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王立魔法協会円卓会議

おまたせしました!

新章スタートです★


「賢者ググレカス、貴殿を追放するッ!」


 追放?

 一瞬、理解が追いつかなかった。

 メタノシュタット王立魔法協会から「追放!」と宣告されたところで、意味がわからない。

 王宮魔法使い達のサロン、物好きの集まりみたいなゆるい組織だったんじゃないのか。

「……はぁ?」

「聞こえなかったのか、ググレカス君! 本日、この時点をもってメタノシュタット王立魔法協会の要職を解任、出ていってもらおう」

 意気揚々とした声の主は白髭の老魔法使い。名は確か、ヴァイゼル・ケーキンというらしい。

 高齢により持病が悪化、事実上引退した魔法協会会長アプラース・ア・ジィル卿の代行者だ。臨時協議会を経て()魔法協会会長の座についたばかりの男だが、そもそもよく経歴を知らない。

 俺がプルゥーシアやらの件でしばらく留守にしている間に、クーデターでもあったのかと思ったくらいだ。


「事情がよくわかりませんが」

「聡明な賢者ともあろう御方が、知らぬはずがありますまい。数々の疑義(ぎぎ)に関する事実確認! 真偽の証明書類の提出督促状をご覧い頂いていたはずですが?」

「……さぁ?」

 なんだそれは。

 書斎に届いていたのかもしれないが、暇なときに検索魔法(グゴール)で見れば良いと思ってスルーしていたっけ。

「そっ、そういうところじゃ! 賢者ググレカス」

「どこがだよ……」

  

 老魔法使いが半ギレして腰を浮かせた。

 指弾するとは魔法使いなら「刀を抜いた」に等しい喧嘩腰。だが、ヴァイゼル・ケーキンの席の一つ横、四角いインテリメガネ風の中年魔女が、コホンと咳払いをすると腰を下ろした。

 代わりにとばかりに、中年魔女がテーブル上の書類の束をもちあげ、手で弾いた。

「賢者ググレカス様、既にご存じのことかと存じますが……。城内の仕事は全てプロセス化し管理することとなりました」

 マジか。初耳だぞ。だれだそんなクソ面倒くさい手順を増やしやがったのは。大方、平和になって暇だとボヤいていた事務方の仕業だろうが。


「そういう事情ですから。仕事の基本はホウレンソウ、報告連絡相談! 全てのタスクをプロセス化し、魔法書類フォルダにて分離管理! 王政府からの仕事を請け負い、対応計画の提出、遂行状況の報告、そして結果報告。すべてに書類の作成と提出、各部への連絡が義務付けられたのです! それが王宮魔法使いとしての基本、スタンダードになったのです!」

 フッと勝ち誇ったような笑みを浮かべる中年魔女。隣では老魔法使いが満足げに頷いている。


「……」

 俺は言葉を失った。

 魔法使いとして日々の業務に追われるのはわかる。王侯貴族からの占いの依頼、季節ごとに行われる国体の安寧を祈る儀式級魔法の実施など。確かにルーチンワークでプロセス化すると良いのは理解できる。

 儀式や手順、プロセスに拘るのは、同じ結果を求められる「魔法師」の仕事だ。


 俺たちが標榜する「魔法使いや魔女」は自由であるべきだ。国家や組織に属していても、イマジネーションこそが魔法の源泉のはずだから。


 ここは――メタノシュタット王城地下一階。


 王立魔法協会の特別会議室。

 豪華な調度品に黒塗りの円卓、周囲には背もたれの高い椅子が八脚。それぞれに各部局を代表する魔法使いや魔女達が座っている。

 緊急幹部会、円卓会議というので来てみれば、俺を糾弾する会議だったらしい。


 真正面にある議長席に座っている老魔法使いが、俺に向かって「追放!」と叫んでいる。

 ところで誰なんだコイツは。

 ()魔法協会会長の座についたばかりの老魔法使い、ヴァイゼル・ケーキン。白髪頭で筋骨隆々。斜め上方左右に突き出した巨大なカイゼル髭(・・・・・)を自慢げに指先で捻っている。

