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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆2章 二人目の相談者(ミニクエストに出かけよう! 編)
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★デートの誘い……なの!?

 村一番の美少女、セシリーさんが戸惑い気味に口にした依頼は意外なものだった。


 ――野イチゴ摘みをご一緒に……だと?

 

 ゴクリ……。

 それはつまり……デートの誘い!?

 彼女の方から誘ってくれるんなんて超展開。

 フラグ立ちまくり、これは……俺の時代が来たのか!?


「デデデ、デー……ですな? ハ、ハハッ……」


 もやは言葉にならない呟きをブツブツと垂れ流す俺の口。

 元の世界なら確実にキモがられること請け合いだ。

 が――、ここでの俺は尊敬を一身に集める『賢者ググレカス』様なのだ。


「ググレ……さま?」


 俺の怪訝な様子に気が付いたのか、セシリーさんがわずかに首を傾げている。

 いかん、何か気の利いたことを言わねば。

 汗を流しながら焦る俺だったが、ここでナイスな助け舟。

「ぐぐれさまー、イチゴ摘み、プラムも行ってみたいのですー」

 ぴょこっ、と俺の腕にしがみ付いて、メイド姿のプラムが甘えた声を出す。

 長い緋色の髪をツインテールに纏めているのが可愛いが、ロリ属性のない俺にとっては今は目の前のセシリーさんとのデートの方が重要だ。


 落ち着きを取り戻した俺は、一つ軽く咳払い。

 玄関から見える空の方に視線を泳がせ、

「イチゴ摘みですか、ふむ……風が心地いいこの季節、たまには散歩も悪くない。うちのプラムにも少し息抜きをと思っていたところでしたしね」

 ぽむ、と俺はプラムの頭に手を置く。

「プラムも行くのですー!」

 と、無邪気に腕を振り上げる。


「よかった!」

 セシリーさんが胸の前で手を合わせ、ぱぁっとした笑みを浮かべる。

 可憐だ。まさに花の咲くような、といった笑顔。

挿絵(By みてみん)

 うむ……ここまではいい流れだ。

 俺の寛大さと優しさ、そしてガツガツしない「草食感」をさらりとアピールできたのだからな。好感度パラメータ絶賛上昇中だ。


 ――麗らかな日差しの下、野イチゴを二人で摘みながら笑いあう俺とセシリー。

 思わず同じイチゴに手を伸ばし、指先が触れ合っちゃったり。

 野イチゴの茎にあるトゲが刺さった彼女の白い指先を、さりげなく気遣ったり。

 くはぁ……ッ!

 (ちなみに、プラムはキノコでも探して来いと言って森の奥に追いやる作戦だ!)


「でも、その。実は……最近、魔物が出るらしいのです」

「――へ?」

「村でも困っていて……野イチゴを摘みに行きたいのですが、一人では行けないのです…」


 ――あれ? デートの誘いじゃないの? 魔物? え?


 俺の幻想が、脆くも打ち砕かれる。混乱する俺をよそに、セシリーさんが続ける。


「王政府の苦情窓口にも行ったのですが、村はずれに出るような低レベルの魔物の駆除に回せる人手は無い、の一点張りで……」


 セシリーさんが憤慨したように眉を曲げる。少し怒った顔もまた可愛らしい。


 『賢者の館』が建っているフィボノッチ村の特産といえば、野イチゴのジャムにキノコの塩漬け、そして季節の野菜といったものだ。

 村の男たちは麦畑を耕し、女たちは暇を見つけては森に分け入り、イチゴやプルーンに似た果実、そしてキノコなんかを採集しては暮らしの糧にしている。

 そこで魔物が出るとなれば、日々の暮らしにも影響が出て困るだろう。

 ましてや、いつも世話になっている村のオバちゃん組合もだ。


「うむ……それは、確かにお困りでしょうな」


 俺は顎に手を添えて神妙な顔つきで唇を引き締めた。

 デートだと思いこんだのは俺の早とちりだったわけか。賢者は話を最後まで聞く癖をつけねばな。反省。


 ――だが、まてよ。これはむしろ……、チャンスではないか?


 慣れない二人きりの(?)デートで幻滅されるよりは、魔物退治はむしろ俺の魅力をアピールできる絶好の機会じゃないか!


 少なくとも『ディカマランの6英雄』として名の知れた賢者である俺が、この辺りに出没するような低級雑魚モンスターに後れを取る事など無いからだ。

 元の世界のRPGで例えるならば、賢者としてのレベルは99ぐらいある。

 さすがに暴竜(ギガス・ドラゴン)クラスを一人で相手にすることはできないが、一般的な兵士でさえ苦戦する様な相手であっても、負ける気はしない。


 とはいえ……攻撃魔法を持たない俺は、防御と攪乱(かくらん)は出来ても直接的な攻撃手段に乏しいのだ。

 どちらかというと最後列で「頭脳労働」をするのが俺の役目だしな。


「さて、どうしたものか」

 俺がわずかに思案する様子に気が付いたのか、セシリーさんの可憐な唇が言葉を紡ぐ。


「あの……、村の大人たちは王政府に任せろの一点張りですが、うちで預かっている子達が退治してやると張り切っていて……」


 セシリーさんが、少し困った様な曖昧な表情で肩をすくめて苦笑する。

 と、聞き覚えのある声が屋敷の外から聞こえてきた。


「賢者さまー!」

「リオ気をつけろ! 偽賢者が襲ってくるかもしれないぞ!」


 ――まさか。


「あー! イオにぃと、リオねぇなのですー!」


 プラムが庭に駆けだす。

 眩しいお日様の下、芝生と雑木と花壇の間を、赤毛の少女が一直線に向かう先。

 蝶が舞う前庭の向こう側、門柱の横に姿を現したのは、勇者志望の双子の兄妹――


 イオラとリオラだった。


「……やれやれ」


 ――面倒なことになりそうだ。

 俺は溜息交じりに、眼鏡をスチャリと持ち上げた。


(つづく)


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