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 ルーデンス伝統競技『羅具備威(ラグビイ)』


 ――ルーデンス伝統競技『羅具備威(ラグビイ)


 そのルーツは古く、発祥は狩猟民族たるルーデンス十二部族による、食料争奪戦争が発端だったと云われている(※諸説あり。後述)

 大寒波が到来し食糧不足に陥った年の暮れ、貴重な肉を求めて血なまぐさい争奪戦が繰り広げられた。貴重な獲物を求め、狩人たちが互いの縄張りを荒らし奪い合う、狩った獲物を他の部族の狩人から奪う、といった略奪行為までが行われるに至り、ついに部族同士の戦争が勃発。多数の死傷者を出す事態となった。

 これを戒めた族長会議の場で、和解仲介案として獲物の平等分配が提案されたという。

 しかしこれに不満を抱いたある部族の代表が、丸めた干し肉を奪い合い、互いの力の優劣を決めることで、部族への配分を増減する改良案を提示。

 チーム同士で戦い、肉を奪うに至るルールを定めることで混乱と戦いを回避。正々堂々とした「競技(スポオツ)」として部族長会議で採用されたという。

 これが『羅具備威(ラグビイ)』の起源と云われている。

 (但しこれはルーデンスの酒場で酔っ払っていた自称歴史研究学者から聞かされた話である。『ルーデンスの商店街で、特売の肉を奪い合って繰り広げられた女性同士の戦いが起源である』など諸説あることをここに追記しておく)


 ――メタノシュタット王都スポオツ新聞 刊

『密林の謎の肉食王国、ルーデンス決死紀行』より


 ◇


 ドドド……! と屈強な男たちが疾走する。

 アークティルズ場の横には芝生の広場があり、そこで十名ほどの若者たちが走り回っていた。

「肉パス!」

 選手の一人が干し肉の塊を後続のチームメイトへとパス。

 しかし動きを予測していた相手陣営(チーム)の若者が、干し肉を受け取った選手にタックルをぶちかます。

「肉ゲッツぁ!」

「ぬぉなんのっ……肉パス!」

 倒れつつも更に仲間へパスを繋ぐ。


 熾烈な干し肉の塊の争奪戦。


「おー! やってますねー」

「ちなみに、掛け声の最初に(にく)をつけるのがルールなのかい?」


 プラムとアルベリーナが城のバルコニーから見下ろした先、広場が一望できる。幅30メルテ、長さ60メルテほどの芝生に覆われた広場を、男たちが走りパスを回してゆく。


「ルーデンスの正式なルールで、最初の『肉』という掛け声は大切なものだ。たしか昔、すり替えたココミノヤシの実をパスしたり、相手選手の生首(・・)を投げ渡されたりしたことが原因で、乱闘に発展した凄惨な歴史があって……それを防ぐためとかなんとか」


 ファリア王女の説明も曖昧で怪しい。生首うんぬんのくだりは流石に眉唾ものだろう。


 縦横無尽に男たちが駆け回り、干し肉の塊をパス。ついに「やぐら」のようなゴールへと持ち込んで得点を得たようだ。


「お兄ちゃん! ナイスー」


 声援は芝生の観客席にいたアネミィだ。竜人(ドラグゥン)特有の羽を広げてぴょんぴょんと跳ねている。


 堂々とした様子の竜人(ドラグゥン)、ニーニルが親指を掲げて妹に笑みを向ける。そしてプレイ再開とばかりに、干し肉を仲間に再び投げ渡す。


「今のゴールはアネミィちゃんのお兄さんでしたねー!」

「そうだけどさ、竜人(ドラグゥン)は動きが良すぎて、交ぜちゃダメなんじゃないかねぇ……」

 相手選手がタックルしようにもニーニルは走るのが速い。おまけにジャンプ力もあるので掴まえることが出来なかった。


「アルゴート殿! 肉パス」

「――っとわ!」


 危なっかしい様子でパスを受け取ったのは、チュウタことアルゴートだった。


「よし殺……じゃない潰せ!」

「ヒョロガリの騎士め……!」

「うぉおおお!」

「いっ!?」

 明らかに相手選手たちは殺気立っていた。何か恨みでもあるのか、アルゴートめがけて殺到する。普段から野獣相手に狩りをしている連中のタックルなどくらったら、骨がどうにかなりかねない。


「やばっ……!」

 しかしアルゴートも騎士の端くれ。小脇に干し肉を抱えて全力疾走。追撃をかわし走る。追いつかれそうになったところで、チームメイトにパスを渡す。

 それでも背後(・・)からタックルを仕掛けてきた相手選手を、まるで背中に目があるかのようなタイミングでヒラリと避けた。

「くっ!?」

「まるわかりだ」


 鍛錬を積んでいる騎士にとって、地面を踏む音や相手の息遣いなどの気配を容易に察知できる。背後からの攻撃を避けるのも造作もないことだろう。


「ちなみに、あの干し肉は最後どうするのですかー?」

「試合が終われば、敵も味方もなし。ノーサイドで肉を皆で食べて仲良くなるのさ」

「なんだか干し肉が汗臭くなりそうさねぇ」

「ちなみにですが、お味は?」


「無論、男たちの汗と友情の……塩味だ!」


「「うぅ……?」」

 堂々と言い放つファリアに、さすがのアルベリーナとプラムも苦笑するしかなかった。


 ◇


 こうして――休息と、ファリア主催の和気あいあいとし楽しい夕食を経て、数日後。

 一行は南下しながらの帰路につくことになった。


「ホウボウ号、発進! 微速前進、南南東へ」


 新しい同行者は、ルーデンス伝統の狩人装束に身を包んだファリアだ。

 元女戦士の暑苦しい鋼の鎧も今は身につけていない。あくまでもルーデンスからの見目麗しい女狩人としての同行だ。


「アルベリーナ艦長殿、次はどこへ向かうのだ?」

「あぁ、次はティバラギー村さね」


「ファリア姉ぇ、イオ兄ぃががんばってる村ですよー!」

「イオラか……! 以前一度、ルーデンスに買い出しに来ていた時に見かけたが……、久しいな!」

 プラムの言葉にファリアがが目を細める。


「戦乱で荒れ果てた村も今じゃ再建されて、いるみたいですね」


 操舵士のアネミィも色々と知っているようだ。


「ほほう? つまり若い移住者、男たちが大勢いるってことさね」

「ほぅ……? 実に興味深いな」


 齢三百歳独身の魔女と、四捨五入で三十路になる王女の瞳が、同時にギラリと禍々しい光を宿す。


「ヒヒヒ、汗水たらして働いて結構なことさね」

「おおぅ、汗水たらす男はいいものだな……!」


 意気投合した二人は、艦橋から大森林の彼方を眺め、村の若者たちとの出会いに想いを馳せているようだ。


「あわわファリアさん、まるで狩りに向かうような顔つきなんですけど……!?」

「ティバラギー村の皆さんに、事前に知らせたほうがいいのではないですかねー」


 アネミィとプラムは本気で、村の若い男たちのことを心配し始めた。


<つづく>


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― 新着の感想 ―
[良い点] 『羅具備威』は、ルーデンスの漢たちに取って汗と涙と名誉を掛けた神聖な試合ということみたいですね。 しかし、試合後に塩味の干し肉を頂くとは……。 アルベリーナとプラムには耐えられなかったよう…
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