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魔城クリスタニア攻略戦(1)

 ◇


 城塞都市レザリアスから十五キロメルテ東方。

 眼下に、深い谷を起点とした広大な扇状地が広がっている。豊かな森とパッチワークのような農地が美しい。

「あれか」

「赤き星が堕ちた爆心地です」

 馬に跨った近衛騎士団長、マリアスが声を潜める。

「ひどい有様だ……」

 村があったであろう場所は無惨に破壊され尽くされていた。直径三百メルテほどのクレーターがあり、周囲はすべて吹き飛ばされている。

 扇状地を削った大規模な爆発の跡は、巨大な窪地になっていた。無惨に破壊された家々、なぎ倒された木々がその周囲に広がっている。

 そして、嫌でも目にはいる異様な構造体。

「あれが魔城」

「クリスタニア、か」

 爆心地の中心には異様な水晶の塔――魔導師レプティリアの魔城があった。

 巨大な六角柱状の結晶が幾重にも折り重なった構造物。毒々しい赤い輝きで満たされた半透明の水晶の塔は、一見すると「イチゴのかき氷」を連想する。


「これよりブリーフィングを行う。各部隊長、傭兵隊長を集めよ」

「はっ!」

 近衛騎士団長マリアスが部下に指示を下す。


 城塞都市レザリアスの残存兵力と集められた有志の傭兵、総勢三千名。


 劣勢だった人類による反転攻勢。魔城クリスタニア攻略戦が開始される。


 作戦はこうだ。まずマリアス率いる主力部隊が、魔物共の注意を引き付ける。いわば陽動作戦だ。

 クリスタニアへの突破口を切り開くのは、俺を中心とした別動隊。

 幹部クラスの怪人どもをおびき寄せる戦士団長アルグースト率いる囮部隊と、俺が率いる潜入・破壊工作を行う部隊。二手に分かれた別動隊は、地下水脈の洞窟を利用し魔城へ侵入、敵中枢を俺が混乱させ突破口を開く。三段構えの作戦だ。


