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 レントミアの魔法戦術


 多脚型のゴーレムは、右腕から銀色の矢を放った。狙いは上空を旋回中のレントミアだ。


 ――魔法を仕込んだ金属の筒で、矢を加速させるタイプの武装……!

 レントミアはゴーレムの武装の特性を見切る。右腕に装備した武器の形状、発射音。更に索敵結界(サーティクル)で感知した魔力の波動から、対人武装の一種だと判断する。

「っと!」

 とっさに魔法の浮遊板(リフター)の手綱をひき、急速にターン。矢をやり過ごす。

 矢に誘導性はない。近接で炸裂する爆破魔法が仕込まれている可能性も考え距離を大きめにとったが、そこまで手の込んだ武装ではなさそうだ。

 ゴーレムは上半身を半回転させながら、立て続けに二射、三射と連続で矢を放ってきた。しかし狙いが甘く、鳥のように空を舞うレントミアを捉えきれていない。


「当たらなければ、どうってことないね」

 対空戦闘を考慮していないのか、あるいは他に狙い(・・)があるのか。

 魔法による接近戦は避けたい。敵の魔女マガルータがゴーレムを起動した直後、まるで生け贄のように魔力を吸い尽くされ、失神してしまった。

 あれは危険だ。対魔法使い用の武装の一種なら、距離をとり戦うしかない。


 思慮深く、慎重なレントミアは油断せず、左の手のひらで魔法を励起する。十分に練り上げたところで、矢のお返しとばかりに火槍魔法(ファランシア)を叩き込んだ。

 大型の魔獣でも一撃で消し炭にする熱量の火炎魔法。加えて、螺旋状の回転を加えたことにより、貫通性と直進性を

持たせてある。

「これでどう?」

 対魔法装甲で防御した軍用ゴーレムとて、直撃すればただでは済まない。

 上空からの一撃。炎の槍が一直線に、吸い込まれるようにゴーレムに向かってゆく。装甲の厚いであろう正面ではなく、頭上から。魔法が直撃する、かと思われたその時、

『――可逆魔法結界陣(マギア・ルヴァシル)

 ゴーレムが左腕を持ち上げ、光の壁を展開した。格子状の青白い立体魔法陣へと変化するや否や、真っ赤な火槍魔法(ファランシア)を飲み込んだ。

「分解、吸収した!?」

 ただの魔法シールドじゃない……!

 火炎魔法は爆発することも無く、分解され火の粉を散らしながら消えてゆく。ゴーレムは魔力を吸収した。

 頭部の魔石が怪しい輝きを増す。敵の魔女の魔力を取り込んだ仕掛けは、魔法による攻撃さえも無力化する。となれば戦術を変えねばならない。少々リスキーだが、もうすこし大がかりな魔法で挑む必要がある。


