離脱不能のデス・ゲーム
魔女が作り出したゴーレムたちは、倒しても次々と再生し襲いかかってきた。
木の枝葉の寄せ集めの体は、確かに簡単に破壊できた。しかし地面に散らばったゴーレムの破片が、まるで生き物のように寄り集まり、再生し再び立ち上がる。
「ちょっ!? なによこいつら!」
「キリがないよ!」
騎士ミリキャとパドルシフが弱音を吐く。ゴーレム軍団は、じりじりと包囲網を狭めてくる。
「打撃。敵がこちらの攻撃を学んでいる……!」
近接戦闘を主体とする戦闘メイド、ロベリーが拳を叩き込みながら苦渋の表情を浮かべる。明らかに打撃が通じていない。しかも疲労が蓄積し、威力が落ちているのだ。
再生したゴーレムは拳をガードし、ダメージを軽減しながら反撃に転じてくる。
「確実に仕留めるしかない、弱点は必ずあるは……ぐっ!」
二体のゴーレムを相手にしていた戦士ジョイフが、ゴーレムの棍棒でダメージを負う。ゴーレムたちは剣術に対しても対処法を学び、耐性を獲得しつつあった。
「ゴーレムが強くなっていますぅ!」
唯一、魔法の火炎によるダメージは別だった。
魔法使いペタミーがスキルクリスタルで『火炎』を放ち、ゴーレムを炎上させる。流石に燃え尽きた素材は再生しないようだ。
それでも一行は、およそ三倍の数の敵に押され次第に劣勢になる。
「前回はこんなの無かった気がするけど!?」
「ステージが進んだので、敵が強くなったんですかねぇ?」
「そうと言い切れませんが」
貴族の娘ミリキャとお付きの二人は、何かおかしいと感じはじめていた。前回、この仮想の遊戯に参加したときは、旅の途中で魔物にやられてしまった。だが、それはミリキャお嬢様の油断からくるものであって、魔物が再生して襲いかかって来たわけではなかった。
全員のダメージゲージが蓄積し赤く染まり、体力値も半分に迫っている。
「危険。これ以上は行動不能になってしまいます」
「ロベリー、大丈夫?」
「離脱。ここは参加を中止すべきかと」
パドルシフに撤退を進言するロベリー。
「撤退なんてイヤよ!」
それは、ミリキャお嬢様の方も同じだった。戦士ジョイフが、同じく撤退を進言したのだろう。
「本当の意味で死にはしませんがぁ、それと同じくらい喪失感ありましたしぃ。ショックが酷かったじゃないですかぁ」
「うぅ……そうだけど」
前回参加時、敗北した記憶と仮初の死の感覚が甦る。騎士ミリキャは身震いした。
「ペタミーの言う通りです、ここまで進めたのです。またの機会でも……ぬんっ!」
ゴーレム達の猛攻を戦士ジョイフが受け止めて押し返す。破壊するのではなく、蹴り飛ばして押し倒すことで時間を稼ぐ。
「そ、そうね、無理は禁物ね。またあとで参加してもいいわけだし」
ミリキャお嬢様は視界の隅のに浮かぶステータスウィンドゥから『没入離脱』を選択する。
が――。
「あれ?」
反応がない。代わりに『現在、運営本部の調整中。該当の機能は利用できません』と表示が浮かぶ。
「な、何よこれ?」
「おかしいですねぇ? 私も、没入離脱できないですぅ?」
「おぃっ! 早くしろペタミー、こっちは限界だぞ!」
魔法使いペタミーも戦士ジョイフも焦りの色を濃くする。
遊戯を中断できない。脱け出せないのだ。
「異変。パドルシフ、何か変です」
「僕も没入離脱できないよ!?」
「幽閉。閉じ込められた……うっ!」
ゴーレムの棍棒がロベリーの胴体に叩き込まれる。うずくまったところに、更に追い打ちがかけられる。
「ロベリーから、離れろっ!」
パドルシフがゴーレムに体当たりをして、剣を振り回す。
「ちょっ……どうなってるのよ!?」
「逃げましょう、お嬢様!」
「逃げるってどこへ!?」
「安全な村まで!」
「だが、ゴーレムどもをなんとかしませんと……!」
「ねぇロベリー、ここで死んからどうなるの?」
「危険。本来は戻れるはずですが、この状況では戻れる保証がありません」
退路は絶たれている。一行はパニック状態だ。
「こんなはずじゃ……」
と、その時だった。
「――『焦熱』、それを『誘導』!」
凛とした声が木霊した。
続いて、黄金色に輝く光弾が天空から急降下、ゴーレムを貫いた。
体を貫通されたゴーレムは、傷口から一気に燃え上がる。光弾は鋭角的な軌道を描いてそのままターン。次々とゴーレムに命中しては、燃え上がらせてゆく。
火柱となった敵の数はまたたく間に、二体、三体、更に五体と膨れ上がる。数秒の間に十数体のゴーレムが炎上し動きを止める。
「な、なんと!?」
「凄い……!」
赤々と照らされた薄暗い森の向こうから、魔法使いのローブに身を包んだ少年が姿を現した。
「森の……エルフ?」
「魔法。それも高位のスキルクリスタル……!」
真っ白いローブを羽織った細身の身体、精悍さとあどけなさの同居する端正な顔立ち。美少年を体現したようなエルフだった。だがエルフは、その見た目と年齢は必ずしも一致しないという。
切りそろえられた若草色の髪をゆらしながら、残敵を一瞥もくれず炎上、掃討する。
手元に戻った火炎弾をくるくると指先で回しながら、余裕の笑みを浮かべている。
「えーと、僕はたまたま通りかかった森の魔法使い……レン。見ての通り、普通のエルフだよ」
「え、えぇ……!?」
「感謝。助かりました」
驚くパドルシフに、ひとまず脱した危機に胸をなでおろすロベリー。
「怪しいわね、タイミング良すぎない?」
「いや、まずはお礼をお嬢様……」
「あ、気にしないで。旅の理由は深くは聞かないで。ボランティア? みたいなもんだからさ」
耳の長い少年エルフは、たははと苦笑する。
――ったく。面倒なこと頼むよねググレは。まぁ、このヘマは僕のせいでもあるけどさ。
魔法使いの擬体を操るレントミアは、やれやれと肩をすくめた。
<つづく>




