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 ココミノヤシとそれぞれの役割


 ココミノヤシを収穫したのは半昆虫人(イノセクティアン)だった。


 するすると木を登り、樹上に実ったココミノヤシをもぎ取って下で待ち構える父親と少年に落とす。二人はそれをキャッチする。


「あと3つ!」

「御一行様、全部で6つだからね」


『ナブン、ブン』


 数を理解しているらしく、緑色の光沢のある体を光らせながら頷く素振りを見せると、更に3つの実をつかみ、落とす。


「よっと」

「ほっ!」


「収穫のお手伝いをしているのですー」

「随分と利口な子じゃのぅ」


 感心する二人。勿論、首輪も綱も無ければ魔法の類などで命令している様子もない。


「ハナムグリ族なのデース」


 カナブンなのかコガネムシなのか、パッと見た目ではわからないが、ラーナがピタリと種族を言い当てる。

 流石は半昆虫人(イノセクティアン)が信奉するスライム属のお姫様(・・)だ。


「カナブンじゃないのか?」

「違うのデース。ハナムグリさんは触覚が違うので、よく見てくださいなのデース」

 小さな指で一生懸命形の違いを訴えるラーナ。

「賢者ググレカス、先端のヒゲの数と形が異なるようですわ」

「む、難しいな……?」


 しかし遠目には体は光沢がある緑色で角も無い。

 外骨格で覆われた半人型の生き物は、やや前傾姿勢の二足歩行をする。頭には二本の触覚があり、瞼のない瞳は「虫」を思わせる。

 かつてはその見た目から魔物と忌み嫌われ、討伐された時代もあるらしい。だが遠い千年帝国時代(サイザンペディア)からの伝承では、魔道士によって創造された魔法生物だった……という説もある。


 普段は森で暮らす彼らは基本的に大人しく臆病で、人に危害を加えることは無い。

 だが残念なことに、忌まわしき魔王大戦の時は違っていた。魔王が世界に向けて放った暗黒の波動(ウェイヴ)の影響により一部が錯乱、魔物化して人々に襲いかかった。

 しかし魔王大戦後はそれも沈静化。その後に起こった『超竜ドラシリア戦役』においては、空中を飛ぶレギュオスカルの群れに対して果敢に空中戦を挑み、多国籍人類連合と共に戦ってくれた、頼もしき共存者となった。

 その活躍は知れ渡り、今では以前のように「平和的で穏やかな隣人」として再認識されつつあるようだ。


 とはいえ、俺たちの中では最初から「コロちゃん」や「クワキンタ」という勇敢な森の戦士という印象が強いのだが。


「プラムはコロちゃんを思い出したかい?」

「ググレさまだって『竜人の里』で、カブトムシお姉さんを思い出しましたかー?」


「うっぐ? まだそれを覚えていたのか……」

「にょほほ、そうじゃったにょー」


 嫌な過去を思い出した。


「プラム、お前は意外と細かいことを覚えているな」

「結構、記憶力はいいのですけどー?」


 緋色の髪を指先でくるっと回して、すまし顔で言う。


「そのようだな……勉強も頑張ってるしな」

「もちろんですよー」


 侮れんなプラムめ。


 と、ココミノヤシの営業をしてきた女の子が、兄と父親のほうへ駆け寄っていた。

 それを見て木からスルスルと半昆虫人(イノセクティアン)も降りてきた。女の子が腰の袋から何やら「草だんご」のようなものを与えている。

「どうぞ、ごくろうさまー」

『ナブ、ナブン』

 おそらくあれが労働に対する報酬なのだろう。


「よく出来た子でね。ウチの家族みたいなもんでさぁ」


 父親と少年がココミノヤシを抱えて俺たちの方にやってきた。ズコンスコンと先の尖ったハンマーのような器具で実に穴を開け、麦わら(ストロー)を刺す。


 早速採れたてを頂くと実に新鮮で美味しい。水分とミネラル分の補給もできた。


「うまい!」

「これはいいね」

「染み渡るでござる」


「森でこの子らが、弱っていた幼体を拾ってきてね。それから育てて暮らしているんでさぁ。言葉もわかるし3人目の子供みたいなかんじですな」


「そうでしたか。どうりで賢いはずだ」


「今じゃウチのココミノヤシ農園の稼ぎ頭でさぁ」


 日焼けした農夫の親父さんが笑う。どうやら広場の横にある「ココミノヤシの林」は、この家族の農園だったようだ。

 屋台で母親が辛い餅料理を売りつつ、行商や観光客相手にココミノヤシ……つまり「飲み物」を売っているのだという。


 プラムとヘムペローザ、それにラーナがハナムグリ族に近づいて、会話のようなものを交わしている。

『ナブ、ナブン』

「なるほどー」

「よかったデース」


「表情はあまり変わらんが……わかるのか?」


「うーん。家族と一緒に働けて、役に立つのが嬉しいみたいですー」

「草だんごも美味しいっていってましたデース」

 異種族コミュニケーションには困らない二人が微笑む。


「そうか、それは良かった」


 半昆虫人がともに働く……か。


 ――そういえば、世界樹周辺の開発では労働力不足が心配されていたな。


 これは意外な解決の糸口になるかもしれないな。


 そんな事を考えながら、俺たちは再び空飛ぶ馬車で世界樹を目指して飛び立った。


 『空亀号(スカイタートル)』が上空高く舞い上がり、村を後にする。


「よしあと一時間で到着だ。じきに巨大な樹が見えてくる」


 しばらくすると、中のジュースを飲み終えたココミノヤシの殻を、リオラが袋に入れて持っていることに気がついた。


「おやリオラ、ココミノヤシの殻をどうするんだい?」


 割る練習に使うのかい? ハハ……と言いかけたが、それは飲み込んだ。


 頭でも割れますよ、なんて言い出しそうだし。


「ぐぅ兄ぃさん、殻の内側には、ココミノヤシミルクがたっぷりです。そのまま食べてよし、美容のためにお肌に塗ってもよし! 女性の美の味方なんです」


 可愛らしい笑顔で小首をかしげるリオラ。


「なるほど美容のためか……」


「なんですか? 他に何に使うと思ったんです?」


 リオラがココミノヤシの殻を袋から取り出すと、片目をつぶって何やら観察するように眺めている。


「いっ、いやその。殻は硬いから中身を取り出すのも大変だろうな、と思ってね」

「拙者が刀で割って差し上げ……」


「――ふん、ぬ!」

 バキィ! とリオラは両手で掴んだ殻をそのまま前後にズラすようにして割った。いや、ひねり割ったというべきか。


「ぬなっ!?」

「ど、どうやったでござる!?」

 横で見ていたルゥがビクッと身体を震わせて、戦慄する。


「ナッツと同じですよぅ。割りやすい『目』があるんです」


「い、いやいや!?」


<つづく>


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