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 未来への要素(エレメント)

 ミニ世界樹の上に家を建てる。


 プラムとラーナ、そしてヘムペローザが提案してくれたのは、なんとも子供らしい夢に溢れたアイデアだった。


「大きなツリーハウスなんて、素敵ではー?」

「葉っぱで日陰もあって、涼しそうデース」

「水が多少増えようがお構いなしじゃ」


「なるほど……! 『蔓草魔法(シュラブガーデン)』を応用した樹上生活か、素敵なアイデアだと思うぞ」

「実現したら今度こそ本当に『世界樹の村』っぽいですわね!」


 俺も妖精メティウスも思わず手放しで褒める。


 泥の大地に木を生やし樹上で暮らす。それならば増減する水位や、泥濘に怯えることもない。適度な高さで湿度も気にすることもなくなるだろう。木の上の家同士を吊橋などで結べば楽しそうだし、更に屋根の上を覆うように樹の葉が生い茂るのだから、木陰で涼しそうだ。


「まさに理想的な樹上生活ができそうだなぁ」


 と、まぁこれが普通の子供達の発想なら「想像力が豊かだね」で終わるのだが……。

 ここにはハーフエルフの魔法使いや、世界樹を生み出した魔法の張本人(・・・)がいるのだから、真剣に検討せざるを得ない。


 無論、一つの可能性でしかないが、案は多いほうが良い。

 自由な発想で生み出されたアイデアの「種」が、やがて芽吹き成長するかもしれないのだから。


 王政府や世界樹開拓公社などへの意見陳情をしたうえで、実際にどうするか決めることになるのだが、その前に実現の可能性を考える必要はある。

 レントミアも話を聞きながら感心したように頷いた。けれど、


「でも問題もあるよね。ググレの家の庭にあるようなミニ世界樹を一本育てるだけでも、ヘムペロちゃんが全力で魔法力を注ぎ込み続ける必要があったってこと」


「……うーん。レン兄ぃの言う通りじゃ。ワシが『蔓草魔法(シュラブガーデン)』で頑張っても、家の庭にある樹を育てるだけで疲れたしにょぅ」


「家族で暮らす別荘一軒だけでも、建てるのはどうですー?」

「にょほ、それぐらいなら頑張れるかにょ」


「ははは、別荘か。それはいい。だが今暮らしている『賢者の館』だって()があるじゃないか。歩けるし見晴らしもいいし、十分だろう」

 フハハ、と思わず笑う俺。これで万事解決……とはいかないか。


「だから、そういうことが出来るのはググレだけじゃん!」

「樹上生活は素敵なアイデアだと言っておったじゃろうが、なんとかするにょー!」

 ぽかすかと拳で叩いてくるヘムペローザ。


「わ、悪かったよ、すまん。……コホン。しかし、確かにアイデアは面白いし素敵だ。けれど、家一軒ぶんの樹木を育てただけでヘムペローザが疲弊するのでは実現は難しいな。別荘ならいざ知らず住民全部の家をすべて小さな世界樹の上に建てるとなると、簡単じゃなさそうだ」

 

 ここでも量産という壁にぶち当たる。


「ググレにょが、ミニ世界樹に育つ種をバンバン増やせば良いにょ」


「無茶言うな。ヘムペロしか魔法の木を育てられないから、お姫様も『ずっとお友達でいてくださいね』と、言ってくれたんじゃないか」


 莫大な「契約金」つきのお友達だが。まぁ、それは大人の事情というやつだ。


「いい考えだと思ったんじゃがにょー」

「そうだな。実に良いと思う。だが問題はヘムペロの蔓草の魔法で育てた樹木を増やすのが難し……ん?」


 まてよ。


 いや、思い当たることがある。


「あるぞ! 新交通機関向けに試作したじゃないか! ヘムペロと二人で」

「にょ?」

 ヘムペローザが長い黒髪を耳にかきあげながら、瞳を瞬かせる。


「『木道レール』を育てる木だよ」

「あー! あったにょぅ」


 王都での新交通機関に関する魔法技術の発表会。

 そこそこ評価されたが、あまり注目されなかった俺達の魔法の木。

 ヘムペローザの『蔓草魔法(シュラブガーデン)』を応用し育てたのが、『木道レールの苗』を生み出す魔法の苗だった。

 魔法力を注ぐと、細い「ひこばえ」を根から伸ばしぐんぐんと成長。それらは適度な高さで横方向に曲がると、あとは水平に伸びてゆき木のレールを成す。

 更に横木は地面に向けて次々と根を下ろし、木道を支える基礎になる。


 それらを縦横に組み合わせて、根の集合体の土台を生み出したら……?


 交通機関を走らせるためのレールにするには、真っ直ぐに育てにくいなど問題も多く、木道レールを走る魔導車は実現しなかった。

 だが、あの特性を生かせないだろうか?


「あの『木道レールの苗』が使えるんじゃないか? 家の土台を作るんだよ。あれならヘムペロや俺でなくても、魔法使いなら育てられる!」

「確かにそんな特性もあったにょぅ?」


 魔法術式を仕込んで改変した『蔓草魔法(シュラブガーデン)』の種から育てた特殊なハイブリッド苗は、新しい魔法の樹木となった。

 そのもう一つの特徴は、水や太陽のように、ある種の魔法力さえあれば無限に「ひこばえ」を伸ばし、『木道レールの苗』を育てることが出来るというものだった。

 もちろん、普通の魔法使いでも構わない。『賢者ググレカス特製魔法術式・木道レール育成編』に沿って術式を仕込み、魔法の波動を変換。その魔法力を注ぐことで「ひこばえ」を伸ばしたり、生やしたりし続けられる。


「生み出した『ひこばえ』を、この湿原地帯に縦横に敷き詰めるんだ。そして家々の、いや新しい街づくりの「基礎」にするんだよ」

「にょほぅ?」

 元々、新交通機関用に考案したものだ。魔法使いたちに術式を公開し、バンバンと量産してもらい泥濘の上に人造の樹上生活の基礎を広げてゆく。

 高さは最大でも地上3メルテ程度だが、水や湿原の泥濘に影響を受けないだけでも価値はあるはずだ。無数の根が支えるテーブル型の樹木を土台とし、あとは上に家々を建てればいい。


「そうか……! あれなら魔法使いを集めれば育てられるね」

「あぁ! そういうことだ」


 ちなみに「ひこばえ」を木道レールにしたり、家々の基礎に使ったりする以外にも、伸ばして育てて切り取ることで壁材や柱材など建築資材としても使うことが出来るすぐれものだ。

 材料の不足という問題さえも解決できる。


「ここに来て、日の目を見るかも知れないな」


 俺は広大なヒカリカミナの湿原と、霞む巨大な世界樹を眺めた。

 風が吹き抜けて、湿原と草原を波立たせる。

 

 溝と凹みを作り、水路にする方法。

 新しい街を造ってゆく(いしずえ)

 そして、ここに至る新しい交通機関。

 

 沢山の要素や魔法、アイデアが生まれつつある。それらの要素(エレメント)がパズルのように組み上がり、形をなしてゆく。そんな未来が見えた気がした。


「賢者ググレカス、どうなさいますの?」

「ググレ、何か思いついた?」

「聞かせるにょ!」


 仲間たちや家族、そして期待に満ちた眼差しを向ける駐屯軍や騎士の面々。

 顔を見回しながら、ゆっくりと一歩を踏み出す。


「そうだな、まずは――」


 ◇



 そして、時は流れた。



<つづく>


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