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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆36章 世界樹/ユグドヘイム・オンライン編
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 バイト魔王、レントミアの転戦

 森はひとときの静けさを取り戻した。

 枝葉で構成された魔女のゴーレムたちはすべて灰燼と化し、焦げ臭さが辺りに漂っている。


「何故。この世界から離脱できないのでしょう?」

 エルフ戦闘メイドのロベリーが話しかける相手は、本物のハーフエルフ魔法使いだ。


「運営側でちょっとトラブルがあってね……あっ、でも気にしないで」

 レントミアは空中に半透明の小窓――戦術情報表示(タクティクス)簡易型(イージ)を展開、地図を表示して状況を確認する。


 確かに「没入離脱(ダイブアウト)」が出来ない。どうやら本当に「面倒なこと」になったらしい。


 ググレカスいわく、間違った魔物の「学習ロジック」は修正パッチで直した。けれど完全に修繕するには条件があった。それは、現在展開中の5つの仮想世界のどれかで、ラスボスまで攻略しないと世界を「リセット」できないというのだ。


「もう、ググレってば適当なんだから……」


 村娘の依頼「困りごと」ステージ。

 王様の依頼「魔物退治」ステージ。

 砂漠の冒険「秘宝探索」ステージ。

 森林の戦闘「竜撃戦闘」ステージ。

 魔王の覚醒「復活阻止」ステージ。


 各世界のステージに出現する魔物はすべて、共通の「擬体(アバター)素体(ベース)」からクローンで生成されている。つまり、見た目は違っても魔物の中身は魔導量子コピーによる鏡像だ。


 ここは村娘の依頼をうける「困りごと」ステージ。初級者向けのほのぼの系なので、敵は最弱クラスが用意されている。

 ならばここを攻略するのが手っ取り早い、ということになる。


 しかし参加している戦闘集団(パーティ)もレジャー目的の貴族と、戦闘力の低い初心者が数組。クリアするには相当時間がかかりそうだ。

 だからレントミアが緊急対応措置、「救援」として転移させられてきた。


 ――頼むよレントミア、助けてくれ。

 ――えー? 僕、今日は魔王(・・)のバイトじゃなかった?

 ――こんな事頼めるのはレントミア、お前しかいないんだ。知られたらいろいろマズイ。秘密裏に処理して……。


 ――へぇ? いいけど、ちゃんとお礼はしてもらうよ?

 ――わ……わかったよ。

 ――じゃぁ、助けてあげる。

 ――恩に着る。お礼は……うまい飯と、スペシャルスライムマッサージでどうだ?

 ――それでもいいけど、僕だけのググレになってもらおうかな、永遠に。

 ――怖い事をさらっと言うな。……やっぱり他をあたる。

 ――冗談だよ、冗談。やだなぁもぅ。


「さて、仕事仕事っと」


 しゅっと空中の魔法の窓をかき消すレントミア。


 王様の依頼「魔物退治」ステージや、砂漠の冒険「秘宝探索」ステージは、戦闘経験と意欲の高い参加パーティが多い。苦戦はしても全滅はないだろう。とはいえラスボスを倒して目的を達するのも時間がかかるだろう。


 魔王城(・・・)の攻略ステージはもっと厳しい。最上階で魔王、つまり「ラスボス」のアルバイトをしていたのはレントミア本人だ。そこでは多数の血気盛んな連中が攻略に参加しているが、途中のフロアボスで苦戦している。あの様子では最上階に辿り着けるパーティがあるかどうかさえ怪しい。


 仮に最上階にたどり着けたとして、彼らに与えられるのは圧倒的な「絶望」だ。

 なぜなら魔王であるレントミアが倒されることは無いのだから。圧倒的な攻撃力に、あらゆる攻撃を無効にするシステムブロック結界。

 絶対に勝てない創造神の代理人がラスボスなのだ。

 それがググレカスの意図であり、挑んでくる冒険者達に示す世界の真実(・・)というシナリオなのだ。


「暇で楽なバイトのはずだったのになぁ」


 けれど、ググレカスの悲鳴じみた緊急連絡で、この「村娘の依頼」ステージにやってきた。面白そうなパーティがいるからフォローし、クリアさせてほしいと言われている。


「敵は強いし……酷い目にあったんだから! 絶対に魔女をぶん殴ってやりたいわ」

「ミリキャお嬢様、せめて村に戻りませんか?」

「そうですよぅ、マジで最上級な魔法使いさんが助けてくれなかったら、今頃……」


 戦士ジョイフと魔法使いペタミーが説得するも、お嬢様は諦めきれない様子だ。


「レンさん、力を貸してください。先に進んでみたいの」

 しばし考え込んで、改まって言うミリキャお嬢様。


「大変だったね。でも、後は僕に任せてくれる? 君たちは村に戻って、休んでいていいよ。あとはやっておくからさ」


「村に戻るなんてイヤ! どうして? レンさんなら魔物や魔女をやっつけるなんて簡単でしょ!」


 ミリキャお嬢様は食い下がった。

 けれどレントミアは涼しい顔で、ミリキャお嬢様をスルー。パドルシフに向かう。


 戦闘メイドロベリーがスッとパドルシフの横に立つ。

「あ、あの」

「感謝。御礼を」


「ありがとうございます、レンさん」


「いいのいいの。それより……君さ」


 少年剣士、パドルシフをじっと見つめるレントミア。


「『闇森の魔女』と呼ばれる森の主、恐ろしい魔女が棲んでいる……って聞いて、どう思ったの?」

「ぼ、僕は……話をしてみたいと、思いました」


「話?」

「はい。なんで村の男の人を連れ去ったのか、聞いてみたくて」


 ハーフエルフの魔法使いは、ぴこんとエルフ耳を動かした。


「正解。実は、その選択肢(・・・)こそが正解なんだ」


「え?」


「行こう、魔女のところへ」


 レントミアは歩き出した。


「あ、君たちも来たかったら来ていいよ。村にいてもいいけど」

 ミリキャお嬢様と、彼女のお付の戦士と魔法使いを手招きする。


「レンさん!」

 突如森の暗がりから、熊のような巨獣が出現した。身の丈3メルテはあろうかと言う、半裸ベアーだ。

『ゴガァアア……!』


 レントミアは懐からクリスタルを空中に放り投げ、巨獣を指さす。真っ赤な一条の光線が放たれ、ジュン……! という音を発し魔物の心臓を撃ち抜いた。

「瞬殺。なんて熱量とパワー……!」

「す、すごい!」


「スキルクリスタル、指向性熱魔法(ポジトロール)

 撃ち抜かれた胸から激しい炎が吹き出したかと思うと巨獣は燃え上がり、跡形もなく灰と化した。


<つづく>

★新連載、『まいるどメンヘラー魔女とのくらしかた』はじめました。

 

 タグは「おねショタ」とありますが、心暖まる良質なファンタジー作品を目指します。


 女装少年がメンヘラ気味の魔女さんの弟子になり、あれやこれや。でも大丈夫。(w)

 読んでみてくださいね♪

 

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