 元魔法兵団副団長、軍属上がりの実力者らしいが、俺は活躍しているところを知らない。

 検索魔法(グゴール)でさっと経歴を眺める。

『魔王大戦時、国王陛下の近衛魔法使いの戦闘支援を担当』

『魔王大戦時、王国軍大規模撤退戦を支援』

『超竜ドラシリア戦役時、各国の魔法使い連合軍への円滑な補給を実施』

 ……微妙。

 裏方の仕事が上手かった男のようだ。

 魔法自体は破壊系の『パワー魔法』の名手として知られているらしいが……。ケーキンという名字に聞き覚えがある。

 そうだ、確かスヌーヴェル姫の側近魔女の一人「青髪のマジェルナ・ケーキン」と同じじゃないか。

 検索魔法(グゴール)で確認すると、確かに伯父にあたるらしい。

「いつまでも我が物顔でいられると思わぬことだ、賢者ググレカス」

 どうりで脳筋バカっぽいわけだ。


 俺がしばらく王宮を留守にしている間に、王立魔法協会はいろいろと組織改編があったらしい。

 高齢により持病が悪化し、自宅療養中の協会長――アプラース・ア・ジィル卿は、名誉会長として名を残してはいるが、実務を退いている。

 代わりに八名の重鎮による円卓会議が設置された。

 確かに「魔法協会組織改編の合意書」だの「議長選出の同意書」だの、書類が回ってきていた気がするが、裏面に落書きして捨てたかもしれない。


 そもそもプルゥーシアとの国境線への遠征や、その前後のゴタゴタで忙しく気にしていなかった。そんなに暇じゃないんだよ俺は。


 見慣れない連中ばかり座っている。

 王国祭儀省(・・・)最高位魔女、エイジャ・ナイザー。

 さっきプロセス化がどうのと能書きを延々と垂れた中年魔女だ。王政府の事務方たちの支持が厚いらしい。

 隣には、自治省民間魔法師連合代表、マキシマム・アイラ。魔法使いになるには魔力不足の、魔法師たちの組合代表か。この魔女も知らない。

 王立魔法協会施設管理庁ハドルドス。そういえばサロンの受け付けだったような……。

 国王陛下の近衛だったメリハメールもいる。

 こいつはプルゥーシアの放った書籍の呪いにまんまと操られ、スヌーヴェル姫殿下をたぶらかした罪人だ。本当なら縛り首だろう。

 王立図書館で暴れたのでレイストリアと俺でボコボコにしてやったから、逆恨みでもしているのか。

 黙ってはいるがオドオドし、時おり俺のほうをチラ見している。


 円卓会議は魔法各界の代表者会議と銘打っているが、おそらくヴァイゼル・ケーキンの息のかかった連中ばかりなのだろう。


「ググレ、僕は反対票にいれたんだよ?」

 見知った顔もいる。王国先端魔法開発局代表、レントミアだ。

 可愛かったハーフエルフの美少年は、誰が見ても美形な魔法使いに成長した。最近は王宮魔法師たちの儀式魔法を学び、人気、人望ともにアプラース・ア・ジィル卿の若き正統後継者と囁かれている。


「ありがとう。しかし多数決らしいからな」


 円卓会議の出席者7名中、「ググレカスの追放」の賛成票が5、反対票1。

 アプラース・ア・ジイル卿は不在なので棄権扱い。俺は当事者につき投票権は無いらしい。

 つまり事実上6名の投票。これはあまりにも出来レースだろう。


 流石にポカンとしてしまったが、冷静を装って右手を挙げる。

「あの、追放と申されましても……。私に何か落ち度などありましたでしょうか?」


「落ち度もなにも、やりすぎたのだ君は」

「やりすぎですか?」

「そうだとも」

 忌々しげに俺を睨みつけてくる。

 やりすぎ?

