森の中の雷撃戦
「くそ、『高機動魔導外装』は限界か」
急速に重さを増す外装が、騎士チュウタにとって手かせ足かせになりつつあった。
二人の闇ハンターを相手にしたことで魔力を消耗、身体の動きをアシストする力を失ったのだ。
船に帰還して魔力を再充填しなければならない。
「アルベリーナ隊長! 帰還します」
騎士チュウタが魔法通信具を通じて、調査母船『方々(ホウボウ)号』に連絡をする。
だが、100メルテ離れた位置にいた船が急に回避運動をとりはじめた。駆動音を響かせながら六本の脚部を動かし、急速に回頭する。
面舵をとり右に旋回。その動きは、地上をのし歩く甲虫のようだ。
『――アルゴートさん! 本船は狙われています!』
魔法通信からは航海士アネミィの声が返ってきた。
「なんだって! 何処から……!?」
船の周囲に敵影は無い。狙われているなら遠隔攻撃。それも森の中に潜む、まだ見えない三人目の闇ハンターか。
次の瞬間、森の奥からシュルル……! という音が響いた。そして枝葉の折れる音と共に、何かが飛び出してた。
「なにっ!?」
騎士チュウタの両脇から、凄まじい勢いで青白く光るサメのような物体が飛び出した。
長さ2メルテ、直径50センチメルテほどの丸太のような物体が、二体。
森の暗がりから地表を滑りながら、船に向かって進んでゆく。通り過ぎた後には薄く透明な「氷の道」が出来てゆく。
「魔法の矢!? 氷の魔法攻撃か……!」
まるで早馬の如き速度で、既に調査母船の目前に迫っている。
騎士チュウタに、放たれた魔法を迎撃する手段は無い。
――術者を叩かねば!
拘束具のベルトを外し、『高機動魔導外装』を緊急排除。
「よし!」
身軽になった騎士チュウタは、簡易的な部分鎧だけの装備に戻る。左腕の魔法盾兵装と、量産型雷神剣・改を手に、森の中へ向かって走り出した。
◇
「取舵いっぱい、回避――っ!」
アネミィが魔法の操舵装置をいっぱいに回しながら、アクセルペダルを踏み込む。
船が大きく傾き、視界が揺れる。
「前、魔法の魚ですー!?」
前方からは青白い輝きが地面を滑って迫ってくる。
シュルルル……! と白い航跡を描きながら接近してくるのは、魔法の氷の塊――氷結魚雷だった。
船のギリギリ、左舷をかすめた「氷の魚」は、被雷した瞬間に爆発し氷片を周囲に撒き散らした。直撃していれば船に大穴が開いていただろう。
「氷結魔法の弱点である射程の短さを、こんな方法で改良してくるとはね……!」
魔女アルベリーナが驚いたという顔をして、船首で黒髪をなびかせる。
「船長ぉお! まだ一発きますぅうう!」
今度は真正面だ、避けきれない。
アルベリーナは真っ赤な光線魔法を、氷結魚雷に向けて放った。
「脈打・指向性熱魔法!」
チュガガガ……! という短い光の連続した礫が放たれた。10メルテ直前まで迫っていた氷結魚雷に命中、激しい水蒸気爆発が湧き起こった。
<つづく>




