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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆36章 世界樹/ユグドヘイム・オンライン編
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 離脱不能のデス・ゲーム

 魔女が作り出したゴーレムたちは、倒しても次々と再生し襲いかかってきた。

 木の枝葉の寄せ集めの体は、確かに簡単に破壊できた。しかし地面に散らばったゴーレムの破片が、まるで生き物のように寄り集まり、再生(・・)し再び立ち上がる。


「ちょっ!? なによこいつら!」

「キリがないよ!」

 騎士ミリキャとパドルシフが弱音を吐く。ゴーレム軍団は、じりじりと包囲網を狭めてくる。


「打撃。敵がこちらの攻撃を学んでいる……!」

 近接戦闘を主体とする戦闘メイド、ロベリーが拳を叩き込みながら苦渋の表情を浮かべる。明らかに打撃が通じていない。しかも疲労が蓄積し、威力が落ちているのだ。

 再生したゴーレムは拳をガードし、ダメージを軽減しながら反撃に転じてくる。


「確実に仕留めるしかない、弱点は必ずあるは……ぐっ!」

 二体のゴーレムを相手にしていた戦士ジョイフが、ゴーレムの棍棒でダメージを負う。ゴーレムたちは剣術に対しても対処法を学び、耐性を獲得しつつあった。


「ゴーレムが強くなっていますぅ!」

 唯一、魔法の火炎によるダメージは別だった。

 魔法使いペタミーがスキルクリスタルで『火炎』を放ち、ゴーレムを炎上させる。流石に燃え尽きた素材は再生しないようだ。


 それでも一行(パーティ)は、およそ三倍の数の敵に押され次第に劣勢になる。


「前回はこんなの無かった気がするけど!?」

「ステージが進んだので、敵が強くなったんですかねぇ?」

「そうと言い切れませんが」

 貴族の娘ミリキャとお付きの二人は、何かおかしいと感じはじめていた。前回、この仮想の遊戯(ゲーム)に参加したときは、旅の途中で魔物にやられてしまった。だが、それはミリキャお嬢様の油断からくるものであって、魔物が再生して襲いかかって来たわけではなかった。


 全員のダメージゲージが蓄積し赤く染まり、体力値も半分に迫っている。


「危険。これ以上は行動不能になってしまいます」

「ロベリー、大丈夫?」

「離脱。ここは参加を中止すべきかと」

 パドルシフに撤退を進言するロベリー。


「撤退なんてイヤよ!」

 それは、ミリキャお嬢様の方も同じだった。戦士ジョイフが、同じく撤退を進言したのだろう。


「本当の意味で死にはしませんがぁ、それと同じくらい喪失感ありましたしぃ。ショックが酷かったじゃないですかぁ」

「うぅ……そうだけど」

 前回参加時、敗北した記憶と仮初(かりそめ)()の感覚が甦る。騎士ミリキャは身震いした。


「ペタミーの言う通りです、ここまで進めたのです。またの機会でも……ぬんっ!」

 ゴーレム達の猛攻を戦士ジョイフが受け止めて押し返す。破壊するのではなく、蹴り飛ばして押し倒すことで時間を稼ぐ。


「そ、そうね、無理は禁物ね。またあとで参加してもいいわけだし」


 ミリキャお嬢様は視界の隅のに浮かぶステータスウィンドゥから『没入離脱(ダイブアウト)』を選択する。

 

 が――。


「あれ?」


 反応がない。代わりに『現在、運営本部の調整中。該当の機能は利用できません』と表示が浮かぶ。

「な、何よこれ?」


「おかしいですねぇ? 私も、没入離脱(ダイブアウト)できないですぅ?」

「おぃっ! 早くしろペタミー、こっちは限界だぞ!」

 魔法使いペタミーも戦士ジョイフも焦りの色を濃くする。


 遊戯(ゲーム)を中断できない。脱け出せないのだ。


「異変。パドルシフ、何か変です」

「僕も没入離脱(ダイブアウト)できないよ!?」


「幽閉。閉じ込められた……うっ!」

 ゴーレムの棍棒がロベリーの胴体に叩き込まれる。うずくまったところに、更に追い打ちがかけられる。

「ロベリーから、離れろっ!」

 パドルシフがゴーレムに体当たりをして、剣を振り回す。


「ちょっ……どうなってるのよ!?」

「逃げましょう、お嬢様!」

「逃げるってどこへ!?」

「安全な村まで!」

「だが、ゴーレムどもをなんとかしませんと……!」


「ねぇロベリー、ここで死んからどうなるの?」

「危険。本来は戻れるはずですが、この状況では戻れる保証がありません」


 退路は絶たれている。一行(パーティ)はパニック状態だ。


「こんなはずじゃ……」


 と、その時だった。


「――『焦熱』、それを『誘導』!」


 凛とした声が木霊した。


 続いて、黄金色に輝く光弾が天空から急降下、ゴーレムを貫いた。

 体を貫通されたゴーレムは、傷口から一気に燃え上がる。光弾は鋭角的な軌道を描いてそのままターン。次々とゴーレムに命中しては、燃え上がらせてゆく。

 火柱となった敵の数はまたたく間に、二体、三体、更に五体と膨れ上がる。数秒の間に十数体のゴーレムが炎上し動きを止める。


「な、なんと!?」

「凄い……!」


 赤々と照らされた薄暗い森の向こうから、魔法使いのローブに身を包んだ少年が姿を現した。


「森の……エルフ?」

「魔法。それも高位のスキルクリスタル……!」


 真っ白いローブを羽織った細身の身体、精悍さとあどけなさの同居する端正な顔立ち。美少年を体現したようなエルフだった。だがエルフは、その見た目と年齢は必ずしも一致しないという。

 切りそろえられた若草色の髪をゆらしながら、残敵を一瞥もくれず炎上、掃討する。


 手元に戻った火炎弾をくるくると指先で回しながら、余裕の笑みを浮かべている。


「えーと、僕はたまたま(・・・・)通りかかった森の魔法使い……レン。見ての通り、普通のエルフだよ」


「え、えぇ……!?」

「感謝。助かりました」

 驚くパドルシフに、ひとまず脱した危機に胸をなでおろすロベリー。


「怪しいわね、タイミング良すぎない?」

「いや、まずはお礼をお嬢様……」


「あ、気にしないで。()の理由は深くは聞かないで。ボランティア? みたいなもんだからさ」


 耳の長い少年エルフは、たははと苦笑する。


 ――ったく。面倒なこと頼むよねググレは。まぁ、このヘマは僕のせいでもあるけどさ。

 

 魔法使いの擬体(アバター)を操るレントミアは、やれやれと肩をすくめた。


<つづく>


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