 どのあたりがだ?


「プルゥーシア皇国との国境交渉の一件では、国王陛下から直々にお褒めの言葉を賜りました。スヌーヴェル姫殿下からも『金色スライム褒賞』も叙勲されましたし」

 賢者のマントの左胸には誇らしげな勲章が、輝いている。


「そ、それがなんだというのじゃ!」

 ヴァイゼル・ケーキンがまたキレた。都合が悪くなるとキレる老人か。


「……世界樹の街に、無許可で魔法学校を開校されましたね」

 中年のインテリメガネ魔女が見かねたのかフォローする。

「その件でしたら。最初は私学ということで無許可で開校しましたが、事後承認はとりました。今や公立認可の魔法学校として運営しております」

 確かに魔法協会の許可を得ず、無認可の魔法学校を世界樹の街に開校した。それが気にくわなかったのか。

 街には開拓民と移住者が大勢いる。新たなる「魔法都市の拠点」としての名声を聞き付け、世界中から魔法や魔法道具づくりの関係者、あるいはその家族の移住者が集まりつつあった。

 だから彼らの子供、将来有望な少年少女たちを無償で集め、魔法学校で学ばせようと思いついた。

 ゆくゆくは俺の子供や、スピアルノの子供達も通わせる予定だった。

 可愛い天使たちの楽園を築くのだ。


「それだけではありません、以前から指摘していた『王立図書館の禁書、閲覧疑惑』にはどう答えるのです!? 地下の王国秘蔵の秘宝についてもです。どうやって知ったのです!? 城の進入禁止エリアだった聖剣戦艦へのアクセスはどうやって!? そもそも、なぜググレカス氏は魔法知識を、たいして勉強もせずに無限に入手できるのですか!?」

 中年魔女が興奮気味にまくしたてた。

 なるほど、かなり鬱憤が溜まっていたのだろう。もはや疑惑のデパートの扱いらしい。


 答えるのも面倒なのでメガネの鼻緒を持ち上げて、「さぁ」と薄笑いで応じておく。


「キィイイイイイイイ!」

 施設内では禁止のはずだが、攻撃的な魔力波動が放たれた。そよ風ほども感じないが。


「と、とにかく! 貴様は追放じゃ! この王立魔法協会本部施設、王立図書館は立ち入り禁止とする!」


 図書館は痛いが検索魔法(グゴール)があるからいいか。


「仕方ありませんね」

「ググレ!」

 俺が王立魔法協会に関わらなくなると、いろいろ困った事になると思うのだが……。

 たとえば王城や王国軍を支える通信基幹系、魔法通信の高速暗号化複合化技術などの核心部は王立魔法協会のとある部屋で管理している。

 俺の魔法――自律駆動術式(アプリクト)に依存している部分が多く、メンテナンス要望にどう対処するつもりなのだろう?

 それに諸外国の魔法使いたちによる諜報、呪詛、通信回線への侵入対処は大丈夫だろうか?

 日夜頑張っている魔法使いや魔女たちはランキングでいえば中級のベテラン勢だが、高度な攻撃魔法による非常事態への対処が難しい。

 そういう事態は週に一度や二度は必ず起きる。

 あれやこれや。

 あれもそれも。

 現場の仲間たちを考えると心配になるが、立ち入るなと言われたら仕方ない。


 まぁいい。もう知らん。


「しばらくお暇を頂きます」

 円卓会議の面々――レントミア以外の安堵したような、勝ち誇ったような表情はあからさまだった。


 俺は一礼し席を立った。


<つづく>


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― 新着の感想 ―
[良い点] 以前にアナウンスされていたググレカスの追放劇が始まりましたか。 回覧をみないググレカスにも問題があるようですが、追放は新会長の意向みたいですね。 既にググレカスの力がないと、組織が回らない…
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