 ストラリア王国・城塞都市レザリアスを夜明け前に出発。太陽が昇る前に作戦地域へと到達できた。

 途中、敵の妨害が無かったことに拍子抜けしたが、魔道士一味の活動は主に日没後が多いという。

 昼間にも活動するらしいが、魔人どもは日光が苦手らしい。

 能力が低下するのかもしれない。

 ゆえに太陽が昇りきったタイミングで攻略を開始するのが得策だ。


「ここまで接近しても反応は無しか」

 魔城までの距離は約八百メルテ。

 谷から広がる扇状地、地面を穿ったクレーターと魔城(クリスタニア)が見下ろせる。

 すり鉢状のクレーターの内側から、水が流れている場所がある。どうやらあれが地下水脈だ。


「およそ五百メルテまで接近すると魔城から狙撃されます。さらに三百メルテまで接近すると敵の三本足ゴーレムが動き始めます」

 実戦経験を経た戦士たちの情報はありがたい。


「なるほど」

 俺たちは今、物資運搬と衛生兵部隊の馬車の横、大型の天幕の中にいる。

 索敵結界(サーティクル)により全周囲を警戒しながら情報を収集。可視化した戦術情報表示(タクティクス)を使ったブリーフィングを行うことにする。


「赤い輝点(ブリッツ)が敵、青い輝点(ブリッツ)が友軍の部隊です」

 実際に計測した地形図に、部隊の位置、敵の攻撃予想範囲を重ねてゆく。

「便利なものだな……!」


 騎士マリアスや各部隊長、傭兵の代表、魔法兵団長代理の魔女キリルヒース嬢ら魔法使いたちが驚嘆する。

「お、おぉ!?」

「凄い、こんな魔法はじめて見る」

「これがググレカス様の魔法……!」

「リアルタイムで戦況を把握可能な魔法なんて、ググレカス様はどのような魔法を組み合わせておられるのですか?」

 城塞都市の魔法使いたちは特に驚いている。この手の魔法は初見らしい。


「皆さんもご存知の『索敵(サーチナ)』魔法の応用です。可視化するために幻燈魔法(ランタナ)も使っていますが」


「ほ……ほぅ?」

「なるほど?」

 適当な説明で誤魔化したが、隠密化(ステルス)した魔力糸(マギワイヤー)による『索敵結界(サーティクル)』は、複雑かつ高度な魔術(・・)だ。

 数多の実戦を経て、練りに練った賢者(おれ)の魔法であり核心だが、出し惜しみはしない。

 高精度の情報探知、分析、過去の実戦データからの推測が可能だが、攻撃に関しては彼らに頼るしか無い。

「互いに力を合わせればきっと勝てる」

「そうですね!」


「伝令!」

 兵士が戻ってきた。壊滅した村の出身者だという者が岩陰をつたい接近、偵察しに行っていた。


「地下水脈への入り口は無事です。洞窟を抜け、クリスタニアの足元へ出られそうです。しかし、三本足のゴーレムの数が多く、出口付近はかなり危険かと」


「ふむ、ならば相手の目を欺こう」

 俺は人差し指を立て、皆が注目するなか軽くパチンと指を打ち鳴らした。


「き、消えた!?」

「ググレカス様!?」


 途端にその場にいた兵士や、魔法使いたちが驚く。辺りを見回すが俺を見失っている。

 俺はすぐに魔法を解除した。

「ここから動いてはいませんよ」

「なんという魔法……! 姿を見失いました」

 やはりこの世界の魔法使いは、単純な攻撃魔法しか知らないのか。


認識撹乱魔法(イマジンジャマー)、相手の認識をズラす魔法です」

「お、おぉ……!」

「目くらましか! 凄い! これなら」

「連中にも通じると思います」

「いける!」

 マリアスが興奮した様子で拳を握りしめた。


「それと、敵の狙撃魔法についても、回避策を考えておきましょう」

「回避策なんて!? いきなり人体が爆発する恐ろしい魔法攻撃ですよ!」

 魔女キリルアースが青ざめる。


「だから調べるのさ」

 俺は天幕の外に出て、土くれから簡単なゴーレムを練り上げた。

 これにも魔法使いたちは驚いていたが、得手不得手というものがある。

 人間のように見えるゴーレムの頭に布を被せ「へのへのもへじ」を描く。そして拾ってきてもらった麦わら帽子と(くわ)を持たせた。

「農夫……?」

「これで調べます」

 無論、各種のセンサー術式も仕込み済。

 魔力糸(マギワイヤー)で操り、歩かせる。

 農夫型のゴレームを歩かせ、クリスタニアへと近づけてゆく。

 五百メルテまで接近したところで、ゴーレムの胸部に「ボッ」と穴が開いた。そして粉々にくだけ散った。


「い、一撃であんな」

「人間なら即死じゃないか!」

「ググレカス様、見ての通り恐ろしい魔法で……」

 兵士たちもその光景に意気消沈する。


「……ふぅむ? だが、回避策は見つかったよ」


「な、なんですって!?」

「本当ですかググレカス様」

 魔女や魔法使いたちが顔を見合わせる。


 俺は戦術情報表示(タクティクス)を空中に表示、今の狙撃をリプレイする。

 こういう分析はメティがいてくれたら楽なのだが、嘆いても仕方ない。


