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 ルゥローニィ・総合戦術道場(アルティメルト)




 世界樹を望むネオ・ヨラバータイジュの郊外にその場所はあった。


 魔法の愛馬、『フルフル』と『ブルブル』を左右につなげ、間に特注のブランコのような椅子を付けた賢者(オレ)専用の移動ゴーレム。元々の多脚制御魔法技術を活かし、泥濘だろうがなんだろうが物ともしない。


 ――『ルゥローニィ・総合戦術道場(アルティメルト)


 八本脚(・・・)の移動ゴーレムを駆り、ネオ・ヨラバータイジュのオフィスからここまでおよそ10分での到着だ。


「お、やってるやってる」

「盛況ですわね」


 俺は颯爽と降り立った。

 足元はもう泥濘んでおらず、硬い地面の感触がする。


 振り返ると巨大な世界樹のシルエットを背景に、手前には林のように広がる高床式のネオ・ヨラバータイジュ村が見える。

 半年前の雨季で湿原が泥濘(ぬかる)み、更に世界樹の巨大な根が地下水脈に達したことで、大量の水が地上に溢れ出した。その水は世界樹湖を形成し、広範囲を水没させてしまった。雨季が終わった今も世界樹を囲むドーナツ型の湖は水位を下げること無く存在し続けている。その際に村人たちが一時的に避難した場所、小高い丘の上に『ルゥローニィ・総合戦術道場(アルティメルト)』が看板を掲げていた。


 竹の柵で囲った広い芝生の敷地の横には、屋根のある休憩所。

 その隣にはルゥローニィとスピアルノ、それに子供たちが暮らす2階建ての自宅兼道場も立っている。


 芝生の上では十数組の若者たちが、剣をふるい、あるいは格闘術に精を出していた。威勢のいい掛け声と竹刀のぶつかる音にに交じり、真剣の衝突音も聞こえてくる。


「ググレカス殿! よくぞ来てくださいました。今、ルゥ師範をお呼びしますね!」


 しゅたた、と軽やかに駆け寄ってきたのはルゥの弟子の一人。半獣人の少年だった。年の頃は10歳ぐらいだが、狼族らしく精悍な顔つき。背中には訓練用の重い木剣を担いでいる。


「いやいや、邪魔にならない程度に遊びに来ただけだから」

「そうですか……?」

「ここから見学させてもらうよ」


 俺が見ても、剣術も格闘術もよくわからない。


 竹の柵で囲まれた広い敷地、青空道場では十数組の若者たちが、剣術や格闘術を鍛錬し続けていた。

大柄で体格のいい若者は大型の両手持ち剣(バスダード・ソード)による訓練を行っている。ルゥローニィのようにやや小柄で身軽な者は小型剣を使うスタイルと分かれている。


 他にも徒手空拳――素手で戦うスタイルの少女たちの姿も見える。


「まるで戦い方の見本市ですわ」

「ルゥはここまでは大きくするつもりはなかったらしいが……」


 ここ『ルゥローニィ・総合戦術道場(アルティメルト)』は、王政府直轄の特別機関、『世界樹開拓府(ユグドパイオニア)』支援の下で開設された鍛錬場だ。

 将来、王国の予備兵力として世界樹の自警団(・・・)設置を目指している。

 信用のならない傭兵ではなく、地元に根を下ろした者たちから成る自警団。その戦力の底上げを図るために広く門戸を開放し、やる気のある若者や村民などに教えている。

 月謝は無料。すべて王政府の支援で賄われている。


 ちなみに師範(・・)と呼ばれるのは、ルゥローニィだけではない。

 王都メタノシュタットから志を持って馳せ参じた、王国剣術の師範、徒手空拳術者、元王国戦士の教官などが、それぞれのスタイルで生徒に合った技を教えている。


「ぅぉら! もっと打ち込んでこぉい!」

 大型剣を振るうのは半獣人の元戦士団・千人隊長のヨゾルド・リィラ。身の丈2メルテはあろうかという体格のいい戦士だ。訓練中の若者の振るう剣を、ガギィン! と火花をちらして弾き返す。


「右の手首を軸に、添えた左手で柄を強く。剣先の速度をあげるでござる!」


 猫耳の剣士(サーベリア)。ルゥローニィは型にはまらない戦闘スタイルを信条とし、身体の小さな者、身軽な者に対して、効率のいい戦い方を伝授している。

 この道場に名を冠したのはやはり魔王大戦の「六英雄」として、今でも抜群の知名度があるからだという。


「ぬん、ぬぅん! 右、左!」

 もうひとりの師範は格闘術だ。片目を眼帯で覆った筋肉質の大柄な女性。髪を男性のように短く刈り込んだルーデンス人は、フルラ・マーガレット。どことなくファリアを思わせるが、ずっと粗野な感じで年齢もかなり高い。


「たぁッ! やあっ!」

「ぬぅん! いい一撃だ……リオラ」

 自分の身の丈の倍もあろうかというゴリラのような大女に果敢に挑むのは、栗毛の少女、リオラだった。

 素早い突きを繰り出し、ワンツーコンビネーションを放ち、師範の反撃をバックステップでかわす。


 肩まで伸びた髪をひとつに結い、動きやすい服装をしているが、普段は花のように可憐な妹……我が賢者の館のメイド長だ。


 リオラは師範との乱取りが一息ついたところで、両手を合わせ頭を下げる。

 そして、くるりとこちらを振り返る。


「ぐぅ兄ぃさん!」

「リオラ、精が出るね」

「はい! イオラに負けないように私もがんばらなくっちゃって」

 二の腕の引き締まった筋肉でガッツポーズ。


「お、おぅ……」


 今まで格闘術を正式(・・)に習ったことはないというので、この道場に通い始めたリオラ。館の皆を守るためです! と微笑むが、リオラは一体何処に向っているのか……。

 既に格闘術ではイオラを越えているのではなかろうか。


<つづく>


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