それなりの大団円
「性悪女と浮気男に、ばしっと言ってあげなきゃね!」
「ケリをかましてやるのは賛成ですぅ」
テンションの上がるミリキャお嬢様に、魔法使いのペタミーも同調する。
「……ありがとう、お嬢さん。お名前は?」
「ミリキャよ」
魔女の表情も穏やかになり、巨大だった怪物はいつしか土に還っていた。
「でも、どっちも悪いのかな……?」
「この場合は男のほうが最悪よ。恩知らずだし、フラフラ女の誘惑についていっちゃうし。しっかり魔女さんだけを愛し続けていればよかったのよ」
ミリキャお嬢様は、魔女の元彼のロハスに対して相当頭にきているようだ。
「そうなんだー……」
「そうよ! そのへんちゃんと理解しなさいよ」
「う、うん」
パドルシフには難しい話だったのか、素直に同意する。
「微笑。パドルシフにはまだ難しかったでしょうか」
「なんだよロベリーまで、もう!」
「帰還。ここは魔女の館から穏便に撤退するチャンスかと」
すこしおかんむりのパドルシフにロベリーが耳打ちする。
「そうだね」
「でも、村まで戻らなきゃいけないのね」
「来た道を戻るしかありますまい」
「地図を描いておけばよかったですぅ」
「……詳しい者たちに、村までの案内をさせましょう」
魔女は杖でコン、と地面を突いた。
すると、魔女の家の周囲で働いていた男たちが「あれ?」と声を上げた。
「俺たち……魔女様とここで……?」
「いけねぇ、あれから何日経ったんだ?」
「戻らねぇと!」
「正気に戻った!」
「皆さん、ごめんなさい。冬支度の男手が欲しくて、魔法で強引に引き止めてしまいました」
魔女は謝罪した。
「俺たちぁ、別に……なぁ?」
「おっかねぇカカァといるより、楽しかったもんな」
「違いねぇガハハ」
村の男達は意外にもケロッとした様子だった。
その後、草取りや屋根の修理など、やりかけの仕事を次々と手早く片付けると、魔女に別れを告げた。
「さぁ、戻らないとカカァが鬼みたいになってるかもだぜ!」
「魔女さんも、困ったら俺たちを頼ってくれていいぜ! できれば俺を」
「あっ!? てめぇ、ずるいぞ!」
「ガハハハ!」
「なんだか、丸く収まったみたい……」
「でも、戻ってから奥さんたちに怒られそうね」
その様子を見守るパドルシフとミリキャお嬢様。
兎にも角にも、ここから皆で村に戻り、ロハスという魔女の元彼にビシッと言ってやる仕事が残っている。
「皆さん、ありがとう」
闇森の魔女は、まるで春の小花のように微笑んだ。
「さ! 行きましょう!」
ミリキャお嬢様が踵を返した、その時。
ジャジャジャ……ッ♪ タタターン♪ とファンファーレが鳴り響いた。
「えっ!?」
「な、何?」
『――こうして、冒険者たちの活躍により村の危機は救われた。凍てついていた魔女の心も雪解けを迎え――』
「な、ナレーションですな?」
「あー……舞台の終幕みたいなものですぅ?」
軽快な音楽とともに、眼前の『情報応答窓』が最大表示となり、次々っと今までの戦いの軌跡がリプレイされる。
セピア色に変換された冒険の様子が、浮かんでは消えてゆく。
「えっ!? え、終わりなの?」
「理解。そうらしいですね……」
パドルシフとロベリーも戸惑いを隠せない。
ズンチャカ、チャカチャカ♪
やがて曲調が変わり、スタッフロールまで流れはじめた。
――制作:王立、スタジオググレ
――シナリオ:賢者ググレカス
――グラフィック:賢者ググレカス
――魔法エフェクト:賢者ググレカス
――総合プロデューサ:賢者ググレカス
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「ちょっ! ちょっと待ちなさいよ!? 魔女と元彼はどうなるのよ!?」
ミリキャお嬢様が天に向かって叫ぶ。
すると森の向こうから、誰かが走ってくる。
「マーファ!」
森の向こうから姿を見せたのは細身の若者だった。魔女が駆け出した。マーファというのは闇森の魔女の名前だろう。
「ロハス!」
二人はカボチャ畑の中央でぎゅっと、抱擁する。
「あぁ、すまなかったマーファ。僕を……許してくれ」
「戻ってきてくれたのね……!」
「あの女、村長の娘は、王国からの支援が目当てで、僕を……。本当に僕がバカだった」
「もういいわ。貴方さえ戻ってきてくれたら!」
途端に魔女の周囲で、春の小花が次々と花開いた。美しい花々が、まるで祝福するかのように可憐な花の絨毯となり魔女の家を包んてゆく。
音楽の盛り上がりとともに、美しく花びらが散り、青空に吸い込まれてゆく。
―― Fin
「まぁ、素敵ね!」
「三文芝居っぽいですけどぉ……」
「う、うむ……まぁ良しとしようではないか」
「完結。大団円?」
「レ、レンさん……これでエンディング?」
「そうだね! みんなお疲れ様!」
――制作・著作:賢者ググレカス
ジャジャジャ、ジャン♪
<つづく>




