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 プラムと騎士アルゴート


 ◆


「プルゥーシアから来るのは、いつも怖い人達ですねー」


 プラムは心底あきれたという表情で三輪馬車(トライクル)のアクセルスロットを回す。

 

 ハンドルに取り付けてある回転レバーで出力を開放、車輪が空転しない速度で走り出す。人が走るよりは速いので、通常なら追いつけるはずもない。

 だが、振り返ると三人が猛追してきた。

「待てやゴルァ!」


「うー? しつこいですしー」


 三方向に別れたハンターたちはプラムを挟み撃ちにするつもりらしい。


『――プラム、そっちの位置は把握してるわ……! 今、()が行ったから、もうすこしがんばって!』

「おー?」


 片耳に装着した魔法道具の音声通信が、援軍の到来を伝えてきた。


「待てって言ってるんだがやヤァ!」

「君、待ってくれないかな!」

 左右の茂みから同時に剣を振りかざしたハンターが出現した。左から髭男ヨートル、右側から若いハンター、ロシトーフ。

 湾曲した剣をギラリと、これ見よがしに振りかざしプラムの三輪馬車(トライクル)の進行を阻止しようとしている。


「飛び出し危険ですー……!」


 前方の開けた道を塞がれた格好になり、ブレーキを掛け速度を落とす。ザザ……ザーッ! と後輪が斜めにスライドし、車体が傾く。

 バランスを取りながら車体を立て直そうとした時、ビュン! と矢が背後を掠め飛んだ。


「あーっ? ひどいー!?」


 狙いはプラムの腕か脚だったのだろう。幸いにも狙いは逸れたが、背中の羽の一部、被膜を引き裂いていた。

 痛くもなんともないが、三輪馬車(トライクル)の車体の姿勢が乱れ、ほぼ真横になって停車してしまった。


「よっしゃぁァ、停めた!」

「いいぞ、ヨートル、ロシトーフ! ひっ捕まえろ!」


 矢を放ったリーダー格のピエリアが真後ろから接近してくる。


「待って、この乗り物……!」

 そこで冷静に状況を分析、焦って仲間の髭男を止めたのは若いロシトーフだった。


 竜人(ドラグゥン)の娘にばかり目が行っていたが、それ以前に、跨っている高度な魔法道具が問題だ。見たこともない魔動車は、高度な鍛冶技術と金属加工、それに魔法技術を組み合わせて製造されたと思われた。しかも車体の横には、小さくメタノシュタット王国軍の旗章が入っている。


「何がマズいってんだァア!?」


 仲間が止めるのも聞かず、髭男ヨートルが手を伸ばした。三輪馬車(トライクル)に跨っているプラムに掴みかかろうとした、刹那。

 バリィイッ! という鋭い炸裂音と共に、眩い閃光がハンターを直撃した。


「なっ!?」

「雷!?」


「――ギャァ……ファ!?」

 真っ青な雷光は、単なる雷撃ではなかった。光はそのまま剣となり、ヨートルの頭上から身体を真っ二つに切り裂いた。そして、更に真横一文字に光の剣が、首を通過――。

 十字型の光の剣に切り裂かれたヨートルは、目と鼻、そして口から真っ赤な光を発し、ズシャァアと、その場に倒れ込んだ。

 よく見ると首も胴体も切断こそされていないが、十字型に黒焦げになっている。

 髭男の首には首輪のような焦げ跡が見て取れた。髪の毛が焼損した頭頂部から顔、そして身体にかけて縦に焦げ跡が走り、そこからブスブスと煙が立ち昇っていた。


「プラム……無事か!?」


「チュウタくん!」


 プラムが視線を向ける先、まばゆい光が徐々に弱まると、騎士の輪郭が浮かび上がった。白銀に輝く鎧に、手にしているのは光輝く短剣(ショートソード)だった。それらの子細が光が消えるにつれ、徐々に明瞭になる。


 全身を銀色の軽甲冑で覆い、背中には鞘に収められたままの大剣を装備している。

 右手に握っているのは、パリパリと放電を纏わせた短剣(ショートソード)。それは薄い刃が二枚重なっている不思議な構造をしていた。


 ――量産型(プロダキュア)雷神剣(サンダガード)(カスタム)


 量産型の魔法剣として様々な実戦で得られたデータをフィードバック。改良を重ね、放電時の出力増大、戦況に応じた自在な雷撃の発生という特性を併せ持つ軍装備。


「その呼び名はやめてよ、今はアルって名前なんだけどな」


 黄金色の瞳に、赤銅色の髪。青年期に差し掛かった少年の面影の残るアルゴート・リハイム。それはかつて、チュウタと呼ばれていた少年だった。

 勇者、エルゴノート・リカルの弟にしてイスラヴィア王朝の生き残り。だが今はメタノシュタット王国、特務遊撃戦闘団所属。通称「特戦群」として知られている特務騎士として、辺境調査団の護衛を担っていた。


