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 魔女アルベリーナとプラム


 赤い閃光が瞬くと、氷混じりの白い水しぶきが飛び散った。

 水蒸気がもうもうと立ち込め、視界が遮られる。


 魔女アルベリーナの放った『脈打(パルス)指向性熱魔法(ポジトロール)!』が氷結魚雷に命中。氷の塊が水蒸気爆発を起こしたのだ。


「わわっ……!」


 操舵士アネミィが大きく舵を右に切り、減速する。


 二発目の氷結魚雷は船の目前で破壊した。魔女アルベリーナは、飛び散った魔力の断片から仕込まれていた魔法を推測する。


「ほぅ……こりゃぁ驚いた」


 ――形態維持(ソノマーマ)系の魔法で、強力な氷結魔法(アイシア)の形状を維持。その内側には爆裂系の魔法を仕込んである。目的は……破片効果による破壊力倍増かい。いくつの魔法を組み合わせているんだい……?


「術者の顔を拝みたいものだね」


 これほどまでに複雑な戦闘用の魔法を、一人の術者が励起するには複雑すぎる。

 当然のことながら、最上位クラスの魔法使い――アルベリーナやレントミアのレベルでなければ出来ない芸当だ。


 魔法に関して深い見識を持つ魔女アルベリーナは、違和感を覚えていた。こんな森の奥深くで密猟団が、大国メタノシュタットの調査船を執拗に攻撃してくる理由。それを推測すると、貴重な竜人(ドラグゥン)を手に入れたいという欲だけではないのかもしれない。

 密猟している事実そのもの、あるいは何らかの魔法の実験など、真の目的を外部に漏らされては困るからだろうか。


 ――プルゥーシア皇国の特殊工作部隊か……?


「船長! アネミィ! もう一発くるぞ……!」


 船の前方が水蒸気で視界不良になる。速度をやや落としながら右に旋回して回避していると、物見やぐらの上に座ったニーニルが叫んだ。


「右舷、三時の方向! 距離百三十メルテで魔法が発動された! 今度も同じ魔法だ」


 竜魔法(ドラクロア)による索敵の魔法は相手の位置を的確に捉えていた。

 その声は甲板にいるアルベリーナ隊長はもちろん、伝声管を通じ、操舵室のアネミィの耳にも届く。

 前方の森から発せられる攻撃的な魔力を、敵は隠すつもりなど無いらしい。

 確実に仕留める気なのだ。


「なら、こっちも本気でいくしかないさぁね!」


 魔女アルベリーナは瞬時に二つの火炎魔法を励起した。手のひらを上に向けると、頭上に二つの巨大な火球を生じさせた。

 瞬く間に、巨大な火球は5センチメルテほどに凝縮、白く眩い光を放つ光球(・・)へと変わる。


「敵の大型馬車、森の中で減速し方向転換! 術者が魔法を放った……!」


 ドシュルル……! と、四発目の氷結魚雷が森の木々の隙間から飛び出してきた。森の隙間を縫いながら地表を滑り、地表スレスレを凄まじい速さで向かってくる。


「か、回避ーっ!」

 アネミィが舵を動かし、調査母船『方々(ホウボウ)号』の進行方向を変えようとする。


「アネミィ、進路このままでいいよ」

「へっ!?」

「アタイが殺る」


 アルベリーナが黒髪を風に揺らしながら、静かに口角を持ち上げた。


 そして、手のひらで弄んでいた二つの光球を放つ。


 一発目の光球は、地表を凍らせつつ滑りながら直進してくる氷結魚雷に吸い込まれた。

 船の前方、30メルテで光球が着弾すると、大爆発を引き起こした。水蒸気爆発さえも飲み込む真っ赤な爆炎が周囲を舐めた。


 二発目の光球は爆発を飛び越えて更に飛翔。森の中へと吸い込まれ、わずかな間を置いて爆発が巻き起こった。ドゥン! という衝撃波が響き渡る。地面を伝わった衝撃と音で、森の中から小鳥たちが一斉に飛び立ち、小動物が混乱した様子で逃げ惑う。


 爆発の黒煙と共に、馬車の車輪らしき物体が空を飛び、破片が空中に舞った。どうやら敵の馬車に直撃したらしい。


「ひぃえええ……大爆発ぅ!?」

「船長無茶しやがる、森の声が乱れて敵を捕捉できねぇ!」

 竜人の兄妹が悲鳴をあげる。


「船長ーっ! 魔力の糸が……魔法円ですーっ!」


 と、その時だった。操舵室の窓から身を乗り出して様子を見ていたプラムが、叫んだ。


 それとほぼ同時に、銀色の光が森の中から放たれた。光は地面を縦横無尽に走り回り、銀色の光で魔法円を描き、浮かび上がらせてゆく。


「なんだって!?」

 アルベリーナが気がついた時には、船は巨大な魔法円に囲まれていた。バォオオオオン……! と不気味な唸り声のような音が響き、魔法が励起しはじめる。


「撃ち込まれた氷結魚雷に、魔法の触媒が仕込まれていやがったのか!?」

 見張り台の上からニーニルが叫んだ。


「舵が……効かない……!」

 アネミィが叫ぶのと同時に、ガクン……と、調査母船『方々(ホウボウ)号』の脚部が力を失い、船が傾いた。


「魔力制限の術式かい!? 儀式級の魔法を励起しなすったか!」

 敵の術者はまだ生きている。破壊した馬車は囮だったのか、あるいは飛び降りたのか。いずれにせよ、並の術者ではない。


「舵が利かない、このままじゃ船で回避できないですよぉお!」

 アネミィが舵をを引っ張りながら叫んだ、その時。


「とぁっ!」

 プラムが跳ねた。

 操舵室の窓からデッキに飛び移り、そして魔法の励起した地面へと着地――。


「プラム!?」

「危ないよっ!」


「こういうの、ググレさまの魔法糸(マギワイワー)と違って……」


 プラムは素早く駆け回りながら、まるで落ちているロープでも集めるように、魔法円を構成する銀色の光を掴み、そしてブチブチと引きちぎった。

 銀色の光は蛇のように暴れまわりながら、散り散りになって消えてゆく。


「簡単に壊せちゃいますねー」


 手に持った残りの銀色の魔法糸(マギワイワー)を投げ捨てる。

 巨大な魔法が、霧散してゆく。


『――なッ、なにぃいいい!? 引き千切っただとぉおおッ!?』


 森の中から驚きと、怨嗟の声が響き渡った。

 

 ガクン、と船の脚部が再び動き出し、動きを取り戻す。


「プラムが魔法円を破壊したことで、儀式級魔法が崩壊! 魔法が成立しなくなったのか……!」


 全体を俯瞰していたニーニルが叫ぶ。その視界には、全力で走る騎士アルゴートの姿が映っていた。

「さぁ行けアルゴート、ブッとばしちまえ!」


「見つけたぞっ、卑劣な……闇ハンターめ!」


 騎士アルゴート――チュウタは、猛然と森の中へと突っ込んでいった。


<つづく>


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