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 マニュフェルノからの依頼、そしてレントミアと世界樹へ

「帰宅。早すぎません?」


 マニュフェルノが俺を見つけて目を丸くする。

 薄手の白いノースリーブのシャツに、ロング丈のプリーツスカート。ゆるく編んだ髪を左肩から胸の方へ垂らしている。


「ちがうよ、これから世界樹に行くからレントミアを誘いに来たんだ」

納得(そう)。そういえば、レントミアくんも身支度してたわ」

「ありがとう。クッキーを焼いたのか?」

首肯(えぇ)。みなさんに」


 (トウ)で編まれたカゴの中には、紙に載せられた『焼き菓子』が沢山入っていた。マニュフェルノは柔らかな笑みを浮かべて農夫さんたちの方へゆく。


「休憩。よろしければ焼き菓子をどうぞ」


 荘園の農夫とその家族達は、仮設の小屋で休んでいた。ココミノヤシの葉で屋根を葺いた壁のない小屋で、3家族合わせて12名ほどがいる。


「まぁ!?」

「わー! お菓子だよ!」

「美味しそう!」

「これは奥様……! お心遣い感謝いたします」


微笑(うふ)。遠慮なくどうぞ」


「では、頂きます。ガリマ」

 荘園で働く農夫たちのリーダー、ジズオン夫妻が感謝の意を示し、9歳になる男の子ガリマくんがマニュフェルノからカゴを受け取る。

「ありがとう、お()さま」

「はい。どういたしまして」

 マダムではなくお姉さまと呼ぶあたり、しっかり教育されているのだろう。

 他の農夫や家族たちの間をちょこまかと走り回り、平等に焼菓子を配る。


 うちの女性たちは毎日というわけではないが、手が空いたときにこうして手作りのおやつを配る。焼菓子の手習いとしてマニュフェルノやリオラ、プラムやヘムペローザが交互に作るので、形も風味もそれぞれ違っているのだが。


「マニュ、そういえば薬の材料が欲しいとか言ってなかったか?」

「嗚呼。そうだったわ」


 丸メガネを指先で持ち上げながら、マニュフェルノはポケットを探る。そして一枚のメモを取り出した。


「魔女の軟膏(なんこう)の材料だっけ?」


首肯(うん)。魔女の軟膏……というと聞こえが悪いわ。治癒のおくすり。その材料が手に入らないかしら?」


 マニュフェルノの魔力を練り込んだ軟膏は、王政府からの依頼で量産計画が持ち上がっていた。核心的な材料となるマニュフェルノが生み出す『治癒のろうそく』は絶対的に必要だが、製造における補助材料として、多種多様なハーブやキノコなどが必要らしい。

 ちなみに、『魔女の軟膏』とは魔術界の俗称で、ヤバイ薬を意味する場合もある。体に塗ると「飛べる」気になれる部類のものだ。


 差し出された紙には『青ヒカリゴケ』と『カンゾウタケ』と書かれていた。コケとキノコらしく、簡単な手描きの図も添えられている。流石は絵かきの我妻だ。


「これ、魔法道具屋や魔術材料屋で売っているのを見たことがあるぞ?」


 どちらも乾燥された状態で、1グラヌーで金貨5枚もする高級品だったはず。それを見たのは王都の路地裏の店だった。ここから買いに行くには少々遠い。


「原産。その採集地(・・・)がメタノシュタット南端の湿原地帯、つまりこのあたりらしいの。世界樹の根本にないかしら?」

「なるほど、そうだったのか。うーん、世界樹の根本あたりなら見つかるかもな」


 検索魔法で軽く調べてみると、確かにどちらも原産地はヒカリカミナ近辺の森の中だ。環境が似ている世界樹の根本や、(ウロ)の中でも見つかるかも知れない。


 ちなみに世界樹の実や葉は原則採集禁止だが、そこに「生えた」ものなら別に構わない。


「感謝。無理にとは言わないわ。見つからなかったら来週に王都に戻ったときに買うから」

「わかった。まかせておけ」


 マニュフェルノに手を振って、100メルテ先の丘の上にある『賢者の館』を目指す。


 徒歩で移動するが、後ろから『フルフル』と『ブルブル』が合体したゴーレムが、ガショガショと金属の脚を動かしながらついてくる。

 なんだか静かだと思ったら、妖精メティウスは世界樹への遠征に向けて本の隙間で休憩中。


 館の正門を通ると前庭で、立木にはロープが張られ洗濯物が風に揺れている。足元の芝生には、ピンクや青、黄色に緑。水玉を大きくしたようなゼリー状の塊が、プルプルと動いている。

 すべて館スライムたちだ。太陽の光を浴びて、転がったり跳ねたりしている。


「ひなたぼっこかい? これ以上増えないでくれよ……」


『ヤー!』

『キュッ』

『ピュ』


 館スライムたちが我が物顔で闊歩する前庭を通り、館のドアを開ける。

「おっと!」

「ググレ!?」

 そこで、レントミアと鉢合わせ。

 ぶつかりそうになった勢いで細い身体を抱きとめて、親愛のハグ。


「2時間ぶりだ」

「もう」

 白い魔法使いのローブを薄手の服の上に軽く羽織っている。俺の賢者のマントも、魔法使いのマントも、熱を逃がす『熱移送魔法(ペルティエス)』が標準装備され、暑い場所では羽織ったほうが涼しいのだ。

 そして、本題に入る。


「……世界樹に行こうかと思うのだが。聖剣戦艦の入り口の目星をつけに」

「丁度良かった、僕も行こうと思っていたところ」

 どうやら目的地は同じらしい。しかし、レントミアの目的はなんだろう。


「暇つぶしかい?」

「違うよ。ちょっと気になる魔力波動を調べに」


 レントミアが輪郭に沿って伸びた髪を、エルフ耳にかきあげた。


「魔力波動?」

「うん。世界樹周辺に設置した『局地型(ローカル)大規模魔力探知網(マギグリッドセンサ)』に妙な魔力の反応を検知したみたいなんだ。世界樹の中、地上から200メルテ地点だって」


「軍はそれを?」

「うん。ググレにも情報が届いているはずだけど?」


 世界樹周辺に敷設された大規模魔力探知網(マギグリッドセンサ)は現在、魔法協会から派遣された魔法師たちが管理している。そこから早期警戒情報として通知されたようだ。


「しまった。仕事用の魔法道具(・・・・)を執務室に置いてきた」

「もう! そんなのに頼らないで、普通に戦術情報表示(タクティクス)使いなよ!」

「はは、それもそうだ」


 眼前に浮かべた戦術情報表示(タクティクス)で確認する。情報共有(データリンク)された軍の情報が次々と表示された。


 ――出現座標、位置X128-33 Y457-01 Z213-09

 ――検出魔力波動タイプ、分類不能(カテゴリエラー)


 ――軍司令部より、賢者ググレカス様、レントミア様に調査依頼を要請。必要とあらば、護衛部隊を編成。要、確認。


「はて? なんだろうな」

「ね、興味あるでしょ」


「あぁ、行ってみるか」


<つづく>


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