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 伝統のスライム尋問


 ◇


「こんなもんですかね? アルベリーナ隊長ー」


 すたた、と軽やかな足取りでやって来たのは、半竜人(ハーフドラグゥンン)のプラムだ。

 緋色の髪を揺らしながら駆け寄ってくる。その両手にはいくつかのガラス瓶を抱えていた。


「あぁ、良いさねプラム。アルゴートはしっかり縛ったかい?」

「は、はい!」


 プラムが駆け寄った木の周囲には、魔女アルベリーナと騎士チュウタ、そして竜人のニーニルがいた。

 一抱えもありそうな木の根元には、捕虜(・・)となった魔法使いがぐるぐる巻きに縛り付けられている。


「痛い……いたたっ!」


「黙れ」

 騎士チュウタがギュッとロープをきつく締める。


 周囲には魔法封じの魔法円が描かれている。

 魔女アルベリーナの特製の魔法円は、魔法の詠唱をしようとすると呼吸が出来なくなる。一種の呪詛だ。解呪(ディスペル)は比較的簡単だが、息ができないのでは詠唱もままならない。

 魔法円を描く指先も、動かせないほどに縛ってある。



「無詠唱にしろ、高速詠唱にせよ、魔法力を励起した瞬間に脳への血流がとまるからね、覚悟おし」


「ひぇええ!? なんですかソレぇ!? どうなるんですかぁあ?」


「どうなるんですかねー?」

 プラムがニコニコしながらガラス瓶を地面に並べる。中身は何かグチュグチュと蠢く何か(・・)、だ。半透明のガラス瓶にはそれぞれラベルが貼られている。

 『採集地、大森林湧水池の湿地帯。王国歴1042年4月7日 腐蝕性』

 『採集地、大森林枯死樹木内。王国歴1042年4月9日 麻痺毒性』


 グニュン……と瓶の中身が反応した。

 

「野生のスライムですよー」


 サンプルとして収集した、毒性を有するスライムたちだった。


「ゆ、許してくださいーっ!? ていうかぼ、()なにかしましたっけ……!?」


 ジタバタとロープの内側でもがく青年魔法使い。


「お黙り、白々しいねぇ? それに、随分としおらしくなったじゃぁないか? さっきまでの威勢はどうしたんだい?」


 魔女アルベリーナが苛立たしそうに黒髪を振り払いながら、鋭い視線で睨みつける。


「え、えぇ……っ?」


 捕虜の青年は青い顔をして、怯えたように顔をヒクつかせるだけだ。

 確かに見た目はかなり若い。

 プラムやチュウタと変わらない年頃だろう。

 淡いブロンド

色の髪に、青い瞳。凛々しくも端正な顔は育ちの良さからくるものか。とてもさっきまで狂気に満ちた攻撃を繰り出していた魔法使いとは思えない。


 だが、騎士チュウタと戦った「迷彩柄のローブ」の魔法使いで間違いない。


 後頭部を殴りつけ悶絶させ、引き剥がしたローブの内側にいたのは、確かにこの青年だ。

 小綺麗な身なりで、プルゥーシア式の魔法学士の制服を着用している。

 襟には『プルゥーシア皇国ボリショタリア魔法学園』の校章が輝いていた。


「魔法学校の学生でしょうか? さっきとはまるで別人です。同一人物とは思えない」


 小声で魔女アルベリーナに耳打ちする騎士チュウタ。救援や増援の気配が無いか、周囲に注意を払っている。


「一連の攻撃から考えても、高位の魔法使いなのは間違いないさ。何らかの偽装かもしれないけどねぇ」


 見た目はともかく、口調と声色(・・)が先ほどとは明らかに違う。


 騎士チュウタはそこに違和感を覚えていた。戦っているときはもう少し攻撃的だった。それに『威勢はいいが、お前では相手にならん』とまで言い放つほど自信に満ちた声だった。

 だが今は怯えた少年のように声はか細く、オドオドとしている。


「……油断は禁物です」

「軽く尋問(・・)してみようかねぇ」


 魔女アルベリーナがニヤッと妖艶な笑みを浮かべる。


「あ、あの……?」


「いい肌艶だこと。魔法で(いつわ)っているのかい? 脳に直接聞いてみようか? 裸にひん剥かれるまえに、自分で洗いざらい話すかい?」


 捕虜の頬を指先でつつく魔女アルベリーナ。


「ぎゃぁああ……」

「まだ何もしてないよ」

「……はひ」


 涙目でコクコクと頷く青年魔法使い。


「けれど、答え次第じゃぁどうなるかわからないよ?」

「はい」


「名前は?」

「個人情報はちょっと、あの……えっ!?」


 パコッ。


 プラムがスライムの瓶のフタをあける。


 じゅるっ……と紫色の粘液状の生物が這い出した。ズルッと動きながら縛られた青年に向かってゆく。

「ちょっ……!? まっ、いやいやいや!?」

 魔法円には矢印に似た、動きを誘導する魔法が加筆されている。


「このスライムさんはお肉が好きです」


「ス、スライムで拷問とか、メタノシュタットは悪魔の国ですかー!? どうしたらそんな発想ができるんですかぁああ!?」


「ググレさまはしょっちゅうやってましたけどー?」

「さすがはあの男の娘だねぇ……」


 呆れた様子のアルベリーナ。

 30センチメルテまで迫ったところで、青年魔法使いが観念したのか「言います!」と叫んだ。


「名前は、エテカルトです」


「所属は」


「所属……? って、えぇと。プルゥーシア皇国ボリショタリア魔法学園の三年生で……。先日から、卒業試験の最中でした……」


「卒業試験? 闇ハンターの魔法支援に、隣国の主権を犯すことがか!?」


 騎士チュウタが強い口調で迫る。


「あわわ……、ぼ、僕、本当にどうなっちゃうんですかね……?」

「本国に連行し更に厳しい取り調べを」

「わぁああ! スライム拷問より酷いことされちゃうなんて嫌だぁああ」


 本気で泣きはじめる魔法使い。


「隊長……」

「うーん。どうしてくれようかね」


「何も……知らな……いんです。本当ですよぅう、ぐすっ。……えぐ……『これ以上は訊いても無駄だ』……ぐすっ」


 突然、太い男の声が交じった。


「なに!?」


「えぐ? あれ……? 『我が端末(・・)のひとつ、上層意識を借りているだけだからな』……あれ? えっ!?」


 青年も混乱している。そして徐々に人格を奪われたかのように目が虚ろになる。そして鋭く光る赤い瞳へと変わる。


「おまえが黒幕かい? 何者さね?」


『我が名はゼロ。ゼロ・リモーティア・エンクロード。無論、仮の名だが』


「憑依……いや、遠隔魔法でこの子を()(しろ)にしているのかい」


<つづく>


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