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 謎の上位魔法使い


 ◇


 森の中の大爆発が目印になった。

 

 閃光に続いて腹に響く炸裂音。直後に炎と黒煙が噴き上がり、馬車の部品が宙に舞う。


「あそこか……!」

 騎士チュウタは爆発の起きた地点に向かって、速度を上げて走る。重い部分鎧は走りながら外し、手に持った剣を構え、森の木々の向こうに潜む敵に目を凝らす。


 ――今のは隊長(アルベリーナ)の攻撃、ならば敵を仕留めた?


 状況からみて、アルベリーナ隊長が魔法を放ち、敵の馬車を破壊したのは間違いない。襲撃していた闇ハンターの数は4人。最初に剣を交えた二人は既に倒した。となれば、馬車の御者を一人とカウントしても、残りは一人だ。

 

 馬車が破壊されても攻撃は続いている。その魔法は強力で、連続的に放たれていることからも、相当の使い手であろう事が判る。


 木々の向こうに人影を捉えた。

「あいつだ!」

 騎士チュウタの視界の先20メルテ前方に、緑と茶色の迷彩柄のローブを被った人物がいた。フードを深く頭から被り、森の木々の陰に身を潜めている。突き出した右手から青白い光を放ち、魔法を励起していた。

 術者は巨大な魔法円を地面に励起、船ごと包み込んだ。調査母船『ホウボウ号』の鉄製ゴーレムのような脚部が動きを止め、船体が傾く。


 ――戦術級の儀式魔法で船を破壊するつもりか!


 一刻の猶予もない。騎士チュウタは、魔法使いに直接攻撃を仕掛けようと接近する。


 だがそのとき、事態は意外な参戦者によって好転(・・)する。


「プラム……!?」


 闇ハンターの術者により励起された魔法を、船から飛び降りたプラムが破壊したのだ。

 地面に描かれた魔法円を引きちぎり、いとも容易く破壊。魔法円や魔法を構成する魔力糸(マギワイヤー)を見て、直接触れる(・・・)ことの出来るプラムは、その力で魔法円を破壊し、魔法を霧散させたのだ。

 プラムの能力は、賢者ググレカスとの旅の際にも幾度か発揮されたものだ。


『魔法を無効にしやがった!? 魔力糸(マギワイヤー)を引き千切るなんて、バカな……!』


 森の中に潜んでいた術者は、頭を抱えながら立ち上がり、怒りと驚愕の叫び声を上げた。それ程までに想定外の事態だったのだろう。


「見つけたぞっ、卑劣な闇ハンターめ!」


 騎士チュウタが剣――量産型(プロダキュア)雷神剣(サンダガード)(カスタム)を構え、一気に肉薄する。術者との距離は既に3メルテまで縮まっていた。

『ぬっ……?』

 船に対し、あれほどの魔法攻撃を仕掛けていた事からも、相当にレベルの高い魔法使いに違いない。

 上級の魔法使いに対して、不用意な接近戦は危険を伴う。だが今はそんな事を考えている場合ではない。雷光を纏わせた剣を上段に構え、一気に斬り伏せる。


「成敗ッ!」


『メタノシュタットの騎士風情が』

 だが相手は身軽だった。立っていた位置からバッタのように跳ね、間合いを取る。素早いその動きは『魔力強化外装(マギノティクス)』の使い手であることを物語っていた。


「逃がすか!」

 騎士チュウタの剣先が空を切る。切っ先が地面に激突する寸前で、剣を止め追撃に移る。


『どうやら引き際だ』

 騎士チュウタが踏み込んだ地面から青白い光が迸り、氷の刃が飛び出した。一瞬で励起された魔法は『氷刃魔法(アイシア)』の一種か。


「うッ!?」

 ビキイッ……! と地面に着けた(かかと)が氷漬けになった。水晶のような氷柱がビキビキと成長し、足首からふくらはぎをはい上る。

 完全に足が氷漬けになる前に、強引に蹴飛ばしてジャンプ。下半身が氷漬けになる前に、なんとか回避する。


『ハハ、少しは()を冷やしたか、あばよ……!』


 あざ笑いながら迷彩柄のローブを翻した術者は、更に跳ねて木の(こずえ)に上る。魔法使いというよりも、まるで()だ。


「おのれ、逃がすか!」

 騎士チュウタが振り抜きざまに雷撃を放つ。

 距離は10メルテ。ギリギリ届くかどうかの距離だが、眩い雷撃がほとばしる。


『効かんよ』

 空中に生じた『氷の(つぶて)』により、雷撃が拡散。梢の上の術者までは届かなかった。


「……くそ!」

 量産型(プロダキュア)雷神剣(サンダガード)(カスタム)に装着された雷管(・・)のカートリッジも最後だ。もはや雷撃を放てない魔法剣は、重くて使いにくい剣でしか無い。


『おや、もう打つ手なしかい? 王国の騎士さんよ。量産型の魔法剣を見たのは初めてだが、実に興味深い玩具(オモチャ)だな』


「次は直接叩き込んでやる」

『威勢はいいが、お前では相手にならんよ。だが、あのダークエルフの魔女は相当にヤバいな……。これ以上は危険だ。それに竜人の娘も想定外だった』

「仲間が全滅したのに、ずいぶんと余裕だな」

『構わんよ、使い捨ての駒など』


 逃げおおせる自信があるのか、軽口をたたく。


 ――こいつ、相当の手練れか。


 騎士チュウタも数多くの魔法使いを見てきたが、魔法の多彩さ、そして励起速度が尋常ではない。

 隊長の魔女アルベリーナは言うに及ばず、レントミアも高速詠唱、あるいは無詠唱(・・・)で魔法を行使できる「最上位」に属している。となれば目の前の敵は同等、あるいはそれ以上ということになる。


 何よりも魔力のストックの底が知れない。

 数々の氷結魔法に、巨大な儀式級魔法。更には己の身体強化の魔法を同時に、難なく励起している。

 何人もの闇ハンターに対して、『魔力強化外装(マギノティクス)』を仕掛けていたのもこの男だろう。馬のない「特車な馬車」も魔力で駆動するタイプのものだったはずだ。

 それら全てに魔力を行使した上で、更に調査船『ホウボウ号』に対し、あれだけの猛攻を仕掛けてきた。


『今日は良い実戦データが採れた。ハハ、じゃぁな』


「くそ、待て!」


 術者が梢の上から飛び去ろうとした、その時。


『うっ……あっぐぁ!?』

 ガクン! と足を滑らせ、体勢を崩し木の幹に股間をしたたかに打ち付けた。

 そのまま枝で半回転、地面へと無様に落下する。

『ぎゃっ!』


「なん!?」

 駆け寄ると、木の幹に沿って(ツタ)が伸び、術者の足に絡みついていた。余裕を見せて騎士チュウタに無駄口を叩いている間に、ツタが成長し絡まっている。

 と、耳元に魔法の通信が聞こえてきた。


『ようやく捕まえたぜ。木に上ったのが運の尽きさ。森はオレ達の領域だからな』


 森との対話を可能とする、竜魔法(ドラクロア)の術だった。

「ニーニル、ありがとう。助かったよ」


『ぃっ……痛っつ……、魔力を察知できなかっ……?』


 騎士チュウタは、地面で股間をおさえ苦しんでいる術者の後頭部を剣の鞘で思い切り殴りつけた。


<つづく>


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