「ごめんなのですーチュ……じゃなくて、アルくん」

「もう! でも無事で良かった。プラムは一人で先に行き過ぎだよ、ケガはない?」

「ちょっと羽が……」

「――!」


 矢を受けて破れたプラムの羽を目にすると、凛然として優しかった表情の中に、憤怒の気配がにじんだ。


 髭男が地面に倒れたまま煙を立ち昇らせ、時折ビクンビクンと痙攣している。


「死んだのですー?」


「いや。低出力の雷刃(・・)で体表を斬りつけた。表皮幅1センチメルテは黒焦げだとおもうけど」


 騎士アルゴートはひゅんっ、と刃渡り50センチメルテほどの短剣(ショートソード)を振り払うと、残り二人のハンター達からプラムを庇うように立ち塞がった。


「なっ……なな、なんだお前はぁアア!?」

 リーダー格の

ピエリアが、10メルテほど離れた位置から叫んだ。


「密猟者に名乗る名前はないな」


「やばいよピエリア! あの装備……! メタノシュタット騎士、それも特戦群(・・・)の装備だと思う」

「し、知るかそんなもん! 獲物をここで逃がすわけにはッ!」


 リーダー格のピエリアは、若いハンターロシトーフの警告を聞かなかった。強弓を水平に構えると容赦なく騎士アルゴート目掛けて矢を放った。


 ビュンッ! と、空気を切り裂く音と共に、矢が騎士アルゴート目掛けて飛翔する。


「チュウタくん!」

「あぁもう、チュウタでいいよ」


 チュウタはため息混じりに、手甲に覆われた左手をすっと持ち上げる。


 装飾の施された小型の手甲から、弾力のある金属のワイヤーが開放された。ワイヤーは手甲の飾りを中心軸として回転を始めると、瞬く間に高速域に達する。ブウゥン……という振動音を伴って、直径70センチメルテ程の円盤状の『盾』を形成。


 ――パァン!


 衝撃音と共に赤い火花が散った。矢じりが砕け、バラバラになった矢と共に足下の地面へと落下する。


「なっ!? 矢を弾きやがった!」


 ピエリアが驚愕する。


「効かないよ、こんなもの」


 チュウタは涼しい顔でそう言うと、左手の手甲に生じた円形の盾を停止させた。ワイヤーはすぐに元の位置に格納され、瞬時に小型の手甲に戻っている。


 ――『銀鏡の盾(シルバルト)』。メタノシュタット王国騎士団、それも特戦群の騎士にのみ支給されている魔法道具の装備品。飛び道具への防御兵装としてはもちろん、魔法攻撃への防御手段でもある。


「う、嘘だろ……! 魔獣の甲皮さえ貫通する強弓だぞ!」


 ピエリアの顔が困惑と恐怖とで歪む。汗をダラダラと垂らし、口元にはだらしない笑みのようなものさえ浮かべている。


「それを、お前はプラムに放ったのか」


「ヒッ!?」

 チュウタは、右手に握っていた量産型(プロダキュア)雷神剣(サンダガード)(カスタム)を一閃。左下から右斜め上へ振り上げた。

 半月の、目も眩むような光の円弧が太刀筋に沿って放たれた。それは青い雷光を伴って、光のような速度で空中を飛翔、ビエリアの胸を撃った。


「ふぁッ!? ごぁあああ……ッ!?」

 口と目から、燃えるような真っ赤な光を放つ。ピエリアは悲鳴を発しながら、真後ろへ吹き飛んで木の幹に激突。ズルズルと崩れ落ち、倒れ込んだ。


 ――飛雷刃(・・・)。通常は剣の刃先に沿って形成し、切れ味を増すための高温プラズマ皮膜。それを魔法によって形状を維持しつつ、刃のように射出する機能。有効射程距離はおよそ8メルテ。ハンターの立っていた位置ならは威力は減衰し、致命傷にはならないだろう。


「血液が沸騰する苦痛は、プラムを傷つけた報いだよ」

「チュウタくん……!」


「あっ……と、僕は騎士だから『メタノシュタットの領域を侵す賊には、当然の報いだ!』かな?」


 プラムに向き直り、白い歯を見せて微笑む。

 どうも騎士としての振る舞いが板についていない、そんな感じのチュウタだった。


<つづく>


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