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 ルゥの新たしい道場


 ルーロニィの道場、『総合戦術道場(アルティメルト)』は威勢のいい掛け声と、木剣と木剣がぶつかる音が響いている。

 

 体格に合わせ最適な剣と、使いこなすための剣術を学び鍛錬を重ねる。他にも護身術を兼ねた格闘術を学ぶのは、意外にもリオラを除いて女性が何人かいるようだ。中には木製のナイフを持った相手に対峙し、素手での対処法を学んでいる者もいる。


「実にいい感じだな」


 剣術や格闘術の鍛錬に勤しむ者たちは、当面は世界樹村における自警団のような組織を立ち上げる際の力になるだろう。やがて世界樹周辺に発展してゆく街を守るには、王都から派遣された兵士などではなく、地元に根ざした住民たちの力が必要になるからだ。


 ちなみに「地元の住民」とは、元の村の住民たちに加えて、ネオ・ヨラバータイジュで受け入れを始めている移民、新しき住民たちのことだ。


 実は昨年から『世界樹開拓府(ユグドパイオニア)』は国内各所で、世界樹村への移住を宣伝していたらしい。その甲斐あってか王都メタノシュタットはもちろん、王都周辺の村々から家族で移住を希望する者たちが連日のようにやってくるようになった。


 遠くはイスラヴィアやルーデンスなど、魔王大戦の戦乱で土地や仕事を失った人たちも多く受け入れている。現在、ネオ・ヨラバータイジュの総人口は二千増え、1万二千人。王都近隣の中クラスの村の人口を越える規模にまで膨れ上がった。


 だが、移民にとって問題となるのは当面の住処だろう。

 次に仕事を見つけることが重要になる。

 そのあたりの支援も抜かりはない。住居に関しては仮設の住宅を『世界樹開拓府(ユグドパイオニア)』が提供する。家賃は半年間は無料、水と下水利用料も同様だ。


 仕事に関しては、新しい住人たちそれぞれが持つスキルや得意分野を活かし、発展途上のネオ・ヨラバータイジュでの生活の糧を見つけることになる。

 なにしろここの経済には無限の「伸びしろ」がある。

 既に統計上の経済発展は著しい。


 農夫、商人、鍛冶屋や大工、薬師にまじない師。更に高度な技能を有する者も大歓迎だ。魔法使いに魔法工術師(マギナテクト)、どんな分野でもいい。善良な志をもつ者ならば受け入れ生活と仕事が軌道に乗るような支援を行っている。


 これらはすべて『世界樹開拓府(ユグドパイオニア)』に転属となった()国土交通開発省の大臣、ツキナミュウス・フロンティヌス公による強力な指導力とアイデアの賜物だ。


 ドワーフ族の彼女は、とりあえずガンガンと部下たちに指示を与え、それぞれで実行に移させる。当然のように問題は出てくるが「ならば、これをこうしろ」と次のアイデアを与えてゆく。

 俺ならば一度でもケチがつけばヘコたれて諦めてしまいそうになるところだが、叩き上げで国土交通開発省の大臣にまでなった女性だけあって辛抱強く、成果が出るまで続けるのだ。

 彼女のエネルギッシュな指導力は頭が下がるばかりだ。


 おかげで俺はこうして村内を散策したり、聖遺物――聖剣戦艦の掌握という目的に邁進することができる。


「賢者ッス、今日も暇なんッス?」


 居住している建物に向かうと、犬耳族のスピアルノが、子供たちと共に出迎えてくれた。壁は取り外し式で柱だけがある建物は風通しが良く涼しい。使われている木材の多くはヘムペローザが生み出した魔法の『木道レール』、その苗木から株分けし量産したものだ。


「スピアルノ、暇ではないぞ。ウロウロするのも賢者の仕事だから」

「けんじゃー、暇ー?」

「ねぇねぇ魔法見せてよー」

「スライム出してー」

「きゃー」


 四つ子たちもだいぶ大きくなった。運動量が半端ない。まるで嵐のようにドドドとやってきてじゃれついてくる。

 もう一度確認するが、犬耳の女の子はミールゥ、猫耳の男の子はニーアノ。

 猫耳の女の子はニャッピに犬耳の男の子はナータ。よし見分けがつく。

 

 可愛らしい幼児たちの相手をしながらスピアルノから冷たいお茶を頂く。


「ルゥも順調そうだな」

「そうっスね。剣術を教えるって幅広いから悩んでいた時期もあったッスよ」

「体格差とか戦い方……か」

「んだっスね。けれどツキナミュウス公様が、ジャンルごとに師匠を招いて師範団をつくれって。あれは天才的アイデアだと思ったッス」


 パレオという腰布とビキニ風の上着だけのスピアルノ。イスラヴィアと気候は違うけれど、ここに来て良かったという。


「それは良かった」


「賢者っスもなんだか、以前の自由人っぽい顔に戻ったッスね」

「……? そうか?」


 意外な一言に面食らう。他人を見る目は確かなスピアルノ。仕草や表情からいろいろなことを読み取っているのだろう。


「王都に居た時は無理しているのが見え見えだったっスよ。背伸びは疲れるッス」

「かもな」


 俺はしばらくの間、鍛錬を眺めながら悪戯盛りのお子様の相手をした後、道場を後にした。


 次に向かうのはネオ・ヨラバータイジュの食糧生産を支える大切な場所。ネオ・ヨラバータイジュから見て世界樹側に広がる緑地帯。


 それこそが、立ち上げたばかりの大規模農園、プランテーションだ。


 通称『賢者の荘園』


 中心に『賢者の館』を擁する農園になっている。


 水は豊富にあり亜熱帯の気候を利用して、生育の早い野菜などから作物を育て始めている。穀物は水稲。浮き稲タイプの長粒種の水稲で、雨季になって水位が上がっても水深に応じて伸びていく。

季節のサイクル的に二毛作が可能だという。やがてはココミノヤシや各種亜熱帯の果樹なども生産する予定だ。

 


「さて、プラムと半昆虫人(イノセクティアン)たちは頑張っているかな?」


<つづく>


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