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 世界樹と世界樹村と世界樹の池

 ◇

 

 飛行開始からおよそ3時間。

 空飛ぶ馬車『空亀号(スカイタートル)』はヒカリカミナ南方の空域へと達していた。


 綿雲が浮かぶ青空のはるか向こう、天に届かんばかりに巨大な『世界樹』の威容が視界に入りつつあった。


「見えた……!」

 御者席の皆からも「おー」とか「ついたー」とか歓声が上がる。


 『世界樹』は10キロメルテ離れたこの距離からも、その巨大さを窺い知る事ができる。


 早朝に王都メタノシュタット出発してから、気がつけばもうすぐ昼。途中で休息を挟みながら、およそ190キロメルテを飛行したことになる。

 高度は約15メルテの低空飛行だが、最高時速は70キロメルテ。風による影響はあるが地上を進む馬車とは比較にならない短時間での到着だ。


「いよいよ見えてきたな、世界樹が」

「この距離からも見えるなんて、やはり凄い大きさですわね」

「あぁ、樹高さ600メルテは伊達じゃないな」


 何度も見ているはずの妖精メティウスでさえ感嘆する。巨大さは遠くからでもわかるが、その樹形は貴族の自家農園で育てられている高級野菜「ブロッコリー」によく似ていて可愛らしい。


 眼下にはヒカリカミナ草原を縦横に貫く街道が見える。やがて世界樹の開拓村――ヨラバータイジュへと続く道だ。

 以前よりも行き来する馬車も増えている。

 北へ向かえばメタノシュタットの王都と周辺の村々へ、南へ進めば南国マリノセレーゼにも通じる「南の街道」は今や交易路になりつつあるようだ。


 空飛ぶ馬車を見上げて手を振っている御者もいる。

 やがてここを新交通機関、高速で動く魔法の乗り物が行き来するようになるのだろう。


 と、妖精メティウスがあることに気がついた。


「賢者ググレカス、戦術情報表示(タクティクス)に軽い警告が出ておりますわ。索敵結界(サーティクル)による地形照合に不整合と」


「不整合? 何だろう。どれどれ……」

 眼前に浮かぶ『戦術情報表示(タクティクス)』には、黄色い警告表示が浮かんでいた。


 それは検索魔法地図検索(グゴールマッパ)で以前検索し記録した地形情報と、現在の地形を照合した結果、違う地形である……ということを意味していた。


 見ると世界樹を中心に、巨大な池のような地形が生まれている。


「世界樹周辺に巨大な()がある!? 以前は無かったはずだが、これは……自然に出来た地形のようだな」


「まぁ! 世界樹の周りにお池が?」

「世界樹の周りを囲むように、ドーナツ状の池が出来上がっているみたいだぞ」


 草原と池の境界は不鮮明なことから、お堀のような人工物ではなく、自然に溜まって出来た池であることが推測された。

 ここから見える世界樹の樹上には、白いモヤのような雲がかかっている。風に流れてきた気流がぶつかり、雲を生んでいるのだ。

 そこから降る雨が葉や幹を伝い地面へと流れ落ちれば、水はけの悪い湿原だったこの地帯なら池が出来ても不思議ではない。

 実際、世界樹の幹の内側は中空で、上からは雨水が滝のように降り注いでいたのだから。


「でも、今から行く村って世界樹から近かったよね。駐屯地も」

 レントミアが俺の両肩に腕を乗せ、身を乗り出して前方を眺める。


「あ……! そう言えば……水没してるだろうな」

「まさかぁ」


 そんな間抜けなことになる前に、引っ越しているだろうが……。


 検索魔法(グゴール)で情報を探る。すると世界樹に駐屯する騎士隊長レンブラント卿の記録と報告がすぐに見つかった。


 ――雨季を迎えたここ一週間で、周囲の湿地帯の水位が上昇。

 ――水深1メルテ程度の池となり徐々にその範囲を広げている。

 ――地形的にヒカリカミナはもともと水はけが悪い。流れ出す川も無いため、水深1メルテ程度の池となり、今後水位が下がる見込みもない。有識者の判断と本国の指示を。


 ――雨季を迎え、約2周間。村に水が迫ってきた。緊急対策会議を開き、本国へ通達。

 ――転移が許可され、急遽候補地の策定を急ぐ。


「こりゃぁ、大事だったようだな」


 実際、見えてきたヨラバータイジュ村はかなり手前に移動していた。世界樹から1キロメルテほど南方の、僅かに高くなっている地形の、丘のような場所に新しい家々が見えた。


「引っ越したようでござるね、流石に」

「家々は木を組み合わせた簡易的な造りが多かったが、引っ越すとなると大変だっただろうなぁ」

「そうですわね」


 おそらく雨季が来てこんな事になるとは思ってもみなかったのだろう。


 新しい村の上空を旋回すると、慌てて引っ越した様子が見て取れた。テントや仮住まいの人々が多くいる。

 だが幸いにも村を再建する資材や物資、材木や家財道具を運び出す余裕はあったらしい。


 木の柵で囲まれた駐屯地も既に近くに構築されており、テント式の兵舎も見える。馬が草を食んでいるて、メタノシュタットの大きな旗がひるがえっている。


「それに……あれは」


 ――水路だ!


 駐屯地と村の間には簡易的な水路が掘られていた。泥水が水路に溜まっているが、その終端は世界樹池の近くまで延びている。

 神聖(・・)な世界樹池を、人工的な水路の汚れた水で汚染しない配慮だろう。

 簡単な木組みの船着き場が整備され、そこから以前のヨラバータイジュ村の跡地まで道が繋がっている。

 

 およそ距離にして800メルテ程度の水路だが、横には旧式のゴーレムが一機、泥だらけで佇んでいる。おそらく土木工事用に転用されたのだろう。


 水路は幅2メルテほどで、世界樹周辺に広がった「世界樹の池」手前までだが、道路がわりに使っているようだ。その証拠に材木で作ったイカダのような船も浮かんでいる。


「そっか、泥濘(ぬかる)んだ場所を歩いたり馬車で進んだりするより、船で移動したほうが効率がいいもんね!」

 レントミアが納得する。

「水路を掘って道路の代わりに……か」


 新交通機関の方向性が見えてきた気がする。

 この土地にレールを敷設したり、舗装して魔力で動く車両を走らせることは難しいだろう。ヒカリカミナに至る行程の半分は少なくとも陸路がいい。


 だが、そこから先――ヒカリカミナに至る新交通機関は水路(・・)()の組み合わせが効率的ではなかろうか?


<つづく>


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