剣闘の騎士VS闇の剣士(サーベリア)
袈裟斬りからの、左斬上。瞬時に切り返して右薙、返す刀で逆胴を狙ってくる。
――高速の四連撃!
ギギィン! ガッ……ギィン!
立て続けに激しい金属音が響き渡る。
騎士チュウタに肉薄し剣撃を放ったのは、狼タイプ半獣人の剣士だった。
野性味のある精悍な顔つきの男の頭には、ピンと立った耳が見える。俊敏な動きは、狼の半獣人なればこそか。
「ぐっ、うぉおっ!」
二連撃目までは剣先で受け止め弾き返す。三連撃目は左腕の防御兵装で滑らせるようにして防ぐ。だが最後の逆胴の一撃は防ぎきれず、切り返した剣の鍔で辛うじて受け止める。
「ギヒッ……! オレ様の連続技に耐えるたァ、ちいっと驚いたぜェ、王国のお坊っちゃん騎士さんヨォ……!」
狼半獣人は、反りの入った片刃のサーベルを両手でグイグイと押し込んでくる。
四連撃で狙ってきたのは、すべて鎧の隙間などの防御の甘い弱点だ。
――こいつ……! この戦闘スタイルは……!
ギリ……ギリリと剣とサーベルが火花を散らす。こうなると力と力の勝負だ。しかし先程の大男の力技に比べれば、スピードはあるがパワーは劣る。騎士チュウタとの体格差もほとんどない。
「あいにく、私には通じない」
「減らず口を……! 叩ける余裕、あるのかァッ、テメェッ!」
ギィン! と互いに剣を刀を押し合って、ブレイク。
背後に跳ねて間合いを取ると、剣を構え直す。
今度は反撃とばかりに騎士チュウタが突進を仕掛ける。下段から真上へ斬り上げる。更に間髪容れず横薙ぎの一閃を放つが、相手は体を反らし軽々と避けた。
「十字斬……ッ!」
「ゲハハッ!? いい太刀筋だが、いかんせん遅いぜぇッ!」
振り抜いた騎士チュウタの剣を目掛け、狼半獣人が上段からサーベルを叩き込む。残身を狙い、腕から剣を叩き落とそうという一撃だが、その手には乗らない。
「ふんっ!」
騎士チュウタはあえて剣を下に動かすことで威力を半減させ、逆に地面で弾いて相手のサーベルも跳ね返す。
「ほウッ!?」
互いの剣が上を向き、体勢を崩す。だが同時に、軸足で身体を半回転させて、勢いに任せて剣とサーベルをぶつけ合う。
ガィン!
火花が散り、それに弾かれるように、互いにバックジャンプ。再び間合いを確保し構えを取る。
「クッ……くそ、やるじゃぁねェか」
「はあっ、はぁ……貴様もな」
騎士チュウタは、刃渡り60センチメルテほどの量産型雷神剣・改を水平に構える。
魔法の電撃を放つ機構を持つがゆえに柄部分が太く、刃の部分も通常の刀剣に比べれば厚い。耐久性はあるが、通常の剣の1.5倍ほど重く、振り回すのは至難の技だ。
しかしその重さゆえ、剣として切れ味は悪くとも打撃武器としての威力は大きい。鎧の上から叩きつけて相手の骨を粉砕できる。更に、内蔵された放電機構を使えば分厚い皮膚を持つ魔獣であろうと、防御結界を有する魔法使いであろうと、致命的なダメージを与えられる。
対して、狼半獣人が持っている得物は、刃渡り70センチメルテほどの細身のサーベルだ。軽さを活かし素早く振り回すことを目的にしている。
サーベルは細さと柔軟性のある剣先を活かし、鎧の隙間を正確に狙い、時には突き刺す事でダメージを与えることが出来る。
破壊力ならば重量のある騎士の剣が上。速度では劣るが、重量があるぶん一撃の威力は大きい。
真正面から叩きつけ合えば、サーベルなど簡単に叩き折ることも出来るだろう。だが、狼半獣人の剣士は、高い技量で剣を素早く振るうことで真正面からの打ち合いを避けている。
闇ハンターの剣技は、かつて稽古を付けてくれた師匠を思い出さずにはいられなった。
――六英雄の一人、剣士のルゥローニィ。
素早い剣さばきで正確に急所、あるいは関節などを狙う戦闘スタイル。それは鎧などで身を固めた重装備の相手や、大柄な相手に対して最大の効果を発揮した。
似たような剣術のスタイルの相手、それも身体能力に優れた狼半獣人を相手にしているという緊張が、全身にカツを入れる。
「不愉快だ。その戦い方をお前などが」
騎士チュウタの率直な感想だった。
闇ハンターごときが、師匠に似た剣術をつかっていることが許せなかった。
量産型雷神剣・改に、パリッ……と雷光がほとばしった。
雷管と呼ばれる特殊な機構に封じ込めた電撃のちからを、剣先まで循環させる。
「アァ? 何いってんだテメェ。次は殺る……! 予告するぜ、5連撃だ! ギシシ、オレ様の全力は……避けられねぇぞ」
「予告とはな。その心意気は認めてやる」
「こんな楽しい剣術はよぅ、久しぶりだからなぁ、ギシシ……!」
犬歯を剥き出して威嚇する。
互いの距離は5メルテほど。
一歩でも踏み込めば即、開戦。剣を交えることになる。
一瞬の静寂、そして風が凪いだ、次の瞬間。
「ギッシャァ……あッ!」
同時に、地面を蹴った。引き伸ばされた時間の中で間合いが急速に縮まり、鈍い銀色の光が交錯する。
――袈裟斬り、左斬上、そして瞬時に切り返しての右薙、さらに返す刀で逆胴を狙う四連撃。
「ずぉおッ……オッ!」
ギギギギ……ィン!
その全てを騎士チュウタは剣で防御してみせた。
一度見た技である以上、刃の軌跡は予想できる。巧みな剣技と、全身の動きをサポートする外装型ゴーレムが可能とした動きだった。
だが、5連撃目――
「だぁが! 甘ぇえぜ、ここだっシャラァアアアッ!」
刺突。
騎士チュウタの視線から最も距離感の掴めない、顔面への刺突。
通常ならば四連撃への対処の直後、避けられない必殺の一撃のはずだった。
「――と、思ったよ」
「な……!」
しかし狼半獣人の視界から消えたのは、騎士チュウタだった。
「にィ……!?」
超速度で身を屈め、顔面への一撃をやり過ごす。
そして、頭上を通過するサーベルを見送りながら、騎士チュウタは、全身のバネを使い量産型雷神剣・改を、渾身の力で振り上げた。
ズドゥム!
剣の刃による斬撃ではなく、剣の側面での殴打。
狼半獣人の腹部への痛烈な打撃が、腹部へ衝撃波を叩き込んだ。
「ぐっゴボッ……ごぁ……ッ!」
「悪く思うな」
――剣での勝負はついた。
容赦のない青い雷光が迸る。
一瞬の放電は腹から背骨へと抜け、狼半獣人の持っていた剣先から放電が空中へと伝播する。
「ぎッぎゃぁゃぁああああ……ァアアア!?」
直接電撃を流し込まれた狼半獣人は、ドシャァ! と、その場に崩れ落ちた。
「剣術の試合で、手合わせしたかったよ」
<つづく>




