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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆36章 世界樹/ユグドヘイム・オンライン編
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 旅の終わり、そして再会


 ◇


「……ん……?」

「覚醒。お目覚めですか、パドルシフ」


 耳慣れたロベリーの声で目を覚ます。

 ゆっくりと身を起こすと、そこは小さな部屋だった。

 先に目を覚ましていたロベリーが、優しく額に手を乗せてパドルシフの様子を診る。


「あれ? 戻って……きた」

首肯(えぇ)。1時間ほどの旅から」

「え!? そんなもの? 半日ぐらい冒険していた気がするけれど」


「圧縮。夢と(うつつ)の時間は違うものです」

「そっか……」


 仮想世界の冒険は、時間が圧縮されていると説明を受けていた。とはいえ、実体験してみるとその時間経過の少なさに違和感を感じる。

 今まで横になっていたソファーのような寝台(ベッド)が2つ、冷たい水をカップに注ぎ、ロベリーがパドルシフに手渡す。興奮していたせいか喉が乾いている。

 受け取って飲み干して、ほっと一息つく。


「ありがとう。冒険、楽しかったね」

「微笑。そうですね。苦しい戦いだったと思いますが、あ……それと」


 ロベリーが、テーブルの上に置かれていた小さなクリスタルを手にとった。パドルシフが受け取ると不思議な光を中心に宿している。


「スキルクリスタル……?」

「類似。似ていますが違います。先程、ギルドマスターの使いの方が置いていきました。参加記念の品だとか」


「わぁ……、綺麗だね」

「魔石。たしか記憶石(メモリア)というものです。今回の冒険のハイライトシーンと、成長度合いが記録されているのだとか。次に参加するときに持参すると良いらしいです」


「へぇ!」


 ロベリーが促すとおり、握りしめて目を閉じると眼の前に冒険のシーンが浮かんでは消える。森でパンプキンヘッドとの初めての戦闘。森の中での戦いではパーティでの連携がうまくなった。


「昇級。レベルアップして、私は3、パドルシフも2になりましたよ」

「強くなった気はしないけど……でも嬉しい!」


 初めての冒険。

 架空の世界での、ドキドキ、ハラハラの大冒険だった。

 苦しいときもあったけれど、夢とは違う確かな実感を伴っていた。


「また、いつか参加しようね!」

「微笑。そうですね」


 パドルシフがソファーから立ち上がる。部屋の左手に見えるドアから出れば、そのまま帰れるはずだ。


追伸(それと)。このあとググレカスさまがお会いになりたいそうです」


「え? ……え!?」

「賢者。ググレカスさまがお礼を言いたいと」


 ロベリーが伝言を告げる。ギルドマスター・スピアルノの使いの者が伝えていった大切な伝言、らしい。


「ホントに!? すごいや!」


「店外。出て別棟の建物で待っているそうです」

「わかった! 行こうよ」


 ドアを開け、ロベリーより先に店を出る。そこは巨大な世界樹の街、そして雑踏。


 思わず眩しい陽の光に目を細め、足を止める。


 と、その時だった。後ろから、どしん。と人がぶつかってきた。


「あっ!?」

 急に立ち止まったパドルシフの背中に、誰かがぶつかった。

 慌てて振り返ると、大人しそうな少女が驚いた様子で立っていた。金髪に青い瞳、白に近い空色のドレス。品のいい貴族のお嬢様のようだ。


「ごめん、怪我はない?」

「あっ、あの……」


 もごもごとドレスの裾を掴み、口ごもっている。


「ん……あれ?」


 どこかで見たような。

 少女も、大きな瞳を瞬かせてパドルシフを見つめている。


「――お嬢様! ですから、走ってはいけません! ミリキャお嬢様!」


「もう、ドレスで走ってはいけませんよぅ……」


 すると、後ろから白髪の初老の紳士と、中年の小太りの女性が追いかけてきた。二人共貴族の従者らしくとても綺麗な身なりだが、お嬢様に置いていかれたようだった。


「えっ!? 君……もしかして、ミリキャお嬢様?」


「あなたは……パドルシフ? あまり……変わらないのね」


 くすり、と可憐な笑みをこぼす。


「え、えぇ? なんか……冒険のときと印象が……」


 全然ちがう。いや、違いすぎる。


 冒険の世界では、傲慢でうるさいくらいに元気なお嬢様だったけれど、リアルで会うと清楚で大人しそうな印象をうける。

 現に、言葉数が少ない。


「……違う?」

「うん、なんか蹴りとかしなさそう」


「あ、あれは……その」


 かっと頬を染めるミリキャお嬢様。

 完全に別人格になって仮想世界の冒険を楽しんでいたらしい。

 パドルシフも身体が弱いのに剣士を演じていたのだから、おあいこだろう。


「やれやれ、老体を走らせないでくださいまし」

「そうですよぅ……」


 それに戦士ジョイフ、そして魔法使いのペタミーだった二人らしい。印象は似ているけれど、年齢や体型がちょっと違う。


「あ、あのさ……」

「はい」

「楽しかったね、また……こんど一緒に冒険にいけたら、いいね」

「えぇ! 是非また」


 二人は笑顔を交わし、再会を約束する。


「よかったですね、パドルシフ。お友達ができましたね」

「うん……」


 世界樹の梢が揺れ、午後の日差しがモザイク模様を街に落としていた。


「さぁ、賢者ググレカスに会いに行こう!」


<つづく>


【作者よりのおしらせ】

 これにてパドルシフ君編はおしまいです★


 次回はググレカスくんのお話に戻り、その後はプラムとヘムペローザ編がはじまります!

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