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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆36章 世界樹/ユグドヘイム・オンライン編
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 魔女の眷属と包囲網


常闇(とこやみ)の森を棲家(すみか)とするもの」


 一行(パーティ)の前に出現した魔女は、赤い切れ目のような薄い唇を動かした。


「なんかヤバイ感じの女ね、何言ってるかわからないし」

 前衛の戦士(ジョイフ)剣士(パドルシフ)の背後に隠れたまま、挑発めいた事を言うミリキャお嬢様。


「僕を盾にしながら言わないで欲しいんだけど……」

「同感ですな」


「常闇。つまり彼女が『闇森の魔女』かと」

 戦闘メイドのロベリーが、相手の只ならぬ気配を察して前衛に加わる。


「だったら、まずは話してみない? 僕たちの前に姿を現すってことは、何か目的があるはずだし」

「賛同。そのとおりですねパドルシフ」

 いいアイデアですと、にっこり微笑むロベリー。


「あの、魔女さん!」

 パドルシフが対話を試みようとした、その時。

「こらぁ!」

「痛い!?」

 バシンと尻に蹴りを入れられた。ミリキャお嬢様の右足がパドルシフの尻にヒット。


「何を勝手なことやってるのよ。あれが魔女なら遅かれ早かれ倒す相手でしょ!」

「でも、村の男の人達の行方とか、目的とか聞いたほうが……」


「問答無用、やっておしまいなさい!」

 シャッ! と鋭い剣を抜き魔女に向ける騎士ミリキャ。

「どっちが悪党かわからないですよぅ」

 魔法使いのペタミーが肩をすくめる。


 だが一行(パーティ)の前に出現した魔女は、リーダーの言動(・・)を判断基準にしたようだ。


「……忠告に従わぬなら、思い知るがいい」


 艶やかな長い黒髪を風に揺らし、手に持った杖で地面を突く。途端に銀色の光が地面の上を波紋のように広がった。


「魔法円……!?」

「これ、本物の魔法円ですよぅ!」

 周囲の森が、木々の枝が、まるで生きているかのようにざわめきはじた。空は漆黒の雲が渦を巻き、禍々しい気配が濃縮する。

 バキバキという耳障りな音を発しながら木々の細い枝や、落ちていた枝が絡み合いはじめた。枝葉が集まり人型を成し、やがて二足歩行をする人形が生まれてゆく。


 手足は木の枝で形成されている。肋骨がむき出しの胴体は細い枝の集合体。顔の部分は葉が集まって不気味な緑色のドクロのように見える。

 それはまるで怒っているような表情で、葉が生き物のように寄り集まり蠢いている。


「囲まれましたぞ!」

「木の人形が一杯!」

傀儡(くぐつ)。ゴーレム……木のゴーレム!」


 総勢十数体にも及ぶ緑頭(・・)の軍団が、森から溢れ出し、一行(パーティ)を取り囲んだ。


「此方は魔法を使えないのに、魔女は使えるなんでズルいですぅ!?」

 魔法使いのペタミーが悲鳴を上げる。


「ペタミーもゴーレムを操れたはずでしょ!?」

「この世界では使えないですよぅ。スキルクリスタルの『火炎』と『煙幕』だけが、魔法として使えるルールみたいですしぃ」


「その愚かしい血と肉を、森の滋養として捧げるがいい」

 魔女はそう言い残すと黒い霧となって消えた。


「消えた……!」

「幻影。おそらく魔女は、忠告をしに来ただけ、幻だったのかと」


 それを合図に、森のゴーレム軍団が襲いかかってきた。


 木のゴーレム軍団が手に持つ武器は、棍棒。つまりは太い木の枝だ。カタカタ、ギシギシと身体を前傾姿勢にして、歩くほどの速度で近づいてくる。


「一体ずつ撃破ですぞ……っ!」

 戦士ジョイフが両手持ちのバスタード・ソードで応戦する。剣の質量を乗せ、斧を振るうような横振りの一撃で、胴体を目掛けて叩きつける。

