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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆36章 世界樹/ユグドヘイム・オンライン編
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 森の中の遭遇


 ◆


「ふぅ、なんとか片付いたわね」


 赤い鎧の美少女騎士、ミリキャが汗を拭う。

 襲撃してきた三体の『パンプキンヘッド』は、皆の奮戦でなんとか撃退することができた。


「ひどい目にあいましたねぇ、うわぁ汚い」

 魔法使いペタミーがマントの汚れを振り払う。腐ったカボチャの汁はとても臭い。だが30秒もたたないうちに、魔物の体液は粉状になって消え失せた。


「あら、こういう仕組みなのね」

「現実だと汚いままですけど、これは助かりますねぇ」

 お嬢様とお付きの魔法使いペタミーは、互いの服を確認しながら苦笑する。


「しかし、初戦からこれじゃぁ先が思いやられるわね」

「ですよねぇ」

「ペタミー、貴女はもうちょっと役に立ちなさい!」

「面目ないですぅ。でも、魔法使いは現実より制限が多すぎるんですよぉ」

「うーん。確かにね」


 現実世界ではそこそこの実力を持つ魔法使いペタミー。だが、この仮想のゲーム世界において、魔法は制限されている。使える魔法はスキルクリスタルによる『擬似魔法』のみなのだから。


「体調。大丈夫ですか、パドルシフ」

「うん、休んだら体力ゲージが少し戻ったみたい」


 パドルシフの眼前に浮かぶステータスウィンドゥには、2割ほど減った体力ゲージが表示されていた。けれど時間の経過とともに回復しつつある。


「魔物を倒した経験値は、皆に均等に分配されたようですね。あと一二戦すれば、パドルシフ殿もレベルが上がると思いますよ」

 戦士ジョイフが、剣を鞘に収めながら教えてくれた。


「経験でレベルが……」

 視界の隅のステータスウィンドゥの一部に視線を合わせる。すると確かに『経験値:13 :あと6でレベル2』と文字列の表示がスクロールされた。


「よし、皆でバリバリ前に進むわよ!」


 すっかりパーティのリーダーらしくなったミリキャお嬢様が宣言すると、一行は再び進み始めた。


 次に遭遇したのは、大型の『鱗粉(パウダー)コウモリ』2匹だった。

 コウモリのくせに羽から毒の粉を撒き散らす、厄介な相手だ。

『キィィイ!』

『キィ!』


「おのれ、すばしっこい奴め」

「剣が届かない……!」

 戦士ジョイフと、剣士パドルシフが空からの襲撃に翻弄される。


 鱗粉(パウダー)コウモリはひらりひらりと剣を避けると、鱗粉を撒き散らした。


「うわっ!?」

「ゲホッ……!」

 毒の粉よ! と後衛のペタミーが叫んだ。

 パドルシフは思わず口を押さえた。『状態異常』と目の前のステータスが黄色く明滅する。


「鱗粉。吸うと喉の痛み、目の充血! それにくしゃみ鼻水、鼻詰まり……! 風邪の諸症状に似たダメージを受けます」


「微妙な毒だね!? げほげごっ」

「ぶあっくしょん!」


 空中からの攻撃に手も足も出ない戦士二人、それに戦闘メイドのロベリーも接近戦スキルのみでは対応できない。


「中距離攻撃可能な、私の魔法で焼き尽くしますよぅ! みなさーん時間を稼いでくださーい!」


 三人がダメージ覚悟で囮になり、魔物をひきつけることに。その間に魔法使いペタミーが炎のスキルクリスタルで魔法『火炎』を発動。一匹を丸焼きにした。

『ギャァ……!』


「私だって……! このスキルを使って!」

 続いてミリキャお嬢様が構えをとる。『投擲』スキルを使い、なんと自らのレイピアを投げつけようとした。


「まってお嬢様!」

「何よ!?」

「これを使って!」

 パドルシフが『必中』のスキルクリスタルをミリキャお嬢様に投げ渡す。ぱしっと受け取るとそれを見てピンときたようだ。


「……なるほど。いいわ使ってあげる」


 ミリキャお嬢様はそこで2つのスキルを同時発動。投擲の命中率を極限まで高め、空飛ぶコウモリめがけてレイピアを思いきり投げつけた。


『ギキィ!?』

 ズガッ! と胴体に突き刺さったレイピア。コウモリはそのまま地面に落下して消滅した。一撃で仕留めることに成功した。


「やった!」

「凄いわ私!」

 咄嗟の連携は、見事に成功したようだ。


微笑(えぇ)。賢明な策でした、パドルシフ」

「いい考えだったでしょ」

 ちょっと誇らしげに、お嬢様からスキルクリスタルを受け取る。


「べ、別にアンタの手助けが無くても命中させていましたけどね! ……礼は言っておくけれど」

「はいはい、お嬢様」

「もう何よ!」

 顔を赤くするミリキャ。パドルシフもお嬢様の取扱いのスキルが向上してきたようだ。


 そんなこんなで、更に森を進むこと半刻――。


 一行(パーティ)はやがて、森の中を流れる小さな川辺についた。森の中を流れる清流は動物たちが集まる水場であり、村の男達の狩場にもなっていたはずだ。


「お嬢様、焚き火の跡です」

「村の男達のものかしら?」


 先頭を行く戦士ジョイフが地面の焦げ跡を見つけたようだ。周囲にはここを拠点にしていたであろう跡も見受けられる。


 村の男達もここまで狩りに来ていたのは間違いない。


「失踪。いったいどこに消えたのでしょう」

「でも跡った後も無いよね……」


 しばらく調べたが忽然と消えた村の男達の足取りは不明のまま。仕方なく一行(パーティ)はここで小休止することにした。


「わぁ、冷たい……」

「美味。水も飲めますね」


 水も美味しく、疲れた身体に染み渡る。


 一息ついていると、にわかに空が曇り風が出てきた。森が不気味にざわめきはじめる。


「何か嫌な感じぃ。魔力波動……?」

「警戒。何か来ます」


 魔法使いペタミーが最初に異変に気がついた。杖を握りしめ構えを取る。戦闘メイドロベリーが警戒し周囲に目を光らせる。


 やがて、一陣の風が吹いた。木々のざわめきが強くなると、塵のような黒い霧が一行の前で集まり渦を巻く。

 やがて異形の姿が地面からムクムクと起き上がった。


 黒い人型を成したその姿は、やがて美しい女の姿となる。黒髪に白い肌――青いローブのような衣をまとい、捻じくれた杖を持っている。


 魔女だ。


「なに!? 何よアンタ!?」


 ミリキャお嬢様がパドルシフを盾にして背後に隠れ、叫ぶ。


「我が領域(テリトリー)に踏み込むな。去れ」


<つづく>


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