 再び空中で旋回するレントミアに向け、ゴーレムが矢を放ってきた。慌てて避けようと身体を傾けた時、浮遊板(リフター)の端を矢が貫通、打ち砕いた。

「しまっ!?」

 狙いが補正されていた。動きを予想し、未来予測位置に向かって放ってきたのだ。

 ゴーレムの中に術者はいないはずだ。魔女マガルータは起動する際、ゼロ・リモーティア・エンクロードの名を叫んだ。

 つまりあれは無人のゴーレム。プルゥーシアが破棄したと言っていたはずの、忌々しい亡霊が機体の中にいるのだ。

 ゼロ・リモーティア・エンクロード。人造の魔法使い。実体を持たず、自己学習と進化を続ける、魔法使い。奴は戦いながら魔力を吸収、戦術さえも学習し進化している。


 レントミアは浮遊板(リフター)がコントロールを失う前に高度を下げ、草地に飛び降りた。

「あぁもう! 魔法使いに走らせないでよね」

 『魔力強化外装(マギノティクス)』を励起、疾走する。

 レントミアに向けて矢が放たれた。盾がわりに投げ捨てた浮遊板(リフター)の中心に矢が命中。貫通すると粉々に砕けた。


「何発撃てるのさ!?」

 ドシュ、ドシュシュッと、連射される。次々と地面に矢が突き刺さるが、レントミアはジグザグに避けながら、一定の距離を取りゴーレムの周囲を駆けまわった。


 それを追うようにゴーレムがガショガショと脚を動かしながら体の向きを変え、狙いをつけては矢を放つ。


「レントミア様の援護を!」

「おおぅ!」

 サーニャと仲間たちが武器を手に飛び出そうとする。

 だが、レントミアは小さな火炎魔法を放ち、サーニャたちの目の前で爆発させた。


「来ないで!」

「レントミア様……!?」

 彼ら竜撃戦士では矢は避けられない。単純で強力な攻撃。おまけに矢は無慈悲に脳天を狙ってくるだろう。


 それに――


「ここから先は、立ち入り禁止だから」

 レントミアはそう言うと、足を止めた。


 流石に『魔力強化外装(マギノティクス)』による一時的な肉体の強化は辛く、持続できない。乱れた呼吸を整えながら、頬にかかる髪を耳にかきあげる。


『――射撃補正、標的、射殺』

 動きの止まったレントミアを捉え、ジィイとゴーレムの右腕が魔法の矢を向けた。次はもう外さない。感情の無い殺人マシーンが狙いを定める。


 レントミアはゴーレムを睨み返した。

 四本脚に人のような上半身をつなげた異形の機体。コードネーム『罪人(フェロン)』と呼ばれる機体を制御するのは、幾度となくメタノシュタットを混乱に陥れ、仲間たちを苦しめてきたゼロ・リモーティア・エンクロードだ。

 魔法使いとさえ呼びたくない、偽りの亡霊だ。


「お前は、ファリアが来る前に片付ける」

 もう彼女に無理はさせられない。こんな怪物を相手にするのは自分ひとりで十分だ。

 彼女は、自分が守ると決めたのだから。


 レントミアがだんっと足を踏み鳴らすと、波紋が広がるように地面に光が輝いた。レントミアを中心に、走り回っていた広場全体を包み込むように、巨大な魔法円が浮かび上がる。

 小さな魔法円が無数に地面で花開いた。それらは互いに繋がり、ネットワークを構築してゆく。蜘蛛の巣のように互いに連結された魔法陣は、ゴーレムを環の中心に捉えてゆく。


『――魔法検知、吸収分解、優先』


「おぉ、見ろ……!」

「地面に無数の魔法円が!」

「レントミアさまは魔法を仕込んでいたのか!」


 ゴーレムは魔法力を吸収し、自らの活動エネルギーとする。周囲に「美味そうな」ダミーの魔法円を展開すれば、その目を欺ける。魔法を分解、吸収する左手のシールドによって魔力をかき集める事を優先する。何故なら、攻防一体、相手の攻撃を防ぐ手段でもあるからだ。ならば、それを飽和させる。

 地面に仕込んでいた魔法はそれだけではない。

 ググレなら、きっと内側から分解、自滅するような術式を編み込んで、相手に流し込むだろう。さしものレントミアもググレカスの超高速詠唱の真似事はできない。


 しかしレントミアには圧倒的な経験がある。数多の戦いの記憶が、未知の敵に対する攻略法を見い出していた。


 ――魔法を直接撃ち込むのではなく、魔法により生じる超高熱(・・・)を純粋に叩き込む。

 超高温の熱エネルギーの一斉射撃に、あの機体は耐えられるか? そこが勝負の分かれ目だ。

 幾重にも積み重ねた魔法円を右腕にまとわせ、十数メルテ先のゴーレムに差し向ける。

 そして、高らかに吟う。

「くらえ――超高熱(ハイワッテージ)指向性熱魔法(ポジトロール)! 焦熱牢獄陣(インフェルノプリズナ)……ッ!」


 ドウッと一斉に火柱が上がった。

『――!?』

 ゴーレムの周囲に赤々と燃える炎。それは無数のかがり火のように、白い機体を赤く照らし出した。周囲に燃え盛った炎は一瞬で球形に凝縮したかと思うと、天に向けて、まばゆく輝く細い光の柱を起立させた。光の柱がズラリとゴーレムの周囲をとり囲んだ。全部で十六本の光の柱。