 ゴーレムは胴体から両断され、粉々になって砕けた。

「たあっ!」

 パドルシフも二体目のゴーレムを止めようと、短剣(ショートソード)で突いた。しかし剣は棍棒で受け止められ、おまけに硬い木に剣先が食い込む。

「わわっ!?」

「いかん!」

 横から戦士ジョイフがゴーレムを蹴り飛ばしてくれたおかげで、剣が抜けた。

「あ、ありがとうジョイフさん」

「パドルシフ殿、こいつら斬りつけては倒せない。 打ち砕かなくては」

「でも、ジョイフさんみたいには……」

 敵の胴体ごと粉砕するほど、力が無いのは明白だ。補正されていても、元々の体格や筋力が違う。


「相手の攻撃は単調で遅い。棍棒を振り下ろすタイミングを見計らうのです。低く身構え、相手の片足を狙うと良いでしょう。傷つけるだけでも負荷がかかれば折れる。片足を損傷すれば、敵は動けなくなるはずです」

「なるほど……! やってみる」

「慎重に行かれよ」

「うんっ」

 戦士ジョイフの助言に頷く剣士パドルシフ。


 反対側では、戦闘メイドロベリーが打撃の連打によりゴーレムを圧倒。破砕したところだった。


「不利。斬撃は不利です。破砕か打撃、あるいは炎の魔法で……!」


「ほいさ、まかせてっ!」

 魔法使いペタミーが『火炎』をスキルクリスタルで放ち、一体を炎上させた。だが連続で放てないので間が空いてしまう。

 その間は魔法使いを守る、後衛組(・・・)の出番となる。


「えいっ! たあっ! 思い知りなさい!」

 細身の剣、レイピアを振り回し応戦するミリキャお嬢様。しかしゴレームの体を形成する枝を削るだけで、決定的なダメージは与えられない。

 ゴーレムの侵攻を足留めするのが精一杯だ。


「ミリキャお嬢様! 僕と同じく脚をねらって!」

「言われなくてもわかってるわよ! 役立たずのパドルシフ」

「酷い、君だって同じようなもんじゃないか」

「なんですって!?」

「あっ! 前!」

「たあっ!」

 いがみ合いつつも、襲ってくるゴーレムに対しては共同で対処するしかないようだ。


 必然的に戦士ジョイフと戦闘メイドロベリーが前衛として奮闘。パドルシフとミリキャお嬢様が、魔法使いペタミーを守る格好となる。


 しかし多勢に無勢。数えるとゴーレムの総数は15体。なんとか5体を倒したが戦力差がある。

 それだけではなかった。半壊させたゴーレム、あるいは倒したはずのゴーレムの破片が寄り集まり、再生(・・)し再び立ち上がった。


「えっ!?」

「嘘でしょ!?」

 まるで不死の怪物だ。破片が集まり再び木のゴーレムとなって動き始める。


「ゴーレムは術者の使う術式、注入した魔力次第で再生しますよぅ」

 魔法の知識に長けたペタミーが言うが、今更だ。


「ロベリー殿! 倒しても再生しますぞ!」

「完全。木っ端微塵に破壊しないと倒せない!」

 接近してきた再生(・・)ゴーレムに渾身の右ストレート。正拳突きの一撃を放つロベリー。

 だが――。

 ガシィ! と、拳を繰り出すタイミングを読まれていたかのようにガード。打撃の勢いを逸らす。


驚愕(なっ)。受け流した……!?」

 二撃目、左の拳でがら空きのボディを狙う。だが、それもゴーレムが右の腕を振り下ろしガードする。

 まるで打撃による近接戦闘の経験者(・・・)を相手にしているような手応えだ。


 一瞬のスキを狙い、逆にゴーレムが前蹴りを繰り出してきた。

「くっ……!」

 咄嗟に後方にバックジャンプし、蹴りをかわすロベリー。ズシャァ、と地面に両足をついて体勢を整える。


「さっきより強い……うぬっ!」

 ガァン! と今度は戦士ジョイフが剣を弾かれた。再生した2世代目のゴーレムが戦士の剣撃を棍棒で弾き返し、反撃してきたのだ。


「学習。こちらの動きを学習している!?」


<つづく>


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