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 ググレカスの赤面、おまけ授業

 ◇


 魔法の遠隔通信授業は幕を閉じた。

 魔法協会会長アプラース・ア・ジィル卿による講義は、生徒たちにとっても、俺とレントミアのような現役の魔法使いにとっても大変有意義なものとなった。


「せっかくの機会です。賢者様からも何か、生徒達にお話を頂けませんでしょうか?」


 そういえば、アルリー・プティカット先生からは事前に、「最後に何かお話をいただけませんか」と言われていた事を忘れていた。まずい、何も考えていなかった。

「う……む」


 生徒達の視線が一斉に向けられる。


「ほら、ググレ何か言いなよ」

 レントミアが肘で俺をつつく。


「こういうの苦手なんだよ」

「逆にググレが得意な場面ってあるの?」

「……ない」

「なら、同じだよ。ほらほら」


 困った。気の利いた事を言わないと……と考えたが、やめた。

 偉大なる老魔法使い、アプラース老が奥深い講義をされた後では、若造が何を言っても霞むだけだ。ここは俺らしく、自分の言葉で話すことにする。


 老師たる魔法協会会長の話とは、なるべく「被らない」話を。


「えー、ではちょっとだけ。魔法協会会長からは、魔法とは何か? 本質は何か? という事を考えるきっかけとなる、大変素晴らしい講義を頂きました。こうして考えてみると魔法とは不思議なもので、なぜ使えるのか? 何処からその力が来るのか……なんて考えると私だって夜も眠れなくなるくらいだ」


 軽い口調で語りかけると、生徒たちのキラキラとした瞳に圧倒されそうになる。


「こ、ここにいるのはみんな魔法が使える子で、魔法の個性は様々ですが、みんな優秀で、よくできた生徒たちだと、先生からも聞いています」


 みんなちょっとだけ照れたような顔をするのが可愛らしい。ヘムペローザだけは「当然じゃ」とでも言いたげに唇を結んでいる。


「魔法には自信があるかい? 自分は出来る、使える、凄いんだ……! って自信が」


 見回すと図星の生徒もいるようだが、殆どの生徒達はすこしだけ遠慮ぎみに首を横にふる。


「だったら、自信のある子も無い子も、忘れないで欲しいことがある。とても大事なことなんだ」


 レントミアもまるで生徒のような顔をして、俺の話に耳を傾けている。


「魔法使いは一人じゃ何も出来ないってこと、誰かを頼ってもいいってことを」


 本の隙間で眠っている妖精メティウスが聞いたら、目を丸くして「まぁ!? それを賢者ググレカスが申されますの?」と笑うだろう。けれど、俺が言えるのはこれぐらいしかない。

 いろいろな経験と冒険を経て、学んだことだからだ。


「たとえば、どうしても戦わなければならない場面に出くわした時、決して一人でなんとかなる……とは思わないこと。必ず誰かを頼ること。できれば信頼のおける仲間と行動を共にして、彼らを頼ることが大事なんだ」


 これが俺の冒険の経験から学んだ、次世代の魔法使いたちに贈る言葉だ。


「精神集中だけで魔法を励起出来る子もいれば、呪文の詠唱による集中を要する子もいる。だから危険な場面では、信頼の置ける前衛(・・)がいてくれてこそ、魔法を成功させることができるんだ。まぁ……あくまでも戦いにおいては、だけどね」


 すると、気弱そうなお下げ髪の女の子が一人、恐る恐る手を上げて発言する。


「あの、私は……戦いとか無理です。魔法薬のお勉強をして、六英雄のマニュフェルノさんみたいな、癒やしの魔法をつかえるようになりたいんです。……それでもやっぱり、一人では駄目ですか?」


「おぉ、それは素晴らしいことだね。戦いの場面は、あくまでも私の経験とかからの、たとえ話さ。これからの時代は、ずっと平和で穏やかな時代がきっと来る。だから、皆の暮らしに役立つような魔法を使う君のような子に期待したい。でもね、やっぱり魔法について困ったら、一人で悩まずに友達と話してみるといい。きっと道が開けるから」


「はい!」


「何ならいつだって相談にのるよ。賢者の館を訪ねて来ると良い。お茶と美味しいお菓子を用意して……っと、これは授業で言う話じゃないな」


 生徒たちに笑みが溢れる。


「とにかく魔法に自信があっても、一人で突っ走らないこと。いいね」


「「「はい」」」


 うむ、我ながら過去の経験、痛い思いをしてきたのは無駄ではなかったな。

 ヘムペローザも何か思い当たることがあるらしく、フフフという顔をしている。


 すると、一人の男子生徒が手を上げて質問する。


「無敵の結界をお持ちの賢者さまでも、一人だとダメだった経験がおありなのですか?」


「うーん……そうだね。確かに結界の魔法には自信がある。何度も悪い魔法使いを懲らしめたり、やっつけたりしてきた。並大抵の魔法使いや魔物が相手なら破られっこないって、そう思って戦ってきたし、大抵はそれでうまくいった」


 ここは経験談をかっこよく話して盛り上げる。男子生徒も瞳を輝かせる。


「すげぇ……!」


「けれど世界は広い。信じられないほど強い相手、国を代表するレベルの魔法使いや、瞬時に人の命を奪う怨霊(レイス)のような恐ろしい敵……。そんな危険と対峙した時、魔法使い一人では、やっぱりどうしようもなくなるんだ。本当に大切な人や好きな人を、絶対に守らなきゃって時に、それでも力が足りなくなる」


 質問をしてきた男子生徒も、教室の他の生徒達も真剣に耳を傾けている。


「そんな時に頼れるのは、やっぱり友達。大切な信頼のおける仲間なんだ」


「ググレ……!」

 レントミアが呆気にとられたような、感心したような瞳で見つめてくる。


「だから皆も、熱い友情、いや友人を見つけて大切に……ゆ……友情を……大切に。それこそが、魔法使いにとって、大事なことなんだ! うん」


 最後はちょっと恥ずかしくなったけれど、言い終えて礼をすると教室が大きな拍手に包まれた。

 こうして――僅か5分の「ちょっとだけ講義」は終わりを告げた。


 ◇


「うぅ……」


 ずーん、と項垂れる俺。

 職員室でお茶を飲みながら、ソファの前でぐったりする。


 程なくして下校時間。ホームルームと教室の掃除が終われば、ヘムペローザも一緒に帰れるので、職員室で待たせてもらうことになった。


「ググレ、大丈夫?」


「柄にも無いことを言ったら……なんか反動で」

「一人じゃダメ。大切なのは、仲間と友情!」


「やめてくれ……。いや! そう思っているのは嘘ではないが……恥ずかしいだろ」

「きゃはは、いつも『俺が相手をする!』とか言ってるくせに」

「もう言わないから許してくれレントミア」


 ガラッと、職員室のドアの開く音。授業を終えたヘムペローザだった。


「にょほほほ! 一人じゃダメ。大切なのは、仲間と友情! ぷっ」


 キリッと表情を引き締めて、最後に噴き出す。


「お前も言うかぁ!?」


 思わず職員室で師弟追いかけっこをしそうになった。


「さて、帰るとしよう」

 だがその前に、マニュフェルノからお使いを頼まれていた事を思い出した。


<つづく>


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