「狙撃される三秒前、不可視の熱線が照射されていました。おそらくターゲットの位置と距離を確認する魔法です」


「何も見えなかったが、そんなものが?」


「光の波長が違うのです。農夫ゴーレムを照らした光は、二秒後に胸の一点に集中します」

 スポットライトが絞られるように、赤い光が心臓の上で輝いた。

 それは急速に熱を帯び、一気に千度を越える温度まで急上昇。熱破壊を引き起こした。


「農夫ゴーレムは内側からの水蒸気爆発によって粉々になったのです」


 指向性熱魔法、ポジトロールと同じ原理。

 レントミアが得意とする熱を送り込む魔法。

 人間なら血液が沸騰して内側から弾けるだろう。


「こんな恐ろしい魔法、どうやって防げばいいのですか?」

「我らの結界では……身を守れません」

「大勢の仲間が死にました」


 この程度の熱量なら『賢者の結界』ならば防げるだろう。三層も重ねれば十分だ。

 だが三千人もの兵士全員に『賢者の結界』を仕込み、防御することはできない。


 そこで俺は一計を案じることにする。ここにいる魔法使い達が可能な対策を。


「最初の光によるターゲット捕捉から、狙いを定めるまで、およそ三秒を要しています。これを関知できれば避けられるはずです」

「避けるですと!?」

「はい。指向性熱魔法は直進します。狙われていることに気がついてから、物陰に隠れる、または素早く移動することで回避が可能です」


「理屈はわかるが……」

「しかし一体どうやって、狙われていることを知るのです?」


「光の熱を『可視化』……つまり見えるようにできませんか? 光の波長を目で捉える。その範囲を少しだけ広げることで、狙われている光や熱がわかるような」


 俺が全員に温度検知などの感覚拡張魔法をかけてもいいが時間がかかる。

 ここにいる十名ほどの魔法使いが詠唱可能な魔法で、対応できないだろうか。


「まって……あるわ」

「そうじゃ! 治癒の魔法、もっとも初歩的な魔法で『体温を()る』魔法があるじゃないか」

「病人の発熱を知るためのもので、熱が高い部位が光って見えるのです」


「なるほど、それはいい。術者本人ではなく、対象に魔法をかけられるか? 持続時間は?」


「治療院を訪れる子供の母親に魔法をかけてあげることがあります。数秒の詠唱魔法で済みますし、一度かければ二日ほど持続します」

 若い魔女が実際に俺にかけてくれた。

 体温を可視化し、体表面の温度が高ければ赤やオレンジに見える。そんな魔法だ。

「なるほど、これは使える」


「よかった! では早速」

「私が皆に説明し魔法を仕込ませよう」

 魔女キリルヒースが騎士団長マリアスと共に仕込みを開始した。


 準備まで二時間ほどを要したが、あとは兵士たちが上手く避けてくれればいい。


 実際に年老いた兵士がひとり、試すといって近づいてみた。

 すると五百メルテ付近で驚き、転がり、尻餅をついた。横の地面が小さく炎をあげるが、なんとか逃げ帰ってきた。

「よ、避けられましたぞ!」


 これで準備はいい。

 狙撃による被害を最小限にするため、動きを工夫するなどが話し合われた。


 太陽が昇った。

 まばゆい光が魔城を輝かせたところで作戦開始の狼煙が上がる。

「いくぞ、続け、うぉおおお!」

 マリアス率いる王国戦士団と傭兵の混成部隊、三千人が四方から谷間を降り下り、魔城に迫る。


 魔城の壁面で何かが光った。

 狙撃。


「避けろ!」

「こなくそっ!?」

 狙われた兵士がかわした。

 熱線は逸れて背後の地面を焦がす。

「……いける!」

「よし、ゴーレムどもを粉砕するぞ!」

 ほとんど被害を出さずに兵士たちがクリスタニアへと殺到する。

 さらに接近したところで、地面から水晶の結晶が、まるで竹の子のように出現した。

「出たぞ、抜刀!」

 三本足のクラゲのようなゴーレムだ。

 身の丈は2メルテほど。腕のような鋭利な器官をもち、振り回すことで攻撃してくる。

「狙撃にも気を付けつつ、足を止めるな! スリーマンセル、三人一組で挑め!」

「うぉおお!」

 戦いの戦いの火蓋が切られた。


「では、まいりましょうググレカス様!」

「あぁ」

 俺たちはそして地下道を進みはじめた。


<つづく>

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― 新着の感想 ―
[良い点] >やはりこの世界の魔法使いは、単純な攻撃魔法しか知らないのか。 「ふむ、ならば相手の目を欺こう」 俺は人差し指を立て、皆が注目するなか軽くパチンと指を打ち鳴らす。 「嘘! まって……頭髪…
[良い点] この異世界で孤軍奮闘する賢者ググレカス。 メティウスを拉致られ怒髪天を衝く状態であり、魔法の出し惜しみをする心算(つもり)はないという。 実際、隠し玉である『ズラ』で敵を撹乱し、隠された禿…
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