「おぉ、見ろ!?」

「まるで光の牢獄だわ……!」 

 驚くサーニャたちの目の前で、光の牢獄は包囲陣を狭めた。

「んんっ……んっ!」

 レントミアが手の指を動かし、握るにあわせ、光の角度が傾いてゆく。四方八方、全方位から光の柱がゴーレムに向けて倒れてゆく。まるで牢獄が崩壊するがごとく、中心に向けての指向性をもった熱と光が集中してゆく。


『――術者、殲滅優先……ッ』

 ゴーレムが矢を放つ。しかし銀色の矢はレントミアに届くことはなかった。牢獄の光に触れた瞬間、白い光を放ち液状化、地面へと鉄の雨を降らせた。


「な、なんという熱量じゃ!? 千五百度は優に越えておるぞ……!」

 竜撃戦士のリュカドゥが叫ぶ。鍛冶に造詣が深いのか、光の放射温度を言い当てる。


「はあっ!」

 レントミアが右手を握りしめた。

 多段詠唱、同時複数術式の励起と同期制御――。弟子である賢者ググレカスに教えた秘技。魔法使いとして最上位と呼ばれる所以(ゆえん)。類い稀なる才能ゆえの常人ならざる魔法の奥義だ。


 次の瞬間。

 十六方位から倒れた光がゴーレムの機体に殺到した。光は圧倒的熱量で機体を溶断、切り刻んでゆく。魔法装甲も、防御結界も無意味だった。

『――防―――――不――能ッ――』

 圧倒的な熱量の放射により、ゴーレムの腕が、脚部が、胴体が、まるで熱したバターを斬るよりも容易く、溶断されてゆく。

 輝きが失せる。全身を無数の光の刃で細切れにされたゴーレムは、内側から大爆発を起こし木っ端微塵に吹き飛んだ。

「おぁおおお、やった!」

「凄まじいの一言じゃわい……!」

 爆発の光が天を焦がし、黒煙が立ち昇ってゆく。


「ふぅ、けっこう本気だしちゃった……」

 対魔王戦でも使えるレベルの術だった。けれど確実に圧倒、殲滅する。たとえほぼ魔力が尽きようとも構わない。それが確実かつ、最良の手段だと判断したからだ。


「レントミア様!」

 サーニャが仲間たちと共に七色砦から飛び出した。


 大きく息をはき、片ひざをつくレントミア。

 すると、索敵結界(サーティクル)に接近する反応があった。どうやら定石通りに遅れてきた真打ちのおでましのようだ。


「今の爆発は……!? って、あぁあ!?」

 重厚な白馬を駆るファリアが七色砦の広場に駆け込んできた。爆発し粉々になったゴーレム、それから周囲に倒れている魔女や黒服の戦闘員を見つけ、悔しげに叫ぶ。


「……やぁファリア。露払いのつもりだったのに、片付けちゃった」

「レントミア、仕留めるのが早いぞ!」

 馬で駆けつけるなり、颯爽と飛び降りる。

「残党がまた来るかもしれない。それに怪我人も多いんだ。あとはファリアにまかせるね」

「おおぅ、任せておけ!」

 疲れた様子のレントミアをひょいと抱き上げる。いわゆる、お姫様抱っこだ。

「って、これは頼んでないけど?」

「いいから気にするな」

「もう……」


 そこへサーニャや仲間たちも駆け寄ってくる。

「姉上……来てくださったのですね! レントミア様と共に」

「あぁ、遅れてすまない。サーニャも皆も無事か?」

「はい!」

 

<つづく>


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― 新着の感想 ―
[良い点] 颯爽と登場したレントミア。 対するは、人造の魔法使いゼロ・リモーティア・エンクロードが操る多脚ゴーレムだ。 それも今までの経験から強敵へと進化している。 生半可な魔法攻撃では通らないばかり…
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