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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆36章 世界樹/ユグドヘイム・オンライン編
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 スルーされたイベント

 ◇


「スキルクリスタル、『移譲』!」

 火炎魔法を励起したレントミアが、戦士ジョイフの剣に炎を纏わせた。

 剣に宿った炎が、凄まじい光と熱量を放つ。


「おぉ……これは!」

「炎の魔法剣だよ、それで」

「感謝いたします、レン殿!」


「いいわ、お行きなさいジョイフ!」

 ミリキャお嬢様が叫ぶや、戦士ジョイフが駆け出した。

「承知いたしましたお嬢様!」


 目指すは戦闘中の魔物――ピノッキーノだ。


『キキキキ!』

 木彫り人形のような魔物は一体のみ。だが森の木々の間を自在に跳ね回り、ヒットアンドアウェイを繰り返す強敵だ。

 魔女の手下、それも最上位の人型木製ゴーレムらしい。梢の上、高い位置から()を自在に伸縮させ、鋭い打突を仕掛けてくる。


 ガキィッ! と鼻槍(びそう)の一撃を戦闘メイド・ロベリーが拳で弾き返した。

『キッ!?』


「踏台。私の手を足場に!」

「かたじけない!」

 戦闘メイド・ロベリーが腰を低く構え、両の手のひらを組んで足場にする。そこへ走り込んだ戦士ジョイフがロベリーを踏み台にして、高く跳んだ。

「ふんぬっ!」

 ロベリーが凄まじい背筋力で、力まかせに男性(ジョイフ)を空中に放り出す。


『キ、キキッ!?』

 炎の剣がピノッキーノを捉えた。紅蓮の炎を纏った剣が、猿のように身軽な木偶人形を今度こそ直撃する。

「ずぅおりゃぁあああ!」

『ピキィイイイ!?』

 全身を炎に包まれたピノッキーノが断末魔の叫びを上げる。

 戦士ジョイフが、そのまま相手を地面に叩き落とした。途端に魔法の炎が遅延起動(・・・・)。爆炎とともにピノッキーノは灰燼と化した。


「やったわ!」

「凄い連携だね!」

 出番の無かったミリキャお嬢様とパドルシフが賛辞を送る。


 森の中を進むにつれ、一行(パーティ)に襲いかかる魔物は次第に手強くなっていた。

 初級レベルのステージとは言えども、最大の難敵をなんとか退けることができたようだ。


「ありがと、助かったよ」

「いえ! こちらこそ。レン殿のお力添えが無ければ、とても……」

「森ごと燃やすわけにもいかないからね」


 レントミアの火炎魔法は強力で、襲撃してくる魔物をいとも簡単に蹴散らした。しかし、動きがすばやく、木々の間を移動するピノッキーノのような相手では少々分が悪かった。


 手加減無しで放てば、森ごと燃やし尽くしかねない。それはいくらなんでもやりすぎだ。そこでパーティとの連携により仕留めたのだ。


「あっちに、何かありますよぅ?」


 と、木陰に隠れていた魔法使いペタミーが森の向こうを指さした。

 大きくて太い木の根もとに、何やら陽炎のように揺らぐ場所がある。近づいてみると、レントミアが皆を止めた。


「魔女の結界の綻びだね。解呪(ディスペル)できる?」

 と、魔法使いペタミーを振り返る。


「イスラヴィアのポタミリア魔法学舎で学んだだけですけどぉ……」


「見たところ惑わしの結界術、足の方向を歪める結界術、その組み合わせみたいだけど、いけるかな?」

 レントミアは指先で魔力を確かめるように、結界の境界面をなぞる。空間に歪みのような、亀裂のようなものが揺れた。


「一瞬でわかるんですぅ!? 私に出来るかなぁ」

 自信なさげに答えるペタミー。

 最上位の大魔法使いと思われるレンの前で披露するのは憚られるが、見せ場を譲ってくれているのだと自覚し、結界の解呪に挑戦する。


「自信を持って、大丈夫」

「はぃ……。では、コホン。……知恵を授けし第7階位の天使、偉大なる福音の地母神ほにゃらららら……」

 しばしの呪文詠唱の後、えいっ! と気合いに乗せて魔力を放出する。すると目の前の空間から歪みが消えた。

 見えていた森の景色の先、広場のような場所と一軒の不思議な形をした家が姿を現した。


「出来たぁ!?」

「うん、お見事」


 結界が解けて、隠れていた場所に踏み込めるようになったらしい。


 茅葺屋根の家は巨大なキノコのような形で、窓もドアも丸い。煙突からは煙がゆるゆると立ち昇っている。周囲は畑らしく、カボチャが転がっている。

 

「いかにも魔女が住んでいそうな家ね! 焼き討ちすればいいのかしら?」

「お嬢様、いくらなんでもそれは……」

 ミリキャお嬢様は相変わらずで、戦士ジョイフもため息をつく。


「でも、魔法使いがいなかったら進めなかったよね?」

「あのね、本来のシナリオ(・・・・)では、村の中に魔法使いが居たんだよ。そこで、出会いのイベントがあったんだけど」

 パドルシフの抱いた疑問に、レントミアが横に来て小声でささやいた。

 さらに付け加えるなら村で出会う魔法使いは、森の魔女の恋人で重要な役割を果たすはずだった……らしい。


「そういえば僕たち、村に入らなかったんだ!」

「あはは……。強制イベントにしなきゃダメだね」

 今頃、最重要キャラの魔法使いは村の食堂でお茶でも飲んで待ち惚けていることだろう。


 しかし、シナリオのゴールは目の前のようだ。


「そういえば君、パドルシフくん」

「はい?」

 レントミアがにこりと笑う。

「ノルアード侯爵のご子息さん」

「なんでそれを……!?」


「ググレが会いたがってたよ。好敵手(ライバル)の大事なご子息さんだからって」

「え……僕に!?」


「そう。君のお父さんとググレはね、敵対したり時には協力したり。最後は本気で戦って、何度も戦って。そして……友だちになったんだ」


 美しいエルフの魔法使いが、遠い目をする。


「父さんと、賢者様が……!」


<つづく>


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