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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆36章 世界樹/ユグドヘイム・オンライン編
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 冒険世界(ステージ)とスキルクリスタル


「では、これから冒険のルールを説明するので、よく聞いて欲しいッス」


 ギルドマスター・スピアルノがパチンと指を打ち鳴らす。


 すると頭上の天幕に美しい映像が映し出された。それは『幻灯投影魔法具(マギナプロジェクタ)』による舞台となる世界の紹介映像だった。

 同時に自動の音声が流れ、舞台背景を説明してゆく。


 ――冒険世界(ステージ)は全部で5つから選べます。


 村娘の依頼、「困りごと」編。

 王様の依頼、「魔物退治」編。

 砂漠の冒険、「秘宝探索」編。

 森林の戦闘、「竜撃戦闘」編。

 魔王の覚醒、「復活阻止」編。


 ――ステージごとに初級者から上級者までお楽しみ頂けます。


 最初のステージは牧歌的な村の風景だ。そこで可憐な村娘が冒険者に何かを訴えかける。

 次のステージでは威厳を湛えた王様から依頼を受け、騎士とともに魔物退治に赴くというストーリーらしい。

 砂漠のステージでは、遺跡の中を秘宝探検家が罠をかいくぐって進んでゆく。

 森の奥深く始まる戦闘部族との死闘、そして恐ろしいドラゴンの咆哮が響く。

 最後は恐ろしい魔王城へ攻めいる冒険者たち――。


 次々と切り替わる映像に息を飲む参加者たち。作り物とは思えないほどリアルで、迫力満点の映像が映し出されてゆく。

 そこにいた全員が圧倒され、それぞれのシーンに目を奪われる。

「すげぇ!」

「おぉ……なんと素晴らしい!」

「あの中を冒険できるの!?」


 誰もが期待せずにはいられなかった。

 貴族も気楽な青年たちも、ゴロつきのような本職たちでさえ。そしてロベリーとパドルシフも。


「好きな世界を選んで『全霊没入(フルダイヴ)』してもらうッス。ただし向こうの世界に行ったら、そこからは真剣勝負。もう一つの現実ッス。まぁ……戦闘になれば多少は痛かったり熱かったり、ダメージも受けますが、死にはしないっス。精神は遊戯世界へ、でも本体である皆さんの体は安全なこの場から動かないので大丈夫っスよ」


 肉体から幽体離脱のように半透明の分身(・・)が離れ、それぞれの世界へと飛び込んでゆくイメージ映像が映し出される。


「なるほど……」

「でも、なんだか怖いわ」

「も、戻って来れない、なんてこたぁねぇよな?」


「心配にはおよばないっス。夢と同じくいつでも戻ってこれるッス。とある操作をして『没入離脱(ダイブアウト)』と念じて貰えれば、そこで冒険は終わるッス」


「ならいいが……」

「要はリアルな夢なのだろう? 怖がることはないさ」

「そ、そうよね」

 参加者たちも概要は理解できたようだ。


「あ、あの……! この場に体、つまりお金や貴重品も置いていくんですか?」


 真面目そうな青年が恐る恐る質問する。もっともな質問だと相づちを打つものも多い。


「その点は心配無用ッス。この奥に個室があって鍵がかかるっス。皆さんはその中の椅子に座っていただくことで、冒険がスタート。もちろん盗難やその他犯罪からお客様を守るよう世界樹開拓府お墨付きの、万全の警備がなされているっス」


 映像が切り替わると、周囲には王政府の紋章を付けた衛兵が警備している様子が映る。まるで城の警備のような物々しさだ。


「これなら安心だね、ロベリー」

「警備。この部屋にも特別な警備員が潜んでいるようですし」


 メイド服の裾を握っていたパドルシフが「え?」と、ロベリーの顔を見上げる。

 鋭い視線は、部屋を飾るタペストリーの向こうに向けられていた。


「へぇ……なかなか気づくお客さんは少ないっスよ?」

謙遜(いえ)。たまたまです」


 ギルドマスター・スピアルノがニッと口元に笑みを浮かべる。小さく頷くと、タペストリーの影から、音もなく小さな影が飛び出してきた。


「おかーさん、ばーれたニー?」

 それは猫耳をぴんと立てた可愛い男の子だった。

 手には「吹き矢」を持っている。


「ニーアノ、ご挨拶するっス」

「こんにちはニー。お行儀の悪い人、フッてする役目だニー」

 5歳ぐらいのその子は、目がくりくりとして尻尾が長く、とても可愛らしかった。エメラルドグリーンの瞳がギルドマスターとよく似ている。


「猫族。なんて可愛い……」

「わぁ……猫さん族、初めて見た!」


「ウチの子、ニーアノッス。ここは実質家族経営、まぁ正しくは『賢者のファミリア』の直営店っスから、ちょっと手伝ってもらってるっス」


 ざわめきが広がる。やはり噂通り賢者ググレカスの直営らしい。ならば安心だと大きく頷く魔法使いもいる。


 ロベリーは「他に三人隠れています」と、パドルシフにしか聞こえない小声で言う。その声もギルドマスターには聞こえていたようだ。


「見事ッス、戦闘(・・)メイドさん。只者じゃぁないッスね。ウチのファミリアのメイドマスターに会わ

せたいくらいッス」


「是非。そのうち」


 話が横道に逸れたッスね、と言ってギルドマスターが笑みを浮かべる。


「ま、とにかく。ここで行儀の悪い事をすると、特製の魔法薬で昏倒(・・)してもらうことになるっス」

 厳しい視線で客全員を見回すギルドマスター。その警告に、ガラの悪い護衛業者たちがサッと顔色を変えた。


「……次に冒険世界(ステージ)で使う装備やアイテム、そして向こう側で使える『能力(スキル)』と呼ばれる特殊な力について説明するっス」


 再び映像とともに解説が始まる。

 まずは職業を選ぶ。戦士や魔法使い、魔法剣士、トレジャーハンターなどなど。

 例えば戦士なら、剣や盾、鎧。その他装備類は「初期装備」としてあらかじめ身につけてのスタートになるらしい。

「もちろん、お金で装備を買ってグレードアップしてもいいっス。町では初期装備の仮想通貨(・・・・)でお買い物も楽しめるっス」


 そしてスキルについて説明が始まる。

 スキルは能力水晶(スキルクリスタル)として目に見える形でランダムに生成され、それぞれのアイテムボックスに渡される。初期装備ではクリスタルは2つだけ。

 互いに譲渡が可能であり、フィールド上で手に入れることも出来る。


 クリスタルは「スキルソケット」と呼ばれる()が空いた剣、盾、ベルト、あるいはブーツ、または手甲などにセットする事で発動する。

 

 例えば炎の力を秘めたクリスタルなら「炎の魔法」を励起できる。

 そのまま魔法を放ってもよし、剣のスキルソケットで使えば「炎の(つるぎ)」となり、盾に使えば氷や邪悪な力から守る「炎の盾」となる。


「なるほど、おもしろそう!」

「簡易的な魔法の品を用意することで、誰でも均等に魔法を使える……というわけですね」


「初期装備についてはわかったッス? この後は実際に小部屋に移動してもらって、皆さんの分身、仮想擬魂(アバター)を準備するっす」


<つづく>

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