっ体が勝手にィイ……!』

 こいつらの能力も解析済。脳幹への干渉レベルを一段階引き上げ、攻撃スキルを掌握する。

「安心しろ、悪いようにはせん」

『じゃ、邪悪ッ……!』

 素敵な笑顔を向け、肉壁とは違う仕事をしてもらう。あっというまに芋虫魔人マラシュトゥの頭上にも羽根ダーツが降り注ぐ。

 ――弾道予測、位置最終補正完了!

 妖精メティウスによって捕捉されたデータ郡が眼前の戦術情報表示(タクティクス)にポップアップ。同時にラマシュトゥにデータリンク、

「対空迎撃!」

『ブッブブブブブッ!』

『バブブブブ……!』

 マラシュトゥの口から無数の毒液弾を連射。空中に向け弾幕を展開する。

『なにっ!?』

 鳥人フォルスが驚愕する。それもそのはず、魔導師の眷属である同族が裏切ったのだから。

『こ、これは違ッ……ブブブブ!』


『何ゆえ、おぬしらが邪魔をッ!?』

 羽根ダーツを次々と空中で迎撃、相殺する。緑の毒液弾は命中するや、全て白い羽となり炸裂する。


『ブブブッ! かっ、体が勝手にぃい!』

『悪気はぁあブブブ、無いのぉおッ!』

 更に空中の鳥人を追撃し、毒液弾を浴びせかける。


『ぬぉおおっ!? 気でも違ったかマラシュトゥッ!』


「賢者ググレカス、お見事ですわ」

「フフ、メティのおかげで調子が出てきた」

 使えるものは使う。それが俺の戦い方だ。


『まさか……おぬしら! 操られているでござるか!? なんたる卑劣……ぐおっ!』

 毒液弾による攻撃が何発か命中。

 姿勢を崩しながらも鳥人フォルテは空中で反転。白い羽根で竜巻を起こして毒液弾を中和する。


「くそ、しぶとい!」

『ブッ……はぁはあっ、毒液切れ……』

「賢者ググレカス、緑の芋虫たちが限界ですわ!」

 ちっ、使えないやつらめ。


「賢者様!」

「おぉっ! 眷属との戦いが既に!」

 そこで第三層フロアに友軍が駆けつけた。地下水路を共に攻略した戦士と魔法使いの別動部隊だ。

 

「渡りに船、ナイスタイミングだ」


「空中の眷属に魔法攻撃を!」

「ダメージを負っているぞ、畳み掛けろ!」

 間髪を置かず、魔法使いや魔女が火焔弾を放つ。

「焼き鳥にしちゃえ!」


『ぐぁっ!? こんな雑魚に……ワシがっ!』

 火焔弾が効いている。羽根ダーツを放ちすぎ、自己修復と再生が追い付いていないのだ。


「だがあと一撃、物理攻撃がキマれば倒せる!」


「賢者ググレカス、私が!」

「メティ!?」

 妖精メティウスが俺の肩から飛び立った。

 鳥人フォルスの横をすり抜けて、一瞬で三層フロアまで舞い上がると、戦士や魔女たちが驚きの声を上げる。

「よ、妖精!?」

「これ、賢者様の眷属よ!」


 ――賢者ググレカス、戦士様の支援を!


 魔法の通信でメティの意図を汲む。


「あぁ、わかった!」

 戦闘補助魔法『共振破砕術式(レジナンシア)』をリモート詠唱!

 妖精メティウスを通じ、魔法を自動詠唱(オートロード)する。妖精の魔法詠唱に呼応して、戦士の持っていた小降りなバスタード・ソードが、軽い振動音を伴いながら青白く輝いた。

「これはっ!? 俺の剣が光っている!」

 物体のもつ固有振動数に応じ、超高周波振動を剣に纏わせ切れ味を増す魔法だ。


「魔法の加護、賢者ググレカスの支援ですわ!」

 妖精メティウスの言葉に、魔女がハッと息を飲む。

「あの鳥魔神を叩き斬って!」

「わかった、まかせろ!」

 名も無き戦士が叫び、三層フロアの手すりに足を乗せる。そして、輝く剣をしっかりと両手で掲げ、三層フロアからジャンプ。

「うぉああああっ!」

 二層フロアまで高度を下げていた超人フォルスの背中へと突き立てた。

 硬質な金属同士が衝突する音。キィイイイ……という振動音に加え、激しい火花が散る。

『ヌッグォオオオオオオオッ!?』

「てめぇは……墜ちろぉッ!」

 戦士の体重と落下エネルギーを加えた渾身の剣は、ついに鳥人フォルスを貫いた。

『ごふぁッ!? ばかなっ……なぜ、人間の刃が……ワシの肉体を……! 神にも等しき……』

「うるせぇ! 妹の仇!」

 落下の勢いにまかせ一層フロアに叩きつける。

 激しい衝突音と火花。戦士は力を混めて剣を動かし、背中から頭頂までを両断する。

「だりゃぁああっ!」


『…………これが…………死か……』

 ビキビキと水晶の破片となって崩れ去る。ついに魔導師の眷属、鳥人フォルスを倒した。


「やりましたわ!」

「まったく、君は無茶を」

 再び戻ってきた妖精メティウスを抱き留める。


「賢者さま……俺」

「君もよくやってくれた。勇気と決断に敬意を示す」

 俺はトドメを刺した勇敢な戦士の手を固く握りしめた。軽装甲を身に着けた赤毛の青年だった。


「おかげで妹の仇を討つことができました」

 どこか見覚えのある顔だった。

「君の名前は?」

「イオリアです」


「賢者ググレカス、イオラさまに似ていませんこと?」

「この世界は、どうも何かしらの因果律が絡んでいるのかもしれないな」


 ほっとした空気が流れたのも束の間。


「異常な魔力波動です!」

「動き出したか」

 魔導師。レプティリア。

 三層に残っていた戦士や魔女たちから悲鳴があがる。地響きのような音がして、周囲の水晶じみた壁が不気味に鳴動しはじめた。

「か、壁が……!?」

「いかん、いったん退避、下層フロアへ!」


<つづく>

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[良い点] >「あぁ賢者ググレカス……!」 「頭ライム……コレでもう俺は大丈夫だ」  ついに俺と長い友達頭ライムは再会した。  再接続される脱着式毛髪である魔力糸マギワイヤーが頭皮からのまばゆい輝き…
[良い点] 妖精メティウスの居ない賢者ググレカスなんて……カスである! (笑) 妖精メティウスが戻ってきた。 さながら家出していた恋女房と再会したような感じなのか……。 [気になる点] 誤字・脱字等の…
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